山内
溶連菌感染症というと、劇症型などすごく怖いものがある反面、非常に軽症で終わる例も多いと考えてよいのでしょうか。
石和田
そうですね。お子さんの溶連菌感染症は、典型的なものは咽頭扁桃炎といって、喉が赤くなって熱が出るといった症状になります。3歳以上は典型的なそういった症状になって、かつリウマチ熱という合併症も多いです。3歳未満はそういう典型的な症状は少なくて、リウマチ熱の合併も少ないので、あまり積極的に検査をしなくていいのではないかということが海外のガイドラインにもありますし、日本でもそういうかたちでこれまで対応してきました。
山内
比較的ありふれた感じで、例えば「風邪かな」ぐらいで終わっているケースも多いのでしょうか。
石和田
そうですね。特に小さなお子さんは保育園に行っていたりして、そこで溶連菌がはやっていると典型的な症状が出る方もいますが、いわゆる保菌というかたちで喉に持っているだけで、風邪がメインということもかなりあると思います。
山内
最近の流行の状況はいかがでしょうか。
石和田
子どもの咽頭扁桃炎は、定点報告といって、全国の小児科定点の医療機関からどれぐらい数が出ているかを調べていますが、新型コロナが流行した後の2024年から大流行して、とても数が増えています。過去最高に近いかたちでの流行が続いていました。
山内
それはお子さんの感染者数でということですか。
石和田
そうです。一方、成人は、先ほど先生がおっしゃっていた劇症型溶連菌感染症といった重症の溶連菌感染症も過去最高に増えています。その原因として、ヨーロッパで過去にはやっていた株の伝播力と病原性が非常に強くて、その後、世界中ではやったのですが、日本でも今それが原因で劇症型溶連菌感染症が増えました。
山内
お子さんで増えているということと相関関係があるのでしょうか。
石和田
はい。お子さんの劇症型の症状はあまり成人と近くはないのでわからなかったのですが、少し調べてみると、2024年から重症例も増えています。特に重症例に関しては、3歳未満のお子さんでも発症しているケースがあります。溶連菌感染症は、3歳未満のお子さんは起こさないということではなく、非常に重症な感染症を起こす菌ですので、それを念頭に置きながら診療にあたって、必要に応じて検査をしていくことが大事かと思います。
山内
重症化する方は何か基礎疾患がある、薬が関係するなどわかっているのでしょうか。
石和田
A群の溶連菌感染症に関しては、健康な成人の方も感染すると重症化することがありますし、例えば日本では健康なお子さんが膿胸を発症する一番多い原因がA群の溶連菌感染症ですので、基礎疾患があるからかかりやすいということではなさそうな気がします。
山内
なかなかその辺りは難しいですね。
石和田
難しいですね。
山内
最初の質問の結論から言えば、先生のお考えとしては、迅速検査は行ったほうがいいということでよいでしょうか。
石和田
そうですね。咽頭扁桃炎ということであれば、3歳未満のお子さんは、先ほどもお話ししたように、流行期間は喉に保菌しているだけで検査すると出てしまうことから過剰な治療になってしまいますので、軽症であれば必ず検査しましょうということではないのですが、重症例に関しては、溶連菌を疑って検査をして治療することが大事かと思います。
山内
この辺り、ガイドライン上はどうなっているのでしょうか。
石和田
呼吸器のガイドラインは咽頭扁桃炎に対して書いていますので、3歳未満のお子さんは、症状が典型的でなければ、検査は積極的にしなくていいのではないかというかたちになっています。
ただ、重症例に関するガイドラインというのは特に子どもにはありません。これからその辺を明らかにして、診断方針も含めて提言していく必要があると思っています。
山内
ガイドラインはやや昔のところで書かれていますから、最近の流行を考えると、状況に応じて迅速検査は必要だということですね。
石和田
そうですね。そういうことも書いていく必要があるのかなと思っています。
山内
ところで、その迅速検査ですが、感度、特異度については特に少し株が違ってきているといったところも含めて、いかがでしょうか。
石和田
溶連菌の迅速診断キットは、いわゆる培養検査に比べると少し感度が劣るといわれていて、実際に喉に菌がいても抗原では陽性にならないことがありました。
