「触診」palpationで認められる「腫瘤」の英語はmassとなります。ただ患者さんが症状として表現する際にはこのmassという表現はあまり使われず、lump, bump, and bulgeのような表現が使われます。ですから腹部に腫瘤を自覚できるかを尋ねたい場合には“Have you noticed any lumps, bumps, or bulges in your abdomen?”のように表現します。
lumpとは「皮膚の下にあるしこり」のことであり、必ずしも表面には現れないものの、触診ではしっかりと触れることができる腫瘤を意味する表現です。乳腺の「しこり」としてもよく使われる表現です。
bumpとは「外的要因で生じるコブ」のことであり、頭にできる「たんこぶ」もbumpと呼ばれます。動詞のbumpには「ぶつかる」という意味があるので、名詞のbumpには「ぶつかって生じるコブ」というイメージがあるのです。車についている「バンパー」のつづりはbumperですが、これには「車両本体に代わってぶつかってくれる物」というイメージがあるのです。
英語にはbinomial expressionsと呼ばれる表現があります。bi-は「2つ」を、nomenは「名詞」を意味するので、binomial expressionsは「2つの単語が決まった順序で並ぶ表現」を意味し、word pairsとも呼ばれます。代表的なbinomial expressionとしてsigns and symptomsというものがあります。現在の医療現場ではhistory takingでsymptoms「症状」を尋ね、その後にphysical examinationでsigns「兆候」を確認するのが一般的ですが、古い医学では客観的なsignsのほうが主観的なsymptomsよりも重要視されていました。そのためsigns and symptomsというbinomial expressionが定着したのです。確かに現在の医療ではsymptomsを先に尋ね、その後にsignsを確認するのが一般的なのですが、英語でsymptoms and signsと表現するとかなり不自然に聞こえてしまうのです。
そしてlumps and bumpsやlumps or bumpsもbinomial expressionとなっており、必ずlumpを先に表現します。またlumpとbumpを形容詞にしたlumpy and bumpyには「ゴツゴツしている」や「デコボコしている」という意味があります。これもbinomial expressionとしてlumpy and bumpyという順序になっており、これをbumpy and lumpyと表現してしまうと「ボコデコしている」のような感じで不自然に聞こえます。
患者さんがmassを表現する場合、bulgeという表現も使います。bulgeとは「内側から押されてできる膨らみ」のことであり、鼠径ヘルニアなどでよく使われる表現です。
この「鼠径ヘルニア」inguinal herniaに関する英語表現にも少し注意が必要です。日本では鼠径ヘルニアを「下腹壁動脈」inferior epigastric arteryの外側に生じる「外鼠径ヘルニア」と、内側に生じる「内鼠径ヘルニア」に分類して表現することが一般的ですが、英語圏ではこれらに相当するlateral inguinal herniaとmedial inguinal herniaという表現はあまり使われません。
「外鼠径ヘルニア」は「腹膜鞘状突起」processus vaginalisという腹膜の遺残が存在する場合に発生します。ここでは内容物が腹壁を直接突き破るのではなく、「鼠径管」inguinal canalを通って腹壁を「間接的」に突き破るので、英語圏では外鼠径ヘルニアをindirect inguinal herniaと表現します。特に男児に多いのが特徴です。
これに対して「内鼠径ヘルニア」は、腹壁が脆弱なHesselbach's triangleを内容物が「直接的」に突き破ることで生じるので、direct inguinal herniaと呼ばれています。heavy lifting, coughing, and constipationなどがきっかけになることが特徴です。
また突き出たヘルニアが元に戻らなくなった状態を「嵌頓ヘルニア」 incarcerated herniaと呼びます。患者さんには“Can you push the bulge back in?”や“Does the bulge stay out even when you lie down?”のような質問が有効です。
嵌頓ヘルニアが進行して内容物に血流が遮断された状態を「絞扼ヘルニア」strangulated herniaと呼びます。患者さんには“Is the bulge very painful?”や“Is the bulge red, warm, or swollen?”のほか、“Do you feel sick or have you vomited?”のような質問が有効です。
このように「腫瘤」massを意味する一般英語表現としてはlump, bump, and bulgeという3つの表現がよく使われるのですが、これら以外にも様々な表現があります。knotは「結び目」を意味する表現ですが、これは筋肉が収縮することで生じる「コリ」としてmuscle knotsのように使われます。また「大きくなっている腫瘤」としてgrowthという表現が使われる場合もあります。もちろんこれは「腫瘍」tumorを示唆する表現でもありますので、使用する際には注意が必要です。このほかにもswellingという表現もありますが、これは「腫瘤」というよりも「腫脹」というイメージの名詞です。そしてswellingは名詞であり、「腫れている」という形容詞はswollenとなりますのでご注意を。
「腫瘤」がある場合、その性状の英語表現にも注意が必要です。
