ドクターサロン

池脇

清田先生、慢性膀胱炎について質問をいただきました。先生には2年前にも、高齢者の難治性膀胱炎ということでお話をいただいています。

膀胱炎というと、必ずしも泌尿器科医が診るのではなく、我々他領域の医師が診ることが多いです。現場で膀胱炎の症状があって、ちょっとおしっこの所見があれば、抗菌剤を処方します。私はだいたいキノロンを処方して収まっていることが多いのですが、なかなか1回で収まらずに、慢性化してお困りということが増えてきたということで、ぜひまた先生のご意見をいただきたいと思います。

この質問のように、膀胱炎は発熱するのでしょうか。

清田

膀胱炎に発熱はありません。発熱がある場合は、腎臓のほうの腎盂腎炎ですね。これを頭の中に入れる必要があります。

腎盂腎炎と言いましても、急性と慢性があります。急性は高い熱を出しますが、慢性は必ずしも高い熱は出さないので、この方の場合は慢性腎盂腎炎ではないかと思います。

池脇

膀胱からもっと上の腎臓のレベルまで細菌感染が常態化していて、あるところで熱発することを繰り返しているのですね。

清田

はい。慢性になりますと、腎臓が傷んでくることがあります。腎臓の瘢痕化といいまして、腎臓の辺縁がスムーズでなく、デコボコ、ギザギザしているかどうか、腎の実質が薄くなっているかを画像上、確認する必要があると思います。CTでもいいし、超音波検査でもいいです。それをまず確認したほうがよいと思います。

池脇

この症例では泌尿器科の医師に一度診断を受けているにしても、腎臓が大丈夫かは、画像的にきちんと診てもらうことが必要でしょうか。

清田

おそらく、泌尿器科医が診て膀胱炎という診断をしたということでしたら、そこまで腎臓の瘢痕化はないと思っていいのではないかと思いました。

池脇

あと、これも基本的な質問で恐縮ですが、今回は慢性膀胱炎という言葉が使われています。前回は難治性膀胱炎でした。慢性、難治性、時には反復性ということもありますが、ほぼ同じですか。

清田

ほぼ同義だと思います。ただ正式的には慢性膀胱炎、あるいは複雑性膀胱炎ですね。慢性の場合は複雑性ですので、慢性複雑性膀胱炎。複雑性の場合は、基礎疾患ありの膀胱炎ですので、高齢者に多く、糖尿病や膀胱の働きが悪い方、膀胱に残尿があるような方に多いです。

男性だと前立腺の疾患がありますので、高齢者だと男性にもよく見られます。

池脇

基本的には、膀胱の排尿機能が障害をされて、残尿があるとか、そういったことが細菌にとって良い培地になってしまっているのですね。

清田

温められていますからね。

池脇

なかなか消えてくれない。それで慢性化する、あるいは難治性になるという流れで、男性もあるにはあるけれども、どちらかというと高齢女性に多いのでしょうか。

清田

高齢女性のほうが多いです。尿道が短いせいで細菌が膀胱に到達しやすいからですね。そのため、女性では残尿が多い方、膀胱の働きが悪い方が多いと思います。

池脇

どうして膀胱の働きが悪いのでしょうか。加齢もあるでしょうが、場合によっては脳梗塞あるいは糖尿病などが影響してくるのですか。

清田

おっしゃるとおりです。圧倒的にその3つは多いと思いますね。

池脇

あと、膀胱に入ってくる菌というのは、基本的には直腸の腸内細菌ですか。

清田

それが一番多いです。

池脇

上行性にというと、例えば排尿、排便時に入ってきやすいのでしょうか。

清田

排便時の後処理で入りやすいのではないかと思います。

池脇

私もそうですけれども以前は、自分で拭いていました。最近は温水洗浄器が主流になっていますが、膀胱炎ということを考えると、予防効果はあるのでしょうか。

清田

膀胱炎の予防効果はないと思います。特に排尿の後に温水洗浄器を使うと菌が入ってきやすいので、排便のときだけならいいですが、排尿のときは避けたほうがいいと思います。

池脇

そうしますと、そういった方々がなかなか治りきらないというのは、膀胱側の問題もあるでしょうけれども、菌そのものが薬剤に耐性化するということも最近問題になっているのではないでしょうか。

