ドクターサロン

池田

松井先生、イチゴ状血管腫は今では乳児血管腫というのでしょうか。

松井

そうですね。ただ、保護者に対しては、イチゴ状血管腫というのが一般的です。皆さん、ネットで調べてもそのように出てくるので、ご家族の方たちにはイチゴ状血管腫とお話しします。

池田

そのイチゴ状血管腫に関して質問が来ているのですが、まずどのような疾患なのでしょうか。

松井

生下時にはないというのが普通の赤あざ、普通の血管腫とは絶対的に違うところです。生後1、2週くらいしたときにポチポチと小さい赤い斑点ができて、それがだんだんに広がったり、大きくなって盛り上がってきたりします。だいたい1歳~1歳半くらいまでが増殖期といわれて、そこから緩やかに、だいたいは5、6歳で自然消退します。あまり大きいものは8、9歳くらいまでかかることもありますが、そのくらいで自然消退するとされているタイプの血管腫です。

ただ、日本人だと100人に1人くらいはいらっしゃるので、比較的、外来ではよく見る疾患だと思います。

池田

できやすい体の部位というのはありますか。

松井

統計的には、頭、顔、首周りの頭頸部が6割といわれています。

池田

ということは、けっこう目につくのですね。

松井

そうですね。顔や頭の中にけっこう多いのですが、頭の中だと当然、赤ちゃんは泣くことが多いので、たくさん泣くと、そこに血流が集まってしまいます。そうすると膨隆して盛り上がりやすくなってしまい、なかなか治りが悪くなります。

池田

赤ちゃんなので、健診で見つかる、あるいは健診で相談されることが多いのでしょうか。

松井

そうですね。ほとんどが小児科の健診で相談されて、「一度、形成外科に相談してください」ということから、私たちのところに来ます。皮膚科か形成外科に来ていただくことが多いと思います。だいたい3カ月健診で相談されて、その後受診されることが多いと思います。

池田

教科書的には放っておくと自然に大きくなって、徐々に小さくなって、平らになってくると書いてあります。できた部位にもよるのでしょうが、何もしないで放置しておいていいのでしょうか。

松井

おっしゃるように、部位によると思います。体幹部の、あまり見えないところで小さいものであれば、もちろん経過を見ていただくのもいいと思いますが、顔であったり目につくところである場合には、すごく大きくなると、表面が凸凹して、まさにイチゴみたいになります。小さくなってしょぼしょぼとしぼんできたときに、皮膚の質感が周りの皮膚とはちょっと違う感じになります。特に顔の場合には、できればそれを残さないであげたいので、治療をするようにしています。

池田

ガイドラインも含めて、プロプラノロールという薬が出てきますね。

松井

ガイドラインでは、一番の推奨がプロプラノロールとなっていますが、これはもともとは循環器系の薬です。循環器の治療で使っていたところ、小さい子たちに使ったら、その子のイチゴ状血管腫がみるみる治ったことが何件か続いて、もしかしたらこれは、ということで、逆にその治療に使われるようになった薬です。循環器が正常なお子さんたちに使う場合には、副作用が出るかもしれないということから、最初の治療のときには入院をして、循環動態の経過をしっかり見ることが必須です。私たち臨床医としては、少しハードルが高い感じがします。

肛門部であったり、口にすごく近かったり、あと上眼瞼にできて、それが大きくなってくると、視野が取りにくいという実害が明らかに出る場合には、積極的にやっていますが、そうではない場合は、私たちは色素レーザーという、赤あざといわれる血管腫に使うレーザーで治療をしています。

池田

何カ月ぐらいで始めるのが理想ですか。

松井

とにかく大きくなる、盛り上がる前にレーザーを打ち始めるのが一番のポイントだと思っています。私たちはご紹介していただければ、3カ月くらいから積極的にレーザーをしています。出力さえきちんと調整すれば、3カ月でも危険なことはなくできるので、なるべく早く、大きくなったり盛り上がったりする前に治療を始めるほうが長引かないですし、プロプラノロールのように入院が必要な薬も使わないで済み、後遺症も残りにくいと思います。

池田

要するに大きくなる前に、平たくてもうでき始めたなというところからレーザーをして、大きくしなければ早く治るということなのですね。不幸にもだいぶ大きくなって、専門医を受診して、じゃあレーザーをやろうということになると、例えば3、4歳になるまでレーザーを続けることもあるのですか。

松井

そうですね。始めるのが遅くて、かつ広範囲に盛り上がってしまった隆起型の場合には、当然1回では済みません。レーザーは保険診療だと3カ月に1回しか照射できないので、その間は施設によって自費診療であったり、コストを取らないで行ったりと、いろいろなことがあると思いますが、月1回ぐらいはレーザーを打たせていただきたいです。

