池脇
蛋白漏出性胃腸症についての質問です。蛋白漏出性ということで胃腸から蛋白が漏れる病気であることはわかりやすいのですが、胃腸疾患から全身疾患まで、様々な病気があるのですね。
土屋
まず蛋白漏出性胃腸症の患者さんは、低蛋白血症や低アルブミン血症というかたちで、低栄養でむくみなどが多く出ていらっしゃることが多いです。
低蛋白血症の場合は、一つは単純に食べないという摂食不良です。もう一つは食べたけれども吸収できない吸収不良です。それから肝臓が悪いことによる蛋白の合成阻害、それらを除外したときに、体から蛋白が漏れ出ているという可能性を考えます。
ネフローゼ症候群のように、蛋白尿としてお小水から出るパターンと、今回のように腸管から漏れ出るパターンの2つが大きくあり、腸管から蛋白が漏れている症候群ということで蛋白漏出性という名前がついています。
池脇
最終的に医師によって診断が確定するまで、患者さんの困り事が、例えばむくみですと、消化器内科ではない診療科で診ていることも多いような気がします。
土屋
そうですね。まずは低蛋白、低栄養ということでむくみが体の表面に出ていると思いますので、患者さんやご家族の方が気づきやすいと思いますね。
そこからもう一つの特徴として下痢症状がありますので、最初の問診の時点で排便異常をうかがっていただけると、単純に低栄養だけではなくて蛋白が腸から出ているのではと推測できると思います。
池脇
何らかの消化器症状があって、採血をして蛋白、アルブミンが低い、そしてむくんでいるとなったときに、鑑別疾患の中に蛋白漏出性胃腸症があるかどうかでしょうか。
土屋
経過が少し長めになっていて、患者さんも自宅で過ごされる中でなかなか解決できず、かなり症状が強くなってからいらっしゃるケースが多いと思います。低蛋白で下痢の方のときには、まずこの疾患を思い浮かべるというのがひとつの手かと思います。
池脇
私は一般内科で、比較的高齢の方を診ていますが、若い世代でも起こりうるのですか。
土屋
大きく分けて原発性と続発性に分かれています。原発性というのは、腸リンパ管拡張症という原因不明の疾患なのですが、こちらは非常にまれなので、ほぼ出合うことはないかと思っています。
一方、続発性は様々な腸の疾患から低蛋白血症、それから蛋白漏出性胃腸症をきたす場合があります。主に炎症や腫瘍、感染症、薬剤性がありますので、原因によっては、例えば炎症性腸疾患など比較的若い方に多い場合もありますし、腫瘍のように高齢の方の疾患に合わせて出てくる場合もあります。
池脇
炎症性腸疾患、いわゆるクローン病や潰瘍性大腸炎の初発症状の一つとして出てくるのですね。
土屋
炎症に関しては、炎症性腸疾患や好酸球性胃腸症などの慢性の炎症のときに、上皮、粘膜の障害によって蛋白が大量に漏出します。
池脇
質問の胃腸から蛋白が漏れる原因は腸リンパ管拡張症というリンパ系の異常やクローン病での腸管粘膜の異常などに病気分類していいのでしょうか。
土屋
大きく分けて、上皮の粘膜の障害が一つと、もう一つはリンパ管の拡張やリンパ管圧が上がることによって漏れ出てくるものがあります。そちらの続発性として有名なものとしては、フォンタン手術といって、心臓の心室を一つにしてしまう手術があります。それは下大静脈から直接、肺動脈につなぐ手術のために、心室に帰らないので、静脈の圧が上がってしまうため、最終的にリンパ管の内圧が上がって蛋白漏出をきたすからです。一つ覚えていただけるといいかなと思います。
池脇
心臓手術でもこういうことが起こりうるというのは、覚えていたほうがいいですね。
土屋
そうですね。
池脇
最初は他科の医師が診て、この病気を疑って、その後、先生方専門医が引き継いで診断に至るという流れですね。
土屋
