ドクターサロン

 「腰痛」がある場合、英語圏の患者さんが使う最も一般的な表現は“My back hurts.”です。このbackには「背中」という意味もありますが、「」という意味でもよく使われます。どちらが痛いのかを確認する際には、“Do you mean your upper back or your lower back?”のように質問するとよいでしょう。
 このように「」に対して、英語圏の患者さんはlower backという表現を使う傾向があります。一方で医療者はlow backという表現を用います。ですから患者さんは“My lower back hurts.”や“I have pain in my lower back.”のように表現し、医療者は“The patient presents with acute low back pain.”のように表現します。そしてこのlow back painには、やや古風な医学用語であるlumbagoという表現も使われます。
 ここで注意が必要なのは、lower back painやsevere painのように「部位」や「程度」を表す語の後にpainが続く場合、それは不可算名詞として扱われる点です。したがって、“The patient has low back pain.”や“I have severe pain in my back.”が正しい表現であり、“The patient has a low back pain.”や“I have a severe pain in my back.”は医学的には不自然な表現となります(ただし日常会話ではa severe painやsevere painsという表現を耳にすることもあります)。同じ理由でchest painやmild painにもaはつきません。
 さらにpain自体も基本的には不可算名詞ですので、“I have pain in my lower back.”のようにaをつけずに表現します。ただしsharp, dull, stabbing, burningなど痛みの「性状」を表す形容詞がつく場合には、痛みの種類や一回の痛みの出来事を指すため可算名詞として扱われます。この場合は“I felt a sharp pain in my back.”のようにaをつけるのが自然です。
 さてこのlow back painの大半は、原因が特定できないnon-specific low back painと呼ばれています。その原因としてよく関与すると考えられているのが、muscle strain筋や腱の過負荷・損傷:筋挫傷・肉離れ」です。いわゆる「ぎっくり腰(急性腰痛症= acute low back pain)」も、多くの場合このstrainが関与すると考えられていますが、靭帯や椎間関節などほかの要因が原因となることもあります。
 non-specific low back painのリスク要因としては、lifting heavy objects重いものを持ち上げること」、poor sitting posture悪い姿勢で座ること」のほか、デスクワーク中心のsedentary lifestyle座ってばかりの生活習慣」などが挙げられます。日本では「湿布」がよく使われていますが、これは英語ではpain-relieving patchpain relief patchと表現され、最近では商品名のSalonpasがそのまま使われることも増えています。
 「姿勢postureという観点では、脊椎のcurvature弯曲」も重要な要素です。頸椎と腰椎には「前弯」が認められますが、これをlordosisと呼びます。特にlumbar lordosisが強くなったものはswaybackと呼ばれます。ここで注意していただきたいのは、このlumbarが「丸太」を意味するlumberと混同されやすいという点です。実際には綴りも発音も異なりますので注意してください。そして胸椎に認められる「後弯」はkyphosisと呼ばれます。このthoracic kyphosisが強くなるとround backhunchbackと呼ばれます。日本では「ノートルダムの鐘」という邦題で知られているディズニー映画の英語名は、このhunchbackを使った“The Hunchback of Notre Dame”というものでした。
 non-specific low back pain以外にも様々な原因がありますが、脊椎に関連する疾患にはspondylosis, spondylitis, spondylolysis, spondylolisthesisなど、spondylo-脊椎」という接頭辞を使った様々な名称があります。
 spondylosis-osis変性」を意味する接尾辞を持ち、加齢などによって脊椎が変性する「脊椎症」を指します。spondylitisは-itis炎症」を意味する接尾辞を持ち、「脊椎炎」という意味になります。これを含むankylosing spondylitisankylosingは「ankylosis強直)が進行している」という意味ですので、ankylosing spondylitisは「強直性脊椎炎」となります。