「形状」は文字どおり「形の状態」であり、英語ではshapeとなります。よく混同されるものとして「輪郭」というものがありますが、これは「外形を形成する線」のことであり、英語ではcontourとなります。そしてlumpのようなしこりの場合、そのshapeがregularly-shapedでなのか、それともirregularly-shapedなのかが重要になります。また「表面」surfaceの性状を表現する場合、表面が滑らかであればsmooth-surfacedという表現が、逆に表面に凹凸があればirregular-surfacedやrough-surfacedという表現が使われます。
同様に「境界」marginsも重要となります。境界が明瞭な場合はwell-defined marginsと、不明瞭な場合はpoorly-defined marginsと表現されます。このwell/poorly-definedという表現は触診や画像診断で「境界明瞭・不明瞭」と表現する際に使われ、皮疹などを視診で「境界明瞭・不明瞭」と表現する際にはwell/poorly-demarcatedという異なる表現が使われます。
腫瘤の触診ではその「硬さ」も重要となりますが、皆さんはこの「硬さ」を英語でどのように表現しますか?
触診での「硬さ」にはhardnessのような表現ではなく、consistencyという表現が使われます。英語のhardnessは「硬さ」のみに焦点を当てた表現です。これに対してconsistencyには「一貫性」や「粘稠度」というイメージがあります。触診では硬さだけではなく、腫瘤の全体的な質感を表現する必要があります。ですから触診において日本語で「硬さ」として表現される項目は、英語では「全体的な質感」というイメージでconsistencyと表現されるのです。そしてこのconsistencyは同じ理由で「便の硬さ・質感」stool consistencyのほか、「脳脊髄液」cerebrospinal fluid(CSF)の粘稠度にも使われるのです。
そしてこのconsistencyでは当然「柔らかい」や「硬い」という表現が使われますが、これらは英語ではどのように表現するでしょう? 焼肉やステーキで「柔らかい」はsoftではなくtenderと、そして「硬い」はhardではなくtoughという表現が使われますが、腫瘤にはそれぞれsoftとhardが使われます。ただ英語のhardには「弾力が失われたとても硬い状態」という意味があります。ですから英語にはsoftとhardの間に「弾力があるやや硬い状態」という意味のfirmという表現があるのです。
ステーキでtenderと言えば「柔らかい」という意味になりますが、腫瘤の触診においてtenderと言えば「圧痛がある」という意味になります。そして「圧痛がない」はそのままnon-tenderとなります。
腫瘤の「触診」palpationにおいて使用する動詞も確認しておきましょう。触診だからといってtouchのような動詞を使うと、不適切な身体接触を想起させてしまいます。ですから頸部や乳房の触診の場合、checkやexamineという動詞を使って“I’m going to check your neck for any lumps or swelling.”や“We need to examine your breast for any abnormalities.”のように表現します。
また腹部の触診のように「押す」という動作が主体となる触診の場合、pressという動詞が使われます。1cm未満の深さで触る「浅い触診」の英語は、shallow palpationではなくlight palpationとなります。ここでは「大きな腫瘤」large massの有無のほか、腹部の「圧痛」tendernessと「筋性防御」guardingの有無を確認します。この「筋性防御」もmuscle defenseと表現される方がいらっしゃいますが、これは完全なる和製英語ですのでご注意を。そして浅い触診の際にはpressを使って“I’m going to press gently on your abdomen. Please let me know if you feel any pain or discomfort.”のように声がけしましょう。
1cm以上の「深い触診」の英語は、日本語の発想と同じでdeep palpationとなります。ここでは深部にある「小さな腫瘤」small massの有無を確認します。利き手の4本の指を揃えてそれらをsensorとして使い、利き手の反対の手をmotorとして使います。押す際には探らず、手を引いてくる際にsmall massesの有無を探ります。その際には“I will press a little deeper now. Please relax your stomach muscles as much as possible. Please let me know if you feel any pain or discomfort.”のように声がけすると良いでしょう。
最後に「腫瘤」と混同される用語として「膨隆」というものがありますが、こちらの英語は英国ではdistension、そして米国ではdistentionというスペルになります。sとtのどちらが正しいのか迷っておられた方も多いと思いますが、どちらも正しいスペルですのでこれを機会に覚えておいてくださいね。
lumpとは「皮膚の下にあるしこり」のことであり、必ずしも表面には現れないものの、触診ではしっかりと触れることができる腫瘤を意味する表現です。乳腺の「しこり」としてもよく使われる表現です。
bumpとは「外的要因で生じるコブ」のことであり、頭にできる「たんこぶ」もbumpと呼ばれます。動詞のbumpには「ぶつかる」という意味があるので、名詞のbumpには「ぶつかって生じるコブ」というイメージがあるのです。車についている「バンパー」のつづりはbumperですが、これには「車両本体に代わってぶつかってくれる物」というイメージがあるのです。
