ドクターサロン

藤城

呼吸器疾患診療の最新情報の最終回です。企画いただいた東京大学呼吸器内科教授の鹿毛秀宣先生に、本企画のまとめ、および呼吸器疾患診療の今後の展望についてお話をうかがいます。

まとめ、および今後の展望ということですが、やはり呼吸器疾患では肺がんが、今でもがんの中で死因の1位を占めるということが大きな問題かと思います。肺がんにおけるまとめ、および今後の展望についてまず教えていただけますか。

鹿毛

肺がんに限らず、がんの分野では、現在、がんゲノム医療と免疫チェックポイント阻害薬の2つが予後の改善に大きく寄与してきていて、患者さんが様々ながんで長生きできています。

肺がんでは分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の両方に、非常に恩恵を受けていて、がんゲノム医療が進むことで分子標的薬を使うことができるような患者さんが、肺がん全体の4分の1ぐらいいます。分子標的薬の対象にならない方は、免疫チェックポイント阻害薬の対象になるのが現状ですので、それでかなり進歩が見られていると思います。

今のところ主に肺がん診療の進歩についてはこの2つの分野が牽引していると思います。

藤城

がんゲノム医療と免疫チェックポイント阻害薬がかなり進歩しているという話をうかがいましたが、治療薬として開発されるときに、どちらがより先に進んでいくかといったことは特にないのでしょうか。

鹿毛

両方ともだと思います。分子標的薬に関しては、現在、9個の遺伝子変異を調べることができて、それに対して承認されている薬も9種類の遺伝子に対してあります。

10個目、11個目になってくると、それほどメジャーな遺伝子変異はないかというところまではきていますが、分子標的薬を使っていると、必ずどこかで耐性をきたしてしまうという問題があります。例えば同じEGFR遺伝子変異に対する分子標的薬であれば、それに対してもっと長く治療できるように、耐性を作らないようにするような開発がなされています。最近では抗がん剤と組み合わせるなど、新しい抗体薬ができて、ファーストラインの治療を長く使うような進歩がありました。あとは周術期の治療として、手術をした後に分子標的薬を使うことで長生きを目指すことも進んでいますので、新しい薬というよりは、そのような様々な戦略で予後を延ばすことが行われています。

藤城

私が専門とする消化器領域でも、単なる殺細胞性抗がん剤だけではなく、様々な分子標的薬が遺伝子発現等を見ながら投与されるようになり、さらに免疫チェックポイント阻害薬が入ってきて、膵臓以外の消化器ではファーストラインとして使えるようになりました。

さらに今、殺細胞性抗がん剤と分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬をいかに組み合わせていくかという話になってきています。互いの相乗効果で治療成績が向上しているような感じがしますが、肺がんも同様に開発がどんどん進んでいるのでしょうか。

鹿毛

そうですね。もう一つの免疫チェックポイント阻害薬についても、基本的には抗PD-1、または抗PD-L1抗体の2つがメインです。あとは抗CTLA-4抗体というのもありますが、それが長らく使われてきて、新しい免疫チェックポイント阻害薬は、そこまで大きく期待できるものではなさそうだということが、だんだんわかってきました。

ただし、免疫チェックポイント阻害薬に関しても周術期やほかの薬との組み合わせで使ったり、新しい薬というよりはその使い方が重要ですね。あと、免疫チェックポイント阻害薬は、PD-L1の免疫染色以外、どのような方に効果があって、どのような方にないのかというバイオマーカーには、なかなか良いものがない状況でしたが、バイオマーカーの開発が進んできたことで使い方が進歩していると思います。

藤城

近い将来、肺がんががんによる死因のトップという汚名を返上してくれることを願っています。

鹿毛

はい。その日が来ると良いと思います。

藤城

続きまして、炎症ですね。免疫性疾患のようなものも肺では重要だと思いますが、その辺りのまとめと今後の展望についても教えていただけますか。

鹿毛

免疫に関しては、呼吸器の領域では喘息がずっと研究を牽引してきました。アレルギーの有無によるタイプ2の炎症ですね。ヘルパーT細胞の中にTh1とTh2の2種類があることが十数年前にわかって、そのTh2のほうが喘息に関わっているという研究をきっかけに、最近ではバイオ製剤と呼ばれるIL-5やIL-13など、サイトカインを抑えるような抗体薬が出ています。そういった研究を基に喘息の治療も進歩してきています。

