ドクターサロン

大西

佐々木先生、結核というテーマでお話をうかがいます。日本の結核は以前よりはかなり減ってきている一方で、海外からもいろいろな人がいらっしゃることから、その辺りの状況や、対策の最新の情報などを教えていただけますか。

佐々木

日本は、COVID-19のパンデミックの最中の2021年以降、長らく対策をして期待されていた新規登録患者が人口10万人当たり10を切る、低蔓延状態に入りました。COVID-19のときにロックアウト等で空気感染が遮断され、結核罹患率は徐々に低下したのですが、パンデミックが終わり、幾つかの問題点があがってきています。

大西

海外で生まれた方々が日本に仕事等でいらっしゃいます。その水際の対策である、検疫の最新の状況はいかがですか。

佐々木

検疫は2018年から計画されていたのですが、COVID-19によりその対策が阻まれました。2024年12月に外国の方が母国でビザを取る時点で日本で結核を発症する方の多い国を6カ国選び、母国で結核を発症していないことを証明し、その条件でビザを発給するというシステムが決定されております。ですので、フィリピンやネパール、ベトナムという国々で開始されました。

大西

日本の現在の統計では、死者数や喀痰塗抹陽性患者数などの動向はいかがでしょうか。

佐々木

結核患者さんも死亡者も幸い減っていますが、やはり高齢の方が亡くなられる率が高く、90歳代以上で結核になると、50%以上の方が亡くなられるというのが現状です。現在、若い方の多くは亡くならない疾患です。

大西

COVID-19の影響もいろいろあったと思いますが、世界の統計について教えていただけますか。

佐々木

世界的には、COVID-19のときに患者さんがかなり減りました。医療資源が失われたため、患者さんの発見ができなくなったこと、あるいは受診回避ということで、結核の患者さんが治療のテーブルにつかなくなったからです。

WHOは、患者さんをなるべく多く発見して治療のテーブルにつかせることを第一としていますので、結核対策が数年遅れたことで現在、超過死亡が生じています。

大西

多剤耐性の問題も世界的にはかなり大きいと思いますが、その辺りはいかがですか。

佐々木

多剤耐性結核につきましては、海外で大きな問題になっていまして、現在結核においては、HIV感染、結核罹患率、そして多剤耐性が問題となっています。日本は多剤耐性結核は、年間30~40人ぐらいの発症が続いていて、大問題にはなっていませんが、これからグローバル化が進むと、多剤耐性結核の外国出生の方が日本に入ってきて発病し、日本で治療に入ることが増えてくると思われます。

大西

次に診断について、基本的なところからうかがいたいのですが、レントゲンやツベルクリン反応、インターフェロンγ遊離試験などがあるかと思います。この辺りについて教えていただけますか。

佐々木

今回は肺結核に話を限らせていただきますが、肺結核は残念ながら問診ではわかりません。ほかの感染症と差はありません。2週間以上続く呼吸器的な症状、あるいは、高齢者の場合は全身の状態の悪化ですね。体動不能や食欲がないなどの症状が2週間続いた場合は何らかの疾患があると考えていただき、胸部画像検査、単純レントゲン写真、ないしはCTをお撮りいただく。もし異常影があったら、喀痰検査を行っていただきたいと思います。

先生が言われたIGRA検査(Interferon-Gamma Release Assays)については、発病の診断ではなく感染の診断ですので、どうしても喀痰が出ない方に行っていただくことはよいのですが、IGRAの陰性をもって「この方は結核ではない」としてはいけません。

大西

画像診断で何か特徴的なことはありますか。

佐々木

最近は、結核と同じグループの菌である非結核性抗酸菌症の画像と非常に類似した肺結核の方が増えていまして、せっかく検診で見つかっても、「これは非結核性抗酸菌だろう」と見てしまう傾向があります。悪化してから初めて喀痰検査を行って、びっくり仰天ということがわりと目につくようになりました。日本はまだ結核患者さんが1万人以上発生する国ですので、まず空気感染をする結核を一義に考えて検査をしていただきたいと思います。