ただ、2024年から、保険が通って遺伝子の検査ができるようになり、この遺伝子検査に関しては短時間で結果が得られ、かつ培養と同じぐらいの感度があるといわれています。そういった意味では、遺伝子検査が普及してくると、非常に感度が高い検査として位置づけられるかと思います。
山内
遺伝子検査は事実上、迅速検査と考えてよいのですか。
石和田
はい。陽性の場合は2~6分で結果が出るといわれています。もちろん専用の機械が必要ですが、新型コロナの検査と同時にできるような機械が入っている施設では検査が可能かと思います。
山内
ただ、片っ端からやってしまうと、少し過剰診療になりますかね。
石和田
そうですね。特に小さなお子さんの場合、流行しているときは、調べると保育園の中で半分ぐらい陽性になってしまうことがあります。無症状の方や症状があまりはっきりしない場合は、特に遺伝子検査はしないほうがいいかと思います。
山内
2番目の質問ですが、再発例や難治例に関してうかがいたいと思います。
石和田
こういうケースは時々相談を受けることがあり、幾つかのことが考えられます。一つは、まずペニシリン成分に対する薬剤耐性菌はありませんので、基本的には飲めば効くということになります。ただ、繰り返す要因としては、まず例えば副鼻腔炎があるといった場合にはどうしても菌が残ってしまい治療がうまくいかないケースもあります。
それから5日間とか10日間とか、薬を飲み続けられるかという問題があります。特にお子さんの場合、嫌がって薬が飲めていないこともありますので、この辺りはきちんと確認して、飲めているかどうかも見ていただいて、しっかり飲んでもらうという指導も必要かと思います。
山内
耐性菌はないといっても、例えば菌が大量にあった場合には、生き残っている菌がけっこう多かったりすることもあるのでしょうか。
石和田
そうですね。溶連菌の中の一部の菌には、組織の中に入ってしまうものがあります。すると、通常のペニシリンやセフェムといった薬が効きにくくなるということも、実験上はわかっています。
そういう菌に対しては、細胞組織内移行性の良いマクロライドなどを使うと、わりとうまくいくのではないかとはいわれていますが、日本の溶連菌のマクロライドの耐性率はけっこう高いのです。薬剤感受性試験は培養してみないとわからないですが、もし繰り返す場合は、培養検査を行って溶連菌の菌自体での感受性を調べ、どの薬だと効くかを確認し、マクロライドが効けば、それを試してみるのも一つかと思います。
山内
ただ、一般的にはペニシリンはよく効くはずです。1週間ないしは10日間きっちり飲んでいただいた場合には、ほぼ効くはずだと考えられています。
石和田
そうですね。あともう一つは、きょうだいに同じような症状があるとか、親御さんが喉が痛くて熱がちょっとあったという場合は、治療をしていったん良くなっても、また家族からもらってしまうケースがあります。場合によっては、家族の症状を聞いて、順番に治療をすることにならないように、一緒に治療をすることで、繰り返しを抑えられるということもあります。
山内
では難治というよりも、何度も何度もかかっているという、そういう感じなのですね。
石和田
そういうこともあります。もう一つは、薬を飲み終わった後の症状がどれくらい典型的なのかも大事です。飲み終わった後にまた調べると、少し症状が残っていることもあります。それを治療する必要はないということもありますから、あまりしつこく調べ続けることはしなくてもいいと思います。
山内
溶連菌に関しては、あまり免疫がつかないと考えてよいのでしょうか。
石和田
溶連菌はタイプがいろいろありますので、そういった意味では1回かかったら一生かからないとか、しばらく間が空くということはありません。免疫をすり抜けるような機構もあるので、その辺も含めて、なかなかワクチンも開発されにくいという部分もあるのかなと思います。
山内
あと、ペニシリンアレルギーの方もいると思います。こういった方々はどうされていますか。
石和田
ペニシリンアレルギーの方に関しては、ガイドラインでは、マクロライドあるいはクリンダマイシンを選択するようにとなっていますが、ペニシリンがだめでもセフェム系の抗菌薬が使えることがありますので、そういったものに切り替えてみることもよいかと思います。決して一つの薬だけではなくて、幾つか別のタイプの薬を使っていただくことで治療がうまくいくことはあるかと思います。
山内
どうもありがとうございました。