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 「発熱feverの定義は“elevated core body temperature regulated by the thermoregulatory center in the hypothalamus”視床下部内の発熱中枢の制御によって体温が上昇すること」なのですが、日本ではその目安となる体温が「37.5℃以上」であるのに対し、米国や英国といった英語圏では「38℃以上」とされています。
 そして英語圏では体温が「37.3-38℃」の場合をlow grade feverと、そして「39℃以上」をhigh grade feverと呼んでいます。「発熱の定義がそもそも38℃以上なのに、それ以下の体温をlow grade feverと呼ぶのはおかしいのでは?」と思われる方も多いと思いますが、英語圏の方の感覚としては「発熱と言うほど高いわけではないが、通常よりも体温が高い状態をlow grade feverと呼ぶ」というものであると考えられます。ちなみに「38」は、英語では“thirty eight degrees Celsius”と読みます。数字が1以外の場合には、degreesのように単位も複数形になるので注意してください。
 皆さんご存じのように、米国ではCelsius摂氏」ではなく、Fahrenheit華氏」という単位が使われています。米国に行った際に、頭の中でこのFahrenheitをどうやってCelsiusに変換すればいいのか、苦労されている方も多いと思いますが、臨床の場面では簡単に変換することが可能です。まずは「100が37.8」と「104が40」という2つの目安を覚えてください。そしてこれらの周辺の温度では「1が0.5」に相当するということを覚えておけば、華氏を摂氏に簡単に変換できるようになります。例えば100から1高い101が摂氏何度になるのかを考えてみましょう。先ほど覚えていただいたように100℉は37.8℃です。そして101℉はこの37.8℃から1=0.5ほど高いので、摂氏としては37.8+0.5=38.3になるのです。このように覚えておけば体温付近の温度に関しては、ほぼ正確に変換できます。便利な法則ですのでこれを機会にぜひ覚えてみてください。また米国では100.4℉=38℃以上がfeverの定義になりますので、「100.4℉が38℃」という目安も覚えておくといいでしょう。ちなみに数字と単位の間には半角スペースが1つ入るのが一般的ですが、例外となる単位が2つあり、それが%と℃(℉)となります。
 患者さんに「熱がありますか?」と尋ねる場合、幾つかの英語表現があります。その中で最も一般的なのが“Do you have a fever?”というものです。このfeverには「発熱が出た体験」というニュアンスがあるので、feverは可算名詞となります。ですから“Do you have fevers?”のように複数形として使えば、それは「繰り返し熱が出ていますか?」「最近、何度も発熱を繰り返していますか?」「断続的に発熱を繰り返していますか?」のような意味となるのです。このほかにも“Are you running a fever?”と言えば「今まさに熱が出ていますか?」という意味になりますし、“Do you feel feverish?”と言えば「熱っぽく感じますか?」という意味になります。また日本人には意外と知られていないのですが、英国ではfeverのことをhigh temperatureとも表現します。ですから英国で「熱がありますか?」と尋ねる場合には、“Do you have a high temperature?”のようにも表現するのです。
 feverが生じる前には必ずchills悪寒(おかん)」が生じますが、これには「繰り返しながら全身に広がる」というイメージがあるため、chillsのように複数形として使われます。元々chillには「冷たい」や「冷たくさせる」というイメージがあります。ですから動詞として使われるchill outには、calm downやrelaxという意味があり、「先週末は家でゆっくりしたよ」と英語で表現したい場合、“I chilled out at home last weekend.”のようにchill outを使って表現するのです。またこのchillsに伴って身体が震えることを「悪寒戦慄」と言いますが、これを一般英語ではshaking chillsshiveringと表現します。この医学英語はrigors(「ゥリィガァズ」のように発音)となるのですが、このrigorには「硬直」や「厳格さ」というニュアンスもあるため、rigor mortisには「死後硬直」という、そしてrigorousには「厳しい・厳格な」という意味があるのです。
 「熱がある」という意味の形容詞はfebrileとなり、「熱がない」の形容詞はafebrileとなります。これらの発音は米国と英国では異なり、febrileは米国では「フェブルゥ」のようになりますが、英国では「フィブラィゥ」のような発音となります。これに伴ってafebrileも米国では「エィフェブルゥ」のように、そして英国では「エィフィブラィゥ」のような発音となります。このfebrileとafebrileは英語圏の医療現場ではよく使われ、febrile reaction「発熱反応」やfebrile seizures「熱性けいれん」のように名称の中で使われたり、医療者同士の会話でも“He was febrile on admission but became afebrile after acetaminophen.”のように使われます。
