ドクターサロン

山内

キャリアに関してまずお聞きします。これは保菌者ということでよいかと思いますが、定義としては6カ月以上持続というケースのようです。何をもって6カ月としていますか。

由雄

HBs抗原が6カ月以上陽性が続いた状態をB型肝炎のキャリア、もしくは慢性肝炎、肝硬変と呼びます。その中でALTが正常の方をB型肝炎のキャリアと定義しています。

山内

ALT正常とはどのくらいの値ですか。

由雄

正常というのは、30以下という定義です。

山内

31以上になるとこれはキャリアではなくなるのですか。

由雄

はい。慢性肝炎という定義になります。少し肝がんの発生率が高くなり、要注意の群になってきます。

山内

ALT31以上というのはかなり厳しいですね。

由雄

日本肝臓学会としてはALTが31以上かつウイルス量HBV-DNAが3.3logIU/mL以上の方は、早めに核酸アナログで治療していって、肝がんを予防しましょうというガイドラインになっています。核酸アナログも昔は長期にのむとウイルス変異により効かなくなる心配がありましたが、今はほぼありません。

山内

質問に戻りますが、専門医ではない医師が臨床現場でこういったマーカーをどう扱ったらいいかをうかがいます。まず、我々は普通、HBs抗原抗体のチェックだけで済ませていると思います。原則この状態でいいのでしょうか。

由雄

はい、そう思います。HBs抗原が陽性の方をなぜルールアウトしたいかというと、ほかの方への感染性がある患者さんを見つけたいという考え方になると思います。質問の内視鏡検査のときなどは、検査をする方やスタッフへの感染のリスクを予測するために測っていることになります。

それから、ご家族への感染という意味でも、HBs抗原が陽性か陰性かは大事です。例えば集団のぶつかり稽古をするようなラグビーや相撲、血液と体液が混ざるようなスポーツの現場でも、どうしてもHBs抗原が陽性の方だと感染のリスクがあるので、日常臨床でHBs抗原が陽性と陰性を見分けることが必要となってくると思います。

山内

次にこの質問にも絡んでいますが、HBs抗体が陰性化することはあるのですね。

由雄

そうですね。コロナのワクチン後の抗体等が同じようなイメージかと思います。抗体を作るのはB細胞という免疫細胞になるのですが、例えば一度感染したときにできてくる抗体の量は、そこから年月が経つと、だんだん抗体価が下がってくることがあります。その結果、60代、70代、80代になってくると、一度感染したけれどもHBs抗体が陰性になっている方もいます。ただ、そこまで頻度は高くありません。

山内

多くはないのですね。こういった方々というのは、完全に元に戻ってしまう、感染がなかったことになってしまうのでしょうか。

由雄

現状、健康診断で測定するのはHBs抗原だけなので、そのような考え方になりますが、実際はHBc抗体という抗体があります。HBc抗体は一度感染すると、ほとんどの場合ずっと持続陽性になります。例えば抗がん剤などを投与した患者さんで一度治った方、その既往感染者の方からも、免疫が落ちてウイルスが再活性化するという概念があります。そのために、例えば抗がん剤を入れるような医療現場だったり、免疫が落ちるステロイドの長期投与がある医療現場、抗IL-6抗体といったリウマチ、膠原病などの外来もしくは入院をずっと診ている現場では、HBc抗体も必ず測るようにしていて、陽性であれば、感染したことがある方と見なしています。

その場合、8~9割はHBs抗体も一緒に、一度感染した方はHBs抗体もHBc抗体も、陽性の方が若者だとほぼ100%です。年齢を重ねるにつれてHBs抗体が陰性でHBc抗体だけが陽性という既往感染者の方が出てくるのですが、それでも例えば80代でも1割に満たないぐらいのレベルだと思います。

山内

よく一過性肝炎なる言葉がありまして、大人ですと「治っちゃいました」という感じですが、そういった方もHBc抗体を測れば、実はあるのですね。

由雄

そうなります。結局、健康診断ではHBs抗原だけしか測らない場合がほとんどだと思うのです。そこでHBs抗原が陰性だと、「私はB型肝炎と関係ない」と皆さん思われると思うのですが、例えばがんの患者さんを年齢別にみてみると、実は日本で70代では20%ぐらい、60代では10%ぐらいHBc抗体が陽性の方がいます。

というのも1986年に、お母さんがHBs抗原陽性の子どもは生まれたときにワクチンとグロブリンを打つという母子感染予防法が始まったのですが、それより前の生まれの人たちは、お母さんがB型肝炎が陽性だと、高率に感染している方もいます。また、小さい頃の国の集団接種で感染している方がいる世代なので、60代、70代にはそういった感染者の割合も高くなっています。

一方、HBs抗原が陽性の方は日本全体で1%程度、100人に1人ぐらいです。

山内

通常の診療で診ていて、HBs抗原陽性だったら、次はウイルス量をチェックして、これでいいかと思いますが、これはそこまでは信頼できないものなのでしょうか。

由雄

HBs抗原が、もし診療で陽性となると、現状HBs抗原が陰性化することが既往感染、治ることのゴールとなっています。ウイルス量がすごく少なくて、ALTがもし正常だったとしても、一応キャリアにはなります。まったく感染がない人より発がんのリスクがあるので、年1回の腹部の超音波でがんがないかどうかのリスクを見る。あと、まれに突然ウイルス量が増える急性増悪という方もキャリアの方の中にいますので、年に1回、画像の検査、年に2回採血をすることをお勧めします。

山内

ウイルス量がマイナスと出た場合、体の中からいなくなったのかと思うのですが、そうでもないのですね。

由雄

そうですね。一度感染すると、基本的にウイルスのもとは一生いなくなりません。免疫との攻め合いでウイルスのDNAまでは出ないけれど、HBs抗原だけちょこっと出ているような状態の方もいたり、そこにHBs抗体がしっかりついてくるとHBs抗原がなくなったりします。残念ながら、1回でも感染したことがある方は、肝臓の中に“もと”が残ってしまうような疾患ですね。

イメージとしては、帯状疱疹と似ているかと思います。水疱瘡にかかると、免疫が落ちると帯状疱疹が出てくるような感じで、B型肝炎も一度感染すると“もと”が入ってしまうので、自身の免疫が、例えば抗がん剤とかいろいろなもので落ちてくると、またその“もと”がちょっと元気になってしまうこともあります。HBc抗体が陽性の方に関しては、一生まったくの正常にはなれないという感じです。

ただ日常生活は、HBs抗原が陰性であれば感染性もなく、まったく問題ないですし、わざわざ「既往感染者です」と書く必要もないと思います。

山内

今の話に多少関連しますが、HBs抗体が陽性の方は中和抗体ですので、もう悪さしないかなと思うのですが、そうでもないのですね。

由雄

HBs抗体が陽性だと、ほとんどの場合、HBs抗原が陰性だと思いますので、その場合は悪さをしないのですが、本当にごくまれに、HBs抗原もHBs抗体もプラスということがあります。HBs抗体が少ししかなくて、HBs抗原がやや勝っている状態の方というのは、やはりまだ感染性があると思います。

山内

どうもありがとうございました。