ドクターサロン

池脇

今回、食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の質問をいただきました。どのような病気なのでしょうか。

森田

この病気は食物アレルギーの一種といわれています。一般的な食物アレルギーは皮膚や呼吸器に症状が出ますが、そういう症状がなくて、嘔吐や下痢という消化器に症状が出るタイプの食物アレルギーといわれています。

池脇

アレルギーだけれども、皮膚、呼吸器といったIgEが関与するものとは少々違うのですね。乳幼児がおなかが痛いとか、嘔吐する病気ということですが、患者数は増えているのでしょうか。

森田

はい。この病気は今、日本では非常に患者さんの数が増えているといわれています。一般的な食物アレルギーと違って、食べた後、2~3時間経過してから嘔吐が出るため食物との関連を疑われないということもけっこうあります。

池脇

IgE依存性とは違って食後しばらくしてからなので、親が食事が原因と認識できないために診断が難しいのですね。患者数が増えている点ですが、小さな子どもの食生活が変化しているようには思えませんが、原因があるのでしょうか。

森田

患者数が増えている原因は、はっきりわかっていません。昔は牛乳が原因の場合が多かったのですが、現在では鶏卵、特に鶏卵の成分の中でも卵白ではなく卵黄に反応する方が多いといわれています。

池脇

確かに、先生方が調べられた研究では、卵が6割近くと多かったことです。卵が原因で広範な胃腸の免疫異常が起こって、嘔吐や下痢になるわけですが、年齢分布はどうでしょう。

森田

原因になる食物によって、発症する年齢が違うといわれています。牛乳で発症する方は生後1カ月や2カ月とかなり早くから発症するのですが、鶏卵、卵黄で反応する方は7カ月、8カ月。離乳食を始めて何回か食べてから発症するというのが典型的な患者像になります。

池脇

牛乳で1カ月というと、粉ミルクでということですか。

森田

おっしゃるとおりです。粉ミルクで反応します。

池脇

赤ちゃんが粉ミルクに対してのアレルギーだと困ってしまいますね。

森田

そうですね。その場合は、ミルクのたんぱく成分がある程度分解されたミルク(加水分解乳)や、アミノ酸乳などで代替していくかたちになります。

池脇

発症が食事後やや遅いので、親も食物と関係しているか気づきにくいですが、嘔吐、下痢が続けば小児科を受診されます。そこから診断までスムーズに行くのでしょうか。

森田

まだこの病気自体、認知度が一般的には高くありません。やはり子どもの頃ですと、吐いたり下痢をしたりすると、風邪からくる胃腸炎だろうとされて、最初の段階でFPIESだとなかなか診断がつかないケースが多いです。やはり鶏卵を食べるたびに嘔吐等の消化器症状が出るという、再現のある症状が診断の決め手になると思います。

池脇

例えばIgEアレルギーでしたら、採血で、非特異的あるいは特異的なIgEの上昇で何がアレルゲンかはわかりますが、これはそういうわけにいかないですよね。

森田

はい。IgE抗体は関与していないとされていて、診断のあてにはまったくならないことから、診断に有用な検査がないのが今の状況です。

池脇

小児科医でもなかなか診断まで至らないけれども、先生方に紹介受診された場合、どうやって診断するのでしょうか。

森田

だいたいの場合は、病歴を聞いてみると、実は診断の基準を満たしてきます。大事なのは、食べてから症状が出るまでの時間経過とその症状です。だいたい2~3時間で嘔吐が出て、下痢は数時間、7~8時間経って以降のことが多いです。1回だけしか食べていない場合は、翌日にはケロッとしているというのが症状の一つの特徴にもなります。

池脇

FPIESは、細かく聞くと、「そうかな」と思えるような状況があるということですか。

森田

おっしゃるとおりです。

池脇

ただ、何が原因かということになると、お話だけ聞いて診断というわけにもいかないような気がするのですが、どうでしょう。

森田

病歴からだけでは原因の食物が特定できないケースもあります。そういうときには病院に来ていただいて、食物経口負荷試験といって、病院で特定の食物を食べていただいて経過観察をする検査を行うことがあります。

