池脇
CKD(慢性腎臓病)に関して、一般の医師に何かできることがないかという質問をいただきました。CKDは多い印象がありますが、現状どのくらいの方がCKDなのでしょうか。
斎藤
CKDという概念は実は非常に広い範囲の方に該当するものでして、20年前の検診データからは、成人の約8人に1人はCKDと言われていました。これが10年前のデータでは7人に1人になってきて、最近、検診受診者だけでなく未受診の方たちも踏まえると、おそらく成人の5人に1人はCKDではないかと考えられています。
ですので、CKDの対策というのは、国民の健康にもとても重要で意義あることと考えられています。
池脇
特に若い方よりも高齢の方のほうが頻度は高くて、その高齢の方をクリニック等で診ているとなると、けっこうな頻度の方がCKDと考えてもいいですね。
斎藤
そうですね。やはり腎臓は生理的に加齢とともに機能が落ちてきますし、近年は生活習慣病により腎機能が低下するCKDの患者さんが増えています。高齢者は非常に、CKDのリスクが高い集団です。
池脇
今回の質問にはCKDのほかにDKD(糖尿病関連腎臓病)とありますが、これはどういう病態なのでしょうか。
斎藤
DKDとは、以前は糖尿病性腎臓病と訳されていたのですが、これはいわゆる糖尿病性腎症という純粋な糖尿病からくる腎臓合併症だけでなく、糖尿病もあるけれども原疾患は別にあるなど糖尿病合併CKDもすべて包括した名前でした。
ただ、糖尿病性腎臓病という名前は、糖尿病性腎症と紛らわしいということもあり、このDKDの呼び方を糖尿病関連腎臓病という名称で見直しましょうと、2024年の「CKD診療ガイド」で呼びかけられ、今後は糖尿病関連腎臓病という、非常に大きなくくりとして捉えられるようになりました。
池脇
CKDとDKDの関係は、一番大きなくくりとしてCKDがあって、その中にDKDがあるということでよいでしょうか。
斎藤
おっしゃるとおりです。糖尿病が非常にハイリスクで人口も多いこと、また腎機能低下の進行や合併症も多いことから、あえてDKDとしてリスクに十分注意を払うべきグループとして捉えられています。
池脇
質問にはeGFRの数字も出てきましたが、ややこしい単位ですので、先生にお許しをいただき、単位なしで進めたいと思います。
質問の医師は、だいたいeGFRが40~45ぐらいになってきたら腎臓専門医に紹介しているそうです。これはまさに日本腎臓学会が出されている、かかりつけ医から専門医への紹介基準となる重症度であるヒートマップにだいたい一致するような判断と考えていいのでしょうか。
斎藤
そうですね。ヒートマップは、縦軸が腎機能であるeGFRで、横軸は尿蛋白を中心に区切られています。この縦軸、横軸がより進むほど、グリーンからイエロー、オレンジ、そして最も重症になりやすい、リスクの高い赤に進行していきます。これをヒートマップと我々は呼んでおりますが、eGFR40~45というのも確かに紹介基準ラインでもあります。
一方でeGFRが45以上であっても、尿蛋白が1プラス以上であれば、やはり何かしらのCKDのリスクが非常に高い集団ということですので、eGFRの数字と、さらに尿検査もぜひ実施していただいて、尿蛋白1プラス以上の方はぜひ紹介をしていただきたいと考えています。
池脇
確かにこのヒートマップには2つの軸があり、私もいつも採血すると、縦軸のeGFRを見ているのですが、尿検査の微量アルブミンは正直、あまりルーチンに見ていないのは反省しないといけないですね。
斎藤
まず尿検査自体が実施されていないことも多いですし、微量アルブミン尿は糖尿病または糖尿病性早期腎症だけが保険適用になっていますので、一番手近な方法としては、試験紙法の尿蛋白でもよいかと思います。
そこで1プラスが出れば、もちろんCKDのリスクの大きい集団ですし、実は尿蛋白プラスマイナスも2年続いていれば、その中に高度のタンパク尿が潜んでいる可能性があるといわれていますので十分に紹介してよいです。まずは試験紙法から行ってみてください。もし糖尿病または糖尿病性早期腎症の患者さんがいらしたら、ぜひ微量アルブミン尿も測っていただくと、案外と陽性の患者さんがいるかと思います。
池脇
確かにヒートマップの赤のところはもう紹介となっていますので、一般の医師がその患者さんを引き続き診るよりも、専門医にきちんと渡して、早期に介入してもらうのがいいですね。するとボーダーという言い方が正しいかどうかわかりませんが、オレンジのところはeGFRが40~45で、もし尿検査で特段異常がなければ生活指導と書いてあります。
ご質問の医師は、減塩とか、そういったものをきちんと指導している、これだけでもすごいと思うのですが、もっと何かできることはないですかという質問です。いかがでしょう。
斎藤
