山内
まず、生後2カ月から開始するB型肝炎ワクチンでのラテックス反応率という質問ですが、このラテックス反応率というのは何なのでしょうか。
多屋
ラテックス過敏症のことを質問いただいていると思います。天然ゴム製品に対して、即時型の過敏症を起こすことをいいます。日本では2種類のB型肝炎ワクチンを使うことができますが、そのうち1種類のワクチンの容器にラテックスのゴム栓が使用されていたことがありました。しかし現在はもう使用されていません。B型肝炎ワクチンでラテックス過敏症を心配される必要はなくなりましたので、ご安心いただければと思います。
山内
次ですが、生後5カ月から開始するBCGでのコッホ現象発現率という質問です。まず、コッホ現象とはいったいどういったものでしょうか。
多屋
通常ですと、接種から1カ月ぐらい経ったときに接種したところの針の跡が赤くなったり、膿を持ったりすることが多いのですが、過去に結核菌や非定型抗酸菌などに感染したことがあるお子さんがBCGを接種すると、接種して2~3日後、非常に早くに接種した針跡が赤くなったり腫れたりするという症状が起こります。これをコッホ現象と言います。これが認められると、それまでに結核菌の感染を疑って、コッホ現象が出たら、なるべく早くに受診をし、ご家族に結核の方がいらっしゃらないかとか、結核検診をするきっかけになります。
コッホ現象自体は、特に何も後遺症も残すことなく自然に消えてしまいますが、BCGを接種して、接種した針跡がかなり早くに赤くなったときは、周りに結核の方がいらっしゃるかどうかを調べるきっかけになるので、接種したところを見ていただくのが大事かと思います。
山内
反応としてはそれほど激しいものではないのですか。
多屋
そうですね。それほど激しくはないです。普通、9╳2で18個の針跡が赤ちゃんの上腕に付くと思うのですが、その針跡が接種後早期に赤くなって膿をもつ、腫れたようなときに、少し早めに受診していただくとよいかと思います。
山内
ただ、保護者の方もこういうのを頻繁に見ているわけではないですから、これが普通と違うかどうかは、なかなか気がつかないところでもあるのですね。
多屋
そうですね。普通、2~3日と言ったら、針跡もほとんどわからないような状態だと思うのですが、そこが少し赤く盛り上がっていたり腫れていたりしてお風呂に入ったときに「あれ?」と思ったら、受診をしてもらうといいと思います。
山内
ちなみに、こういうことについてはワクチン接種のときに、保護者への説明はあるものですか。
多屋
そうですね。接種してすぐに針跡が赤くなったり腫れたりしたときは、早く受診してくださいという説明を受けて帰っていただいていると思います。
山内
質問のコッホ現象の発現率はどのくらいでしょうか。
多屋
加藤先生らの論文がありますが、コッホ現象の報告数にはどうも地域差があるようです。接種するときの保護者への説明や相談を受けた後の対応などの要因の関与も考えられますが、地域差があって、結核の患者さんが多いところが比較的、報告数としては多いという印象があります。
この論文によりますと、都道府県で最も人数が多かったのが大阪で15人、続いて愛知、東京、和歌山、千葉の順番で、出生10万対にすると、全国平均ではだいたい2.5ぐらいのようです。
山内
さて次ですが、生後1歳から開始するMRワクチンでの卵アレルギー発現率となっています。これはいかがでしょうか。
多屋
おそらくMRワクチンを接種するときに卵アレルギーのあるお子さんは大丈夫でしょうかという質問かと承りました。ワクチンを製造する過程で、ニワトリの胚細胞が使われていますので、それで卵アレルギーと考えられたのではないかと思うのですが、MRワクチンの中に鶏卵タンパクの成分は含まれていません。卵アレルギーとMRワクチンとの直接の関係は、心配しなくてもいいといわれています。
なので、卵アレルギーで気をつけるワクチンとしては、例えばインフルエンザワクチンなどは卵でウイルスを増やしていますので、重い卵アレルギーのある方は接種するときに気をつける必要がありますが、卵製品を食べてもなんともないというお子さんの場合は、インフルエンザワクチンでも心配はいりません。ほとんどは安全に接種できますし、MRワクチンについては、卵アレルギーとは関係ないといわれていますので、心配せずにぜひ接種していただければと思います。
