ドクターサロン

齊藤

間質性肺疾患の前編ということで診断および分類について教えていただきます。まず間質性肺疾患はどういったものでしょうか。

荒屋

間質性肺疾患は、いわゆるびまん性肺疾患とかなりオーバーラップする病態です。びまん性肺疾患というのは、両方の肺にその病変が及ぶような疾患ですが、特に肺胞壁の炎症や線維化が非常に強いものが間質性肺疾患になります。

齊藤

疫学的には、どのようなことがわかっていますか。

荒屋

実は近年、死亡者数が非常に増えてきているといわれています。例えば厚生労働省の人口動態統計の報告を見ても、2020年は1万9,215人だったものが、2023年には2万3,874人になっていて、全体に見る主な死因の中でも11番目なので、日本人の死因としても非常に重要な疾患であると認識されてきていると思います。

齊藤

分類はどうですか。

荒屋

非常に多岐にわたっていて、200以上の疾患が含まれていると考えられています。その中で頻度的にも重要度が高いのが膠原病に伴うもの。あとは薬剤性、もう一つは過敏性肺炎があり、その中でも非常に重要で大きな位置を占めているのが、原因不明の間質性肺炎すなわち特発性の間質性肺炎になるかと思います。

齊藤

症状、あるいは診断の過程はどうですか。

荒屋

症状としては、やはり呼吸器症状としての咳ですね。特に痰があまり絡まないような乾性咳嗽や、労作時の呼吸困難が非常に多いです。特に空咳は、初診時では非常に多く、50~90%に認められるといわれていますし、身体所見の聴診でいわゆるファインクラックル、捻髪音を聴取することが非常に大事で、しっかり背中を聴くことが診断上非常に重要です。

あとはバチ指と言いまして、指の先、爪のあたりが少し丸くなってきて太鼓のバチのように見える。これがある種の間質性肺炎では半分ぐらいに認められるともいわれています。

齊藤

臨床医は、そういった症状の患者さんが見えた場合には聴診したほうがいいのですね。

荒屋

そうですね。しっかり聴診していただいて、空咳があって、歩くと息苦しいという症状がある場合には、間質性肺炎も頭に置いていただく必要があります。

齊藤

どういったことを検査しますか。

荒屋

まずは画像診断としてレントゲンを行っていただくのが基本だと思います。特に両側の肺底部、横隔膜の上あたりのラインがきれいに見えるかどうかに注目をして、胸部のレントゲンを見てください。

あとは肺のボリュームがどうかも重要かと思います。そこでおかしければ、CTがあればCTを撮り、CTがなければ血清学的検査(血液検査)をまず行っていただくのが重要だと思います。

その中でも、日本で開発された間質性肺炎のバイオマーカーであるKL-6は肺胞上皮が産生するものですが、これが血液中で上がっていないか。それ以外にもSP-D(肺サーファクタント蛋白)やSP-A、さらにはLDHが上昇していないかはチェックしていただく必要があると思います。

齊藤

次は専門医に紹介か、画像センターでCTでしょうか。

荒屋

そうですね。現在、高分解能CTであるHRCTがありますが、これは診断に非常に重要です。病変の分布だけではなく、病変の性状である線維化を非常に細かく評価することができますので、間質性肺炎の診断においてはゴールドスタンダードになると思います。

齊藤

その後は呼吸機能検査になりますか。

荒屋

はい。我々は、呼吸機能検査としての拘束性障害、つまり肺が硬く小さくなっていないかと、もう一点、DLCO(肺拡散能)というものに注目しています。肺拡散能というのは、酸素が肺胞の中の空気から毛細血管の中にどのぐらい速やかに移行できるかの指標です。間質性肺炎は間質が厚くなることによって酸素が毛細血管へ拡散することが障害されているので、これは非常に鋭敏な指標になると思います。

齊藤

それから気管支鏡検査もかなり進歩しているそうですね。

荒屋

おっしゃるとおりで、従来、気管支鏡で取れる肺の組織というのは非常に小さかったので、診断的にはあまり期待していなかったのです。ただ、近年、クライオバイオプシーというのが出てきてプローブの先が凍結してかなりの量の肺の組織が一度に取れる検査が発達してきました。以前に比べると、気管支鏡で肺の組織を取るクライオバイオプシーの有用性が向上してきているので、気管支鏡を行って組織を取る診断的意義は上がってきていると思います。