我々専門病院にいらしていただいたときに、順番としてまずは下部消化管内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査で、粘膜の障害の有無を確認しています。
その中である程度の疾患がわかったうえで、この患者さんは本当に蛋白漏出をきたしているのかどうかとなりますと、α 1-アンチトリプシン(α1-AT)のクリアランスやシンチグラム等で蛋白の漏出を確認する検査を行います。これはけっこう特殊な検査で、低蛋白血症や下痢の症状が強い方に、最後の検査として確定診断のために行うケースが多いと思います。
池脇
診断は専門医がきちんと行っていくという印象を受けました。α1-ATクリアランスは、胃酸の状況によってデータが動くので、胃酸抑制薬を内服することもあるのですね。
土屋
少ないけれども、そういった対処をしながら検査をする場合もあります。
池脇
胃カメラや大腸内視鏡でクローン病や潰瘍性大腸炎の粘膜障害があれば、診断に近づくわけですね。
土屋
そうですね。診断に近づくとともに、治療方針も固まってくるのが一つの利点かなと思っています。
池脇
頻度がわかりませんが、胃の粘膜が巨大化するメネトリエ病がありますね。
土屋
粘膜ひだが巨大化して、蛋白が漏れ出てくるという疾患です。
池脇
画像とクリアランスなどから診断してその後の治療ですが、原疾患を治療できるというケースもあるのですか。
土屋
まれですが原疾患が広範な直腸腫瘍などであれば、その腫瘍から蛋白が漏れ出ているケースもあるので、内視鏡の治療や外科手術等で腫瘍を取り除くことによって蛋白漏出が止まります。炎症性腸疾患であれば、かなり多くの治療薬が出ていますので、免疫抑制薬を中心とした炎症を抑える治療を行うことによって、蛋白漏出も同時に止まります。
あと、クロンカイト・カナダ症候群も蛋白を漏出しますが、こういったものはステロイド薬を使うことによってある程度寛解を維持できれば蛋白漏出も止まるので、根本的な治療につながるケースもあります。
池脇
低栄養の患者さんでは対症療法になりますが、具体的にはどういう治療をされるのでしょうか。
土屋
まずはやはり栄養補給というかたちで、経管、経腸栄養剤ですね。特に中鎖脂肪酸は大腸で吸収されて、比較的栄養が入りやすいので使うケースが多いです。もう一つは浮腫でむくみを取るために利尿剤を使うケースもあります。
あとは脂肪便になるので、下痢がひどい方にはロペラミドやラモセトロンなど、腸管運動を抑制する薬剤を使うことによって便の回数を減らすことが主な対症療法となっています。
池脇
栄養改善は、基本的には低脂肪、高蛋白でよいでしょうか。
土屋
はい。
池脇
脂肪は通常カイロミクロンがリンパ管経由ですが、中鎖脂肪酸は門脈経由で吸収されるのでそれを推奨するということですね。
土屋
はい、そのとおりです。
池脇
中鎖脂肪酸が役立っていますね。質問は、こういった治療でも管理できない場合、どうしたらいいかということです。
土屋
なかなか難しいのですが、根本的に腸全体が病気の原因になっていることが多いので、先ほどのような特殊な直腸腫瘍、一部分の腫瘍であればいいのですが、腸全体にわたる場合は、外科手術のようなかたちで解決するのは、なかなか難しいと思います。
やはり対症療法の延長線上で栄養補給や浮腫を取るといった、対症療法を治療強化していく方向になると思っています。
池脇
経口で栄養補給が難しければ点滴で状況を改善することによって、腸が落ち着いてくれることも期待できるのでしょうか。
土屋
はい。中心静脈栄養等で栄養補給することによって、体の元気を保つこと。あともう一つ、忘れがちですが微量元素の補充もきちんと行うのが注意点だと思います。
池脇
低蛋白とむくみの患者さんでは、蛋白漏出性胃腸症を頭の片隅に置くべきという話をうかがいました。ありがとうございました。