清田

とても増えています。最近増えているのはESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)ですが、ESBLという酵素を産生する細菌が増えてきています。特に慢性で増えてきているのですが、大腸菌ですとESBLを産生するものが3割弱、どんどん増えています。あとESBLを産生する細菌では肺炎桿菌も増えています。ですから全体的に増えている。これがまず一つありますね。

もう一つは、ESBL産生菌というのはセフェムやペニシリン耐性なのですが、同時にキノロン耐性であるものも徐々に増えていることです。これがよく問題になっています。

ESBL産生菌の7割はキノロン耐性です。つまり多剤耐性ということです。ESBL産生菌に有効なのがクラブラン酸/アモキシシリンと、それからホスホマイシンですね。あとはファロペネムという薬があって、カルバペネムと似ているのですが、似て非なるものです。この3つが選択肢に入ってきています。

けれども、そういうものは処方する前に薬剤感受性試験を行っていただきたいと思います。一般の薬剤感受性試験ではファロペネムは対象外ですが、クラブラン酸/アモキシシリン、ホスホマイシンは必ず入っています。それを確かめていただいて、その中で薬剤を選択するというのがいいと思います。

池脇

最近はいろいろな領域で耐性菌が増えていますが、この原因というのは、抗菌剤を安易に使ってしまうことが大きいのでしょうか。

清田

そのとおりですね。不適切な薬剤を、おかど違いな場面で使ってしまうのが良くないのです。正しい薬剤をどんと使って、さっと引き上げる。それがコツです。

池脇

最初の症状が起き始めたときに、検査でなかなか薬剤感受性までわからない状況で、とりあえず使う。けれども今、耐性菌が増えているので、どこかで薬剤感受性をチェックするということですか。

清田

最初にまず薬剤感受性をチェックしておくのですが、答えが出るまで3~4日かかります。また、閉経前後で原因菌の分布が少し違います。閉経前はグラム陽性球菌、特にスタフィロコッカス・サプロフィティカスというものが多く、キノロンに感受性であることが多いです。ですから、閉経前はキノロンを選択することが多いです。

ただし閉経後は、ESBL産生菌をはじめとしてキノロン耐性も入ってきますので、むしろセフェムをファーストラインに使うということです。

どちらかわからないですから最近は両方効きそうなクラブラン酸/アモキシシリンを第一選択にしているガイドラインもあります。

池脇

今の先生の最後の言葉は、最初から切り札を使うような感じですね。

清田

はい。ただ、クラブラン酸/アモキシシリンの場合、下痢をする人もいますし、私個人としてはあまり最初から使わず、その薬剤感受性の答えが出てから、セカンドラインで取っておくという感じです。

池脇

耐性菌が増えるけれども、使える薬も少しは増えてきて、その中で使っていって何とか治すということをおっしゃいましたが、同じ薬を使うのでも、再発しないように何か生活指導もあるかと思います。具体的にはどのような指導をされているのでしょう。

清田

水分をたくさん取ることですね。それで尿の量を増やして、我慢しないで排尿の回数を頻回にすることです。そうすると、細菌は膀胱から洗い流されますので、それで細菌が膀胱からいなくなってくれる可能性が高いです。特に排尿を3時間以上我慢すると、細菌が膀胱内で異常増殖します。ですから3時間以上は排尿を我慢しない。バス旅行などで水分を控えて我慢するのは一番危ないですね。そういうことを避けていただく。

それから閉経後の方には、外国、日本ともに寝る前にクランベリージュースを飲むとよいというデータがあります。大腸菌が膀胱にくっつきやすくなる、線毛の付着を予防するといわれています。欧米ではクランベリージュースを勧めていて日本ではなかなかスーパーで売っていないですが、通販で買うことはできます。

池脇

男性の場合は、例えばあまりアルコールを飲みすぎるなということも指導されますか。

清田

そうですね。やはり残尿が多いというのは、男女共通していますが、男性の場合は残尿をなくすような治療を最優先にします。前立腺肥大症で尿を出しにくかったら前立腺肥大症の薬、膀胱の機能が悪いようでしたら、膀胱の働きを高める薬をまず投与することが予防には必須です。

池脇

2年前、そして今回とまた新しい情報を提供していただきました。ありがとうございました。