ドクターサロン

多田

非結核性抗酸菌症のわが国における現状、診断、専門医への紹介についてお話しいただきます。

非結核性抗酸菌症は、わが国において、その罹病率ならびに死亡率が増加しているとも聞いています。肺MAC症をはじめ、原因菌による様々な症状、病態から教えてください。

森本

まず疫学的なお話ですが、我々の調査で2017年の罹患率、つまり10万人当たり、どのぐらいの患者さんが新規に診断されたかというデータにつきましては、19.2という数値が出ています。これにより2014年に調査が行われた別の調査結果の14.7という数値から、さらに増加傾向が続いていることが明らかになりました。

死亡数は死亡統計で明らかになっておりますが、1970年からデータを取り始めて、その後、増加傾向が続き、1990年半ばから増加が顕著になって、2000年以降は女性優位に死亡数が増え続けています。2022年のデータでは、1年間で2,300人を超える方が亡くなっています。

多田

肺結核より多いということですね。

森本

そうですね。すでに肺結核の死亡数を超えていて、たいへん難しい疾患だという認識になっております。

多田

やはり肺MAC症が多いのでしょうか。

森本

アビウム菌とイントラセルラーレ菌を併せてMAC菌と呼びますが、そのMAC菌が93%を占めます。その後、かつては希少菌種といわれていたアブセッサスという菌が少し増えてきて約3%、そしてカンサシと続いています。

多田

病態にはあまり差はないのでしょうか。

森本

MAC菌とアブセッサスはとても似ていて、画像的にも区別をつけるのはたいへん難しいところがあります。カンサシ症は以前から結核のような空洞をつくるタイプが多く、また、粉塵吸入や喫煙歴などの吸入歴が長いという特徴がありますが、今我々が診ている肺MAC症(アビウム菌、イントラセルラーレ菌)、そしてアブセッサス症は、画像や患者背景からは区別がつかないというものです。

多田

これらは人から人への直接感染はないようですが、発症しやすい要因はあるのでしょうか。

森本

環境菌ですから、宿主として健常な人に感染するということはありませんが、一番わかりやすいのは免疫が落ちている方です。特に最近はリウマチで生物学的製剤である抗TNFα阻害薬などを使っている方には発症しやすい。そのほかにもステロイドなど様々な薬剤が要因になりえます。

多田

高齢者はいかがでしょうか。

森本

高齢者に多いですが、特に男性で喫煙者のCOPDや結核の後遺症や間質性肺炎など、肺に疾患がある方にも感染しやすいです。

さらに今一番大きな問題となっているのは中高年、痩せ型の女性です。基礎疾患としては、気管支拡張症以外は明らかなものがない、喫煙歴も乏しいという方に、なぜか肺MAC症の非結核性抗酸菌の感染者が増えています。この免疫抑制と肺基礎疾患がある方、そして大きく占めて問題となっているのは中高年の痩せ型の女性が挙げられます。

多田

水をよく使う方とか、土壌を耕して、日常園芸をやっている方に多いという話も聞きますが、そういうことは実際あるのでしょうか。

森本

やはり環境菌なので、どこの環境から感染してきているのかという点が注目されます。日本から環境に関する重要な報告がありまして、一つは風呂場環境です。風呂というのは日本人特有の習慣で、風呂の追い焚きとか、長時間入るということは海外ではないのですが、特に風呂場の給湯口のところからアビウム菌が多く検出されることがわかっています。また、ガーデニングをしている方、畑などで土壌暴露が高頻度にある方は、肺MAC症の感染リスクが高いことも明らかになっています。

多田

患者さんはどういう症状で来院するのでしょうか。

森本

慢性の呼吸器感染症ですので、やはり咳や痰が多いです。初期の段階では症状を訴えない方もいますが、咳、痰が基本的な症状になります。

一方で、空洞をつくるなど病気が進行していくと、全身的な症状として倦怠感や息切れ、発熱といった症状が出てきます。

多田

急に血痰が出てくることもあるのですか。

森本

はい。抗酸菌というと、結核による喀血のイメージがあると思いますが、非結核性抗酸菌も同様に空洞をつくったり、結核よりもさらに気道を壊すという特徴があって、気管支拡張をつくってくる。そうすると、気道が破壊された部分では発達した毛細血管から出血しやすいということがあります。血痰を訴えられて病院を受診する方、特に女性の多くはこの病気であることが明らかになっています。

多田

そういう患者さんの場合、診断はどのように決めていけばよいのでしょうか。

森本

診断基準は国際的な基準があって、日本でも類似した基準がつくられていますが、やはり感染症ですので、菌の確認が重要になってきます。

結核は1回でも検出されれば診断できますが、非結核性抗酸菌、MAC菌などは環境にいる菌ということで、1回出てきても偶発的な排菌かもしれないため、これは日本の研究が基になっているのですが、2回菌を確認することになっています。つまり期間をずらして2回同じ菌が検出されれば肺NTM症の診断ということになります。

