ドクターサロン

池脇

うつ病に対しての新しい治療ということですが、うつ病は100万人以上いるけっこう多い精神疾患なのですね。

小髙

はい。精神医学領域でも、非常に重要な疾患であると我々は言い続けています。うつ病に罹患すると、社会生活がかなり難しくなりますので、我々も日々考え、なるべく良くなるように治療を行っています。

池脇

私は産業医をやっていますが、メンタルの不調で休職して最終的に職場復帰できない原因として、うつ病はけっこう多いですよね。

小髙

私もそう思っています。

池脇

うつ病は社会に対する大きな損失となる病気であるといえますね。ただ、うつ病の新規治療薬も登場して、以前に比べて管理は良くなってきたのではとも思いますが、現状はどうでしょうか。

小髙

1950年代に三環系抗うつ薬が初めて出てきて、そこからうつ病の治療は劇的に進歩しましたが、やはり副作用が多く、なかなか難しい状況が続いていました。1990年代に入って、SSRIあるいはSNRIといった新しい抗うつ薬が登場し、さらに治療環境が良くなったような印象です。

どの順番で使うといいかなど、寛解率、良くなる割合はどのくらいかは、ちょうど15年前に大規模な研究が行われて、その結果さらに患者さんに低負担な治療が提供されているのですが、やはり、治療を開始した患者さんが最初の抗うつ薬に反応する割合がだいたい36%といわれております。2剤目に反応するのが30%、3剤目、4剤目となっていくにしたがって、10%とかなり低くなっていることがわかっています。

ですので、治療自体は副作用が少なく、いい治療になってきていると思いますが、寛解しない患者さんも多くいらっしゃるということから、非常に難しい病気であると考えています。

池脇

うつ病が、いい薬をもってしてもなかなか軽快しない病気なのであれば、新しい薬を何種類も飲んでいても、うまくいかない患者さんはけっこういるのですね。

そうした中で、新しい治療法として、反復経頭蓋磁気刺激療法がありますが、先生方はrTMSと呼ばれているのですか。

小髙

はい。rTMS、あるいはTMSと端的に呼んでいます。

池脇

TMSは磁気で頭を刺激するというイメージでいいですか。

小髙

はい、間違いありません。いわゆるコイルに電流を流すことで磁場の変化を起こして、それが渦電流というものをつくりますので、それをもって前頭皮質の左側を刺激する治療になります。

池脇

それを考えた方はすごいですね。

小髙

そうですね。なかなか思いつかない発想です。

池脇

頭の表面にそういうデバイスがあって、磁場を発生させるのですね。それがどういう過程で目標の脳に効くのか。どう考えたらいいのでしょうか。

小髙

うつ病の治療には、主に左側の前頭皮質という部分が重要であることは昔から知られていました。おそらくそれをヒントにして開発されたものではないかなと想像しますが、まず8の字コイルと呼ばれる少し大きめのデバイスがあり、それを左側の前頭皮質に設置して刺激を与えていくというものです。

それによってだいたい3週間目ぐらいから抑うつに対する効果が出始めて、最高で6週、全30回行うことで、症状を良くしていくという治療です。

池脇

表面の磁場が、うつ病で問題になっている脳の部分に働きかけて、微弱な電流が起こることで脳神経に何かの影響を与えることは確かなのですね。

小髙

はい。磁気によって、10Hzという、1秒間に10回の刺激を与えます。このぐらいの速度で与えていくと、興奮性の神経を活性化する効果があります。逆に、低頻度で刺激しますと、抑制する効果があるといわれていて、それを活用して治療しているものと想定されています。

池脇

治療のプロトコルは決まっていますか。

小髙

保険診療ではプロトコルがしっかり決まっていて、10Hzの左側の前頭皮質への刺激をだいたい4秒間行います。ですから40回の刺激を与えて、それから26秒間お休みする。それを1サイクルとして75回繰り返しますので、だいたい37.5分です。これぐらいの刺激ですから、ざっくり言って、1日に40分ぐらいの刺激を与えるというかたちになります。

池脇

これを週に何回ぐらいするのですか。

小髙

週5日です。

池脇

それが何週ぐらい続くのでしょうか。

小髙

だいたい3~6週間続けます。

池脇

患者さんの治療の反応によって、良ければ短いし、長ければ6週間行うことになりますね。これは入院での治療でしょうか。

小髙

私たちは、患者さんの負担が大きいので、入院の治療をご提供しています。

池脇

どこにコイルを置いて、どのくらいの強さの刺激にするかは、患者さんそれぞれで調整されるのですか。

小髙

はい、調整します。左側の前頭皮質に刺激を与える前に、どれくらいの刺激が有効かは、いわゆる運動野を刺激して確認します。運動野の刺激を行って、母指球筋と呼ばれる親指のところにパルスを打って、ピクッとするところをだいたい100%とし、その120%の刺激を前頭皮質に与えるというのが主なプロトコルになっています。

池脇

1回目でその場所や強さを決めて続けていくのですね。

小髙

おっしゃるとおりです。

池脇

その効果はどうでしょうか。

小髙

効果に関しては、私が経験するかぎりでは、非常に効果のある方は一定数いらっしゃいます。薬を使ってもなかなか良くならない方が、寛解して、復職される方も多く拝見しています。

池脇

おしなべて、半数ぐらいは効果があるのでしょうか。

小髙

そうですね。最近の研究ですと、うつ病患者さんのうち、だいたい50%が反応するという数字が出ています。寛解というと少し下がってしまうのですが、最近の研究では15%です。ただ、実感としてはもっと多いように私は思います。

池脇

侵襲的なものではないので、患者さんの副作用もなさそうな気がしますし、それで治療がうまくいけば、患者さんにとっては本当にありがたい治療法ですね。

小髙

私も大きなメリットがあると思っています。

池脇

ただ、40分のセッションでだいたい週5日、それが1カ月前後続くとなると、患者さんもたいへんかなと思いますが、より短いバージョンの治療法はありませんか。

小髙

確かに保険診療ですと、先ほど申し上げた1日で40分というプロトコル、それが3~6週間というのが標準的ですが、刺激の仕方を変えて、例えばシーターバースト刺激というものはもっと短い時間で行えます。あるいは、今、研究のレベルではありますが、1日の中で長い時間を使って、だいたい3日前後で治療が終了するという治療法も研究されています。徐々に時間という問題は解決していくのではないかと思っています。

池脇

患者さんの負担が軽減されて、効果が少なくとも同等であれば、本当にありがたいことです。ただ、この画期的な治療を、日本全国どこでも受けられる状況なのでしょうか。

小髙

徐々に使用できる施設は増えていますが、私たちの施設にも東京都の外からの患者さんが多くいらっしゃいます。まだまだ供給という点ではお応えできていない状況であるかもしれません。

池脇

実施の基準があって、それを満たせる医療施設はまだ多くないので、きちんと行ったうえで拡大していく。そういう動きのように感じましたが、いかがでしょう。

小髙

おっしゃるとおりです。

池脇

ますます広がっていくことを期待しております。ありがとうございました。