ドクターサロン

池脇

腎臓関係の質問です。「血中クレアチニンと尿中アルブミンの関係についてご教示ください」ということですがどうでしょう。

阿部

通常、慢性腎臓病(CKD)は、最初に尿の異常が出現することが多いです。尿中にアルブミンや、タンパクが漏れ出てきます。そのアルブミン尿、タンパク尿の期間が長く持続すると、次にGFRが低下します。つまり、血中のクレアチニンが上がっていきます。このように尿異常が出現してから徐々に腎機能が低下していくのが一般的なCKD患者さんに多いパターンです。

特に糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎の場合は、最初にアルブミン尿、タンパク尿が出て、しばらくするとクレアチニンが上がっていく、つまりGFRが下がっていくというパターンをたどるケースが多いです。

一方で、高血圧や動脈硬化が原因の腎硬化症の場合は、初期の頃はアルブミン尿、タンパク尿はあまり出ません。全体的に腎臓が虚血状態にさらされるので、最初にGFRが低下する、あるいは血中クレアチニンが上がっていき、GFRがかなり低下してくると、アルブミン尿、タンパク尿が徐々に増えていくことが多いです。そのため、原疾患によって、どちらが先行するかは異なります。

池脇

同じ腎障害でも、原因によってアルブミン尿の出現が早い、あるいはクレアチニン上昇のほうが早い、といろいろあるのですね。

基本的な質問ですが、尿にタンパクが出てくる。中でも、アルブミンに言及する意味は何なのでしょうか。

阿部

実は国外ではアルブミン尿が測定されています。日本の保険診療では、アルブミン尿の測定は糖尿病の一部に限られているため、非糖尿病では尿の総タンパクを測定しています。CKDの早期では尿中アルブミンのほうが感度は高く、心血管系疾患の危険因子として有用であるため、国外では尿中のアルブミンが主に測定されています。

ただ日本では、費用が高いということもあり、現時点では糖尿病という診断名がないと、アルブミン尿の測定は認められていない状況です。

池脇

糖尿病の場合は、腎機能は正常だけれども、微量のアルブミン尿が出ていることもあるのですね。

阿部

そうですね。そのため現在では、糖尿病性腎症やCKD患者さんの多くは、尿異常の段階で発見されているのではなく、クレアチニンの上昇あるいはGFRの低下で初めて腎臓病と診断されています。さらに尿検査が普及し、早期にアルブミン尿や尿タンパク陽性の時点で発見することができれば、患者さんの腎機能の予後がさらに改善できると考えます。

池脇

アルブミンが漏れるということですが、糸球体は三層構造で、内皮細胞、糸球体の基底膜、そしてポドサイト(上皮細胞)ですね。こうしたバリアがあるにもかかわらず、アルブミンが漏れてくるというのは、糖尿病でそういった細胞障害性に働くと理解したらいいのでしょうか。

阿部

そうですね。高血糖自体が血管障害を引き起こします。糸球体も毛細血管の集合体ですので、糸球体の血管が障害、いわゆるバリアが障害されることで、アルブミンやタンパクが糸球体係蹄壁を通過してしまう。それがアルブミン尿やタンパク尿として検出されます。

池脇

日本人の13.7%に微量アルブミン尿が陽性だったというデータがありました。そんなに多いものなのでしょうか。

阿部

やはり多いと思います。もっと全国的に尿検査を行ったら、実はその割合はもっと多いのではないかと考えます。

池脇

陽性率の高い検査なのに、糖尿病以外の方は測れないという現状は、何とかならないかという気もします。

阿部

本来であれば、高血圧の患者さんでもアルブミン尿を測定して、早期発見に努めたいのですが、現時点では保険診療で認められていないので、尿タンパク/クレアチニン比でも十分代用は可能です。尿のタンパク定量と尿のクレアチニン濃度を測定していただく。その比を計算するだけで、だいたい1日どれぐらいのタンパク尿が出ているか推定できますので、ぜひご活用いただきたいと思います。