非常に熱心な質問をいただいています。おっしゃるとおり、腎臓病の患者さんへの減塩指導はとても大事ですし、タバコを吸っている方に禁煙の指導をしたり、運動も適度に行いましょうとすすめたり、いろいろな生活習慣の指導が大切です。適度な運動は腎機能の悪化を防ぐというデータも出ています。
また、適度な水分を取ることは腎臓の機能の保持にも働きますし、排便管理も腎機能の予後に影響するとか、口腔内のオーラルケアも重要視されています。あとはやはり感染症の予防ですね。CKDの患者さんは感染症にかかると重症化しやすいので、やはりワクチンなどの感染予防も検討したほうがいいでしょう。
いろいろなことがCKDの患者さんの重症化予防につながりますので、そうした全体的なご指導をいただけると、有効かと考えます。
池脇
先生の説明は本当に多岐にわたって、いわゆる非薬物、生活習慣、食事も含めていろいろなことがあるんだということに驚きました。これはやはり、筑波大学での日本のFROM-J研究という、慢性腎臓病の方の生活、食事指導をやられて、それが効果的だということがあってこそなんでしょうか。
斎藤
FROM-J研究といいますのは、全国の都道府県の医師会の協力のもと、医師会ごとにクラスターランダム化といって、通常診療を行う医師、そしてより生活、食事指導などの診療支援を行う介入群の医師に分かれていただき、5~10年の経過を見て腎臓ならびに心血管病のアウトカムを検証する研究になっています。
食事指導、生活習慣の指導介入を行った群で10年目のアウトカムを確認したところ、介入群ではCKDステージG3aの患者さんたちの腎機能の悪化速度が抑えられたという結果も出ました。またCKDの患者さんは心血管病にもなりやすいのですが、介入群では心血管病の発症も抑えることができたという結果もありました。また、介入群では、かかりつけ医と腎臓専門医との相互の医療連携が有意に進んでいたという結果もありました。
現在FROM-J研究は15年が経ち、さらなるフォローアップも検討しています。
池脇
先生が言われたステージG3aというのがちょうど今回の質問にあるeGFR40~45に当たるということですね。生活や食事指導の重要性が日本でも証明されているということですが、例えば食事指導をしたい、でもうちのクリニックに栄養士はいないし、という医師もいると思います。そういうときに何かいい方法はありますか。
斎藤
実はFROM-J研究では、かかりつけ医のところに管理栄養士が出向いて指導することによって、患者さんの生活面そして食事面についてのアドバイスをするという介入を行っていました。
このときに日本栄養士会に協力いただきまして、全国の都道府県で栄養ケアステーションという組織が設立されました。かかりつけ医から要望があった場合、都道府県の栄養ケアステーションに連絡いただければ、管理栄養士が出向いて患者さんに個別に指導を行っていただくことができるというシステムです。
今でも日本栄養士会による各都道府県での栄養ケアステーションが立ち上がっていますので、食事指導のご要望がある医師がおられましたら、お近くの都道府県の栄養ケアステーションにご相談いただくと、個別指導、あるいは調理実習や集団教室などいろいろな催しをそれぞれの栄養ケアステーションで行っていますので、活用することができるかと思います。
池脇
リハビリもパンフレットを渡すレベルではなくて、もう少し特化して行っている所に紹介するということは可能なのでしょうか。
斎藤
はい。腎臓リハビリテーションは運動、そしてまた先ほどの生活指導、食事指導、薬物療法もすべて包括した概念です。しかし今おっしゃった運動については、理学療法士がいろいろな医療機関で指導をされておられますが、腎臓に特化した運動を紹介するというところはなかなかまだ少ないかもしれません。
ただ、例えばウォーキングであったり、軽いラジオ体操であったり、おそらく医師が今、生活習慣病管理料の療養計画書を作成されていると思いますが、そこでは30分以上の運動を週何回しているか、その強度としては、息が弾むくらいの会話も可能な強さで、ちょっとしんどいけれども心地よい疲れを感じるレベルの運動をどのくらいしているか、このようなことを聞いていらっしゃると思います。患者さんが身近にできる運動をどのように行っているか聞いてみたり、例えば歩数をもう少し増やしてみましょうとか、そういったところから始めていただけると、患者さんも非常に取り組みやすいかと思います。歩数などは携帯電話で表示されてわかるようになりますと、患者さんにも成果が見える化してきますし、それを報告いただくことで患者さんのモチベーションにもつながるかとも思います。
池脇
腎臓専門医に紹介する前に、やることがいっぱいあるんだなということがわかりました。ありがとうございました。