多田
愛知医科大学病院の高橋靖弘先生にお話をいただきます。一言に、眼瞼・眼窩・涙道疾患といっても、多岐にわたる疾病が挙がってくると思います。
まず、眼瞼疾患においても、霰粒腫をはじめ多様な病態がありますが、この範疇の重要な疾患と対処法を教えていただきたいと思います。
高橋
当院は大学病院ですので特殊な症例も来るのですが、外来で比較的遭遇頻度が高い疾患としては、霰粒腫、眼瞼下垂、眼瞼内反症、睫毛内反症、眼瞼痙攣があります。大学病院という特殊性もありますので、悪性腫瘍を含む眼瞼腫瘍も比較的よく遭遇します。
霰粒腫は、いわゆるものもらいです。ものもらいは、まぶたの裏側にしこりがある状態が通常ですが、炎症性疾患ですので皮膚側に炎症が及んでしまうことがあります。皮膚が炎症で壊死を起こしてしまうような場合には必ず手術が必要になりますし、見た目が気になる場合も手術が必要になります。まぶたの裏に留まっている場合は、まぶたをめくって裏から穴を開けて中身を出せばよい。皮膚に及んでいる場合は、皮膚を切開してしこりの中身を全部出すことになります。
眼瞼下垂は、おそらく一番頻度が高い疾患ではないかと思いますが、その多くは腱膜性と呼ばれる疾患になります。腱膜というのは、まぶたを上げる筋の腱の異常で起こる疾患です。腱膜性の中では退行性、いわゆる老化現象によるもの、ハードコンタクトレンズを3年以上、長い期間使っている患者さん、あとは目の手術を複数回受けられていて、開瞼器と呼ばれる目を開ける機械を何度もつけられている方に比較的起こります。あとは神経原性、動眼神経麻痺などで起こる場合、筋原性と呼ばれる筋肉自体に異常がある場合を鑑別していく必要があります。
治療法は2つあって、眼瞼挙筋前転術といわれる、伸びてしまったり外れてしまった腱を引っ張り出して緊張をさらに与えた状態で固定する手術、もしくは、筋自体が駄目になっている場合、自分の体の一部あるいは人工物を用いて強制的に目を開ける吊り上げ術という手術が必要になってきます。
内反症に関しては、先ほど眼瞼内反症と睫毛内反症という2つの疾患を挙げましたが、眼瞼内反症は、まぶた自体が内側に回転して起こるタイプで、まつ毛の向き自体は正常です。逆に睫毛内反症は、まつ毛自体が内側に入ってしまう症状ですが、まぶたの位置は正常になります。睫毛内反症はほとんどが生まれつき起こるもので、日本人に非常に多く、生まれた子どもの45%ぐらいが睫毛内反症を持っています。
睫毛内反症はHotz法と呼ばれる手術をするのですが、美容整形で行うような二重まぶたの切開手術を、下まぶたにしているイメージだと思っていただければいいかと思います。
眼瞼内反症は、まぶたの中にあるまぶたを外に向ける筋肉、眼瞼下制筋と呼ばれる筋肉が弛緩することで起こります。手術としては、その下制筋に緊張を与える前転術と呼ばれる手術を行うことがあります。この手術は、当科で開発された手術になります。
最後の眼瞼痙攣は、局所ジストニアと呼ばれる、ゆっくりねじれるような動きが見られます。いわゆるピクピクするのは、眼瞼ミオキミアといって、別の疾患です。ほとんどが本態性という原因不明の病気で、時々、薬剤性であるベンゾジアゼピン系などを長期に内服していらっしゃる方に起こります。瞬きがグッと入る、ねじれるようなギュッと入るような動きに加えて、大半の患者さんが眩しさやドライアイ症状を訴えます。
治療としては、クラッチ眼鏡と呼ばれる眼鏡につっかえ棒みたいなものをつけて、まぶたの皮膚を上に引き上げておく治療法、もしくは漢方の抑肝散もたまに効くことがあります。ただ、基本的にはボトックス注射になります。ボトックス注射で8割ぐらい効果がありますが、2割ぐらいの方には効果がありませんので、効果がない場合は手術加療になります。しかし、手術加療は基本的に根本治療ではありませんので、症状をどれだけ取れるかになってきます。
