ドクターサロン

池田

清島先生、今流行している手足口病や、ヒトパルボウイルス感染症について、成人ではどのような症状なのかという質問です。まず手足口病とはそもそもどのような病気なのかからうかがっていいでしょうか。

清島

手足口病は、コクサッキーウイルスA16やA6やA10、あるいはエンテロウイルス71などによる感染症で、乳幼児に多く発症します。季節性の流行があり、夏に多くて冬には少ないです。

以前は、コクサッキーA16やエンテロ71による手足口病が数年周期で大流行していました。最近では、2015年、2017年、2019年と1年おきにコクサッキーA6を主体とした流行になりましたが、それだけではなくて、コクサッキーA16やエンテロ71も検出されていました。

ところが、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年から2023年には、手足口病の大きな流行はありませんでした。しかし、2024年6月から患者数が増えて、8月がピークとなり、秋には少しずつ減少してきました。今回の流行ではコクサッキーA6、A10、A16が検出されています。このように、手足口病は複数のウイルスが原因となるので、一つのウイルスに対して免疫が獲得されても、ほかのウイルスに感染してまた発症してしまう可能性があります。

池田

繰り返す方もいらっしゃるということですが、一般的な手足口病はどのような症状なのでしょうか。

清島

手足口病というぐらいですから、主な症状は手掌、足底と、口腔粘膜の小さな小水疱です。通常3~5日の潜伏期の後に、発熱、下痢、食思不振などを伴って、掌蹠(しょうせき)や口腔粘膜などに紅斑を伴った小水疱ができてきます。口腔粘膜疹は痛みを伴いますし、皮疹も痛みや痛がゆさを訴えることがあります。

典型的な皮疹は皮膚紋理の長軸に沿った楕円形の小水疱です。ほかに臀部や肛門周囲にも同様の皮疹が散在します。全身症状としては、発熱がありますが、38℃以上になることはまれです。

ウイルスによって特有の症状があり、例えばエンテロ71では急性髄膜炎などの神経症状を合併しやすいです。コクサッキーA6では2つ特徴がありまして、一つは手足口の症状は少なく、むしろ広範囲に皮疹を生じることがある点。もう一つは、皮疹が消退した後、1~2カ月経過した頃に爪に横の線、横の溝ができたり、爪が脱落してしまったりする点です。

池田

それは特徴的ですね。いろいろな症状、例えば口腔内症状などもありますが、治療の方法はあるのでしょうか。

清島

治療薬もワクチンもありません。ですので、対症療法で経過をみます。口腔内病変が痛くて摂食不良のある場合は補液を行うことがありますが、基本的には対症療法になります。

池田

手足口病ではどのような点に気をつけるべきなのでしょうか。

清島

手足口病のウイルスは糞便中で増殖しますので、糞便や汚染された手指を介した感染が多いのですが、一部では飛沫感染もあります。したがって、予防では、感染患者さんとの濃厚接触を避けて、手指の消毒、排泄物の適切な処理を徹底することが重要です。

症状が消失しても、実は糞便からは2~4週間、咽頭からは1~2週間にわたってウイルスが排出されて、感染源になります。学校保健安全法では、医師が感染の恐れがあると認めた場合のみ出席を停止するということになっています。

池田

治ったといって油断していると、人に移す可能性もあるということですね。

清島

そうなのです。

池田

成人の手足口病というのは何か特徴があるのでしょうか。

清島

成人例はそんなに多くはありません。乳幼児が主体ですので、乳幼児からの家庭内感染や、保育施設などでの職員の感染が報告されています。

成人の症状は非典型的なことが多くて、高熱を伴うこともあります。また、口腔粘膜疹の頻度は小児に比べて少なく、手足では小水疱を形成せずに紅斑のみの場合もありますし、全身に紅斑や紫斑が多発したという報告もあります。ですから周囲の感染状況を見ながら診断をすることが重要かと思います。

池田

なかなか多様な症状なのですね。

一方、ヒトパルボウイルスB19感染症というのはどのような病気なのでしょうか。

清島

これはヒトパルボウイルスB19の飛沫あるいは接触による感染症です。よく「伝染性紅斑」「リンゴ病」とも呼ばれます。小学生や保育園児に好発しますが、患児と接する家族や保育士さんなどの成人にも発症します。

