読者の皆さんの病院や診療所にも、外国人の患者さんが受診される機会が増えていることでしょう。医療通訳者と協働したり、多言語に対応できるアプリなどを導入している医療機関も増えていますが、「インフォームド・コンセント」 informed consentの場面では、日本の医療現場で使われている日本語表現を英語に直訳しても、日本人の患者さんと同じような反応を期待できないことがよくあります。そこにはどのような文化背景があり、どのような表現を使えばこちらが期待する反応が見込めるのでしょうか? そこで今月は外科系のinformed consentの際に役に立つ英語表現を幾つかご紹介したいと思います。
まずは「病状の説明」における英語表現から見ていきましょう。
ここでは例として「鼠径ヘルニアが嵌頓して、今は絞扼ヘルニアになっている」という状況で考えてみましょう。もちろんこれをそのまま“You have an inguinal hernia which has become an incarcerated hernia and now it’s a strangulated hernia.”のように医学用語を羅列して説明すれば、たとえ英語が母国語の患者さんであってもまったく理解できないことでしょう。「病状の説明」の際には“What's happening is that a part of your intestine is trapped and cutting off blood flow.”のような表現を使いましょう。病状の説明では最初に病名を伝えるよりもこの“What's happening is that…”という表現を使って話し始めるほうが患者さんの理解が高まります。同じような表現として“What we're dealing with is…”のようなものもあります。またincarceratedやstrangulatedのような専門用語ではなく、trappedやcutting off blood flowなど、より日常的で理解しやすい表現を心がけましょう。病名を伝える際には、この後に“This is called a strangulated hernia.”のように“This is called…”という表現を使って伝えるようにしましょう。
次に「緊急性の説明」における英語表現です。
「すぐに手術しないと命に関わる」という状況の場合、“We must do the operation immediately or you may die.”のように表現するのは控えましょう。mustという表現には、「ほかの選択肢を認めない」という強い印象があります。ここでは“This needs surgery now.”や“We need to act quickly.”のようにneedという表現を使いましょう。またyou may dieのようにdieという表現は患者さんに過剰に恐怖を与え、脅しのように聞こえてしまいます。ここでは“Waiting could cause serious damage.”のようにseriousという表現を使うようにしましょう。また“We're not trying to scare you, but we do need to act quickly.”のように「脅すつもりはない」ということを明言することも有効です。
「手術内容の説明」においては、どのような点に注意が必要なのでしょう?
「壊死した腸を切る」という状況で、これをそのまま“We will cut the necrotic intestine.”のようにcutなどの表現を使ってしまうと、人間の身体が物のように扱われているような印象を与えてしまいます。その代わりに“We’ll remove the damaged tissue and repair the area.”のようにremoveという動詞を使いましょう。またrepairという動詞も手術内容の説明の際には極めて有効です。このremoveとrepairは様々な手術の説明の際に使えます。例えばcataract「白内障」の手術内容の説明でも、“We remove the cloudy lens and repair your vision by replacing it with a clear artificial one.”のように使えます。ぜひこのremoveとrepairの2つは覚えておいてくださいね。
そして特に注意が必要なのが「リスクの説明」です。
日本では「出血、感染、他の臓器への損傷、麻酔の際の問題、そして最悪の場合は死亡など、そういったリスクがある」のように、起こりうる問題をすべて列挙する傾向にあります。日本の患者さんは「医療者が合併症をすべて列挙するのは当たり前」という認識でいることが一般的ですが、英語圏の患者さんにはそのような認識はありません。ですから英語圏の患者さんに“There are several risks like bleeding, infection, damage to other organs, anesthesia problems, and even death.”のような説明をすると、恐怖を感じた患者さんが手術に同意してくれない場合もあるのです。では英語圏ではリスクを説明する際、どのような表現を使うのでしょうか?
英語圏では“There are risks like infection or bleeding, but serious problems are rare. We'll monitor you closely.”のような表現を使います。ポイントは「リスクの列挙は最小限に留めること」と「安心感を与える表現を加えること」です。もちろん重要なリスクは口頭でも言及する必要がありますが、英語圏では“Like with any surgery, there are risks such as bleeding or infection.”のような表現に留めることが一般的です。状況によってはすべて列挙する場合もありますが、そのような場合でも必ず“We'll take every precaution to keep you safe and support you through recovery.”のように安心感を与える表現も加えます。また“Most people do well after this type of surgery.”という表現も安心感を与える表現としてよく使われます。このような表現は日本では「雑」な印象を与えるかもしれませんが、英語圏の患者さんはそのような安心感を与える表現を期待しているということを覚えておきましょう。
手術内容を説明した後、患者さんがその内容を正しく理解したかを確認する必要があります。そういった「理解の確認」の際には、どのような英語表現を使えば良いのでしょう?