多田
次に、眼窩疾患というと、目の奥の病変ということで、骨折や腫瘍があると思います。そのアプローチや治療法を教えていただきたいと思います。
高橋
眼窩というのは、目が収まっている骨の箱というイメージだと思っていただければいいかと思います。骨の箱の中で、かつ目の後ろ側の辺りに何か病気が起こるのが眼窩疾患になります。先生がおっしゃったとおり、眼窩壁骨折、腫瘍、甲状腺眼症、この辺りが比較的多い疾患になります。
眼窩壁骨折というのは、眼球が入っている骨のくぼみよりも少し大きいもの、だいたい拳大のものが骨や目に衝突した場合に起こるけがです。そういったものが目にぶつかりますと、目が後ろに押されますので、目の圧が高まります。そうすると、そのまま放っておけば目の玉は破裂します。破裂しないように骨が折れることで、目にかかる圧力を減らす、いわゆる防御反応の一種になっています。
診断はCTで行います。眼窩というのは上壁、下壁、内壁、外壁、4つの骨がありますが、薄さという観点から下壁もしくは内壁が折れます。なぜかはわかっていませんが、小児は下壁が、高齢者は内壁が折れやすくなっています。一般的に下壁が折れると、下直筋と呼ばれる目を下に向ける筋肉の位置がずれますので、モノがダブって見えるようになる。内壁が折れると、奥目になって見た目が悪くなるといわれています。
手術が必要なのはモノがダブって見える場合です。生活できなくなってしまいますので、複視がある場合は必ず手術を行います。眼球陥凹、奥目がある場合は、見た目の問題になりますので、例えば若い女性や見た目を気にされる方には、手術適用になりえます。
ただ、受傷直後は目の周りが腫れますので、眼球陥凹が比較的わかりにくい場合もあります。手術は、症状の改善が得られやすい2週間以内に行いますが、外眼筋が嵌頓した閉鎖型骨折と呼ばれる骨折だけは緊急手術の対象で、一般的には遅くとも4日以内に行うことが推奨されています。白目を切って、目の後ろに入って、副鼻腔に脱出した眼窩組織を眼窩内に戻してプレートを挿入する手術になります。
眼窩内腫瘍は、大きく上皮性腫瘍と間葉系腫瘍に分かれます。上皮性腫瘍はもちろん良性腫瘍もありますが、悪性であればいわゆるがんです。比較的多いのは海綿状血管腫、神経鞘腫、多形腺腫と呼ばれる腫瘍で、悪性では腺がん、腺様囊胞がんが挙げられます。
基本的に、良性腫瘍は症状があれば全摘します。例えば腫瘍が神経を圧迫していたり、目を動かす筋肉の動きを邪魔していたりする場合は全摘します。多形腺腫は、多形腺がんというがんに悪性化することがありますので、基本的には全摘します。悪性腫瘍はケースバイケースです。
間葉系腫瘍は大まかな炎症だったり、悪性リンパ腫、血液から関与しそうな腫瘍だと思っていただければいいと思います。間葉系腫瘍は今お話しした上皮性腫瘍に比べると、かなり軟らかい腫瘍ですので、CTやMRIを撮ると、モルディングと呼ばれる所見を呈します。間葉系腫瘍を疑った場合は、基本的に生検に留めます。治療後、その病理診断に合わせて、例えば炎症であればステロイドを使ったり、悪性リンパ腫であれば化学療法だったり、放射線治療と呼ばれる治療がされていきます。
多田
引き続いて、甲状腺眼症について教えてください。
高橋
甲状腺眼症は、甲状腺機能異常に伴って起こる自己免疫性炎症性眼疾患です。バセドウ病に多く起こりますが、橋本病でも起こりますし、甲状腺機能が正常でも起こります。特徴的な眼所見がある、もしくはプラス甲状腺自己抗体が陽性である場合です。だから、甲状腺ホルモンが異常というよりは、甲状腺自己抗体が陽性であれば診断してよいこととなっています。
