池脇
宮崎先生、特発性肺線維症について質問をいただきました。まずは、肺線維症と間質性肺炎の関係について基本的なところから教えてください。
宮崎
肺線維症より広い概念で間質性肺炎というものがあります。間質性肺炎には「肺炎」と付いてるのですが、いわゆる細菌性肺炎とはまったく違うもので、肺胞の周りが炎症を起こして硬くなっていき、周りの血管も潰れていく。肺が縮んでいく病気の総称です。その中に特発性肺線維症があるのです。特に線維化が強い病気ですね。
池脇
特に線維化が強いという特徴があるけれども、その病態は間質、いわゆる肺胞上皮やその辺り、ということでよいでしょうか。
宮崎
肺胞上皮とその外側が障害されていく病気です。
池脇
特発性の間質性肺炎の中で最も頻度の高い病気が、今回の質問の特発性肺線維症です。難病に指定されていますので、なかなか難しい病気なのですね。
宮崎
特発性間質性肺炎の「特発性」というのは、原因がわからないという意味ですし、特発性肺線維症の「特発性」も原因がわからないという意味なので、難しいですね。
難病に指定されて85番という番号も付いていますが、特発性間質性肺炎のだいたい半分が特発性肺線維症といわれています。
池脇
罹患された方は、おそらく徐々に症状が進行していくので、突然の呼吸困難というよりも、動くと何となく息切れが強くなったり、ちょっと空咳が続いたりして医療機関を受診することになると思います。私は、コロナ以降、なかなか患者さんに聴診をしなくなりました。たぶん、こういう病気では、パリパリ、バリバリという音が特徴ですよね。
宮崎
そうですね。咳が長引く人、息切れがある場合はぜひ聴診していただきたいと思います。特に背中側の下のほう、肺の下にあたる部分を聞くと、パリパリあるいは、バリバリという特徴的な音がしますので、ぜひ注意していただきたいです。
池脇
専門外の初歩的な質問ですが、特徴的な音がするからといって特発性肺線維症ではなく、そこで間質性肺炎の何かの可能性があるということになりますね。そこからどの病気なのかという診断のプロセスになりますが、「特発性」と付いていて原因が不明ということですから、逆に言うと、いろいろな原因を除外していく診断のプロセスは、けっこうたいへんなのでしょうか。
宮崎
これまで特発性肺線維症は、間質性肺炎の中でも高い割合でしたが、最近、検査技術が進み、例えば血液検査の抗体検査や画像診断も進んだので、鑑別診断ができるようになってきました。鑑別診断は、膠原病や過敏性肺炎という、粉塵やカビ、細菌、アレルギーによる間質性肺炎などがかなり診断できるようになってきたので、特発性肺線維症というのは除外診断ですけれども、かなり精度が高く診断できるようになってきています。
池脇
中でも一番の決め手になるのは、解像度の高いHRCTでしょうか。
宮崎
そうですね。蜂巣肺という、蜂の巣みたいな、パリパリと音が出るところが特徴的で、HRCTでそれがあれば特発性肺線維症と診断していいというガイドラインになっています。
池脇
もしそこのところで「ん?そうかな?」という典型的ではない場合、次の診断のステップはあるのでしょうか。
宮崎
診断を進めるとすると、肺の組織を取る、という肺生検になります。最近は凍らせて組織を取るという内視鏡的な生検の方法も進んできています。従来は外科的な肺生検をやっていましたが、その手前に、もう少し侵襲の少ない検査が出てきています。
池脇
そして特発性肺線維症と診断され、私の以前の知識でしたら、ステロイドや免疫抑制剤を使って治療するものでしたが、今はすっかり治療のパラダイムシフトが起こっていると聞いています。どうなのでしょうか。
宮崎
特発性肺線維症の治療は、2000年代初頭はステロイドなどを使っていましたが、使うとかえって悪くなることがわかって、2008年には抗線維化薬のピルフェニドン、2015年にはニンテダニブが承認されて、進行を抑制できるようになりました。肺が縮んでいくのを抑制する程度ですが、予後の改善があることが証明されています。