池脇

実際に負荷となると、すぐには症状が出ないので、外来よりも入院で行うのでしょうか。

森田

入院で行う施設もありますし、外来でする場合にも、通常の食物アレルギー患者で行う経口負荷試験よりも観察期間を長くとるので、1日がかりになってしまうような検査になります。

池脇

そういった負荷をかけるとともに、逆にそれを食べさせないことによって症状が消失しないかという除去試験も並行して行われるのでしょうか。

森田

除去試験に関しては、日常生活の中で意図的に原因食物と疑われるものをやめていただいて、それで症状が出なくなっているかを外来で確認します。ですので、除去試験は特別、入院して病院でやっているわけではありません。

池脇

鑑別疾患はいかがでしょうか。

森田

代表的なのは感染症です。子どもの頃は感染症にかかりやすいので、感染性の胃腸炎というのがまず一般的に鑑別すべき疾患になります。FPIESの場合は、食事が原因で症状が出現する病気なので、食事を摂取する前はすごく元気なのが特徴です。食事をしたときだけ、一定時間後に症状が出るので、わかりやすいといえばわかりやすいです。

池脇

症状として嘔吐や下痢とありますが、それが慢性的に続くと体重の増加不良が起こるのでしょうか。子どもにとっては重要なことですね。

森田

患者さんの一部は、急性の症状がわかりにくくて、慢性の経過をたどって体重増加が悪くなることもあります。急性の経過をたどる方の中にも、顔面が蒼白になってしまったり、意識を失ってしまったり、一見ショックのようになることもありますので、急性の方でも重篤な方がいます。

池脇

どうして起こるのでしょうか。

森田

正直申しますと、発症メカニズムはまったくわかっていないため、治療法がないというのが現状です。一般的な食物アレルギーの急性期には、アナフィラキシーという非常にひどい症状をきたすことがあり、その治療にはアドレナリンという薬が使われますが、この病気には効かないといわれています。ただ、FPIESの重篤な症状は、一般の食物アレルギーのアナフィラキシーと類似して見えることがあるため、どちらか判定がつかないときには、迷わずアドレナリンを打っていただいたほうがよいです。

池脇

原因がわからないまま2歳、3歳になる子どももいると思いますが、転帰はどうでしょうか。

森田

発症する年齢、あるいは食物によってだいぶ違うといわれています。今、患者さんが多い鶏卵に関しては、7~8カ月に発症して、2~3歳で半分以上の方が治っていくといわれています。

池脇

原因がはっきりしないにしても、それに対する免疫異常が自然と是正される、回復して治っていくという感じでしょうか。

森田

そのようなことが想定されています。

池脇

最後に、小児と成人のFPIESの違いが、最近はトピックになっていると聞きますが、いかがでしょうか。

森田

小児科医の間でもまだまだ認知されていない病気ですが、実は成人の患者さんもかなりいるのではないかと最近いわれています。小児と成人でまた少し症状が違うという特徴があり、小児の場合は嘔吐が前面に出ますが、成人の場合は腹痛や下痢、それこそ本当に何かにあたってしまったのではないかと思うような症状が主体になってきます。

池脇

魚介類を食べてなると「魚介類に問題があった」と思いがちですが、そういった中に、成人のFPIESが隠れているということですか。

森田

おっしゃるとおりです。成人のFPIESの原因食物に多いのは魚介類で、日本では牡蠣が多いといわれています。興味深い調査がありまして、魚介類アレルギーだと診断されていた人の2割ぐらいがこの病気だといわれています。

池脇

魚介類アレルギーの2割は多いような気がします。

子どもさんの場合には自然と治るようですが、大人はなかなか治らないのですか。

森田

はい。実は大人は治りにくいといわれています。また、どちらかというと激烈な症状、おなかの痛みですとか、すごくつらいものですから、治ったかどうかの確認を成人の方はしたくないと言います。そのため厳密にはどこかで治ったかどうかもわかっていないというところもあります。

池脇

先生方は小児専門の医療機関におられますが、成人でも注目しないといけない病態ですね。

森田

おっしゃるとおりです。

池脇

FPIESに関して、成人も含めてお教えいただきました。ありがとうございました。