英語にはbinomial expressionsと呼ばれる表現があります。bi-は「2つ」を、nomenは「名詞」を意味するので、binomial expressionsは「2つの単語が決まった順序で並ぶ表現」を意味し、word pairsとも呼ばれます。代表的なbinomial expressionとしてsigns and symptomsというものがあります。現在の医療現場ではhistory takingでsymptoms「症状」を尋ね、その後にphysical examinationでsigns「兆候」を確認するのが一般的ですが、古い医学では客観的なsignsのほうが主観的なsymptomsよりも重要視されていました。そのためsigns and symptomsというbinomial expressionが定着したのです。確かに現在の医療ではsymptomsを先に尋ね、その後にsignsを確認するのが一般的なのですが、英語でsymptoms and signsと表現するとかなり不自然に聞こえてしまうのです。
そしてlumps and bumpsやlumps or bumpsもbinomial expressionとなっており、必ずlumpを先に表現します。またlumpとbumpを形容詞にしたlumpy and bumpyには「ゴツゴツしている」や「デコボコしている」という意味があります。これもbinomial expressionとしてlumpy and bumpyという順序になっており、これをbumpy and lumpyと表現してしまうと「ボコデコしている」のような感じで不自然に聞こえます。
患者さんがmassを表現する場合、bulgeという表現も使います。bulgeとは「内側から押されてできる膨らみ」のことであり、鼠径ヘルニアなどでよく使われる表現です。
この「鼠径ヘルニア」inguinal herniaに関する英語表現にも少し注意が必要です。日本では鼠径ヘルニアを「下腹壁動脈」inferior epigastric arteryの外側に生じる「外鼠径ヘルニア」と、内側に生じる「内鼠径ヘルニア」に分類して表現することが一般的ですが、英語圏ではこれらに相当するlateral inguinal herniaとmedial inguinal herniaという表現はあまり使われません。
「外鼠径ヘルニア」は「腹膜鞘状突起」processus vaginalisという腹膜の遺残が存在する場合に発生します。ここでは内容物が腹壁を直接突き破るのではなく、「鼠径管」inguinal canalを通って腹壁を「間接的」に突き破るので、英語圏では外鼠径ヘルニアをindirect inguinal herniaと表現します。特に男児に多いのが特徴です。
これに対して「内鼠径ヘルニア」は、腹壁が脆弱なHesselbach's triangleを内容物が「直接的」に突き破ることで生じるので、direct inguinal herniaと呼ばれています。heavy lifting, coughing, and constipationなどがきっかけになることが特徴です。
また突き出たヘルニアが元に戻らなくなった状態を「嵌頓ヘルニア」 incarcerated herniaと呼びます。患者さんには“Can you push the bulge back in?”や“Does the bulge stay out even when you lie down?”のような質問が有効です。
嵌頓ヘルニアが進行して内容物に血流が遮断された状態を「絞扼ヘルニア」strangulated herniaと呼びます。患者さんには“Is the bulge very painful?”や“Is the bulge red, warm, or swollen?”のほか、“Do you feel sick or have you vomited?”のような質問が有効です。
このように「腫瘤」massを意味する一般英語表現としてはlump, bump, and bulgeという3つの表現がよく使われるのですが、これら以外にも様々な表現があります。knotは「結び目」を意味する表現ですが、これは筋肉が収縮することで生じる「コリ」としてmuscle knotsのように使われます。また「大きくなっている腫瘤」としてgrowthという表現が使われる場合もあります。もちろんこれは「腫瘍」tumorを示唆する表現でもありますので、使用する際には注意が必要です。このほかにもswellingという表現もありますが、これは「腫瘤」というよりも「腫脹」というイメージの名詞です。そしてswellingは名詞であり、「腫れている」という形容詞はswollenとなりますのでご注意を。
「腫瘤」がある場合、その性状の英語表現にも注意が必要です。
「形状」は文字どおり「形の状態」であり、英語ではshapeとなります。よく混同されるものとして「輪郭」というものがありますが、これは「外形を形成する線」のことであり、英語ではcontourとなります。そしてlumpのようなしこりの場合、そのshapeがregularly-shapedでなのか、それともirregularly-shapedなのかが重要になります。また「表面」surfaceの性状を表現する場合、表面が滑らかであればsmooth-surfacedという表現が、逆に表面に凹凸があればirregular-surfacedやrough-surfacedという表現が使われます。
同様に「境界」marginsも重要となります。境界が明瞭な場合はwell-defined marginsと、不明瞭な場合はpoorly-defined marginsと表現されます。このwell/poorly-definedという表現は触診や画像診断で「境界明瞭・不明瞭」と表現する際に使われ、皮疹などを視診で「境界明瞭・不明瞭」と表現する際にはwell/poorly-demarcatedという異なる表現が使われます。
腫瘤の触診ではその「硬さ」も重要となりますが、皆さんはこの「硬さ」を英語でどのように表現しますか?
