池脇
時々小児に関する質問をいただきますが、今回は現場からの質問で、小児への薬の出し方の質問です。園に通っているとあるので、厳密には小児ではなく幼児と考えてよいですか。
窪田
そうですね。
池脇
まだ薬が一人で飲めない幼児ですが、小学生の小児になると自分で飲めると考えていいでしょうか。
窪田
そうですね。自分できちんと出して飲むことができるようになってきます。
池脇
質問のような苦労をする年齢は過ぎているわけですね。保育園、幼稚園のお子さんはなかなか飲んでくれないということで、「1日3回飲ませるのはなかなかたいへんで、親御さんが1日2回を希望される」ということですが、どうしてでしょうか。
窪田
やはり保育園などでは昼間、薬を飲ませるのがなかなか難しいのですね。こちらから投薬依頼書を出すと、服薬させていただけるのですが、あまり喜ばれないです。安全管理が必要で別の子に飲ませてしまったというようなことも出てくるので、なるべく昼間は飲ませたくないということがあります。
そういった意味で1日2回を希望される親御さんは多いですね。
池脇
確かにそうですね。医療関係者ではない幼稚園の先生が積極的にはかかわらないというのは、そのとおりです。
そうすると、3回の薬を、そういう事情で2回にする場合に、医師はどうされているのでしょうか。
窪田
去痰剤や鎮咳剤に関しては1日2回で十分だと思います。抗ヒスタミン剤も最近1日2回がベースのものが多くなってきましたので、基本的には小児科の臨床の現場で1日2回の投薬に迷うことはないです。
ただ、抗菌薬などは1日3回と決まっているものがありますので、そういったものは頑張って3回飲んでもらうようにしています。
池脇
質問では、「1日3回の場合は、朝食後、園から帰宅後、そして就寝前でいいでしょうか」ということですが、OKでしょうか。
窪田
ええ。この医師はよくご存じだと思いました。血中濃度を維持しなければならないという問題があるので、抗菌薬は基本的に1日3回ですが、そのようなかたちで指導しています。
当然、朝飲んでから次に飲むまでに長く間が空いてしまうのですが、通常でも5~6時間空けばいいところをそこから2~3時間プラスされていても、それほど大きな問題はありません。ただ、保育園から帰ったらなるべく早めに飲ませるように指導しています。
池脇
原則から譲歩しないとなると飲めなくなってしまいますものね。現実的に、できる範囲でということですが、抗菌薬に関してはOKなのですね。
窪田
そうですね。
池脇
幼児は錠剤は飲めないですし、誤嚥のリスクもあります。
窪田
小学校に行く前までは、錠剤はちょっと難しいですね。本当に小さい錠剤は飲める子もいますが、飲む場合には必ず保護者が隣について安全を確認しながら飲んでもらうのが一番大事です。
最近、口腔内崩壊錠(OD錠)というものが出ていまして、これだと飲めるのですが、さすがにこれも誤嚥の可能性があります。例えば口の中に薬を含みながらジャンプをしたり、きょうだいから背中をドンと突かれたりすると誤嚥してしまいますので、隣できちんと管理している中で飲んでもらうのは大事ですね。
池脇
ある程度の年齢にならないと錠剤は難しいとなると、シロップや散剤が主流でしょうか。
窪田
それが主流になりますね。
池脇
ただ、「飲んでね」と言っても、まあ飲んでくれないですよね。
窪田
なかなか難しいです。
池脇
先生はどう工夫されますか。
窪田
シロップは、1歳以下のほうが飲んでくれますね。3歳以下くらい小さいときのほうが、実はきちんと飲んでくれるのですが、3歳を超えたぐらいから自我が芽生えてくるので、飲まないといったら飲まないですね。本当に苦労されている保護者が多いと思います。
池脇
薬を飲むことにも、その辺りから抵抗期が始まっているのですか。
窪田
そうなんですね。ただ、「うちの子は薬を飲まないんです」と言っている保護者に対して私がいつも言っているのは、歯磨きはどうですかと聞くのです。そうすると、「歯磨きはしています」と。そして、歯磨きの仕上げをきちんとされていますかと聞きます。全然関係ないような質問なのですが、「やっています」と言った場合には、であれば絶対飲めますよと言います。
というのは、歯磨きというのはやらなければいけないと思って、保護者が一生懸命されているのです。そういったものを子どもがきちんとわかってやっているということは、薬を飲むということも歯磨きと同じくらい保護者がしっかりした思いでやっていただくとできますよということを言っています。いわゆる親の覚悟と言いますか、しっかりこの薬は飲ませなければいけないという覚悟があると、子どもはやっぱりきちんと飲んでくれるものなのですね。
逆に言うと、歯磨きができていない子は難しいので、まずは歯磨きからやりましょうという話をすることが多いですね。
池脇
薬そのままだとなかなか子どもは飲んでくれないので、ゼリーや場合によっては食事に入れて飲んでもらうのでしょうか。
窪田
シロップの薬はそのまま飲んでもらいます。ドライシロップという粉薬は溶けるのですが、薬によって相性があって、その辺は薬剤師が指導してくれますけれども、なかなか難しいです。
