ドクターサロン

池脇

粒子線治療は放射線治療の一つの柱で、現在日本の粒子線治療施設は、陽子線が20施設、重粒子線が7施設と北海道から九州まで広がってきており、保険適用疾患も増えてきました。まず、粒子線治療の利点を教えてください。

石川

粒子線治療は、今お話にあった放射線治療の一つです。一般的に放射線治療といいますと、X線を用いた放射線治療が行われています。

X線の治療というのは、X線が光の特徴を持っているので、体に入ると皮膚の直下でピークを迎えて、だんだん減弱しながらがんの病巣に照射され、さらにその奥まで次第に減弱しながら体を突き抜けていくという特徴があります。一方、粒子線治療は粒の放射線治療です。粒なので、あるところで止めることができます。止まったところで最大のエネルギーを発揮できるので、周りの臓器に比較的影響を与えずに、がんの病巣に集中して放射線を与えるのが最大の特徴です。

そのために、放射線治療で最も問題になっていた、腫瘍の周りの副作用に対して、それをあまり発生させずに治療ができるといった特徴があります。

池脇

ピンポイントで、粒子の持っているエネルギーを放出してがん組織を破壊するので、従来のX線治療よりも優れていますね。ただ、粒子を発生させる装置がたいへんそうだなと思いますがどうでしょうか。

石川

そうですね。重粒子線治療も陽子線治療も、大型の加速器を使って、陽子線ならば陽子を、重粒子線であれば炭素というイオンを光の7割ぐらいまで高速に加速して照射を行うというシステムを取っているので、どうしても大きな施設が必要です。

とりわけ重粒子は重たい粒子を扱わなくてはいけないので、当初、我々の施設に入ったHIMACという装置は、サッカーコートぐらいの大きさです。これには光熱費や水道代、いろいろな修理、メンテナンスの費用も非常にかかるため、少しずつ小型化の研究も進んでいる状況です。

池脇

サッカー場から体育館、さらにテニスコートぐらいの大きさになっている。そういったことも、日本中に広がりつつある一つの大きな要因なのでしょうか。

石川

おっしゃるとおりです。国土の狭い日本では特にコストが削減されると同時に、施設が小型化するということは導入のしやすさにつながります。その研究開発を我々の施設であるQSTが、以前は放射線医学総合研究所という名称でしたが、そこで研究開発してきて、少しずつ小型化が実現できているということです。

池脇

先生の施設は、ただ単に治療するのではなくて、そういった装置の開発までやっているのですね。海外から装置を輸入しているのかと思ったのですが、国内で開発されているのですね。

石川

はい。重粒子線治療の施設に関しては、日本が世界のリーダーで、逆に日本から海外に機械を輸出しています。

池脇

日本が世界のトップランナーなのですね。さて、10年ほど前に先生からお話をうかがったときは保険が利くがんがほとんどなかった時代でしたが、それ以降だいぶ増えていますよね。

石川

はい。当初は先進医療ということで、患者さんご自身の負担で高額な医療費を払って受けざるを得なかったのですが、2016年から段階的に保険適用になり、現在その適用疾患が拡大されて10以上の疾患に応用できるようになっています。

池脇

保険診療が増えたことで、患者さんの負担は全然違いますね。

石川

そうですね。先進医療から保険診療に変わることによって、患者さんがアクセスしやすい治療にすることが実現できたと思っています。

池脇

陽子線治療と重粒子線治療の適用疾患はけっこうオーバーラップしていますね。重粒子線のパワフルな治療が必要ながんもあるけれども、幾つかのがんはどちらを使っても同等の治療効果があると考えていいでしょうか。

石川

はい。幾つかの疾患では陽子線治療、重粒子線治療とも、ピンポイントにそこに当てることで、その治療が完結するような疾患に関しては、ほぼ同等の効果と考えられます。

一方で、通常の放射線が効きにくいような疾患に関して、それは疾患特異性がある、あるいは大きな腫瘍で酸素が少ない腫瘍に関しては、放射線がどうしても効きづらくなってきます。そういったものに関しては重粒子線治療のほうがやや勝るという結果が、研究的にも臨床成果でも少しずつ出ています。

池脇

がんのステージや腫瘍の大きさに合わせて喉頭から骨盤までのがんに対して、保険適用が増えていますね。早期の肺がんは1日で治療が完結するのですか。

石川

はい。重粒子線治療の特徴でもありますが、回数を少なくして短期間に治療するのに向いた放射線治療です。

肺がんのような疾患に関しては1日1回、肝臓がんに関しては2回という非常に短い治療期間で治療を完結することもできるようになりました。

池脇

もう少し時間のかかる治療でも、働きながらの治療も可能でしょうか。

石川

はい。多くの疾患で、患者さんは通院で治療しています。以前は治療期間が長かったこともありますし、重粒子線の治療施設が1施設、あるいは2施設ぐらいしかなくて、全国から患者さんが来ていたので、どうしても入院での治療になりましたが、今は全国に7施設あるのでアクセスしやすい治療になりましたし、期間も短くなったので通院で治療が受けられるようになってきています。

池脇

確かに北海道から九州まであって、関東圏は比較的施設が多いようですが、どこにいてもアクセスが悪いという状況ではないように思います。

石川

少しずつ粒子線治療全体の施設数が増えてきて、重粒子線でいうと7施設、陽子線でいうと20施設で治療ができるようになりました。一部の地域を除いてほぼ各地域に粒子線治療施設がありますので、そういった意味では受けやすい治療になったといえるかと思います。

池脇

最初に抗がん剤治療でがんを小さくした後に放射線治療も行われています。ほかの治療法との併用の場合、先生方自身でやるのか、ほかのがんの治療施設と一緒にやるのか、どちらが多いのでしょうか。

石川

私どもの施設に関しては放射線治療のみの診療科ですので、基本的に併用療法を使うときには近隣の医療機関とタッグを組んで、共同研究などのようなかたちで実際の治療を行うことが多いです。

ただ、群馬大学や山形大学など、大学の機関に関してはその中で完結できるので、そういった併用療法はしやすいと思います。

池脇

現状に関しては先生がおっしゃったように、日本である程度は施設や保険適用のがんの種類も増えてきました。今後の展望についてはどうでしょうか。

石川

国内の治療施設でいいますと、陽子線治療のほうが扱いやすいというところがあります。それは、従来のX線に置き換えて陽子線治療が使えるからです。

一方で重粒子線治療というのは、どちらかというと先ほど申しましたように、放射線が効きにくいがんが対象になることが多いものですから、施設としてはそれほど多くなくても対応できると思っています。

池脇

臨床試験で知見を積み重ねて、より多くのがんで粒子線治療の恩恵を受けられるようにチームジャパンとしてやっているのでしょうか。

石川

私たち重粒子線治療の研究組織のことをJ-CROSといっていますが、陽子線治療の研究組織としてはProton NETというグループがあります。

それらを統括する粒子線治療全体のグループとして、今、日本放射線腫瘍学会がグリップして、両方の臨床研究、あるいは保険収載に向けた活動を推進しています。

私もその学会のメンバーです。今は保険診療としてこの粒子線治療が国民の皆さんに広く提供できるように活動していますが、個々の活動もありまして、やはり重粒子線治療に向いた疾患とか、やらなくてはいけない併用療法の開発などもあります。

陽子線治療はX線の置き換えですので、多くのチームが集まって臨床研究していますが、独自の研究もされています。それが両方、別々というかたちではないのですが、全体的には一緒で、そして細かいところは別々で研究活動をしているという状況です。

池脇

ありがとうございました。