「わかりましたか?」を“Do you understand?”と表現すると、それはかなり「上から目線」の印象を与えます。一般的に患者さんに「わかりましたか?」と聞きたい場合には“Does it make sense?”という表現を使いますが、informed consentの場面ではこれもやや一方的な表現となります。
「理解の確認」の際にはteach backという手法が有効です。これは「医療者が説明した内容を患者自身の言葉で説明してもらう」という手法です。その際に有効なのが“To make sure we're on the same page, can you tell me in your own words what we just talked about?”という表現です。特にここで使われているwe're on the same pageという表現は「我々が同じページにいる=我々が同じ書類の同じページを見ている=我々が同じ認識でいる」という意味の表現で、teach backの際にはよく使われます。これとよく似た表現として“Can you walk me through what you understood?”というものもあります。このwalk me throughには「順を追って私に説明する」や「私と一緒に確認する」という意味があります。ですからteach backの際には“I want to be sure everything’s clear. Could you walk me through what you understood, just so I can make sure I explained it well?”と患者さんに伝えると良いでしょう。
最後に「質問の受け入れ」に関する英語表現を見ていきましょう。
「質問があればいつでもお気軽に聞いてください」という意味で“If you have any questions, please feel free to ask anytime.”と表現してしまうと、非常に定型的・事務的な印象を与えてしまい、患者さんは実際には「質問しにくい」と感じてしまうでしょう。
ですから患者さんにはまず“Is there anything unclear?”のような表現を使いましょう。日本では患者さんが質問をすることはそれほど多くはありませんが、外国人の患者さん、とりわけ英語圏の患者さんは些細なことでも質問をすることが一般的です。ですから「質問はあるものだ」という前提に立ち、“Do you have any questions? It’s important you feel okay with this plan.”のような質問を促す表現を使いましょう。このほかにも“What's on your mind right now?”という表現も、患者さんの感情に寄り添う印象を与えます。また“I know this is a lot to take in, so please ask anything. There are no bad questions. We’re here to help you feel confident in the decision.”という表現も有効です。この“There are no bad questions.”は、臨床場面に限らず、質問を促す場面では非常によく使われる英語表現です。患者さんだけでなく、様々な場面で質問を促す際に使えますので、ぜひ使ってみてくださいね。
まずは「病状の説明」における英語表現から見ていきましょう。
ここでは例として「鼠径ヘルニアが嵌頓して、今は絞扼ヘルニアになっている」という状況で考えてみましょう。もちろんこれをそのまま“You have an inguinal hernia which has become an incarcerated hernia and now it’s a strangulated hernia.”のように医学用語を羅列して説明すれば、たとえ英語が母国語の患者さんであってもまったく理解できないことでしょう。「病状の説明」の際には“What's happening is that a part of your intestine is trapped and cutting off blood flow.”のような表現を使いましょう。病状の説明では最初に病名を伝えるよりもこの“What's happening is that…”という表現を使って話し始めるほうが患者さんの理解が高まります。同じような表現として“What we're dealing with is…”のようなものもあります。またincarceratedやstrangulatedのような専門用語ではなく、trappedやcutting off blood flowなど、より日常的で理解しやすい表現を心がけましょう。病名を伝える際には、この後に“This is called a strangulated hernia.”のように“This is called…”という表現を使って伝えるようにしましょう。
次に「緊急性の説明」における英語表現です。
「すぐに手術しないと命に関わる」という状況の場合、“We must do the operation immediately or you may die.”のように表現するのは控えましょう。mustという表現には、「ほかの選択肢を認めない」という強い印象があります。ここでは“This needs surgery now.”や“We need to act quickly.”のようにneedという表現を使いましょう。またyou may dieのようにdieという表現は患者さんに過剰に恐怖を与え、脅しのように聞こえてしまいます。ここでは“Waiting could cause serious damage.”のようにseriousという表現を使うようにしましょう。また“We're not trying to scare you, but we do need to act quickly.”のように「脅すつもりはない」ということを明言することも有効です。
「手術内容の説明」においては、どのような点に注意が必要なのでしょう?