 spondylolysis-lysisは「分離」を意味し、「脊椎分離症」となります。これはpars interarticularis「椎弓根間部/椎間関節間部」のstress fracture「疲労骨折」によって生じるもので、英語ではこの状態をpars stress fractureとも表現します。そしてこの分離などを契機に椎体がずれてしまう病態をspondylolisthesisと呼びます。この接尾辞の-olisthesisは「すべり」を意味するため、日本語では「脊椎すべり症」と訳されるのです。なおこの-olisthesisは「結石症」を意味する-lithiasisとは異なります。語感は似ていますが、nephrolithiasisは「腎結石症」という意味になりますので注意してください。
 腰痛をきたす疾患の中でもspondylolisthesis脊椎すべり症」やspinal stenosis脊柱管狭窄症」、そして「腰椎椎間板ヘルニア」lumbar disc herniationは、いずれも神経根を圧迫することでradiculopathy神経根症候群」を引き起こします。ここで注意したいのはdiscの表記です。医学英語論文のマニュアルとして有名なAmerican Medical Association(AMA)Manual of Styleでは、椎間板の表記にはintervertebral discではなくintervertebral diskを用いることが推奨されていました。しかし実際の整形外科や脊椎外科の文献ではintervertebral discのほうが使われています。ですから今では「椎間板ヘルニア」の表記としてはdisc herniationやherniated discのようにdiscを使うほうが主流となっています。
 このradiculopathyは神経根が圧迫されることで生じるため、一般的には“pinched nerve”と呼ばれています。そしてその独特の痛みは医学的にradicular painと呼ばれ、患者さんは“sharp, burning, stabbing, shooting, shock-like pain”のように表現したり、“pins and needles”といったぴりぴりする感覚を訴えたりします。radiculopathyは生じる部位によってcervical radiculopathy, thoracic radiculopathy, lumbar radiculopathy, sacral radiculopathyと呼び分けられ、このうち坐骨神経に影響を与えるものはsciatica坐骨神経痛」と呼ばれています。
 そしてこのsciaticaではneurological claudication神経性跛行」という症状も見られます。ご存じのとおりclaud ication跛行」は「歩行時に下肢の痛みが出て休むと軽快する」という症状を指すのですが、血流障害によるvascular claudication血管性跛行」とは異なり、神経性跛行では前屈や座位といった姿勢の変化で症状が和らぐことが特徴です。ですから患者さんには“Does the pain get better when you bend forward or when you sit down?”のように尋ねることが重要です。
 さらに注意すべきは、神経根ではなく馬尾全体が圧迫される「馬尾症候群 cauda equina syndrome(CES)」です。日本の医師には「コーダ・エクイナ」のように発音する方が多いのですが、実際の英語の発音は「ーダ・クワイナ」のようになりますので注意してください。そしてこのCESではsaddle anesthesia, urinary/stool retention, urinary stool incontinenceといった症状が現れます。saddle anesthesia鞍部感覚消失」とは鞍にまたがったときに接触する部分の感覚がなくなることですが、患者さんに尋ねる際には“Do you have any numbness in the groin or down below?”といった自然な表現を使うとよいでしょう。このdown belowは「外性器や肛門の部分」を指す慣用表現で、日本語の「アソコ」に相当します。
 また尿や便に関する症状を確認する際には、直接的に尋ねるよりも説明を添えて間接的に聞くほうが患者さんに安心感を与えます。たとえば尿や便が出にくいretentionを確認する際には“Sometimes people with back pain develop difficulty passing urine or opening their bowels. Has this happened to you?”と尋ねましょう。そしてincontinence失禁」を確認する際にも同様に、“Sometimes people with back pain develop difficulty controlling their bladder or bowels, which can lead to unwanted leakage of urine or stools. Has this happened to you?”のように間接的に尋ねましょう。こうすることで尿閉や尿失禁のような答えづらい質問にも、患者さんは答えやすくなります。このような質問表現は、これ以外にもerectile dysfunction「勃起不全」やdyspareunia「性交痛」などの「話しにくい症状」を尋ねる際にも応用できますので、ぜひ試してみてくださいね。