山内
ファンコーニ症候群についてご教示くださいということです。一般医家の場合、医師国家試験のときには勉強したけれど、その後しばらくあまりお目にかかっておらず、今回、紅麹問題でいきなり昔の思い出が出てきたという感じの病気ですが、専門医は時々目にする病気なのでしょうか。
蘇原
ファンコーニ症候群は、頻度はそれほど高くないですが、腎臓内科の外来では特に薬剤との絡みや一部の間質尿細管障害を起こすような腎臓の病気との絡みで、診ることがあります。
山内
今回は、成人を前提に小児の知見も少し交えてお話をお願いしたいのですが、成人ないし後天性なものでは、今お話に出た薬剤性が主なものと考えてよいでしょうか。
蘇原
はっきりとした統計があるわけではないですが、実際に我々が患者さんを診るときに、薬が原因となるファンコーニ症候群は、頻度としてはとても高いと思います。
山内
具体的にはどういった薬が多いのでしょうか。
蘇原
有名なところではシスプラチンのような抗腫瘍薬、抗けいれん薬ではバルプロ酸、あとは具体的にどの物質とは同定できませんが、漢方薬、サプリメントなどを飲んでいる患者さんで見られることがあると考えています。
山内
そういった薬の中でも、ごく一部の方に限られるのですか。
蘇原
こういった薬を使ったからといって決して皆さんがファンコーニ症候群になるわけではないのですが、確かに一部の患者さんでこういった症状があるので、その薬の副作用としてファンコーニ症候群が起きるかどうかを把握することはとても大事かと思います。
山内
あと重金属や農薬が原因とされたことも、昔あったような気がします。昨今はあまりないかもしれませんが、まだあるのでしょうか。
蘇原
カドミウムなどは昔、有名でしたが、最近見ることはあまりありません。
山内
一般医家がこういったものにどう気づくかを少しお話ししていただきたいのですが、紅麹問題でもよく見つけたなという印象があります。どの辺りから気づかれたのでしょうか。
蘇原
検査の観点からは、ファンコーニ症候群に見られるような低カリウム血症です。また今回の紅麹のケースでいえば腎機能障害を伴っています。腎機能障害を伴うような尿細管の壊死や間質性腎炎を伴っている場合があるので、血清のクレアチニンの上昇などがみられます。
通常はクレアチニンが上がるような腎不全の場合は、カリウムは高カリウム血症のほうに誘導されるはずなのに、なぜかカリウムが低い。腎臓内科の場合はリンを測ったりすると低い。そして尿酸が妙に低い。この辺りが我々が気づきやすいポイントだと思います。
山内
通常の腎障害の電解質パターンと少し違うなという辺りですね。
蘇原
おっしゃるとおりです。そこに違和感を覚えたときに、薬剤歴を確認してそこから漢方薬やサプリメントなどを深掘りしていくのですが、昨今我々は現在話題に上がっているようなサプリメントに関して、ダイレクトに聞くこともしています。
山内
ファンコーニ症候群は尿細管障害で、通常は腎障害を伴わないと考えてよいでしょうか。
蘇原
成人の場合は、腎機能障害を伴うことが多いと思います。小児の場合は、例えば近位尿細管で様々な物質、電解質、ブドウ糖、アミノ酸などを再吸収する輸送体の先天的な異常によって起きたりすることが多く、この場合は腎機能障害を伴わない場合もあります。
成人の場合は、最初に申し上げたとおり、ファンコーニ症候群としての統計があるわけではないですが、実際に臨床でみている医師の肌感としては、腎機能障害を起こすような尿細管壊死や間質性腎炎を起こすような病気に伴って起きます。成人で見るのは、ファンコーニ症候群単独に加えて腎機能障害を伴っている症例がほとんどかなと感じています。
山内
そういった意味で、診断のきっかけとしては入りやすかったということはいえるのですね。
蘇原
そうですね。
山内
本によりますと、小児のほうはアミノ酸とかリンが下がってくるなどですが、この辺りの検査はルーティンではなかなかないので、引っかかりにくいということです。一方で、例えばカリウムの低下ですが、かなりクリティカルなレベル、生命予後に差し障りが出てくるまで下がるものでしょうか。
蘇原
もちろん原因によりますが、先ほどお話ししたとおり、実際に成人は腎不全を伴っていることが多く、腎不全の場合はむしろ高カリウム血症になる病気です。
高カリウム血症になる腎不全と低カリウム血症になるファンコーニ症候群が同時に存在することによって、おっしゃるような生命にかかわるような、心臓にもトラブルが起きるような低カリウム血症、脱力が起きてしまうような低カリウム血症にまで至る患者さんは、比較的少ないと思います。
山内
ただ、ないわけでもないということですね。
蘇原
逆にそういったかたちで低カリウム血症が前面に出れば、診断は比較的たどり着きやすいのかなとも思います。
山内
予後ですが、一般的に薬剤性の場合は薬をやめたらある程度落ち着くものでしょうか。
蘇原
原因となる薬剤を中止することが最も重要です。ファンコーニ症候群を起こす尿細管の障害として、先ほど話した腎機能障害を伴うので腎生検をすることが多いです。
だいたい原因が大きく2つに分かれていて、一つは尿細管壊死、もう一つは間質性腎炎です。尿細管壊死の場合は、薬をやめて見守るしかなく、ひどい低カリウム血症だったり、低リン血症だったりを補充するなどの対症療法しかないのですが、間質性腎炎の場合は、ステロイドなどの免疫抑制治療が効くことがわかっているので、そういった治療に移行していくことになります。
長期的な予後に関していうと、できるだけ早く薬をやめて早く治療するというところに依存すると思います。
山内
早期発見は非常に大事ということですね。
蘇原
おっしゃるとおりで、どうやって早く見つけてあげるかがとても重要になると思います。
山内
早期発見にも絡みますが、今回の紅麹問題に関して、来られた患者さんの症状はいかがだったのでしょうか。
蘇原
一般的に腎不全を伴わないファンコーニ症候群の場合は、症状が出にくいことが知られています。長期にそれを放置されたときに、低リン血症などに伴って骨の問題が出てくる場合がありますが、今回のエピソードでは、腎機能障害が伴っているというところで、そちらの症状がちょっと強めに出ているように思います。
今回の紅麹に関する日本腎臓学会のアンケートレベルでの調査ですが、統計的には、倦怠感や食思不振という症状が50%弱。そうしたものが原因で、または偶然腎機能障害が見つかったので調べてみたらわかったというのが60%弱で、そういったパターンで見つかる患者さんが比較的多いと考えられています。
山内
倦怠感や食思不振も、低カリウムよりはむしろ腎臓障害のほうで来たという感じでしょうか。
蘇原
断言はできないですが、自験例でいえば、かなり腎機能障害が進行している症例を我々の大学でも2例経験しております。カリウムの異常はなかったので、おそらく腎不全に伴う症状だったと思います。
山内
一部の報道で、病態、病気の状態が遷延化する、あるいは再燃するのではないかといったものもありましたが、いかがでしょうか。
蘇原
これも先ほどの日本腎臓学会のアンケートレベルのお話ですが、再燃するというのは、おそらく個々のケースでそういったものがあっての報道だと思いますが、明確なアンケートやエビデンスの結果では、そこのところはまだ十分にわかっていないと思います。
ほかの薬剤に伴うファンコーニ症候群、腎機能障害と比べて、確かに、治療をしてもクレアチニンの数値が高いまま残ってしまう症例が比較的多いのではないかと現時点では議論されていますが、最近わかってきた病態ですので、もう少し長期に見守ることも必要です。
山内
どうもありがとうございました。