「壊死した腸を切る」という状況で、これをそのまま“We will cut the necrotic intestine.”のようにcutなどの表現を使ってしまうと、人間の身体が物のように扱われているような印象を与えてしまいます。その代わりに“We’ll remove the damaged tissue and repair the area.”のようにremoveという動詞を使いましょう。またrepairという動詞も手術内容の説明の際には極めて有効です。このremoveとrepairは様々な手術の説明の際に使えます。例えばcataract「白内障」の手術内容の説明でも、“We remove the cloudy lens and repair your vision by replacing it with a clear artificial one.”のように使えます。ぜひこのremoveとrepairの2つは覚えておいてくださいね。
そして特に注意が必要なのが「リスクの説明」です。
日本では「出血、感染、他の臓器への損傷、麻酔の際の問題、そして最悪の場合は死亡など、そういったリスクがある」のように、起こりうる問題をすべて列挙する傾向にあります。日本の患者さんは「医療者が合併症をすべて列挙するのは当たり前」という認識でいることが一般的ですが、英語圏の患者さんにはそのような認識はありません。ですから英語圏の患者さんに“There are several risks like bleeding, infection, damage to other organs, anesthesia problems, and even death.”のような説明をすると、恐怖を感じた患者さんが手術に同意してくれない場合もあるのです。では英語圏ではリスクを説明する際、どのような表現を使うのでしょうか?
英語圏では“There are risks like infection or bleeding, but serious problems are rare. We'll monitor you closely.”のような表現を使います。ポイントは「リスクの列挙は最小限に留めること」と「安心感を与える表現を加えること」です。もちろん重要なリスクは口頭でも言及する必要がありますが、英語圏では“Like with any surgery, there are risks such as bleeding or infection.”のような表現に留めることが一般的です。状況によってはすべて列挙する場合もありますが、そのような場合でも必ず“We'll take every precaution to keep you safe and support you through recovery.”のように安心感を与える表現も加えます。また“Most people do well after this type of surgery.”という表現も安心感を与える表現としてよく使われます。このような表現は日本では「雑」な印象を与えるかもしれませんが、英語圏の患者さんはそのような安心感を与える表現を期待しているということを覚えておきましょう。
手術内容を説明した後、患者さんがその内容を正しく理解したかを確認する必要があります。そういった「理解の確認」の際には、どのような英語表現を使えば良いのでしょう?
「わかりましたか?」を“Do you understand?”と表現すると、それはかなり「上から目線」の印象を与えます。一般的に患者さんに「わかりましたか?」と聞きたい場合には“Does it make sense?”という表現を使いますが、informed consentの場面ではこれもやや一方的な表現となります。
「理解の確認」の際にはteach backという手法が有効です。これは「医療者が説明した内容を患者自身の言葉で説明してもらう」という手法です。その際に有効なのが“To make sure we're on the same page, can you tell me in your own words what we just talked about?”という表現です。特にここで使われているwe're on the same pageという表現は「我々が同じページにいる=我々が同じ書類の同じページを見ている=我々が同じ認識でいる」という意味の表現で、teach backの際にはよく使われます。これとよく似た表現として“Can you walk me through what you understood?”というものもあります。このwalk me throughには「順を追って私に説明する」や「私と一緒に確認する」という意味があります。ですからteach backの際には“I want to be sure everything’s clear. Could you walk me through what you understood, just so I can make sure I explained it well?”と患者さんに伝えると良いでしょう。
最後に「質問の受け入れ」に関する英語表現を見ていきましょう。
「質問があればいつでもお気軽に聞いてください」という意味で“If you have any questions, please feel free to ask anytime.”と表現してしまうと、非常に定型的・事務的な印象を与えてしまい、患者さんは実際には「質問しにくい」と感じてしまうでしょう。
ですから患者さんにはまず“Is there anything unclear?”のような表現を使いましょう。日本では患者さんが質問をすることはそれほど多くはありませんが、外国人の患者さん、とりわけ英語圏の患者さんは些細なことでも質問をすることが一般的です。ですから「質問はあるものだ」という前提に立ち、“Do you have any questions? It’s important you feel okay with this plan.”のような質問を促す表現を使いましょう。このほかにも“What's on your mind right now?”という表現も、患者さんの感情に寄り添う印象を与えます。また“I know this is a lot to take in, so please ask anything. There are no bad questions. We’re here to help you feel confident in the decision.”という表現も有効です。この“There are no bad questions.”は、臨床場面に限らず、質問を促す場面では非常によく使われる英語表現です。患者さんだけでなく、様々な場面で質問を促す際に使えますので、ぜひ使ってみてくださいね。