ドクターサロン

池脇

最近多い質問として、心房細動のアブレーションや、抗凝固療法、DOACに関するものがあります。今回もそういった系統の質問ですが、やや極端なケースでお困りのようです。

質問の書き出しが、寝たきりの高齢者とあり、この先生は少し治療に苦労しているということです。寝たきりとなると、なかなか治療は難しい気がするのですが、こういうケースはいかがでしょう。

廣田

寝たきりの患者さんと言いますと、本当に難しい対応になると思いますが、お話もしっかりできる方で、患者さんやご家族が脳梗塞の予防を行いたいということであれば、方針は積極的に考えていく必要があるかと思います。

池脇

寝たきりということだけで決めるのではなくて、患者さんの状況やご家族のご意向で、慎重になるかもしれないけれど、場合によっては抗凝固療法はやりますという先生の見解ですね。

そして、次は、腎機能障害の高齢者ということです。これもやや極端な例だと思うのは、クレアチニンクリアランスが15を切ってしまったとなると、もうDOACは禁忌ですよね。

廣田

そのとおりです。

池脇

ということは、ワルファリンになるわけですが、高齢者ゆえワルファリンもなかなか使えないといった後、薬は何か残っていますか。

廣田

ワルファリンに関しては、維持透析になればクラスⅢで投与すべきでないとされています。クレアチニンクリアランスが30未満で透析導入前の末期腎不全の方に関しては、ガイドラインではクラスⅡBで投与してもよいとは記載されています。

ただし、クレアチニンクリアランス15以上の方でも、DOACよりワルファリンのほうが出血イベントが多いとは報告されています。クレアチニンクリアランス15未満という非常に腎機能の悪い方においては、ワルファリンの投与による出血リスクが非常に高いことを忘れてはいけないと思います。

池脇

腎機能がそこまで悪くなると、本当にいろいろな全身状態も悪くなって、抗凝固薬を使うべきかという判断が難しい場合もあるかもしれませんが、塞栓はやはり防いであげたいというときに、飲み薬以外に何か手立てはあるでしょうか。

廣田

近年では、この出血性合併症、薬剤に伴って起きてくる合併症を減らしたいということで、カテーテルを使った経皮的左心耳閉鎖デバイスや、胸腔鏡を用いた外科的な左心耳切除術を選択することが可能になってきています。

池脇

血栓が左心耳に起こるから、そこを閉鎖してしまえば抗凝固薬がなくても血栓はできないだろうことから踏み切るのですね。

廣田

そうですね。

池脇

これは高齢者でも比較的行いやすい治療でしょうか。

廣田

カテーテルを用いた左心耳閉鎖術は、鼠径部からのカテーテル挿入のアプローチで、おそらく多くの病院では手技時間も1時間程度になります。胸腔鏡の手術に関しても開胸をするわけではないので、外科医の話を聞く限りはわりと難易度の低い手術のようです。

この治療は、腎不全の重症度によらず行うことができます。今回のようなクレアチニンクリアランスが15を切っているような症例に対しても、安全性と有効性が報告されていますので、選択肢としてはよいのではないかと思います。

池脇

この質問では、クレアチニンクリアランスが15未満で非常に極端なケースでしたが、実際にはクレアチニンクリアランスが60を切っている50代、40代、30代の方もいるかもしれません。禁忌ではないけれども腎機能障害はあるという方を、けっこう診ておられると思います。

そういう場合、DOACもクレアチニンクリアランスによって制限がやや異なるように聞いていますが、どうでしょうか。

廣田

DOACは4種類ありますが、基本的にはクレアチニンクリアランスが30を切ってきますと、ダビガトランが禁忌になります。この領域に関しては、エビデンスが少ないので難しいところではあります。私自身もガイドライン委員にも少し話をうかがったことがありますが、実際にエビデンスがあって、ある程度しっかりと使えるものは、アピキサバンやエドキサバン15㎎ということでした。これは、クレアチニンクリアランス30未満の症例に対してという意味です。