先ほどの、免疫チェックポイント阻害薬を使えば一部の患者さんには効くけれども、なぜ効くのかがわからず様々な研究がされてきた結果、今までわからなかった免疫のことがいろいろわかるようになってきたと認識しています。CD4、CD8やマクロファージ、樹状細胞といった抗原提示細胞との関係など、免疫の理解が深まっていますので、喘息ももちろんそうですし、COPDや間質性肺疾患のようなびまん性肺疾患、非悪性腫瘍にも応用されるようになっています。

藤城

喘息というと、ステロイドを投与したりという時代から、サイトカインをターゲットとした抗体薬が使えるようになったことで進歩してきている現状があって、がん免疫における様々な知見が非腫瘍性の炎症、免疫のほうにも応用されてきて、かなり今後進歩が期待されると思いました。

さらには、日本でもまだ肺炎は死因でかなり高い位置を占めています。高齢者も増えているということで、肺炎に対しての今後の展望等はいかがでしょうか。

鹿毛

肺炎の治療に関しては、2方面から考えられると思います。一つは、やはり肺炎は病原体が起こすものなので、その病原体を見つけてそれに対して治療していくことが主になってきます。

ただ、その病原体の検出は、今までは喀痰培養を主に行っていましたので、うまく検出ができなかったり、主に細菌性のものしか検出できなかったりという時代が長かったのです。これはコロナの結果になりますが、感染症に関しても遺伝子を調べることがだんだん増えてきました。日本ではまだそこまで普及はしていませんが、諸外国では病原体を見つけるために遺伝子パネル検査がよく行われています。マルチプレックスのPCRで行っていますので、より正確に病原体が見つかってくると、それに対して治療することが良い選択肢になってくると思います。

もう一つの方向に関しては、先ほどおっしゃっていたように、高齢者の医療ですので、高齢者に対していかに正確に病原体を検出して、良い抗菌薬、抗ウイルス薬を投与したとしても、本人の体力がなかなか持たないという面もあります。そこを何とかするのはまさに高齢者医療であって、あまり病原体とは直接は関係のないところになるのかと思います。体重減少やフレイル、サルコペニアなどに対して治療とリハビリテーションを行って、しっかり食事をしていただくような全人的な高齢者医療が重要になってくると思います。

藤城

肺炎に関しての進歩と、高齢者に対しては全身を診ることが、肺炎治療においても重要だと教えていただきました。

もう一つお聞きしたいのですが、これからの呼吸器疾患の診療として、肺移植はどのようなかたちで進んでいくとお考えでしょうか。

鹿毛

肺移植は、慢性疾患の終末期になってしまった患者さんに対しての最後の手段になります。リスクもそれなりにありますが、うまくいった患者さんは、見違えるように元気になって歩いて帰るという、そういう患者さんを私も見ていますので、期待ができるものだと思っています。

問題点は幾つかありますが、ひとつはやはり臓器が足りないということで、2024年の正月に新聞でも大きく取り上げられて社会的にも話題になったかと思います。その後、少しずつ臓器も増えてきていますが、全身状態の悪い患者さんですので、実際に手術をする者だけではなく、術前も術後も両方とも非常に丁寧な管理をする必要があります。これをできるような医師、施設がまだまだ少ないので、これを育てないといけないと思っています。

藤城

これから肺移植も非常に重要になってくると私も思っています。消化器の分野では肝移植がありますが、やはり移植を専門にする内科医の育成が、日本ではなかなか進んでいない状況です。きっと肺移植も同様で、外科医を中心に診られているのではないかと思うのですが、移植患者さんを診る内科医の育成も、一緒にできたらいいと思います。

鹿毛

おっしゃるとおりで、東京大学でも、まだまだ外科中心ですが、呼吸器内科でも少しずつ関わっていきたいと思っています。

藤城

ありがとうございました。