ドクターサロン

藤城

まずはじめに睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気か教えてください。

佐藤

読んで字のごとく、睡眠すなわち寝ている間に呼吸が止まるというのが睡眠時無呼吸症候群ですが、健常な、つまり異常のない方でも、実は1時間当たりに数回は呼吸が停止するといわれています。一応基準としては1時間当たり5回以上の呼吸の停止があるというのを病気として認定することになっています。

藤城

なるほど、5回ですか。止まっている時間の長さとかは関係ないのでしょうか。

佐藤

10秒間という規定があります。

藤城

1時間に10秒間以上の呼吸停止を5回以上している場合を睡眠時無呼吸症候群と定義するということですね。幾つかのタイプに分類されるそうですが、その辺りをご説明いただけますか。

佐藤

大きく閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群、それと混合性という両方が重なったものという3つに分かれることが学会でも定義されています。閉塞性というのが一般にいわれる睡眠時無呼吸症候群、別名OSA(オーサ)というもので、皆さんいびきをかいているというような状態で、よく見られるタイプになります。

中枢性というのは、いびきはかかず、脳のほうでの呼吸の制御が止まってしまって呼吸が止まるというもので、それほど頻度は多くはないのですけれども、循環器疾患の患者さんに多いといわれています。

藤城

何か自他覚症状のようなものはあるのでしょうか。

佐藤

中枢性のほうは少しまれなので、やはり閉塞性のほうに注目をすべきかと思います。閉塞性で、一番問題なのは、いびきをかいて呼吸が止まると、酸素が下がって低酸素状態になり、脳が起きてしまう。つまり、寝ているのに呼吸が止まって酸欠になって起きてしまうという、睡眠の分断が起こることです。

これによってストレスが溜まって、最終的には脳血管障害や心血管障害という、呼吸とは直接関係はないかもしれない循環器疾患や脳血管疾患を発症してしまうことが問題です。睡眠が分断されることが理由で、日中も眠くて、居眠り運転をすることから、昨今、職業運転手や電車、バスの運転手の方々は、睡眠時無呼吸症候群があると居眠り運転のリスクが高いということで、職場でそれに特化した検診を受けています。

藤城

睡眠時無呼吸症候群に特化した検診というのは、具体的にどのようなことをするのでしょうか。

佐藤

通常、健康診断で使われているのは、眠気に関する問診票になります。エプワース眠気尺度(ESS)というものがあって、8項目で日中の居眠り、うとうとするかどうかを問う質問票です。点数が高ければ高いほど疑いが強くなります。

ただ、これで引っ掛けることはできても実は診断にはなかなか結びつかないというか、あまり精度が高くないこともわかっています。

最近、質問票としてはSTOP-BANGという評価項目もあって、いびきや疲労感があるか、他者が見て呼吸が止まっているかどうか、血圧が高いかどうかを主な項目としてみています。全部で8項目あるのですが、最初に挙げた4つの項目が先ほどのESSよりもまだ良いだろうといわれていますが、いずれの質問票も、残念ながらそれほど精度は高くはないというのが現実です。なので、疑いを持たれたときにはきっちりとした夜間の検査を受けていただく必要があります。

夜間の検査とは、呼吸が止まると酸欠状態、つまり酸素状態が悪くなりますので、パルスオキシメータを用いて酸素状態の記録を夜間ずっと付けていただくことです。一晩で何回酸素が下がったかをチェックする方法ですが一般の医療機関でも、お持ちの医師のところでしたら簡単に実施することができますし、ご自宅に持って帰っていただいて、その機械を付けて寝る、そして機械をまた返していただく、というやり方ですので、入院は不要です。

宅配のサービスをやっている業者もあります。医師の指示のもと宅配でご自宅に機械を発送していただいて、夜間記録を付けて、それで業者に送り返すことで、診療所に結果を届けていただくという方法になります。

この方法の欠点は、記録は付けてもらったけれども寝ていないと結果を過小評価することになります。きちんと寝ているかどうかを判断するには、1泊2日で入院していただいて、多数のセンサーを体中に付ける、終夜睡眠ポリソムノグラフという方法が、一番正確に睡眠時無呼吸症候群を診断できます。