中には痰を出しにくい方もいらっしゃって、そういった方には少し侵襲的になるのですが、気管支鏡を使います。そのときは菌の確認は1回でいいことになっています。

多田

血液検査で同定することもあるのでしょうか。

森本

日本の医師が抗GPL-core IgA抗体をELISA法により測定する血清診断法を開発して、臨床上、とても有益です。国際診断基準にはまだ認められていないのですが、日本の臨床現場ではたいへん活用されており、これが陽性だとかなりの確率で肺MAC症だという診断になります。

最近、学会から新しい診断基準が出ました。ゴールドスタンダードは菌を2回喀痰で調べることになっていますが、キャピリアMAC抗体が陽性であれば、菌の確認は1回でも暫定的な診断をしてよいと書かれています。

多田

そういう患者さんに対してはレントゲンよりもCTを撮っていくということでしょうか。

森本

はい。診断基準もこれまで長くレントゲンでもよいことになっていましたが、今回アップデートされた診断基準にはHRCTで画像所見を調べましょうということになっています。

多田

ほかの肺疾患の診断に関しても、やはりCTに敵うものはないくらいCTが有用ということですね。

森本

はい。やはり病気の進行度やほかの疾患が隠れていないかということもCTからわかってきますので、我々としては診断のときには必ずHRCTを撮影するようにしています。

多田

線量に関しては大丈夫なのでしょうか。

森本

この病気は中高年の方、高齢の方の病気だとお話ししましたが、若い方も当院の場合はよくご紹介いただきます。やはり被曝量を意識するところがありますので、診断のときは通常のCTを撮らせていただきますが、診断以降の治療の評価やフォローには超低線量、かなり線量の抑えられたCTを使うようにしています。

多田

実際、診断がついた患者さんに対しては、どのような治療法があるのでしょうか。

森本

治療についても、2023年に日本結核・非結核性抗酸菌症学会および日本呼吸器学会から改訂が出されました。肺MAC症に対する治療は、それまでマクロライド、リファンピシン、エタンブトールの3剤併用を毎日という、一つの選択肢しかなかったのですが、今回は、病状、経過によって治療を使い分けていこうということになっています。

基本は、マクロライド、エタンブトール、リファンピシンの3剤ですが、空洞のない気管支拡張症の場合は、連日療法に加えて週3回療法という方法が提案されています。やはり毎日多くの薬剤を飲むというのは負担が大きく、副作用が多く出現して、長期に内服するのが困難だというデータが明らかになっています。そうしたことから、週3回飲むことによってその負担を減らす、副作用頻度を減らすことが目的になっています。

一方で、最初から空洞があるような中等症、重症の患者さんに対しては、連日両方に加えてさらにアミノグリコシド剤、アミカシンとストレプトマイシンのどちらかを注射で、最初から積極的に治療していこうということになっています。

多田

やはり死亡率が高くなったということも含めてでしょうか。

森本

そうですね。治さなくてはいけない人は、しっかりと積極的に治療していく。軽症の方には、副作用のない方法でやっていく。さらに難治化したとき、治療をやってもなかなか消えないときには、新薬であるアミカシンリポソーム吸入用懸濁液、アリス(ALIS)といいますが、それを使うことが示されています。

多田

かなり高額な治療となるとも聞いたのですが。

森本

はい。その辺りは患者さんに提示してこちらの説明をしっかりとしないといけません。やはり高額医療になるので、説明はたいへん重要になってきます。

多田

噴霧器の使い方なども教えなくてはいけないとも聞きました。

森本

そうですね。高額な薬剤なので、しっかりと使っていただきたいということから、当院では数日間入院していただいて、やり方をトレーニングし、しっかりと貴重な薬を使うというスタンスをとっています。

多田

今後の展望についてはいかがでしょうか。新たなことがあれば教えていただきたいと思います。

森本

マクロライドというのはクラリスロマイシン、アジスロマイシンでほかの感染症に対して開発された薬剤、リファンピシン、エタンブトールというのは結核の薬を使い回しています。そういった薬剤の組み合わせで長らく治療してきたのですが、初めて肺MAC症に対して新薬が出てきました。こちらは現在、難治性の方にしか使えないものの、この薬剤を最初から使ったら、「長期に治療しているのを短期にできないか」とか「より効果を示せないか」という治験、今フェーズ3が動いていて、もしかしたらこの薬剤がファーストラインから使えるようになるかもしれません。

さらに今、米国中心に新薬の開発が続いています。なかなか簡単にいかない部分もありますが、現在も幾つかの治験が動いています。そのうち一つでも使えるようにして、新薬の組み合わせでさらに副作用を少なく、短期で治療ができるようになっていくというのが現在の目標になっています。

多田

たいへん貴重なお話をしていただきまして、ありがとうございました。