触診での「硬さ」にはhardnessのような表現ではなく、consistencyという表現が使われます。英語のhardnessは「硬さ」のみに焦点を当てた表現です。これに対してconsistencyには「一貫性」や「粘稠度」というイメージがあります。触診では硬さだけではなく、腫瘤の全体的な質感を表現する必要があります。ですから触診において日本語で「硬さ」として表現される項目は、英語では「全体的な質感」というイメージでconsistencyと表現されるのです。そしてこのconsistencyは同じ理由で「便の硬さ・質感」stool consistencyのほか、「脳脊髄液」cerebrospinal fluid(CSF)の粘稠度にも使われるのです。
そしてこのconsistencyでは当然「柔らかい」や「硬い」という表現が使われますが、これらは英語ではどのように表現するでしょう? 焼肉やステーキで「柔らかい」はsoftではなくtenderと、そして「硬い」はhardではなくtoughという表現が使われますが、腫瘤にはそれぞれsoftとhardが使われます。ただ英語のhardには「弾力が失われたとても硬い状態」という意味があります。ですから英語にはsoftとhardの間に「弾力があるやや硬い状態」という意味のfirmという表現があるのです。
ステーキでtenderと言えば「柔らかい」という意味になりますが、腫瘤の触診においてtenderと言えば「圧痛がある」という意味になります。そして「圧痛がない」はそのままnon-tenderとなります。
腫瘤の「触診」palpationにおいて使用する動詞も確認しておきましょう。触診だからといってtouchのような動詞を使うと、不適切な身体接触を想起させてしまいます。ですから頸部や乳房の触診の場合、checkやexamineという動詞を使って“I’m going to check your neck for any lumps or swelling.”や“We need to examine your breast for any abnormalities.”のように表現します。
また腹部の触診のように「押す」という動作が主体となる触診の場合、pressという動詞が使われます。1cm未満の深さで触る「浅い触診」の英語は、shallow palpationではなくlight palpationとなります。ここでは「大きな腫瘤」large massの有無のほか、腹部の「圧痛」tendernessと「筋性防御」guardingの有無を確認します。この「筋性防御」もmuscle defenseと表現される方がいらっしゃいますが、これは完全なる和製英語ですのでご注意を。そして浅い触診の際にはpressを使って“I’m going to press gently on your abdomen. Please let me know if you feel any pain or discomfort.”のように声がけしましょう。
1cm以上の「深い触診」の英語は、日本語の発想と同じでdeep palpationとなります。ここでは深部にある「小さな腫瘤」small massの有無を確認します。利き手の4本の指を揃えてそれらをsensorとして使い、利き手の反対の手をmotorとして使います。押す際には探らず、手を引いてくる際にsmall massesの有無を探ります。その際には“I will press a little deeper now. Please relax your stomach muscles as much as possible. Please let me know if you feel any pain or discomfort.”のように声がけすると良いでしょう。
最後に「腫瘤」と混同される用語として「膨隆」というものがありますが、こちらの英語は英国ではdistension、そして米国ではdistentionというスペルになります。sとtのどちらが正しいのか迷っておられた方も多いと思いますが、どちらも正しいスペルですのでこれを機会に覚えておいてくださいね。