池脇

腎臓に関しては、尿で調べることをあまりしていなかったので、これはぜひということですね。

質問の後半ですが、CKDの進行に伴って腎機能の低下、すなわちeGFRの低下と、尿中アルブミンの増加が同時に起こるのはなぜでしょうか。

阿部

糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎の場合は、最初に尿タンパクが出現し、その量が増えていくと、そのタンパク自体が尿細管を障害することが知られています。尿細管障害が進行することで糸球体が硬化してしまう。硬化する過程で糸球体係蹄壁がかなり障害を受け、さらに漏れるアルブミン、タンパクが増えてしまいますので、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎の場合、GFRの低下とともに、アルブミン尿、タンパク尿も増えることがよくあります。

一方、腎硬化症の場合は徐々にGFRが下がってきます。我々人間の体には糸球体の数が約200万個あるのですが、その数が徐々に減っていきます。そうすると、正常に残っている糸球体は何とかGFRを維持すべく、糸球体血流を増加させなければなりません。そのため、糸球体過剰濾過が起こってしまいます。糸球体の血圧(糸球体内圧)が上昇することで漏れるタンパクも増加しますので、残存糸球体の数が減少している場合はGFRも低下しますし、漏れるアルブミン、タンパクも増えてしまうことで、それが同時に進行していくことがよくあります。

池脇

原因疾患によって進行の仕方が違うけれども、おおまかにいうと同時進行ということになるのですね。

阿部

そうですね。

池脇

最近CKDに対しての進行抑制の新しい薬も出てきました。これはけっこう使われているのでしょうか。

阿部

そうですね。これまではRAS阻害薬であるARBかACE阻害薬しか腎保護効果のある薬剤はありませんでしたが、最近ではSGLT2阻害薬の腎保護効果が非常に大きいことがわかり、現在ではRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の2剤を併用されている方が多いです。

腎保護効果のある薬剤というのは、いずれもアルブミン尿、タンパク尿を減少させ、それによりGFRが長持ちできるところが共通しています。さらに、現在では、糖尿病を合併しているCKD患者さんに対しては、MR拮抗薬の中でもフィネレノンという薬剤がアルブミン尿、タンパク尿を減少させ、GFRを保持できるという効果が証明されています。そういった2剤ないしは3剤を併用して治療を受けている方も増えています。

池脇

SGLT2阻害薬が登場して、オプションが増えましたが、腎機能はそれほど障害されていないけれども、アルブミン尿あるいはタンパク尿が出る場合、比較的早期で使ってもいい、あるいは、そういうところでこそ効果があると考えてもいいのでしょうか。

阿部

まずRAS阻害薬は、微量アルブミン尿の時点でしっかり使っていただくことで効果が期待できます。SGLT2阻害薬は、微量アルブミン尿だけではなくて、顕性アルブミン尿の方に対してもかなりアルブミン尿を減少させて、GFRを保持できる効果が期待できます。そのため、できればGFRが低下する前のアルブミン尿やタンパク尿が陽性の段階、つまり早期から使用していただくことで、より腎保護効果が長期的に期待できると思います。

池脇

最近、「eGFR60mL/分/1.73㎡未満の場合はお医者さんに相談しましょう」というポスターを見ます。このポスターの目的、意義は何でしょうか。

阿部

一般市民の方は、高血圧、糖尿病、この2つの病名は皆さんよく知っています。ですが、慢性腎臓病(CKD)という病名をほとんどの一般市民の方は認知していません。

今は高血圧と糖尿病が原因でCKDになる方が多いので、やはり血圧管理、血糖管理、その先にある腎機能もしっかり注意してくださいということから、啓発活動の一環として、あのようなポスター、コマーシャルなどを行っています。

eGFRの計算式には年齢が含まれていますので、高齢者の場合、eGFRはやはり低めに出てしまいます。ただ、注意が必要なのは、年々GFRが低下しているような方は将来、透析になるリスクが高いということです。

高齢の方で、eGFRが50mL/分/1.73㎡台で、3年も4年も変わっていなければ、透析になるリスクはそれほど高くはありません。重要なのは経過を見ていただいて、進行しているのか、フラットな状態に維持できているのか。この辺りでハイリスクかどうかを鑑別していただければと思います。

池脇

患者さんの啓発が第一で、その疑問に対して医師も寄り添ってくださいということですね。ありがとうございました。