大西

そういう流れで受診が遅れたり、診断が遅れたりという問題が今起きているのではないかと思いますが、その辺りはいかがですか。

佐々木

はい。様々な呼吸器感染症が流行しています。皆さん、発熱をCOVIDやインフルエンザだと思って、このぐらいならいいだろうと思われるのか、受診が遅れる人も少なくありません。特に30~50歳代の方に増えています。

発熱症状があって受診しても迅速診断キットだけで喀痰検査をしない、あるいは胸部画像検査をしないと、肺結核の診断にまでは至らないということで、診断の遅れも生じてしまうことになります。

大西

今特に若い方で増えていると聞いたのですが、そういう点も気をつけないといけないのですかね。

佐々木

そうですね。残念ながら、20歳代の方の約80%は海外出生者で占められています。学問や労働力のために入ってこられる海外出生の方は、検疫が利用できない国もありますので、まずは定期的に法律で定められた検診を受けていただくことがよいと考えます。

そして周囲の日本の方に健康状態に気を配っていただくことで、早めの発見につながると思います。外国の方の中には結核罹患国から来ていらっしゃる方も多いので、そこは気をつけなくてはならないと思います。

大西

治療について、標準的な治療、多剤耐性の治療、潜在性結核の治療などその辺りを少しお教えいただけますか。

佐々木

標準治療については、先生方もご存じのように、初期2カ月間にイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールないしはストレプトマイシンの4剤投与を行って、薬剤感受性検査で耐性が認められなければ残り4カ月にイソニアジド、リファンピシンというキードラッグを続ける標準治療が主体です。

多剤耐性結核については、ベダキリン、デラマニドという新薬が登場しており、健康保険に収載はないものの、保険上査定はされないリネゾリド等の新しい薬が加わって、患者さんの耐性検査の耐性に従って、薬のレジメンが組まれます。

しかし海外では標準治療6カ月など短期の治療が広まっています。標準治療についても4カ月治療が始まっております。

潜在性結核感染症の治療に関しては、最も医師にとって身近なところであると思いますが、以前はイソニアジド単剤6~9カ月、リファンピシン4~6カ月という治療が行われました。現在、リファンピシンの単剤投与は危険ということで、リファンピシンとイソニアジドを組み合わせた3カ月ないしは4カ月の治療が2番目のレジメンとして入ってきていて、イソニアジドと単剤と加えて2つになっています。

大西

潜在性結核というのは、感染しているけれども発病していないということですよね。

佐々木

そうです。臨床症状がなく、画像でもわかりません。

大西

それは正確には確認できるんでしょうか。

佐々木

先ほどおっしゃったIGRAを用いて検査をすることです。今、ツベルクリン反応はほとんど使われなくなっていますので、そちらの検査をお願いしたいと思います。

大西

迅速な薬剤感受性検査というのも今、発展していると思いますが、その辺りを教えていただけますか。

佐々木

以前は、培養陽性になるまでは、薬剤感受性検査を行うことができませんでしたが、現在、核酸増幅法で結核菌が確認された方、特に塗抹陽性患者さんについては引き続きその検査のキットを用いてイソニアジド、リファンピシンの薬剤耐性遺伝子を検出することができます。

また、以前からありましたエキスパートを使った方法で、結核の同定とリファンピシンの薬剤耐性を同時に確認するという方法もあります。またイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドの3薬についてはラインプローブ法も上市されています。

大西

一般の医師にお伝えしたい、結核に関するメッセージがありましたら、お願いします。

佐々木

COVID-19が落ち着きまして、結核は再び単一菌種で多数の患者さんを死亡させる世界的な感染症である、とWHOは報告しています。今後グローバル化が進み、空気感染である結核は再度患者数が増えるかもしれません。

日本も結核罹患率に関しては低蔓延状態となりましたが、ちょっとの油断をすると、今のアメリカのように、罹患率が再上昇してしまいます。結核はまだ1万人以上の患者さんがいますので、ぜひ鑑別診断に結核を加えていただき、肺以外の臓器でも治りにくい感染症では結核を考えていただければと思います。

大西

貴重なお話をどうもありがとうございました。