ドクターサロン

多田

COPDの診断から治療までということでお話をいただきます。

私が医学部を卒業したときは、慢性閉塞性肺疾患、すなわちCOPDという概念はなく、慢性気管支炎、肺気腫として講義を受けたと思います。先生、まずCOPDの疾病概念から教えてください。

杉浦

COPDの疾病概念としましては、閉塞性換気障害を呈する呼吸器疾患で、病理学的には、末梢気道の線維性の狭窄と肺気腫が特徴です。

現在のガイドラインでは以下のように定義されています。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生じる肺の疾患である。そして呼吸機能検査で気流閉塞を示す。また、この気流閉塞は、末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に関与し、生じると考えられています。

臨床的には、徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳、痰を示しますが、このような症状に乏しいこともあると定義されています。

多田

初期ではなかなかそういう症状がそろわなくても疾病が進行している可能性もあるということですね。

杉浦

おっしゃるとおりです。非常に軽い患者さんはまったく無症状ということも往々にして見受けられます。

多田

そうなると早期診断、早期発見が大事になると思いますが、実際のCOPDの診断について教えていただけますか。

杉浦

COPDの診断は、まずスパイロメトリーを用いて行うというのが大原則です。一般的に、COPDの診断基準として、まずCOPD発症の原因となりうるような長期の喫煙、加齢、遺伝的な素因、幼少期の呼吸器感染症、気管支喘息などの肺の発育不全に関連する危険因子を考慮する必要があります。

このような背景のある患者さんにおいて、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率が70%未満であること、そして喘息などのほかの気流閉塞をきたしうる疾患を除外することとなっています。

多田

そういうことで診断された患者さんに対して、重症度によっても違うと思いますが、治療方法に関して教えていただきたいと思います。

杉浦

治療で最も重要なものは、禁煙です。治療薬としては、主に抗コリン薬、β2刺激薬等の長時間作用性気管支拡張薬が治療の中心となります。

多田

長時間作用性の抗コリン剤、β2刺激薬を使って、症状が出る場合は短時間作用性の薬を使っていくということでしょうか。

杉浦

そのとおりです。安定期の治療薬として最も重要な薬剤は、長時間作用性抗コリン薬で我々はよくLAMAと呼称しますが、これが第一選択です。

続いて、LAMAが使用しづらいような患者さんには、長時間作用性β2刺激薬(LABA)を用います。LAMAやLABAの単剤で症状の改善が不十分な患者さんや、増悪を繰り返すような患者さんでは、LAMA/LABA配合薬を使用します。

これらの配合薬では、呼吸機能の改善はもとより、症状やQOLの改善、増悪の抑制効果などが報告されています。

多田

LAMAとかLABAとおっしゃいましたけれども、Long-actingの頭文字を取った名前ということですか。

杉浦

そのとおりです。

多田

我々はテオフィリン系の薬も使ったことがあるのですが、こういうものは最近はあまり使わないのでしょうか。

杉浦

先生がおっしゃるとおり、症例によってはテオフィリン製剤を使用する患者さんもいます。ただ、ガイドライン的な立ち位置として、LAMA/ LABAといった吸入の長時間作用性気管支拡張薬を使用しても症状が残るような患者さんに対して使用するというのが基本となります。

多田

ステロイド剤はどういうかたちで使えばよろしいでしょうか。

杉浦

吸入ステロイド薬は、気管支喘息には第一選択薬ですが、COPDにおいては特殊なケースで使用します。気管支喘息とCOPDが合併する患者さん(COPD患者さんの約25%)においては良い適応と考えられます。

もう一つの使用方法としては、COPD患者さんにおいて、LAMA/LABA配合薬を用いても頻回増悪をきたす患者さん、そして末梢血好酸球数が300個/μL以上の患者さんにおいては、吸入ステロイド薬(ICS)、LAMA/LABAの3剤を併用して用いるというのが原則です。

多田

よくわかりました。また、杉浦先生は、「COPD診断と治療のガイドライン第7版」作成委員会の委員長とも聞いています。まだ第7版は発表されていませんが、新たなガイドラインの特徴と従来のガイドラインとの変更点について、差し支えのない範囲で教えていただければと思います。

杉浦

まず、第7版のガイドラインは2026年4月に発刊予定です。現在、執筆中でまだ内容は確定していませんが、第7版では、第6版で掲載されなかったクリニカルクエスチョンとして安定期の治療や増悪時の治療に関するクリニカルクエスチョンなどを取り上げる予定です。また、最新のエビデンスを網羅しているというところが特徴です。

多田

より治療しやすいかたちのガイドラインが出来上がるということで、たいへん期待しています。

また、COPDはゆっくり進んでいく病態ということですが、死亡数もなかなか多い。これを国としていかに減らすかということで「健康日本21(第三次)」の中で、COPDによる死亡率の低下を目指しております。これに関連して、「木洩れ陽2032」プロジェクトが立ち上がっているようですが、これについて教えていただきたいと思います。

杉浦

COPDは「健康日本21(第三次)」の対象疾患として2024年認定されています。実はCOPDは第二次でも取り上げられまして、この際には認知度の向上という目標が掲げられていました。

今回の第三次では死亡率の減少が新たな目標として掲げられています。現在の死亡率は10万人あたり13.3人ですが、10年かけてこれを10.0人まで低下させることが目標として設定されています。この目標を達成すべく新設されたのが「木洩れ陽2032」プロジェクトです。

多田

冒頭にも先生からお話しいただいたと思いますが、要は早期発見と重症患者をうまく見つけて、重症化しないようにしていくことかと思います。具体的にはどうすればよいのでしょうか。

杉浦

先生がおっしゃるとおりです。まずはCOPDにおいて早期発見が最も重要と思います。早期に発見して禁煙をし、そして適切な治療薬を処方することによって患者さんの症状や疾患の進行の抑制が図れると思います。

早期発見はスパイログラムを用いて行えれば一番良いのですが、簡易な質問票等を用いてCOPDを診断し、その後に専門医にご紹介いただく。そして診断と初期治療について決定いただくというのが骨子となっています。

多田

重症化予防も大事な点だと思いますが、実際、重症化予防の手段というのはどういうことか、また何を見つけていけばいいかについて教えてください。

杉浦

まずは、重症化予防をする手段として重要なものは禁煙とワクチンです。例えばインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを使用します。

また先ほど申し上げました長時間作用性気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を適切に使用することによって、増悪の予防と疾患の進行抑制が達成できると思います。

多田

以降、合併症についての話題で話していただく回もありますが、実際、内科的な治療と同時に、外科的な治療もあるという話も聞いています。こういった適応に関してはいかがでしょうか。

杉浦

以前は外科的な治療も活発に行われていて、最重症の患者さんに対して、肺容量減量術という手術が行われていました。一方で、昨今は吸入薬が進歩し、患者さんの症状やQOLがかなり改善するようになってきました。肺容量減量術に関しては、手術の標的となる部位がはっきりしているような患者さんで、極めて重症例に対して使用するというのが一般的です。

多田

要は、当面は薬物療法をしっかりやっていく、その機会を失わないようにしていくことが大事ということですか。

杉浦

そのとおりです。

多田

たいへんわかりやすいお話をありがとうございました。