池脇
しかも、この薬は、世界の中でも、日本でいち早く使われるようになったと聞きました。
宮崎
そうですね。2008年のピルフェニドンは日本で最初に、世界へ先駆けて発売された薬です。
池脇
そうすると、治療に関していろいろな新しいエビデンスが出てきて、先生も含めたガイドラインの委員の先生方は、最初に2017年、そして早くも2023年、2024年と改訂されたとのことですね。
宮崎
はい。治療法に関しては新しいエビデンスが出てきています。
池脇
治療の基本は抗線維化薬で治療していくという流れなのでしょうか。
宮崎
今のところ、特発性肺線維症に対して有効な治療薬は抗線維化薬だけです。
池脇
ただ、たとえが悪いですが、アルツハイマーのように良くするというよりも進行を遅らせるというイメージでしょうか。
宮崎
そうですね。だいたい年間200mLの肺活量が減るのですが、それを半分ぐらいに抑える効果があります。
池脇
副作用等はどうでしょうか。
宮崎
副作用は、消化器症状があります。ピルフェニドンは光線過敏症という、日に当たると日焼けが強く出る症状があります。ニンテダニブは、消化器症状とともに肝臓の障害などがあります。
池脇
でも特発性肺線維症の患者さんにとっては、各種がんよりも予後の悪い病気になってしまったとなると、仮に副作用が出たとしても、量を調整しながら続けていくのが大事だと書いてありました。
宮崎
まさにそうですね。リアルワールドのデータで見ると、飲まないよりも続けて飲んだほうが予後の改善がいいことが両方の薬で報告されています。
池脇
新しい抗線維化薬の最初が2008年ですから、10年少し経って、そういう治療が標準化してきたら、患者さんの予後も含めて変わってきたのでしょうか。
宮崎
全体では予後が良くなってきています。その他の治療も集中できるというか、例えば呼吸リハビリをするとか、咳や痰の治療をしてQOLを改善するという治療も、同時に行うようになってきています。
池脇
あと、特発性肺線維症は急性増悪で亡くなる方がけっこう多いと聞きました。このような治療をすることによって、急性増悪もある程度防げるのでしょうか。
宮崎
はい。急性増悪を抑えるというデータもあります。特発性肺線維症で亡くなる方の4~5割は急性増悪です。突然、肺が白くなって、呼吸が苦しくなる状態で、予後も救命できる割合が4~5割となっています。急性増悪は予後が不良な状態ですね。
池脇
この患者さんは薬を使っても治癒がなかなか難しくて、うまく病気と付き合って生きていくことになるのですね。この病気の症状の一つが空咳だと聞いていますが、咳も夜中に起こると睡眠障害になるし、これも厄介な症状です。通常の咳止めが効かない方も多いように思うのですが、どうでしょう。
宮崎
先ほど少し申し上げたように、QOLを下げるところで咳というのは非常に大きな点です。中枢性の咳止めも今はありますし、末梢性の咳止めもありますが、新しい薬である選択的P2X3受容体拮抗薬※なども使ったりしています。
池脇
皆さんに奏効するわけではないけれども、通常の治療でなかなか反応が鈍いというときには、今はそういう新しい治療薬があって、それも先生方は使われているということですね。
宮崎
はい。中枢性の鎮咳剤が効かない場合には、そのような薬を使っています。
池脇
あと、少し話がずれますけれども、選択的P2X3受容体拮抗薬の作用機序からすると、原因によらず、要するに特発性の肺線維症でなくても、慢性の咳の患者さんには効くと考えてもよいですか。
宮崎
そうですね。痰を伴う細菌性肺炎ではなく、痰が伴わないような空咳に対しては、有効ではないかと思います。
池脇
今後とも先生方の治療の進歩によってこの患者さんの予後が良くなることを期待しています。ありがとうございました。
※効能または効果:難治性の慢性咳嗽