ただ、卵アレルギーがあるという方は、ほかのいろいろなものにもアレルギーがあるお子さんがいらっしゃると思いますので、MRワクチンの中に含まれている、卵以外の成分でアレルギーを起こす可能性は否定できません。接種して30分はその場に留まっていただくなど、そういう工夫は必要かと思います。
山内
次ですが、12歳で接種するDTワクチンで接種部位が腫れる率ということです。これは、DTワクチンではかなり知られていることなのでしょうか。
多屋
11~12歳で、ジフテリアと破傷風を予防するためにDTトキソイド(2種混合ワクチン)が使われます。DTトキソイド(2種混合ワクチン)を接種したところが腫れるというのは比較的よく聞く反応だと思います。
厚生労働省は、定期の予防接種の後、どのような症状が起こったかを「予防接種後健康状況調査」という調査で調べています。令和元年度、2年度、3年度の結果が今の最新で公表されています。DTトキソイド(2種混合ワクチン)第2期の接種後、局所反応が起こる率は、令和元年度は2,000人ぐらい調べているようですが、局所反応が出た方が25.7%、令和2年度も25.3%、令和3年度も24.9%ですので、だいたい4人に1人ぐらいは接種したところが、腫れたり赤くなったりという局所反応が起こる人がいらっしゃるようです。率と言いますと、だいたい4分の1ぐらいの方が接種したところは赤くなったり腫れたりすることがありますと言っていただくのがいいように思います。
山内
けっこう腫れるものなのでしょうか。
多屋
そうですね。赤くなるのはよく見られる反応かと思います。それほど心配されることはないと思いますし、腫れたからといって後遺症を残したという人もいらっしゃいませんので、しばらくすれば落ち着いてくると思います。
山内
最後に、任意接種のおたふくかぜワクチンでの髄膜炎率についてです。これもやはり、おたふくかぜワクチンでは知られているものなのでしょうか。
多屋
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)にかかると、8~10%弱の方が無菌性髄膜炎という合併症を併発します。なので、かからないで予防したいというのが親御さんのお考えだと思うのですが、ワクチンの添付文書には「 1,600人に1人、2,300人に1人という割合で無菌性髄膜炎が起こります」という記載がなされています。
でも小児科医の話をうかがいますと、そんなに高い頻度で起こっていないのではないか、最近はもう少し低いのではないかというお話がありました。そこで日本小児科学会と国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の鈴木班が共同で数万人規模の調査をしようと実施した研究があります。
接種をした人を前向きに8週間フォローしました。副反応が起こったときに届け出をいただくものなのですが、「あった」とか「なかった」とかにかかわらず、接種した人全員8週間、何もなかったときは「何もなかった」ときちんと報告していただく全国調査をしました。
4万4,000人余りの方がこの調査に参加してくださいまして、その中で無菌性髄膜炎を発生されたのは、疑い例2人を含めて6人でした。なので頻度としては、10万人接種あたりで13.4人。1歳児でだいたい1回目を接種するのですが、0.011%、10万人接種すると11人ぐらい、無菌性髄膜炎を起こすという全国調査結果が出ました。ただ、おたふくかぜにかかってしまうと、8~10%ですので、こういう情報を理解して選んでいただけたらと思います。
山内
今のところ、髄膜炎の関係で任意接種になっているようですが、できれば、状況を理解されたうえで受けていただきたいということでしょうね。
多屋
そうですね。いつおたふくかぜの流行が来てもおかしくないタイミングになってきていますので、理解してどちらを選ぶか。また、今は髄膜炎の発生頻度が低いおたふくかぜワクチンを使ったMMRワクチンなどが製造販売承認申請をされていますので、そういうものが認定されると、また厚生労働省でも定期接種への検討を進めていただけるのではないかと思います。今日本で使われているおたふくかぜワクチンには2つの株がありますが、かかってしまうよりは、ワクチンで起こる副反応のほうが頻度としては低いということは知っていただきたいです。ただ、副反応をゼロにするということは、ムンプスウイルスの性質上どうしてもできませんので、そこは理解して選んでいただけたらと思っています。
山内
ありがとうございました。