ドクターサロン

山内

いわゆる感覚過敏は、もともと体の表面や口腔内で、熱刺激や痛み刺激に対して出てくるというのが従来の考え方の多くでしたが、最近は概念も広がっているようです。精神科の立場から発達障害を取り上げ、理解の難しい訴えに関して掘り下げた内容を教えていただければと思います。

まず、この質問にもあるように、聴覚過敏というのは時々聞きますが、視覚過敏、あるいは嗅覚、味覚といった辺りに関して、一般的に先生方が扱われるケースにはどういったものがありますか。

太田

発達障害で感覚の過敏を伴うというのはよく知られています。その中で一番多いのは聴覚の過敏になりますが、そのほかにも、におい、視覚、光、味覚の過敏など、ありとあらゆる感覚の過敏さというのが発達障害では出てきやすいといわれています。

例えば光線過敏がある場合には、蛍光灯などチラチラするようなものが非常に苦痛に感じてサングラスをすることもありますし、味覚が過敏なせいで偏食が激しくなってしまって特定のものしか食べられないということもあります。なので、発達障害にはしばしば様々な感覚の過敏さが伴うことはよく知られています。

山内

こういった辺りは、言葉に表せるか、言葉として出てくるかということにも影響されるような印象がありますが、いかがですか。

太田

そうですね。発達障害の中でも特に自閉スペクトラム症、今はASDという略語でいわれることが多いですが、その方たちに感覚の過敏さはよく出てくるといわれています。ASDの特徴として、まず一つはコミュニケーションがすごく苦手で、自分の状態をうまく伝えられないということがあります。特に発達障害のお子さんの場合はなおさら、自分の感覚が過敏かどうかは主観的なものですので、ほかと比べることはあまりしないし、そもそも比べることがASDの人は苦手です。うまく表現できないので、自分が過敏であることを認識しづらく、なおかつ人に伝えづらいことも問題をこじらせてしまう要因の一つになります。

山内

痛いとか苦いなどというのはまだいいのですが、非常に漠然とした過敏といいますか。普通の人には理解しにくいような訴えが出てくることも多いのでしょうか。

太田

そうですね。一言で過敏と言っても、その中にはいろいろなパターンがあるので、それをどう表現するかもあると思います。

例えば発達障害では聴覚の過敏がよくあるという話を先ほどしましたが、それもいろいろなパターンがあります。花火の音など、大きな音がうるさいという人もいますし、ざわざわしている人の「ざわざわ音」が気になるという人もいます。パターンは人それぞれというか、かなり多岐にわたると考えていますし、そういうことはよく知られているところです。

山内

五感のいろいろなところが感覚過敏になる、オーバーラップする。これも一つの特徴として挙げてよいでしょうか。

太田

そうですね。もちろん五感の中で一つの感覚の過敏さしかないという人もいますが、ほかの感覚の過敏さも伴うのはごく一般的にあります。においにも過敏だし、光にも過敏だし、音にも過敏。一人に様々な感覚の過敏さが伴うことはあります。

山内

もし一つだけの感覚の場合にはそれぞれの、眼科なら眼科、耳鼻科なら耳鼻科で検査、診察を受けて、器質的疾患は除外されたうえで診ることになるのですね。

太田

そうですね。精神科的な感覚の過敏というかたちで考える前提としては、ほかの身体科でもって感覚の異常が特に同定されないというのが前提になってきます。検査した結果が必要になってきますから、当然、そういったスクリーニング検査を本人に促すようにしています。

山内

ただ、例えば、よく外来に「自分が臭い」とか、「あの人だけが臭い」と訴える方が来られますが、これは感覚過敏になるのでしょうか。

太田

一般的に「自分が臭い」と患者さんが訴えて、それが精神疾患の場合、よくある精神疾患としては対人恐怖になります。つまり、ある意味の妄想あるいは幻覚がその背景にあります。

