ドクターサロン

池脇

熊谷先生、脳梗塞に対する急性期治療の血栓回収療法の合併症軽減方法について教えてください。まず血栓回収療法ですが、これはそれほど歴史のある治療ではなくて、比較的新しいけれども、従来治療に対して優位に成績が良く、今はもう標準的な治療とまでいわれるようです。デバイスも含めた現状から教えてください。

熊谷

急性期脳主幹動脈閉塞に対する再開通療法というのは、ご存じのように、最初は、t-PA(遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ)の静注療法が登場しました。ただ、再開通率はそれほど高くありませんでした。その後、機械的血栓回収療法が登場し、ここ数年で主流になってきています。

t-PAは、発症4.5時間以内であれば投与可能と、非常にタイムウインドウが狭いです。一方、血栓回収療法は発症6時間以内で施行可能です。今、適応も延びてきていまして、24時間以内ならばいろいろな条件を満たせば行ってもいいという感じになってきています。ですので、かなり積極的に血栓回収療法が行われています。

池脇

確かに、治療する側としては「早く来て」という気持ちがあるかもしれないけれども、患者さんの状況によっては、朝起きたら麻痺があって、いつ発症したのかわからない方もいらっしゃれば、発症してすぐに来られる方もいる。その中で4.5時間というと、あまりにもウインドウが狭い。血栓回収療法の時間的な幅がだいぶ広がってきたのは、それぐらいでも有効だというエビデンスがあるからですね。

熊谷

そうですね。海外のRCTがいろいろ出てきていまして、全例ができるわけではないですが、低灌流領域と虚血コア体積のミスマッチがあれば血栓回収療法の適応があるという感じです。

池脇

血栓回収療法がうまくいく一つのファクターとして、デバイスの良さがありますよね。デバイスは大きく2つあるのですか。

熊谷

そうですね。吸引カテーテルを用いる方法と、ステントリトリーバーというステントを用いるやり方があります。ほかにはコンバインドといいまして、吸引とステントを併用する方法があります。それぞれ再開通率は9割ぐらいありますが、再開通率9割というのはかなり高いです。

池脇

詰まっていたところが9割の確率で再開通する。しかも、両方のデバイスで同程度となると、どちらを選択するかという判断が難しそうですね。

熊谷

そうですね。術者の考え方、施設の考え方もいろいろあって、吸引だけを行う医師もいらっしゃいますし、必ずコンバインドで両方使うという施設もあります。どちらにせよかなり成績は良くなってきています。

池脇

素朴な疑問ですが、冠動脈、例えば心筋梗塞で閉塞したところに対して、循環器科の医師はプラークを硬いステントで押し広げます。ターゲットは血栓ではなくてプラークなのですが、脳血管の場合はどちらかと言うと血栓のファクターが大きいということなのですか。

熊谷

脳梗塞は大きく分けて3つの機序がありまして、先生が言われたようなプラークが原因のアテローム血栓性の脳梗塞と、日本人に多いラクナ梗塞、ほかに心原性脳塞栓症があります。基本的に血栓回収療法というのは、血栓が飛んだことによる脳梗塞、心原性脳塞栓症に対して適応があります。

池脇

それが一番重症化する脳梗塞、脳塞栓症だから、そこを9割ぐらいの方でスパッと取れるということになれば、患者さんの予後も含めて違いますね。

熊谷

そうですね。

池脇

ということで、いろいろなところに脳卒中センターがある日本では今は血栓回収療法が標準治療であることがわかりました。しかし、それだけルーティンに行われる治療だと、それに伴う合併症もケアしないといけない。どのような合併症が多いのでしょうか。

熊谷

先生が先ほどおっしゃったように、血栓回収療法は標準的な、やるべき治療になってきています。当然、成績もいいのですが、そうなると、やはりいかに合併症を減らすかが重要になります。血栓が詰まったところから先というのは、MRアンギオグラフィーやCTアンギオグラフィーでは見えませんが、手術では見えない血管にワイヤを通していく必要があります。そのため、穿通枝を破ってくも膜下出血を起こしたり、血管の乖離を起こしてくも膜下出血や再閉塞をきたす可能性があります。

また、先ほど先生が言われていたアテローム血栓性の動脈硬化がもともとあるところ、そこが詰まった病態ですと、乖離を起こしたり再閉塞をきたします。そういった合併症をいかに減らせるかが大事になってきます。

池脇

ブラインドでカテーテルを進めていくとなると、その先がどうなっているかわからないまま進めるわけですから、やはり術者としては心配ですよね。

熊谷

そうですね。かなりドキドキするところではあります。

池脇

そして運悪く、例えば未破裂脳動脈瘤があって、そこにカテーテルが突っ込んでしまってくも膜下出血になると、患者さんが一番不幸になってしまう。そこのところがわかったらいいなと思いながら手術を行っていた先生が、今、新しいアプローチを行っていると聞きましたが、それはどのようなものでしょうか。