 pyrexiaはギリシャ語のpyr=fireを語源とするfeverを意味する医学英語です。このpyrexia自体は実際の医療現場ではあまり使われないのですが、pyr/pyrex-/-pyreticという語幹は、antipyretic解熱剤」やpyrogen発熱物質」など、様々な医学英語の語源になっています。
 英語圏のカルテではよく“Patient is F+T+, likely septic.”のような表現が使われますが、皆さんはこの意味がわかりますか? このF+というのは“fever present=febrile”という意味で、よくT+(これは“tachycardia present”「頻脈あり」という意味)と併記されます。ですから“Patient is F+T+, likely septic.”は、「患者は発熱・頻脈あり。敗血症が示唆される」のような意味になるのです。逆にF-という表現もあり、これは“no fever=afebrile”という意味になります。また“He denies F/C/S today.”という表現もよく使われますが、これはfever, chills, sweatsの略語です。必ずこの順番に使われますので注意してください。
 日本の医療者は「発熱」のことを「熱発」とも表現しますが、同じように英語圏にも医療者しか使わない表現として、T-spikeというものがあります。これはtemperature spike体温の急上昇=突然の発熱」という意味で、“She had a T-spike last night.”のように使われます。
 101℉=38.3℃以上の発熱が3週間以上続き、医療機関を受診してもその原因が不明の場合、そのfeverはfever of unknown origin(FUO)不明熱」と呼ばれます。そんなときにはfever-pattern diagnostic clues発熱のパターンから得られる診断の手がかり」が重要になるので、fever curve発熱曲線」を分析する必要があります。
 sustained fever稽留熱」は日内変38°以内であり、なおかつ℃1動がC以上の熱が1日中続くという発熱で、continuous feverとも呼ばれます。代表的な疾患にはtyphoid fever腸チフス」が挙げられます。
 intermittent fever間欠熱」は日以上あるものの、低いと℃1内変動がきには平熱まで体温が下がるという発熱です。高熱と平熱が交互に現れます。代表的な疾患にはmalariaマラリア」があります。
 remittent fever弛張熱」は日内変動が1℃以上ありますが、intermittent feverとは異なり、低いときでも平熱にはならない発熱です。このremittentはfluctuating上がったり下がったりする」というイメージの表現で、日本語では「弛んだり張りつめたりする」を意味する「弛張」という表現が使われています。代表的な疾患にはinfective endocarditis感染性心内膜炎」があります。
 relapsing fever再発熱」は数日間の発熱が続いた後に一度解熱し、しばらくして再び発熱が起こるというパターンの発熱です。発熱と解熱が周期的に繰り返されるのが特徴です。代表的な疾患にはrelapsing fever回帰熱(ボレリア感染症)」があります。
 undulant fever波状熱」は発熱が徐々に上昇し、また徐々に下がるという波のような経過をたどり、それが繰り返される発熱です。代表的な疾患にはbrucellosisブルセラ症」があります。
 もちろんFUOの診断には様々な検査が必要ですが、「原因を調べるための一式の検査」のことをworkupと呼びます。ですからfeverの原因を特定するためには“We started a fever workup including labs and imaging.”のようにfever workupが必要となるのです。
 最後にfeverに関する口語表現を幾つかご紹介しましょう。
 熱が上がっている際には“I was burning up.”や“I spiked a fever.”のほか、“My fever shot up.”のような表現が使われます。特にこのburning upは患者さんに対しても使うことができる表現であり、患者さんの身体に触れた後に“You’re burning up. Let’s check your temperature.”「熱っぽいね。体温を測りましょう」のように使うことができます。これに対してcookingという表現は医療者同士が軽口を叩く際に使う表現で、“He’s cooking, temp’s 40.2!”「めっちゃ熱出てるよ。40.2度もある!」のような意味になります。患者さんの前では使ってはいけない表現ですので、注意してくださいね。
 熱が下がる際には“My fever went down.”や“My temperature dropped.”のような直接的な表現のほか、“I cooled down.”のような表現も使われます。そして英語圏で「熱が下がった」という意味でよく使われるものの、日本人が使っている場面をあまり見たことがない表現として“My fever has broken.”というものがあります。これは「発熱が続いた後にようやく下がった」というニュアンスの表現で、“I was sick for three days, but my fever has finally broken.”のように使われます。とても自然な表現ですので、ぜひ皆さんも使ってみてくださいね。