齊藤

肺胞洗浄液というのが使えるのですか。

荒屋

はい。これは組織よりも、より一般的に行われている検査ではないかと思いますが、1回50㏄ぐらいの生理食塩水で3~4回ぐらい肺の中を洗います。そこで取られる細胞の数や分画によって、診断およびステロイドなどの治療の有効性を測る意味があります。ですから、例えば好酸球が多ければ好酸球性肺炎という診断をすることもありますし、診断的意義に加えて、間質性肺炎の中でもリンパ球が非常に多くなっている場合には、ステロイドが効くのではないかというようなかたちで、治療の有効性の予測という意味合いもあると思います。

齊藤

多岐にわたる分類についてご説明いただけますか。

荒屋

非常に多くのものがありますが、その中でも原因がわからない方が非常に多くいます。そういう方は、基本的には特発性間質性肺炎と分類されていて、大きく6つの分類、まれなものとして2つ、分類できないものは1つというかたちに分けられています。

その中で最も頻度が多くて、最も重症度が高いのが特発性肺線維症(IPF)だと思います。特発性間質性肺炎は、それぞれに対応する病理像があり、それぞれに特徴的な病理像を呈したものを特発性の中の1つの間質性肺炎として分類するのですが、それぞれ予後、経過、治療反応性は異なるという特徴があります。

もう一つ非常に多いのが膠原病で自己免疫性の疾患に伴って肺病変が起こってきます。それが特発性間質性肺炎と類似した病理像を呈してくる。特発性間質性肺炎には肺線維症や、それ以外に非特異性間質性肺炎(NSIP)や器質化肺炎などいろいろなものがありますが、それと同じような病理像を呈してくることがわかっています。

もう一つ、臨床的に非常に重要なのは過敏性肺炎です。これはカビや鳥由来の蛋白を吸い込むことによって、肺において、Ⅲ型(免疫複合体)、Ⅳ型(細胞障害性)などの免疫反応によって起こる肺障害、いわゆる過敏性肺炎というものになります。

日本では夏型の過敏性肺炎、カビの一種であるトリコスポロン・アサヒで起こってくるものが、急性の過敏性肺炎としては多いです。鳥に関しては、線維化するような慢性的な間質性肺炎として成り立つことが多いです。

ですから、特発性のもの、膠原病、過敏性肺炎、あとは薬剤によるものなど、いろいろなものが間質性肺炎を引き起こして臨床的に非常に重要な分類になると思います。

齊藤

それから、特発性肺線維症についてご説明いただけますか。

荒屋

特発性肺線維症は非常に予後が悪い疾患で、2003~2007年に北海道で行われた全国の調査、いわゆる全例調査の結果で見ると、生存期間中央値は35カ月、約3年で半分ぐらいの方は亡くなってしまいます。肺の下のほうからどんどん線維化が進んでいって、CT画像でいうと蜂巣肺という本当に蜂の巣のようになって肺が硬くなってしまう病気です。そのうち40%ぐらいの方は急性増悪で亡くなってしまう病気で、原因がわかっていないところが非常に大きな問題だと思います。

以前は有病率は10万人当たり10人程度と報告されていましたが、最近の調査では日本においても10万人当たり20~25人と有病率が増えてきています。やはり胸部の画像診断を含めた診断精度の向上と、あとは今回のテーマではありませんが、肺線維症に対する治療薬が出てきたことによって、従来と違って治療できる、または治療すべき疾患であるという認識が医療者の間で広がっていったということが、結果的に有病率の増加につながっているのだろうと思います。

齊藤

最近、重症度分類がアップデートされたそうですね。

荒屋

はい。「難病の患者に対する医療等に関する法律」の改正が2024年4月1日に行われ、非常に重要なポイントを含んでいます。従来、かなり重症な人、つまり重症度がⅢ度、Ⅳ度の方もしくはそのちょっと手前、Ⅱ度でも、体動時、6分間歩行において酸素飽和度が90%を切る方は公費助成の対象でした。ですから、軽症の方は、すぐには助成の対象にならず、薬の値段が非常に高くなり、その恩恵にあずかれないという問題点がありました。実はⅠ度の方、軽症の方でも、必ずしも予後は良くないこともわかっていたのです。

そのため、その後の検討で、軽症、Ⅰ度であったとしても、6分間歩行で酸素飽和度が90%を切るような場合には非常に予後が悪いので、積極的に治療すべきだということになりました。今回Ⅰ度の方であっても、6分間歩行での酸素飽和度の低下のある方はⅢ度に、そして公費助成の対象になったのは、非常に大きな進歩だと思われます。

齊藤

どうもありがとうございました。