熊谷

動脈瘤がある可能性が0.6~5%ぐらいあって、その中で血栓回収中に破れるリスクが0.数パーセントあるといわれています。ですから、見えない血管を術前にどうしたら見えるようになるのかというのを今回研究し論文にしました。

その方法というのは、まずは本当に見えるようになるのかどうかを、3.0テスラのMRIを用いて行いました。通常、MRアンギオグラフィーやCTアンギオグラフィーは血管の血流を捉えて可視化するのですが、私の行った方法はvessel wall imagingといいまして、血管を外から、要は土管の外、外壁がどうなっているのかを見ます。それによって、MRアンギオグラフィーやCTアンギオグラフィーでは見えないものがしっかりと見えます。さらに、動脈瘤があるかないかもしっかりわかるという方法になっています。

池脇

血流がないのなら、MRIでもMRアンギオグラフィーでもわからないだろうで終わってしまうところを、先生は、いや、そんなことないだろうということでvessel wall imagingを始めたと。要するに、血管壁とその周りとの違いが画像上、出てくるということですね。

熊谷

そうですね。もともと血管がない方ではなく、血管がある方が詰まっていることが多いので、その血管を外から見たら可視化できるのではないかというところに着眼しました。

池脇

使っているMRIは通常のMRIでいいのですよね。

熊谷

はい。今回行った研究は2つありまして、一つは、3.0テスラでVRFA機能を有しているもので、もう一つは、1.5テスラでVRFA機能がなくてもできることを証明しました。ですから、市中病院でよく使われている1.5テスラのMRIでもしっかりできると思います。

池脇

これは血栓で閉塞した箇所よりも向こう側というか、遠位側の血管の情報ですが、血栓の量がどのくらいか、詰まっている長さがどのくらいか、そういう情報も入ってくるのでしょうか。

熊谷

そこまですべてがわかるわけではないのですが、3.0テスラで行ったときは、血栓の位置が見える症例が数例ありました。

池脇

なぜ質問したかというと、血栓を回収するステントリトリーバーのサイズがあるとすれば、血栓量が多いときには少し大きめとか、そういう選択肢を決める情報になるかなと思ったのですが、それはこれからというところですか。

熊谷

まさにおっしゃるとおりで、血栓の位置と長さ、あと血管径がわかれば、最適な長さや大きさのステントリトリーバーを使うことができますので、今後もう少し工夫してやっていきたいと思っています。

池脇

あと、詰まっている先の血管の情報を得るための、今、先生が言われたMRIと、患者さんが運ばれてきて脳塞栓か、あるいはアテローム血栓性の脳梗塞か、その診断のための画像として、たぶんMRIを撮られると思います。これは一緒に行うのでしょうか、別々なのでしょうか。

熊谷

一連の流れでやっていけます。

池脇

何しろ脳血管障害を診ている先生は時間が命であって、いくら有効であっても時間がかかったらアウトだと。これは必ずしもまた改めてというわけではなくて、プラスアルファという考えでよいのですね。プラスアルファとは、具体的には何分くらいなのでしょう。

熊谷

だいたい3分30秒くらいです。4分以内には終わる検査になります。脳卒中、特に脳梗塞が疑われる方では、基本的にはMRIを撮っていきますので、MRIの中での追加で4分ぐらい見ていただければと思います。

今まで、私がやる前にも似た報告は数例ありました。2D T2強調画像で見えるとか、造影CTで血栓より遠位が見えるという報告はあったのですが、私の研究では、プロトン密度強調画像のほうがT2強調画像よりも、より見えないところがしっかり見えますという内容になっています。

池脇

先生は始められたばかりで、何百例やったら合併症がどうでしたというのはこれからだと思うのですが、実際にやっている先生としたら、それがあるとなしで、やるときの不安感は違いますか。

熊谷

まったく違いますね。

池脇

そうなると、先生一人ではなくて、全国的に広めたいところですが、特にデバイスが特殊というわけではなく、行えるのですね。

熊谷

はい、行えます。私の論文を読んでいただいて、そのパラメーターを放射線技師にお願いすれば撮れますので、ぜひ使っていただきたいなと思います。

池脇

ドクターサロン本誌にはその文献情報も併せて掲載し、先生方にぜひ見ていただきたいと思います。ありがとうございました。

文献
①KUMAGAI, Kosuke, et al. Three-dimensional vessel wall MRI to characterize thrombus prior to endovascular thrombectomy for large vessel occlusion stroke. Journal of Neuroimaging, 2022, 32.6: 1070-1074.
②KUMAGAI, Kosuke, et al. Three-dimensional vessel wall imaging with 1.5-T MRI to visualize invisible occluded cerebral artery. Acta Radiologica, 2023, 64.12: 3052-3055.