池脇
石井先生、早期消化管癌の内視鏡治療について教えてください。内視鏡治療ということで、メスを使わずに内視鏡的に早期のがんを治療するほうが患者さんにとっても低侵襲でいいと思います。実はそういった早期のがんが発見されやすくなっている背景は、国ががん検診を推奨しているからで、実際、私も今年の初めに行政から「胃がん検診を受けてください」という案内があり内視鏡検査を受けました。早期のがんが見つかるケースは増えてきているのでしょうか。
石井
はい。患者さんが胃内視鏡検査を受けられる機会が増えているのと、内視鏡機器自体がどんどん発達していますので、以前は発見されにくかったがんが発見されやすくなったことも影響していると思います。
池脇
食道から大腸まで、消化管のがんで、幸いにという言い方は語弊があるかもしれませんが、少なくとも進行していない、しかも早期で開腹手術や腹腔鏡の手術ではなく内視鏡治療が可能だということになれば、繰り返しになりますけれども、患者さんとしてはぜひそれで、ということになりますね。
石井
内視鏡治療の利点としては、まず患者さんの負担が少ない、侵襲が少ないということが挙げられます。もう一つは、臓器の表面を内視鏡で取り除くだけですので、機能の温存が図れる。この2点だと思います。
池脇
例えば内視鏡検査で少し何かあるなということになって、その深達度が、結果的に浅い層に限局している。あともう一つ、リンパ節の転移がないか、あるいは極めて可能性が低いという条件はありますよね。これらはなかなかわかりにくいように思いますが、どのように判断するのでしょうか。
石井
最近は、数十倍に拡大できる拡大内視鏡検査が多くの病院でできるようになりましたので、まず内視鏡検査の所見を拡大して観察するという方法があります。もう一つは、以前から行われていることですが、臓器も空気の出し入れによって病変が変形します。その変形の具合によって、深いのか浅いのかを推測することが可能です。
あと、昔から先輩方によって発展した内視鏡診断学。ひだがどのようになっているのか、腫大があるのか、先細りがあるのか、陥凹(かんおう)の中にまたさらに陥凹があるのか。それらを総合して深さを判断するようにしています。
池脇
そういう内視鏡検査での情報収集でだいたい決められるのか、あるいは念のために造影のCTなどで転移も含めてチェックするのか、どうなのでしょうか。内視鏡検査以外の医療情報も集めることが多いのですか。
石井
内視鏡治療の前には、やはりCTで転移リンパ節がないか、また遠隔転移がないか、評価するようにしています。
池脇
確かに内視鏡だけでじっと見ても、結局、転移があったら適応外ということですものね。
石井
そうなります。
池脇
石井先生は、食道から大腸まで幅広く内視鏡治療をやっていらっしゃるとは思いますが、患者さんにとって内視鏡治療のメリットというのは必ずしも一様ではないのですか。
石井
そうなります。手術で侵襲が大きい臓器は、内視鏡治療のメリットは大きくなります。具体的には食道、大腸であれば直腸は内視鏡治療のメリットが大きいと考えられます。
やはり食道の手術は体の侵襲がとても大きいですし、直腸に関しては肛門がなくなってしまいますので、手術を受けると、その後のQOLがぐっと下がります。臓器によって内視鏡治療の恩恵は大きく変わると思います。
池脇
もちろん上から下まで、内視鏡治療は少なくとも手術よりは侵襲度が低いけれども、特に食道と直腸の場合には、内視鏡治療ができるかどうかをきちんと見たうえで判断するということですね。
石井
はい。
池脇
基本的な質問ですが、内視鏡治療というと、粘膜除去術(EMR)という手術と、粘膜下層切除術(ESD)の2つがありますが、具体的にはがんの深さによって術式を区別するのでしょうか。
石井
まず、EMRに関しては、病変が小さいものであれば、針金の輪っかをかけてジョキッと切れます。ただし、針金の輪っかをかけてジョキッと切れる条件としては、病変がしっかり持ち上がらなければいけません。なので、瘢痕が見られる病変に関してはEMRでの切除は困難になります。