藤城

それで睡眠時無呼吸症候群だ、もしくは疑いだという診断がついた場合に、どのような治療があるのでしょうか。

佐藤

もうこれはCPAPという機械を付けていただくのが一番有効な方法で、今、日本では78万人以上の患者さんがこれを使っていることが統計上わかっています。

ただ、保険診療は無呼吸の回数が1時間当たり20回を超えていないと使えないので、そこまでひどくない方は顎の噛み合わせを良くしていびきが起こらないようにする口腔内装具を利用したり、例えば横向きで寝ていただくといびきをかきにくいというのは経験されていると思いますので、そういった睡眠の取り方の指導をさせていただくことが一般的になります。

藤城

口腔内装具やCPAPによる治療は、一般のクリニックでも受けられるのでしょうか。

佐藤

はい。一般の医師が大勢の患者さんを診てくださっています。我々のような大学病院では、むしろほかにも様々な病気を持っておられる複雑な患者さんを診ることが主体になっています。

藤城

具体的に、例えば京都大学病院ですと、閉塞性もしくは中枢性の無呼吸症候群の患者さんは、かなり病状が複雑な患者さんということになるのでしょうか。

佐藤

そうですね。ほかの診療科にかかっている方、先ほど言った循環器の疾患だったり脳神経の疾患ないしは糖尿病で肥満の患者さんであったり、そういう病気を持っている方がそれを悪くする因子として睡眠時無呼吸症候群があるのではないかと疑われて、我々に相談をしていただくことになります。

藤城

睡眠時無呼吸症候群を治療すると、循環器や脳の疾患の患者さんの予後やQOLも良くなるということですね。

佐藤

はい、そのとおりです。ただ、機械を付けずに寝られる方が大勢いるために、我々はこれをアドヒアランスと呼んでいますが、しっかり使っていただくことで治療効果が出るということもわかっています。単にお渡しするだけではなくて、しっかりと使ってもらうことを日々チェックするよう、診療のたびに確認しています。

藤城

肥満の患者さんには閉塞性の睡眠時無呼吸症候群が多い印象をもっているのですが、肥満が治ってくると、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群も治ってくることもあるのでしょうか。

佐藤

はい。体重が減ると、無呼吸指数が改善するのはわかっていますので、肥満の患者さんにはやはり痩せることが一つの治療法になります。

ただ、それだけではなかなかうまくいかないというのが正直なところで、日本人は顎が小さいということもあって、欧米人に比べると、実はそれほど肥満が強くなくても睡眠時無呼吸症候群になりやすいことがわかっています。

眠気がなくても睡眠時無呼吸症候群という方はけっこういます。そういう方は、例えばですが、夜間に排尿が多いというようなことです。男性だったら前立腺肥大かなと思ったりしますが、実は夜中に睡眠分断が起こるせいで夜間の頻尿が起こりやすいこともわかっています。ほかには不整脈です。心房細動はかなりの患者さんが睡眠時無呼吸症候群を併存していることもわかっています。

実感の湧かない病気も治療をすることで改善が見られることが、我々の経験からもわかっていますので、しっかり診断し、治療していただくことが大事になってきます。

藤城

睡眠時無呼吸症候群と一見関係のないような頻尿や不整脈が関与しているということで、その辺りを注意しながら、診療に当たっていく必要があるということを実感いたしました。

最後に、近年の診療の進歩について教えていただけますか。

佐藤

CPAP機器も以前に比べてとても良くなってきました。過去に治療を諦めた患者さんも近年の機器でうまくいく可能性がありますので、またご相談いただけたらと思います。

そういう治療が難しいという方には、埋め込み型の機械も最近出てきています。ただ、できる施設が限られています。こうした機械を用いた治療のほかに減量法も新しいものがあり、最近、肥満への薬物療法の報告もあります。肥満の治療をすることで睡眠時無呼吸症候群が多少良くなったとのことでした。睡眠時無呼吸症候群と一つでくくっても、肥満対策であったり、CPAP以外の治療法、様々な方法を組み合わせることで皆さんの治療ができる可能性があると考えています。

藤城

睡眠時無呼吸症候群に関して、たいへん詳しく教えていただき、ありがとうございました。