1986年から4~5年ごとに周期的に流行しています。1回の流行期間は約2年で、最初の1年で小さなピークができ、いったん減少しますが、翌年に大きなピークとなる。そういうパターンを繰り返してきました。

2020年以降は流行がありませんでしたが、2024年後半から患者数が増えてきており、2024年12月6日にこども家庭庁から「伝染性紅斑の増加に伴う注意喚起」が出されました。実際、2025年は大きな流行が起きています。

赤芽球系細胞などに発現しているP抗原というのがB19ウイルスの受容体ですので、P抗原を持たない人では感染は成立しないといわれています。

池田

ヒトパルボウイルスB19感染症というのはどのような症状で、どのような経過をたどっていくのでしょうか。

清島

典型的な経過は、まず感染の1週間後くらいに感冒様の症状があって、そのときには気道からウイルスを排出しています。その症状は2~3日ぐらいで消退しますが、それからさらに1週間後に皮疹が出ます。このときにはウイルスの排出はほとんどありません。

症状としては両頰の「平手打ち様紅斑」が有名で、「リンゴ病」という名前の由来でもあります。そのほかに、四肢の伸側に網目状の紅斑が出現します。こういった紅斑は約1週間で消退していきます。

そのほかに手足の腫脹などの症状が見られます。これは指先から前腕、あるいは足背から下腿までが腫れてきます。伝染性紅斑も、医師が感染の恐れがあると認めた場合に出席停止となります。

急性期に抗B19ウイルス抗体IgMが陽性であれば、確定診断することができます。そして治療ですが、このウイルスも抗ウイルス薬はありませんし、ワクチンもありません。痛みや関節痛が強い場合には対症療法が行われます。成人では、関節痛や倦怠感などの症状が2~4週間ぐらい遷延することがよくあります。

池田

また診断が難しそうですが、特に成人のB19感染症というのは何か特徴があるのでしょうか。

清島

小児では、全身症状は比較的軽くて微熱程度で、皮疹は典型的です。一方、成人では皮膚症状は非典型的で、両頰の紅斑は少なく、むしろ全身症状が強いです。発熱や倦怠感、リンパ節や手足の腫脹、関節の腫脹や多関節痛などが強くなります。

また、成人のB19ウイルス感染症は種々の全身症状を表すことが知られています。例えば心外膜炎や心筋炎、脳炎、髄膜炎などを伴うことがあります。

池田

なるほど。本当に非典型的なのですね。診断のときに重要なポイントはやはり環境です。周りの方で、伝染性紅斑の方がいるかということなのでしょうか。

清島

はい。やはり周囲の感染状況、流行状況を把握しておくことが大事だと思います。

池田

成人のB19感染症はどのような点に気をつけたらいいでしょうか。

清島

重要な点が3つあります。まず1つ目は妊婦さんの感染です。妊婦さんが感染して胎児にも感染してしまうと、胎児水腫や胎児死亡の原因になります。

2つ目は溶血性貧血患者さんへの感染です。P抗原を持った赤芽球系の前駆細胞にウイルスが感染すると、造血が一時的に低下して、重症の貧血発作を起こします。

3つ目は免疫不全患者さんへの感染です。B19ウイルス感染が遷延化して造血が長期に障害されてしまいます。

したがって、妊婦さん、溶血性貧血や免疫抑制状態の患者さんはB19ウイルス感染者との接触を避けることが大切です。

池田

けっこう恐ろしいですね。本当に気をつけたいと思います。

先生、これらの2つのウイルス感染症について何かメッセージはありますか。

清島

新型コロナウイルス感染症が蔓延した最近4年間はほとんどなかった手足口病とヒトパルボウイルスB19感染症の流行が、2024年に戻ってきました。これらの疾患では、成人では症状が非典型的である点から診断が難しい場合があります。したがいまして、感染症の流行状況を把握し、流行時期にはこれらの疾患を鑑別の一つとして念頭に置く必要があると考えられます。

また、手足口病では症状が消退した後もウイルス排出がありますので、この点に注意が必要です。B19ウイルス感染症では、妊婦さんや合併症のある患者さんへの感染について注意が必要だと思います。

池田

ありがとうございました。