ドクターサロン

藤城

COPDの合併症のお話をうかがいます。まず多賀谷先生、簡単におさらいですが、COPDとはどのような病気でしょうか。

多賀谷

COPDはタバコの煙を主とする有害物質を長期間吸入曝露することによって生ずる肺疾患です。呼吸機能のうち吐く力が弱くなる、つまり気流閉塞を示す病気で、末梢気道病変タイプと気腫病変タイプがあります。以前は慢性気管支炎、肺気腫と分けていましたが、実は1人の患者さんで、その両方の病変が様々な割合で複合的に関与していることがわかってきました。

あと、最近わかってきたのは、生まれたときに低出生体重でその後小児期に肺炎を繰り返しているお子さんも、将来的にCOPDになってくるということで、炎症性疾患だけれども肺の発育障害にも関係しています。または遺伝的要因として、α1-アンチトリプシン欠乏症などがありますが、それは本当に少ないです。主には有害物質を長時間吸っていることでCOPDのリスクが高くなります。

藤城

それでは、本題のCOPDの合併症についてうかがいたいと思います。どのようなものが知られているのでしょうか。

多賀谷

まず肺に関係する合併症としては、喘息、肺がんがあります。それから、肺の上部に気腫化があって、肺底部のほうに線維症があるという気腫合併肺線維症があります。そういう患者さんは肺高血圧症を合併したり、肺炎を繰り返して気胸になったりすることがあります。

最近は全身への併存症が問題になっていて、心血管障害の患者さんがとても多いです。あとは骨粗鬆症や栄養障害です。日本と欧米のCOPDのタイプは少々違います。日本のCOPDの患者さんは痩せ型で、肺気腫タイプがほとんどですが、欧米はまったく違って太っていて慢性気管支炎タイプがほとんどです。日本の患者さんは栄養障害や最近問題になっているサルコペニアやフレイルといった患者さんで不安や抑うつ傾向がみられることがあり、また、糖尿病も併存症として挙げられます。

藤城

ではまず肺に関係する合併症の中でも特に注意すべきものについて教えていただけますか。

多賀谷

やはり、COPDといいますとタバコ病、タバコといえば肺がんで、COPDの患者さんでは肺がんを合併するリスクが高いです。非喫煙者に比べてリスクが約3倍あり、喫煙を除外してもCOPDは肺がんの独立した危険因子です。そのためCOPDにおける肺がんの合併率は6%程度といわれていますが、治療が困難になる患者さんがけっこう多いです。どんながんでも同じですが、早期発見、早期治療が重要になってきます。

藤城

COPDに合併する肺がんと合併しない肺がんの特徴に違いはあるのでしょうか。

多賀谷

COPD合併の肺がんの患者さんは喫煙の曝露が多いことから、扁平上皮がんや小細胞がんが多いです。小葉中心性の肺気腫の患者さんはがんの合併率が高くなりますし、気腫合併の肺線維症では下の肺線維症のところにがんができても見つかりにくいです。

藤城

COPDに合併する肺がんを早期に発見するためにはどうしたらいいですか。

多賀谷

これはほかの患者さんでも同じですが、やはり毎年検診を必ず受けることです。早期発見が大事で、症状が出たときにはもう遅いので、必ず検診を受けていただくことが大切です。

それから先ほどお話ししたように、心血管系のリスクが高い人が多いので、血圧が高い人も肺がん検診やCTを行っていただきたいです。肺気腫の人はちょっとした白い影も見つかりやすいので、1年に1回、レントゲンでもいいので定期的に検診を受けていただくことが重要です。そのときにオプションがあれば、CTを受けていただくと早期発見につながると思います。

藤城

COPDに合併する肺がんの治療で注意することはありますか。

多賀谷

肺がんが早期発見できたCOPDの患者さんで、手術に回そうと思ったときに、肺機能が悪くて手術できないということがあり、本当に残念です。COPDがなければ、手術できて、5年生存率も良かったのにという方が、肺機能が悪いので手術できない。ある程度の肺機能があれば手術前に吸入治療ができます。まず肺機能を良くして治療に向かうということを、外科医とも一緒にやっています。肺がんの治療には早期においても禁煙が大事です。肺がんが見つかる前に禁煙してほしいのですが、見つかったら必ず禁煙をして、きちんとCOPDの治療をしながら肺がんの治療を受けるのが重要です。