また、取った後に詳細な病理学的な検索を行って、本当に表面に留まっていたがんなのか、脈管侵襲はないのか、転移の可能性は本当にないのかを詳細に把握する必要があります。そのためにはワンブロックで取る必要があります。大きな病変になってくると、EMRではワンブロックで取れませんので、ESDという手技が必要になってきます。
池脇
確かに、以前は1度のEMRでは取り切れないから2回に分けて取ったところ、やはり再発を防げなかったという、EMRの限界がありました。ESDはその辺りを克服した新しい治療法ということですね。手術の説明のとき、患者さんには何かたとえて説明されているのですか。
石井
EMRは、先ほど申し上げました、針金の輪っかをかけてジョキッと切ると説明しています。ESDに関しては、大きなアイスクリームをスプーンでえぐり取るように、大工さんがカンナを使って木の皮を剝ぐように消化管から粘膜を剝ぎ取る治療ですと説明しています。
池脇
実際に先生方が行う治療手技は、がんの下層のところに液体を注入してがんを浮かせたうえでえぐり取るという流れなのですか。
石井
最近では、ヒアルロン酸ナトリウムという局注液を使うようにしています。長時間、粘膜下層に留まってくれますので、内視鏡を使った粘膜下層の切除にとても適しています。
池脇
実際に腫瘍を取るというのは、電気メスみたいなもので行うのですか。
石井
はい。最近はいろいろな種類の器具が販売されていますので、状況に応じてできるだけ安全に治療できるように、器具を使い分けています。
池脇
腫瘍の場所や腫瘍の大きさによって、多少治療の時間も変わるかもしれませんが、通常のものでしたら、どのくらいの時間がかかりますか。
石井
通常の病変であれば、30分から1時間でできます。
池脇
これは外来ですか、入院ですか。
石井
だいたい4~5日ぐらいの短期間の入院で行っております。
池脇
やはり入院は、手術がうまくできたとしても、ほとんどないでしょうが、その後の出血とか穿孔を観察するという意味で入院していただくのですか。
石井
そうなります。
池脇
消化器内科医が内視鏡治療を安全に行っているということですが、そういう医師ができるだけたくさんの早期がんを治療できる状況にするとなると、今まで以上に早期発見が重要なので、身体の上から下の順で「こういう人は早めに検査を」という解説を最後にお願いします。
石井
食道がんに関しては、喫煙とアルコールが重要な2つの原因因子になります。特にアルコールに関しては、お酒を飲んで顔が赤くなる方、もしくは以前赤くなっていた方は、アルコールが分解されてできたアセトアルデヒドの分解が悪い方ですので、そのような方は食道がんになる危険性が高いです。
なので、お酒を飲んで顔が赤くなる方にはぜひ「食道がんが心配じゃないですか」と胃内視鏡検査を勧めてくださると助かります。
池脇
その次は何でしょうか。
石井
胃がんの一番重要な原因因子はピロリ菌です。最近、ピロリ菌は7~8割が両親から感染したという報告がされてきています。なので、ご両親がピロリ菌陽性の場合は、ピロリ菌陽性である可能性がありますので、ぜひピロリ菌検査と胃内視鏡検査を受けてくださればと思います。
池脇
最後に、大腸はどうでしょう。
石井
大腸がんに関しては、食道、胃と異なって明らかな原因因子というのが、一部の大腸がんを除いて同定されていません。ただ、最近は若い年代から大腸がんが増えてきています。最近、米国のガイドラインでも45歳から大腸がんの検診が推奨されるようになってきています。なので、45歳を過ぎたら、遅くても50歳を過ぎたら大腸がんの検診。簡便なのは便潜血だと思うので、それを受けてくださるといいと思います。
池脇
個人的なことで恐縮ですが、私も50歳を過ぎたら1回は内視鏡検査を受けておけといわれて1回受けまして、とても苦しかったんです。幸い何もなかったんですけれども、次は3年後ね、みたいな感じで、一応そのぐらいのスパンでは受けるようにしています。やはりそのぐらいのほうが安心なのでしょうか。
石井
大腸内視鏡検査は、日本では3年間隔とされています。欧米に関しては、切除したポリープの状況によってその後の検査間隔を定めています。主治医とぜひとも相談してくださればと思います。
池脇
ありがとうございました。