あと、量の多いジュースに溶かすとコップの底に残ってしまいますので、私はドライシロップにジュースを1、2滴入れてゲル状にして口の中に入れ、その後にそのジュースで流し込むという指導をしています。大量の液体の中に溶かすよりも、ちょっとゲル状にしたほうが口の中でするっと飲みやすいので、いいですね。あと、市販の薬を飲みやすくするゼリー状のものがすごく使いやすいです。
池脇
お子さんによって、何が得意で何が苦手かがあるんだろうと思いますが、例えば、普段食べる食事に薬を混ぜて、それがきっかけで食べなくなるというのも困りますよね。
窪田
一番よくあるのはミルクに混ぜるということですね。特に乳児期に関してはミルクには混ぜないようにという指導をしています。先生がおっしゃるとおり、ミルクが嫌いになってしまうことがあるからです。
池脇
新生児から半年ぐらいはスプーンで口に持って行けば条件反射で飲んでくれるので、比較的やりやすいけれども、その後からがたいへんな時期で、そこをどうやって飲ませるかは親御さんの情熱にもかかっているのでしょうか。
窪田
そうですね。だまして飲ませるというのは一番だめですね。子どもは嘘に敏感なのでだまされたという気持ちになってしまわないように、「これは薬だよ。でもきちんと飲まないとだめだよ」ということを親御さんが子どもにきちんと言うことが大事です。
そして飲めたら褒めるということですね。私が外来で必ず聞くのは、「お薬飲めた?」です。「飲めた」と言ったら「わあ、すごいね」と褒めてあげる。褒めることはすごく大事なことです。
池脇
小さい子でも成功体験が大事ですね。
窪田
そうです。
池脇
今、飲み薬についてうかがいましたが、病気によっては坐薬を使ったり、点鼻、点眼もあります。坐薬は子どもは嫌がりそうな気がしますが、どうでしょうか。
窪田
坐薬のほうがわりに簡単です。滑りさえ良くすればポッと入りますので。よく、おしゃれにオリーブオイルを使うといいますが、別にオリーブオイルでなくても少し濡らしてあげればいいのです。とにかく滑りさえ良くしてあげて、スッと入れて、入れた後、指でちょっと押さえていただければ、坐薬は意外と簡単です。坐薬を嫌がる子はそんなにいないんですよね。
ただ、保護者が少し怖がるのです。やったことがないので。ですから、例えば外来で看護師さんに1回入れてもらって、熱があるときはこうやるんですよと坐薬の入れ方を教えてもらうと、保護者も自宅でやりやすくなります。
今は核家族化されていますから、周りに誰も坐薬を入れたことがある人がいないことも多いのです。昔だったら、おばあちゃんと一緒にいて、おばあちゃんが入れたことはあったのですが、こういう時代になりましたので、とにかく指導をしっかりやっていくことが大事だと思います。
池脇
次に点眼ですが、イメージが湧きません。
窪田
実を言うと、これは難しいのです。大人1人が押さえて、もう1人の大人が点眼するのがスタンダードですが、やはり暴れてしまいます。ですから、私は「寝ているときにやっていいですよ」と言っています。朝起きる前に朝の分の点眼をして、昼寝のときに昼の分の点眼をする。
池脇
子どもに「はい、目開けて。入れるよ」といったことをしないわけですね。
窪田
これはやはり難しいですね。寝ている間にやってもらっています。
池脇
寝ていても、その隙間から入ってくるのですか。
窪田
入ります。全然問題ありません。ちょっとまぶたを開けて入れれば、問題なく入ります。
池脇
点鼻はどうでしょう。
窪田
点鼻を使うというのは、こういった小さい子どもにはあまりいないのです。点鼻薬を使うのは小学校の高学年以上になってくることが多いので、これはあまり問題ないのです。ただ、吸入がけっこうたいへんですね。
池脇
どういうことでしょうか。
窪田
コロナの前まではネブライザーを使ってモクモクというのが多かったのですが、コロナでそれがちょっと問題だということになりました。それからいわゆるMDIというプッシュ式の吸入器を使用するようになりました。
でも、これは大人だと口の中に入れてシュッとできるのですが、子どもの場合にはスペーサーといいまして、口に当てるマスクに箱がくっついているものがあり、その箱の中にシュッとしてそれを吸うことになります。これは意外とできます。
池脇
確かに、普通の吸入器だと、入れた瞬間に吸わないといけないですね。
窪田
そうなのです。スペーサーを使うことによって、意外に吸入できるんですね。最初はこんなので効くのかなと思っていたのですが、これがよく効きまして、今はかなりの子どもがスペーサーを1歳半、2歳くらいから使用していますね。
池脇
いやいやながら吸入したけれど、「ちょっと楽だな」と感じるわけですね。
窪田
そうなんです。先生がおっしゃるとおりです。それが成功体験につながるんですね。やはり効くというのが大事なので。これは医師としての矜持なのですが、効く薬を与えなかったらだめだということです。
池脇
どうもありがとうございました。