藤城

続いて、全身への影響、併存症についてうかがいたいと思います。骨粗鬆症が多いようですね。

多賀谷

実はそうなのです。骨粗鬆症は欧米ではCOPD患者さんの約35%で併存しているといわれています。日本ではなかなか調べられにくいので、日本の報告では幅がありますが、18%から8割近く合併しているのではないかといわれています。

先ほどいいましたように、COPDは全身の炎症性疾患です。決してタバコを吸っているから肺だけというわけではなくて、血清のTNF-αやIL-6など、炎症性サイトカインがすごく高くなっています。

そういうサイトカインは骨の形成を抑制し、ビタミンDの障害が出てきます。最近、整形外科からご指摘がありましたが、私たちはCOPDの人のビタミンDを測定して、骨粗鬆症がないかを確認して、ビタミンDを早く導入しようと検討しています。肺疾患にもビタミンDが良いといわれていますので、今は早期からそういう検査、治療の介入を行うことがいわれています。

藤城

私の専門分野である炎症性腸疾患でもビタミンDの有用性がいわれています。

あとは心血管疾患が多いようなので、その辺りについても教えていただけますか。

多賀谷

やはりこれもタバコの害といいますか、血管内皮細胞の障害があります。そして動脈硬化が進みますので、心筋梗塞などはCOPDがない患者さんの6~7倍になります。そして全身性の炎症ということで、先ほどお話ししたIL-6とか、高感度CRPも高いですね。

今までは、全身に炎症が回ることで併存症が起きる、spill-over説がいわれていたのですが、最近では、それだけではなくて、患者さんが苦しいから動かない、そのために身体活動性が落ちることが炎症には良くないといわれています。

藤城

そうしますと、運動で体を動かしたほうがいいのでしょうか。

多賀谷

はい。先生のおっしゃるとおりで、歩く歩数が多い人ほど、CRPやIL-6の値が下がってくるというデータが出ています。

藤城

あとは抑うつ症状の方も多いのでしょうか。

多賀谷

COPDの患者さんは、苦しくて動けない。皆さんと一緒に出かけたいけど、苦しいので一緒に歩けないなど呼吸困難感による生活的な障害があるので、そういうものが一つの原因だろうということです。

あとは、頭部のMRIで海馬を見ると、海馬が薄くなって、容積が減ってくることが報告されています。それが認知症にもつながってくると考えられます。動かないことで全身の炎症が波及して、うつにもなるし、認知症気味にもなるという悪循環が起きます。

藤城

機能の問題だけでなくて、脳に器質的な変化も起こってくる感じでしょうか。

多賀谷

はい。それが最近、わかってきました。

藤城

あとは、糖尿病の患者さんも多いのでしょうか。

多賀谷

そうですね。COPDは高齢の患者さんに多いのですが、全身性の炎症でインスリン抵抗性になってくると膵臓にも影響が出てきてメタボリック症候群になります。さっきお話ししたように、日本の患者さんはわりと少ないのですが、欧米の患者さんで少し太っているCOPDの息切れのタイプでは20%程度と高率に糖尿病を合併するといわれています。

日本の患者さんは、どちらかというと酸化ストレスによって筋肉のタンパク量が減ってきて、フレイルやサルコペニアになるほうがリスクとしては多いと思います。

藤城

私が専門にしている消化器関係の合併症はありますか。

多賀谷

実は胃潰瘍や十二指腸潰瘍は少しストレスもあるのですが、結局、局所の血流が悪いので低酸素状態になるといわれています。あと炭酸ガスが溜まってくるので、それも血流障害になって潰瘍になりやすくなるのだろうとされています。

あとは胃食道逆流(GERD:ガード)があると、痩せ型で、逆流して食欲も低下しますし、それが誤嚥性肺炎などを引き起こすので、意外とPPIなど胃酸を抑える薬を飲んでいるCOPDの患者さんもいます。

藤城

そうなんですね。そうしたら消化器内科の外来を受診したり、上部消化管内視鏡検査なども受けていただくといいのかもしれませんね。

多賀谷

そうですね。

藤城

ありがとうございました。