池脇
器質化肺炎は、どのような病気でしょうか。
山内
一般的には咳や発熱などの症状があって、浸潤影を呈することが多いです。そういった場合には市中肺炎、細菌性肺炎を疑って抗生剤等で治療していただくことが多いと思います。細菌性肺炎はコモンディジーズですので、そういった場面は非常に多いと思います。
一方で、ご質問いただいた器質化肺炎ですが、肺組織への何かしらのトリガーにより、その後に生じる肺組織の修復過程へと移行する一連のパターンを示す病態です。基本的には肺の構造破壊を伴わないのですが、肺胞腔内に器質化物が充満するため画像上は浸潤影のように見えます。そのため、細菌性肺炎と鑑別が難しい場合があります。器質化肺炎は組織に構造破壊を残さず修復していくことが一般的です。
池脇
器質化ということで、病理所見を病名にした印象ですが、器質化という特殊な病理像と考えてよいですか。
山内
そうですね。病理形態学的に名付けられた用語です。原因がよくわからないけれども器質化肺炎を呈する疾患を特発性器質化肺炎、Cryptogenic organizing pneumonia(COP)といい、特発性間質性肺炎に分類されます。
池脇
器質化肺炎は細菌性とは違う、間質性肺炎の一つという捉え方なのですね。
山内
一方で、質問にも関係することだと思うのですが、例えば感染症などの何らかのトリガーにより、その後に起きる器質化肺炎は、二次性の器質化肺炎、続発性の器質化肺炎になるのですね。
二次性の器質化肺炎の原因には薬剤や膠原病などいろいろありますが、そういった二次性の器質化肺炎も日常臨床において「器質化肺炎」と呼んでいたりします。ここで重要なことは、器質化肺炎をみたときに特発性器質化肺炎(COP)なのか、二次性の器質化肺炎なのかを考えることです。
池脇
この症例のように、最初に診た医師が肺炎と判断して抗生剤を投与したが、反応が悪いので専門医に紹介した結果、器質化肺炎と診断された。こういう流れはけっこう多いのでしょうか。
山内
ものすごく多いと思います。
池脇
診断のプロセスはどうでしょうか。
山内
我々呼吸器内科医がこういった状況でご相談いただいたときには、まずは感染症の可能性を考えます。
事前に抗生剤等で治療していただいていたケースでは、抗生剤の種類や投与方法が適切であったかを検討させていただきます。多くの場合は内服で抗生剤が投与されていますので、その場合は入院していただき広域抗生剤を投与して治療反応をみます。
池脇
細菌性肺炎の可能性についてよりブロードな抗生剤を使って再検討することは必要なのですね。
山内
はい。
池脇
この疾患は特徴的なCTの所見があるということですが、どういう所見でしょうか。
山内
浸潤影が多いですが、浸潤影の中に正常の肺組織が抜けて見えるようないわゆるreversed halo signや、浸潤影が移動しているかのように見える経過が有名かもしれません。ただし、reversed halo signや移動する影というのはそこまで頻度は多くないという報告もあります。また、浸潤影以外にもすりガラス影や気管支に沿うような陰影など様々な画像所見を呈することがあります。
池脇
そうすると、肺生検で、器質化という病理所見をチェックするという流れでしょうか。
山内
そうですね。気管支内視鏡で肺組織を採取し、器質化を確認することもありますが、侵襲的な処置ですのですべての症例に実施するわけではありません。
気管支内視鏡を実施する場合、器質化肺炎のように見えるほかの見逃してはいけない疾患を除外する意味合いのほうが、我々呼吸器内科医としては大きいです。
例えば浸潤性粘液性腺がんや悪性リンパ腫などの悪性疾患や、好酸球性肺炎などの良性疾患も鑑別するために気管支内視鏡を行います。
池脇
肺生検で、器質化肺炎の特発性と二次性を鑑別できるのでしょうか。
山内
実はその鑑別は困難です。特に鉗子による肺生検では非常に小さな領域しか採れません。器質化が確認できても病態の全体像はわからないことも多いです。
ただ最近は、クライオバイオプシーという方法でより大きな組織を気管支内視鏡検査で採取することもできます。そうすることでより多くの病理情報が得られて、器質化肺炎+α、背景にある病態がつかみやすくはなってきました。
池脇
治療は専門医にお願いすべきかと質問にあります。おそらく専門医による治療と思いますが、どのような治療でしょうか。
山内
一般的にはステロイドが中心になります。ステロイドへの反応性は比較的良いことが多く、0.5~1㎎/㎏程度のプレドニゾロンから投与し、治療反応をみながら漸減していくことになります。
池脇
反応性が良くて、徐々に漸減という流れですが、再燃はどうでしょうか。
山内
反応はいいのですが、一つの目安として20㎎/㎏/日よりも高用量投与中に再燃した場合は、器質化肺炎以外の疾患をもう一度考えたいところです。
例えば悪性リンパ腫など、器質化肺炎以外の何かを疑わなければいけないと思います。
また、ステロイドを順調に減量できていても、10㎎よりも低用量になり、最終的にゼロにまでできることもあるのですが、そのあたりで再燃することもあります。特発性器質化肺炎や二次性の器質化肺炎でもそのトリガーがコントロールできていない場合では、ステロイド減量中に再燃することが多くみられます。そういった場合はやはり原因が何なのか、きちんとコントロールできているのかを繰り返し吟味する必要もあります。
池脇
一般の医師が肺炎と判断して抗生剤を投与したけれども、反応が良くない場合には器質化肺炎を考えて呼吸器内科医に紹介するというメッセージをいただきました。ありがとうございました。