画像所見も非常に特徴的なので、診断の補助となります。先ほどお話ししたとおり炎症性疾患ですので、炎症がある時期とない時期があるのですが、甲状腺眼症というのは非常に不思議な病気で、最初、炎症が急に大きく盛り上がってくるのですが、勝手に引いていきます。その後、悪い状態だけが残る、これ以上悪くならないという時期が来ます。それが活動期、非活動期と呼ばれる時期になります。
炎症が悪化し、今まさに悪くなっていそうな時期に関してはステロイド治療、もしくは今後近い将来、分子標的薬が出てきますので、そういった治療が優先的になります。
非活動期になると、手術治療になってきます。手術治療は、眼窩減圧術と呼ばれる目が出たときに引っ込める手術だったり、甲状腺眼症は目がずれて斜視になりますので、斜視手術をしたり、あとはまぶたが開きすぎて眼瞼後退と呼ばれる状態になったり、逆まつ毛になったりしますので、まぶたの手術をすることがあります。症例がかなり多様ですので、症例に応じて手術を選ぶことになっていきます。
多田
次に、涙道疾患についてまた異なるアプローチが必要だと思いますが、教えていただけますか。
高橋
涙道疾患は、ほとんどが涙道閉塞になります。涙道閉塞は、原発性と続発性に分かれます。また、閉塞部位によって涙点、いわゆる排水口ですね、さらにその後ろの涙小管、鼻涙管のどれかが詰まっていきます。涙囊と呼ばれるところが詰まることはほとんどありません。この中で最も簡単なのは涙点です。あかんべえすると見えますので、涙点は比較的治療しやすい。一番難しいのは涙小管と呼ばれるところで、ここが一番細くて、詰まると開けるのが非常に困難です。
通常、比較的簡単な手術なのが、ブジーと呼ばれる針金みたいなものを涙道に入れて、閉塞部位を穿破するものです(プロービング)。
涙道内視鏡という内視鏡を見ながら閉塞部位を確認することもできますので、涙道内視鏡がある施設であれば、涙道内視鏡下で行います。これでもできない場合は、涙囊鼻腔吻合術と呼ばれる手術をします。涙囊鼻腔吻合術は涙の排水管の部分と鼻腔を直接つなげるバイパスをつくる手術ですが、皮膚を切って行う方法と、経鼻で鼻からする方法があります。
昔は皮膚を切る方法のほうが手術成績が良くていいと言われていましたが、今は鼻の内視鏡の画質が非常に良くなったというのと、あとはバイパスを作る器具の性能が非常に上がったので、基本的には、経鼻法で行われることが多く、手術成績も遜色ない状態になっています。
近年のトピックとしては画像診断が非常に良くなりまして、先ほどお話しした涙道内視鏡、それ以外に3DCTを使ったり、あとは被曝を減らしたコーンビームというものを使ったりする施設がけっこう多くなり、非常に詳細に、より非侵襲的に閉塞部位が描写できるようになっています。
多田
最後に、一般医が把握すべき事項がありましたら、教えていただきたいと思います。
高橋
眼形成の分野は非常に専門性が高く、目を専門とする一般眼科医、あとは内科医にとってもなかなかとっつきにくい分野です。ただ診療では、目以外の症状、例えばまぶたが腫れたとか目が出てきたとか、いろいろな患者さんがいきなり眼科の外来に来ます。
困りそうな病気がどのような症状を起こすかを事前に知っておければ、一番良いと思います。例えば、目を腫らした状態で、視力が下がってきた。まぶたにできた出来物にまつげが生えていない。いわゆるがんの疑いがある。そういった、どういう状態が危ないのかをピックアップして、頭の片隅にでもいいので置いておくのが良いのかなと思っております。そうすればそのような患者さんが外来に来られても対処ができます。
多田
広範な領域をたいへんわかりやすくお話ししていただき、本当にありがとうございました。