山内
内藤先生、無症状、かつ一般的な生化学血液データではなかなか糸口が見いだせないケースということで、お話をお願いしたいと思います。このような例や不明熱は総合診療科の医師の腕の見せ所といえますが、やはりなかなか難しいものでしょうね。
内藤
そうですね。特にリンパ節腫脹は腹腔内に起きると、簡単に生検というわけにもいきませんので、先生がおっしゃるとおりで、診断としては非常に難しいことがあります。
山内
まずこのような状態が出てくると、どこから手をつけていいのかわからずに困ると思います。特に何に注目して検査を進めていくのかをうかがいたいのですが、まず、どのような疾病が多いのでしょうか。
内藤
非常に重要な点で、やはり我々としてはCommonのものを見逃してはいけないですし、加えてポイントにしているのはCriticalかどうか、命に関わるものかどうかというところですね。
さらには、現実的な問題として、治せないものよりはCurable、つまり治せるものを念頭に置いています。私たちが3Cと呼んでいる、Common(コモン)でCritical(クリティカル)な、Curable(キュラブル)なものという3つのCを大事にして、見つけにいくことが多いです。
代表的なものは感染症になると思いますが、リンパ節の腫脹だけで感染症が出るのはそんなに多いことではありません。その中でも私たちが今、3Cを大事にしながら絶対に除外しなければいけないと学生に教えているものは、HIV、結核、梅毒です。
山内
感染症としては例えば熱発しないなど、サイレントな感じのものが多いと考えてよいでしょうか。
内藤
おっしゃるとおりです。感染症というのは、普通は熱が出て1~2週間が勝負になりますが、例えば1カ月以上症状が続いたり、今回みたいに偶発的にリンパ節の腫脹で見つかるということになると、特殊な感染症を考えたほうがいいと思います。そうすると今の3つが大きなポイントを占めると思います。
山内
リンパ節腫大といいますと、すぐ悪性リンパ腫をイメージしますが、これに関してはどういった場合でしょうか。
内藤
悪性リンパ腫は非常に診断が難しく、最終的には組織検査になるわけですが、一つは、血球の検査値に異常があったり、発熱があって、いわゆる血球貪食症候群のような状況になっていなければ、2週間ほど待てることが多いです。
なので、今回のようなリンパ節腫脹を見つけると、経験が浅い研修医などはかなり焦って、いろいろな検査をしてしまうのですが、落ち着いて2週間ぐらいで、もう一度おなかのエコーなどで再検査するのは、一つの方法としてありうると思っています。
山内
結局、何か見つかるのでしょうか。それとも見つからないケースもけっこうあるのでしょうか。
内藤
実際には、特に原因が見つからず、おそらく子どもの頃の、例えば炎症の影響や、非特異的なものがリンパ節の腫脹には多いです。ただ、そういった場合も多くは小さくなりますので、増大傾向がないかどうかを慎重に見る勇気も必要かと思います。
反面、悪性リンパ腫あるいはほかの悪性腫瘍というのは絶対に除外しなければならないものですので、大腸ファイバー、胃カメラなど消化管の検査を欠かしてはいけないと思います。
山内
そういったものを念頭に置き、内視鏡は必須として、いろいろなスクリーニング検査が終わった次のステップで何をするかといっても、検査は無数にあります。例えばウイルスにも多くの種類がありますので、どこを優先的にチェックしていくか、その辺りを教えてください。
内藤
血液の検査でリンパ節腫脹の原因を深追いすると危ないことが多くて、我々もいろいろな炎症で上昇する可溶性IL-2レセプターには何度も惑わされた経験があります。ただ、少なくても1回は測定してもいいとは思います。
あとは、意外と私たちは乳酸脱水素酵素(LDH)を信じていまして、「LDHは嘘をつかない」などという不文律もあります。LDHが本当に上がっているときにはやはり何かあるのではないかなと思います。
もう一つ、総合診療医がよく行う検査は、やはりCRPよりは赤沈(ESR)ですね。CRPは些細なことで上がったり下がったりし、本当に大事なときにはむしろ上がらなかったりします。ESRが上がっていれば本当に何かありますので、測定する価値があるかと思います。
山内
あと、見逃せない感染症についてもう一度詳しくお話をうかがいたいのですが、どういった病気になるのでしょうか。
内藤
特に結核はあり得ますね。今回の症例でもサイレントに進行している可能性がありますし、若い頃の結核が顔を出している可能性も考えられますので、結核の除外というのは難しいですが、必要なところかと思います。
