ドクターサロン

山内

鈴木先生、まず質問の前に、前立腺がんは非常に今増えているということですね。

鈴木

はい。

山内

年齢的には高齢者が多いので、患者さんとしては、機能温存の希望はあまりないと見てよいのでしょうか。

鈴木

最近は、60代、70代でも夫婦生活をエンジョイされている方もいらっしゃいますので、例えば手術をする場合はその前に男性機能の温存を希望されますかと聞くと、けっこう希望される方もいらっしゃいます。そういった希望に関してはできる限り応えたいと思っています。

山内

QOLも絡みますので、大きな問題なのかもしれません。前立腺がんの発症頻度はどのくらいでしょうか。

鈴木

今や日本でも男性のがんの1位になっています。ただ、死亡原因としては6位くらいで、言い換えますと、手術や今日のテーマの放射線治療、ホルモン療法を中心とした薬物療法もありますので、比較的予後が良いことから、そういった結果になっています。

山内

いろいろな治療法がありますが、この取捨選択は大雑把にいうとどういった辺りを目安にするのでしょうか。

鈴木

基本的に早期、もしくは前立腺の少し外側に出ているような局所進行がんぐらいまでは手術、もしくは放射線治療を主たる治療とします。遠隔転移がある場合はホルモン療法、もしくはアンドロゲン除去療法といって、男性ホルモンを下げるような治療、睾丸摘除術を昔は行っていましたが、最近ではLH-RH製剤といって、徐放性の注射薬で、例えば3カ月ぐらい持つような、男性ホルモンを下げる注射もありますので、そういったものがファーストチョイスになります。

転移がんの場合、場合によっては最初からドセタキセルという抗がん剤を併用することもありますが、基本的に早期の場合は手術、ないしは放射線治療が主たる治療となります。

山内

各々の治療法で、質問の勃起障害、勃起不全が起こる頻度はかなり違うのでしょうか。

鈴木

はい。手術の場合、勃起神経といわれる基本的に前立腺の両脇を走っている神経を温存するかしないかにもよります。がんの局在部位で神経温存できるか。そういったことがありますが、手術の場合は直後に勃起障害が起きることが多いです。ただ片側温存、両側温存によっても違いますし、年齢によっても違いますが、全く温存しないと、90%以上の方が完全なEDになってしまうといわれています。温存した場合でも、両側温存したとしても、勃起が得られる方は6~7割程度といわれています。

山内

神経を切られてしまったら、回復は不可能と考えてよろしいですか。

鈴木

勃起神経は意外と、前立腺の背面、腹側面にも走っている方がいまして、勃起神経を取ってしまったはずでも「勃起をします」という方がまれにいますが、基本的には、温存しないと手術の場合は難しいと思います。

山内

次に薬剤に移りますが、こちらの方はホルモン系の関係からいっても、ほぼ100%勃起障害が出てくるものでしょうね。

鈴木

はい。男性ホルモンをしっかり下げてしまいますと、ほぼ100%勃起障害が起きます。今回は放射線治療後の勃起障害というお話ですが、放射線治療の場合、しばしば今申し上げたようなホルモン療法、つまりアンドロゲン除去療法というものを、その患者さんのがんの悪性度や広がりの程度に合わせて併用します。ですので、放射線治療だけで勃起障害が起きることもありますが、今申し上げたホルモン療法との併用によって、より勃起障害を起こしやすくなることもあります。

山内

ということで、質問に移ります。放射線治療の方ですが、こちらの方の勃起障害の原因は神経だけではないのでしょうか。

鈴木

放射線をかけることによって神経も損傷されるのですが、一番言われているのは神経血管束といわれるところの血管の虚血や、勃起の場合には陰茎海綿体に血流が流れ込むのですが、そちらの血流障害で海綿体が線維化してしまう。あとは球部尿道という前立腺の奥の尿道のところで静脈の不全が起きるなどが関係しているのではないかといわれています。