ただし、この2剤に関しても、クレアチニンクリアランスが20未満になってきますと、血中濃度が上昇することも確認されていますので、安全に投与できる抗凝固療法はないと考えるべきだというお話がありました。

池脇

私もそうですが、高齢者で腎機能が悪いとなると、例えばある量を使うところを半分にしておこう、あるいはそのまた半分にしておこうと、ついつい減らす方向にいってしまいます。でも、薬はきちんとした量を使わないと、塞栓症が増える懸念もありますよね。

廣田

不適切な減量は、脳梗塞のイベントが増える原因になると思います。実際にアピキサバンを電子添文に沿った投与量で患者さんに使ったときにどうなるかを比較した試験もありますが、電子添文どおりの用量、すなわち患者さんに適した量の薬であれば、脳梗塞のイベントや出血は変わらないといわれています。患者さんに合った量を選択する必要があると思います。

池脇

腎機能に関しては、私も含めて比較的注意はしているのですが、低体重、特に女性の方はフレイル、あと認知症など高齢者ならではのいろいろな合併症と言っていいでしょうか、この辺りも少し考慮しながらということになるでしょうか。

廣田

特にワルファリンに関しては、認知症やフレイルの方は、薬の飲み間違いや、転倒して出血をするリスクもありましたので、危ないといわれていました。近年のDOACであれば、ある程度簡単に飲んでいただくこともできますし、合併症も少ないといわれています。

実際に低体重であったり、フレイルの方は出血イベントが多いのはわかっているのですが、塞栓症のイベントも実際に多い方々です。患者さんの脳梗塞予防のためには、できるのであれば投与してあげたほうがよいかと思います。

池脇

確かに、ガイドラインなどで低体重、フレイル、認知症をみますと、一貫して薬を使ったほうが副作用より有効性のほうが高い。特にDOACの場合はそういう傾向があるということで、基本的には使うことが推奨されていますね。

廣田

そうですね。

池脇

そしてあともう一つ、これは簡単に触れていただければと思いますが、高齢者はいろいろな合併症があって、いろいろな薬を飲んでいます。ワルファリンはいろいろな相互作用がありますが、あまりDOACでは聞かないような気がします。DOACも少し注意はしたほうがいいでしょうか。

廣田

ワルファリンの相互作用は本当に有名でしたけれども、DOACに関しても、代謝経路の問題であったり、相互作用がある薬剤もあります。抗血小板薬やNSAIDsとの併用では出血イベントが増加することにも注意が必要です。たくさんの薬を使われている患者さんが多いとは思いますが、まずは一剤一剤必要性を見直していただいて、必要なものはもちろん投与しなければいけないと思いますが、気をつけながら使っていただくことになると思います。

池脇

今まで先生の話を聞いて、いろいろと考慮はしつつ、必要だったら減量も考えるけれども、基本は使う方向で薬を検討していただくということですが、服用すると出血を繰り返したりDOACでも使えない症例もありますよね。

廣田

そうですね。質問にあったような高度の腎機能障害や大腸憩室出血などを繰り返す方、あとは脳出血といった方ではなかなか薬剤が使いにくいので、先ほどお話ししたような左心耳のマネジメントを考えていく必要があるかと思います。

池脇

先ほど認知症ということも先生に説明していただきましたが、高齢者の認知症、あるいは若い方で知的障害や精神障害の方は、なかなか自分では薬を管理できません。逆に言えば、家族の方がある程度管理できれば使うという方向で考えていいでしょうか。

廣田

周りの方のサポートがある方、特に若い方であれば腎機能なども問題ないことが多いと思うので、ぜひサポートしてあげて内服でいければ、それがいいのかなとは思います。

池脇

決して年齢だけで使う、使わないを決めるのではなく、いろいろなことを考慮しつつも、基本的には専門医は抗凝固薬、特にDOACの有効性を感じておられるので、使えるときにはきちんと使ってくださいというスタンスのように感じました。ありがとうございました。