ただ、やっぱりレーザーはまったく痛くないわけではありません。血管腫の場合は、例えば麻酔のクリームが効きにくいので、なるべく短期間にして、早く終わらせる努力は必要だと思います。

池田

自我が発達して、あなたはこれが必要だからやりなさいと言って、納得できる年齢になればある程度はできるのですが、問題はその前の段階ですよね。

松井

そうですね。一番難しいのが2、3歳です。やはり説明してももちろんわからないですし、大人が主導して行うしかありません。2、3歳が本気で暴れたらなかなかのパワーがあるので、その場合は親御さんに暴れている状態やスタッフが押さえている状態を見てもらい、お子さんのストレスになるので、いったんちょっとお休みしましょうかなど、お話しさせていただきます。あまりひどい場合には、1歳半とか2歳ぐらいから1年ぐらいお休みすることもあります。

ただ、親御さんが「私が一緒に押さえます」と言って、ガシッと押さえて「やってください!」みたいなことも多々あるので、それはご家族と相談しながらということになります。

池田

なるべく症状が出始めた1歳未満くらいできちんと押さえて、安全を確保しながら行って、そのまま大きくならないで消えていくというのが理想なのですね。

松井

それが一番理想ですね。皆さんも何だろうと思って調べたり、情報があるので、昔に比べれば早くに来ていただけるようになったので、すごく大きいものは少なくなりました。

池田

次にウンナ母斑ということですが、これは今、どのような対処の仕方をされているのでしょうか。

松井

ウンナ母斑というのは、後頸部、うなじといわれる首の生え際から首にかけての血管腫のことで、髪の毛でほとんど隠れています。小さい頃はうなじが上のほうなので気になりますが、年齢とともにうなじの位置が下がるので、あまり気にならない場合が多いです。もともと産毛っぽいところに何度もレーザーを当てることのほうが毛根を傷める危険もあるので、親御さんたちには「だんだん気にならなくなるので、レーザーは打ちません」と言っています。

成長されて、ポニーテールをしたり、お着物で髪の毛を上げたときにどうしても気になるということであれば、いつでもおいでくださいとお話ししていますが、ほとんどどなたも戻ってはこないので、たぶん皆さん、そんなに気にならないで生活されているのではないかと思います。

池田

成長して、色素レーザーをやっても効果はあまり変わらないのですか。

松井

いえ、絶対的に子どものときのほうが効果はいいです。血管腫に関しては、とにかく早いほうがよいです。普通の赤あざも、大人になってからはなかなかたいへんなので、皮膚が薄い子どものときのほうが絶対にいいですね。

池田

なるほど、そういうことなのですね。サーモンパッチはいかがされているのですか。

松井

基本的にサーモンパッチは、正中部母斑といわれるものです。顔の正中のところ、おでこと鼻翼のところと上口唇、あと上眼瞼のまぶたの内側にもよくできますが、おでこ以外のものはほとんど自然に消えますので、経過観察としています。ただ、前額部、おでこのところの正中にある三角形で濃いタイプは残ってしまうことがあるので、それは親御さんたちと相談させていただいて、すぐにはレーザーを打たずに、「これはほとんど薄くなりますから、ちょっと経過を見ましょう」と伝えています。

ただ、残ってしまうと、小学校に行く子たちが「前髪を絶対上げたくない」と言ってすごく気にしたり、プールに入りたくないと言ったり、いろいろなことを気にしてきます。基本的には、もし気になるようだったら小学校に入る前に、きちんと治しましょうとお話ししています。年中さんくらいの頃に「まだ目立つなということがあったら、必ずもう1回見せに来てくださいね」と保護者にはご案内しています。

池田

3、4歳で自我ができた頃ということですかね。

松井

そうですね。もちろん照射の際は嫌がったり、泣いたりしますが、自分で鏡で見える分に関しては気になるので、「これ、頑張って取ろうね」と言うと、女の子たちはわりと頑張りますね。イチゴ状血管腫も含めて、血管腫自体が女児に多いですから、女の子は自分の顔にできているものに関してだったら頑張れると思います。

池田

なるほど。血管腫には多様性があって、なかなか教科書的な考え方、あるいはガイドラインの考え方とは実臨床が少し離れていることもあるのですね。

松井

そうですね。プロプラノロールのように薬剤の場合は、投与量と結果でデータが取りやすいですが、レーザーの結果には術者の技量が大きく関係します。それぞれの施設でレーザーの種類も違いますし、出力の調整も術者によって変わります。小児では出力も弱めに調整する必要があります。大人と同じ出力でやってしまうと、頭部だったら脱毛してしまったり、潰瘍になってしまったりします。だから、レーザーはやってはだめだという医師の意見のほうが、まだやはり多いです。学会でそういう発表が出ると、レーザーは危ないものだからやらないほうがいいという意見に流れることはあると思うのですが、慣れていれば危険なくできるものなので、ぜひご紹介いただければと思います。

池田

ありがとうございました。