山内

この辺りですと、神経とは違いますから、ひょっとしたら治療が可能かなという気もいたしますが、いかがでしょうか。

鈴木

先生のおっしゃるとおりで、いわゆるPDE5阻害剤が今、国内で3つあります。シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルとあり、それぞれ半減期など異なりますが、PDE5阻害薬は血管を広げます。放射線で虚血してしまった血管を広げることで、勃起の改善が期待できますし、患者さんに強い希望があるようであれば、陰茎リハビリといって早い段階からこういった薬剤を投与することが、より回復を早めるのに有効だったという報告もあります。

山内

機能温存を希望される患者さんは、放射線療法がある意味お勧めといってよいですか。

鈴木

手術と放射線のどちらを選びますかというお話をする際に、一つは確かにEDの問題があります。EDを気にされて、手術よりも放射線を選びたいとおっしゃる方もいらっしゃるのですが、ただ気をつけなければいけないのは、手術は比較的直後にEDを起こしますが、放射線のほうも、照射をしてから半年から2年ぐらい経って徐々に虚血などが起きてEDを引き起こすことがあります。必ずしも放射線治療だから大丈夫ではないことは患者さんに治療前にお話ししておきます。

山内

遅発性もあるということですが、治療が成功する可能性がないわけではないという意味では、そこに望みはあるのですね。

鈴木

はい。ホルモン療法を併用していないようなケースの疫学調査があるのですが、IMRT(強度変調放射線療法)という体外照射の一種では、EDを単独で引き起こすのが35~60%ぐらいといわれています。言い換えますと、放射線単独の場合、40~50%程度の人はEDが起きないという話もあります。

ただこれは、患者さんの年齢や背景で、糖尿病や肥満、喫煙のある方はもともとED気味ですので、EDの確率は上がってしまうと思いますが、比較的お若くて元気な方であれば、半分ぐらいの方は放射線単独ではEDを起こさないということになります。

放射線の内部照射のなかでも小線源療法という前立腺の中に放射線物質を埋め込むようなやり方だと、よりEDは少ないのです。その割合は25~50%ぐらい、少しEDになりにくいともいわれています。

山内

最近、さらに技術革新も見られているとみてよいのでしょうか。

鈴木

はい。IMRTもそうですし、日本の場合、重粒子線や陽子線といった治療があります。私は千葉県におりますので、旧放射線医学研究所、今はQST病院という名前の重粒子線の施設にも関与しているのですが、そちらの重粒子線はスキャンニング照射といって、かなりピンポイントで放射線をかけられます。そうしますと、前立腺の外側にある、勃起に関わる神経や血管にあまり散乱線がかからない。つまり前立腺の病巣のみに、もしくは前立腺のみに放射線がかけられるので、放射線技術の進歩でEDも減っていく可能性が示唆されています。

山内

重粒子線の話をもう少しうかがいたいのですが、効果その他に関して、特にこれを行う適応というのはいかがでしょうか。

鈴木

重粒子線というのは、普通の放射線に比べて深部直進性というか、前立腺の深いところにあるものですから、散乱が少なく体の深い臓器まで放射線線量がしっかり届くという特徴があります。

理屈上、今回の話題になっているIMRTよりも少し線量を増やすことができることから、どちらかというと進行病期の方のほうがお勧めなところはあります。ただ、今は保険適用ですので、あまり早期な方には勧めませんが、中間リスク程度の前立腺がんでも十分治療対象になっています。

またEDが起きてしまったときは、先ほど申し上げたようなPDE5阻害薬、シルデナフィルやタダラフィル、バルデナフィルを使います。早めに使ったほうがいいという話をさせていただきましたが、それでも効果がみられない場合は、ほかのEDの場合と同じですけれども、保険適用外ですがプロスタグランジンE1の海綿体注射をしたり、陰圧式の勃起補助具を使ったり、そういったことが実際に性機能の外来を行っている施設では治療として行われています。

その他、食生活とか、もちろん運動療法も役に立つといわれていますが、それでもだめな場合には、陰茎プロステーシスといって、保険適用外ですが、陰茎の中に勃起補助具を埋め込むような治療を行っている施設もあります。どうしても、とにかく何とかしたいということであれば、そういった外来を行っている施設、私ども東邦大学でも佐倉病院、本院である大森病院に専門外来がありますので、そういったところを受診されてはいかがかと思います。

山内

ありがとうございました。