自分が臭いと思う理由を聞くと、「なぜなら目の前にいる人が鼻を押さえているからだ」と表現をするのです。実際に臭くなくても、勝手にそう思ってしまう。それは妄想。あるいは、においがするとしても、ほかの人がまったくにおわないのは、敏感というよりも幻覚ということになります。

それは発達障害で見られる感覚過敏とは質的に少し違う、ほかの精神疾患に由来する幻覚なり妄想によって、「自分が臭い」と思うケースはあります。そこは区別して考えたほうがいいと思います。

山内

診断も少し違ってくるのですね。

太田

そうですね。もちろん発達障害に伴う場合、その精神神経が併存することもありますが、基本的には別物です。

山内

多少内容が違いますが、感覚過敏といいますと、例えば味とかにおいですと、スーパーテイスターがいます。ああいった方々はどうなるのか。要するに、病気として見る場合はそれが苦痛であることが前提になると考えてよいのでしょうか。

太田

そうですね。本人の苦痛、生活上の困りごとに結びつくところが必要になってくるでしょうか。なので、それがうまく生かせるのであれば、それでよしという話なのですが、例えば先ほど申し上げたようなスーパーテイスター、味覚が敏感というところが逆に偏食につながって摂食障害をもたらしてしまうというケースも、発達障害の方にはしばしば見られます。それは明らかに症状として考えるということだと思います。

山内

従来、知覚障害といいますと、歯がしみるみたいな感じで、強い痛みに対する反応といったものが主体に考えられてきましたが、今、先生方はもう少し広い立場から、主に脳の立場からと考えていいと思いますが、ここで一つのジャンルを築こうとされていると思います。先生は発達障害がご専門ですが、これらは成人の発達障害と呼べるのでしょうか。

太田

私の専門は成人の発達障害を対象としています。ただ、もちろん発達障害自体は小さい頃からあるのですが、その方々が大きくなってから診断されるケースがあって、そういった症例を私は主に診療しています。

山内

発達障害のベースになる一種の病態ですが、精神学的にはどう捉えられているのでしょうか。

太田

発達障害の原因は何かというところになると、基本的には脳の生まれながらの機能障害と捉えられています。一昔前は子育ての問題といわれていた時期がありました。母親の愛情不足とかですね。ただ、今は明確にそれは否定されていて、生まれながらの脳の機能の障害が発達障害の特性、コミュニケーション、こだわり、あるいは感覚の過敏さをもたらすといわれています。

山内

基本的には、先ほどおっしゃったコミュニケーション障害はかなり前面に出てくると考えてよいですか。

太田

発達障害の中にも幾つかサブカテゴリーがありまして、一番有名なのが自閉スペクトラム症(ASD)、あとはADHD(注意欠如・多動症)、学習障害などがありますが、コミュニケーションの障害をもたらす発達障害はASDになります。ASDの中核をなす特性として、コミュニケーションの障害があります。

山内

コミュニケーション障害と感覚過敏、これを結びつけるところはまだなかなかわかっていないと考えてよいですか。

太田

そうですね。わかっていないのですが、非常に興味深いところだと思います。先ほど、発達障害は生まれながらの脳の機能の障害という話をしました。感覚の過敏さというのも、おそらくは脳の何らかの問題によって引き起こされている。もしかしたらコミュニケーションと感覚に、共通する脳の病態がある可能性もあります。ただ、残念ながら、まだそこはわかっていないことから、これからの課題だろうと思います。

山内

質問の中に、頭痛が生じる人というのが出てきますが、やはり頭痛といったような少し違うパターンの訴えが出てくる場合もあると考えてよいですか。

太田

そうですね。もちろん片頭痛で光線の過敏などがあるとはよく知られているところなので、そういうものではないと否定された前提になってくると思いますが、先ほど申しましたとおり、発達障害でも、特にASDというのはコミュニケーションの障害によって自分の特徴をうまく表現できないということがあります。なので、感覚の過敏さをうまく自覚できなくて、うまく表現できなくて、頭痛などのような漠然とした訴えとして表現されるケースというのはしばしば、特にお子さんのケースに多くあります。

山内

ありがとうございました。