山内
それ以外の感染症といいますと、最近はやっている梅毒が出てくるのでしょうか。
内藤
梅毒はすごい勢いで増えていて、高齢の男性も梅毒で受診されます。高齢の方だからがんだろうと思い込んでいたら実は梅毒であったり、同様にHIVも今、高年齢化していますので、そういった性感染症というのは大事な鑑別かと思います。
山内
今挙げられた3つの感染症は、比較的サイレントといいますか、あまり熱発しないことも多いと思いますので、よけいに可能性としてあるのでしょうか。
内藤
そうですね。血液検査でもあまり異常が出なかったり、結核でも必ずしも肺に異常があるわけではないので、そういった点からみても、この3つの感染症は非常に重要かと思っています。
山内
次に、腫れているリンパ節の部位について教えてください。どの辺りとか、たくさん腫れているのか、あるいはサイズとして小さいのか大きいのか、この辺りも一応念頭には置かれますか。
内藤
おっしゃるとおりで、例えば表面の傷などで腹腔内の1個のリンパ節が腫れることがありますが、それが一つのリンパ節の腫脹なのか、2個以上の多発リンパ節腫脹なのかは非常に重要なポイントです。多発の場合には悪性リンパ腫、あるいはウイルス感染症を考えることになります。
もうひとつ、リンパの流れも意外と私たち内科医は普段あまり気にしないことが多いので、それこそ教科書を見ながらでもいいと思いますので、どこから流れてきているリンパ節なのかを判断することで、診断に近づくかと思います。
一例を挙げると腹腔内の動脈の周辺は鼠径部から流れ込むこともあります。例えば精巣がんなどは若い方でもありますので、そういったものを見逃さないことです。
あと、どうしても内科医は婦人科のがんなどに対して、ついつい診断が遅れがちです。婦人科のがんで腹腔内のリンパ節が腫れている可能性もありますので、その点の確認も重要です。
山内
消化管の何かの炎症が近隣のリンパ節を腫らせているというのは、いかがなのでしょうか。
内藤
これももちろん十分にありうると思います。虫垂炎、憩室炎等でリンパ節が腫れていることはあると思いますが、そういった場合はおそらく症状が前面に来ますので、やはり怖いのは進行がゆっくりな悪性腫瘍だと思います。
山内
ということで、最後の一つは経過を見るということだと思いますが、経過にもピンからキリまであります。まずどのぐらいのインターバルで見たらよいでしょうか。
内藤
血球が安定していて全身状態が安定している状況であれば、私は2週間ぐらいかなと思っています。2週間というのは、多くのウイルス感染症が治まってくることが多いため、2週間後にもう一回エコーなどを撮るのは重要かと考えます。
山内
第一段階はわりに短いのですね。
内藤
そうですね。インターバルはだんだんと広げていってもいいとは思いますが、白血病や悪性リンパ腫等では、急激に状況が悪くなることがありますので、2週間というのは一つの目安かなと思っています。
山内
以前は診断的治療、特に感染症を疑った場合、抗菌薬を使うことがあったのですが、これはいかがでしょうか。
内藤
細菌感染症は必ずほかのどこかに顔を出してきますので、それを待ってからでも遅くはないかなと思います。もちろん、心内膜炎などを十分に除外したうえでの判断になりますが。
ただ、結核に関しては我々も本当に最後まで診断がつかなくて、診断が確定しない場合でも、3剤、4剤で治療してみるのは意外とよくあることです。下手に様子を見て悪くなるよりは、結核だけは治療しておこうということは少なくありません。
山内
先ほどの3Cにかなり近い病気だということですね。
内藤
そうですね。キュラブルなものなので、何か大きなことになってから「実は結核だった」と後で判明することは避けたいと考えています。
山内
いろいろと診断を行った挙げ句になかなかわからない、原因不明のものも多いということですが、先生のご経験上、結局のところ、少し大きな正常のリンパ節だったのではないかとか、本当に異常と言い切れるかどうかわかりにくいといったものはありますか。
内藤
こう言っても仕方ないかもしれませんが、やはり組織の検査に勝てるものはありませんので、外科医と相談して最後はどんな検査よりも腹腔鏡、あるいはほかの方法でもかまいませんので、生検するというのが一番の答えかなと思います。その場合には血液内科医と協力して、リンパ節を単にホルマリンに漬けないように、正確な検査をお願いしています。
山内
ありがとうございました。