ドクターサロン

池田

川崎病についての質問が来ています。おそらく質問の医師は、川崎病を疑う場合にはなるべく早く専門医に紹介したほうがいいだろうということなのですが、どのような症状になるのでしょうか。

菅沼

川崎病は、小児の発熱性疾患として必ず頭に置いていただきたいですが、発熱に加えて6つの症状があります。まず眼球結膜といって白目の部分の充血が出たり、口唇と口腔の所見では唇が赤くなったり、亀裂が入って出血したり、いちご舌といって舌がいちご状に変化をしたり、それから咽頭の発赤などがあります。

さらには四肢末端の変化があり指先や足先がとにかくむくみます。普段、光沢をもっていないところもピカピカ光って、パンパンに腫れる硬性浮腫という症状です。手掌や足底の紅斑もよく見る所見です。

回復してくると、2週目ぐらいに膜様落屑といって、爪と指の腹の間の指先から皮がペロンと手のひらのほうに向かって剝けてくるという症状が出ます。

さらに非化膿性の頸部リンパ節腫脹というものがあります。片方の首のリンパ節がだいたい1.5㎝以上腫れ痛みを伴うことが多いです。あとは発疹ですね。体にはしかのような赤い発疹が出たり、BCGを接種した部位が赤くなったりすることがあります。これが典型的な6つの症状といわれています(写真)。

池田

これらの症状はだいたいの患者さんで見られるものなのでしょうか。

菅沼

症状の出方は年齢によって違ってくるといわれています。特に頸部リンパ節炎は、3歳以上の方に特に多いといわれています。一方、年齢が低いお子さんに関しては首のリンパ節は比較的腫れにくいといわれていますので、症状の出やすい年齢、出にくい年齢というのはあります。

池田

ではどのようなときに紹介したほうがいいのでしょうか。

菅沼

川崎病は、小児で発熱があるものの熱源がわからないと思ったときには、頭の片隅には常に置いていただきたい病気です。

この症状以外に川崎病の典型的な症状としては、機嫌が悪かったり、赤ちゃんでいうとミルクを飲まない、夜寝てくれない、泣いている時間が長い。あと抗菌薬を使ってもなかなか熱が下がりにくいというのは川崎病の特徴なので、そういった症状には注意が必要かと思います。

池田

今は、発熱したお子さんは検査キットでいろいろな病原体を調べますよね。例えば咽頭を調べると、溶連菌などはけっこう出ます。その場合、検査キットで陽性だからと抗生剤を出しますが、それが効かないというところが川崎病なのでしょうか。

菅沼

そうですね。溶連菌が出ると、溶連菌で治療しましょうという方向になりますが、溶連菌があるから川崎病ではないとは言いきれないと思います。溶連菌であっても抗菌薬で熱が下がらない場合には川崎病も十分に考えられると思いますので、そういった可能性もあると思います。

池田

すべての症状が出るわけではないということですが、診断のクライテリアはあるのでしょうか。

菅沼

先ほどお伝えした6つの症状のうち5項目以上を満たす場合には川崎病、4項目の場合は冠動脈瘤の有無を確認します。後ほど出てくると思うのですが、合併症を呈する場合には川崎病と診断しています。

一方で3項目4項目の場合は川崎病の症状を満たしてはいなくても、ほかの疾患が除外された場合に不全型川崎病という診断をしています。

池田

不全型は冠動脈瘤も含めて、見落としがちになると思います。後でまた質問が出ますが、冠動脈瘤ができる、できないというのは、症状の強さというか、どの症状があるから冠動脈瘤になりやすい、なりにくいというのはあるのでしょうか。

菅沼

残念ながら、症状の多さと症状の強さ、例えば4項目なのか6項目なのか、そういったところによって冠動脈瘤ができやすい、できにくいという一定のものはありません。不全型川崎病で症状がそろっていなくても冠動脈瘤を合併する可能性は十分にあるといわれています。同じ症状によって軽い重いというのは一概には言えないというのが実際のところですね。

池田

逆に言いますと、不全型であったとしても、冠動脈瘤の検査はしっかり行うということですね。

菅沼

そうですね。川崎病が否定しきれなかった場合には、心臓の超音波検査を定期的に行うことで、冠動脈瘤が合併していないかどうかをしっかり調べる必要があります。

池田

冠動脈瘤ができる時期というのはどのくらいなのでしょうか。

菅沼

だいたい熱が出始めて10日目前後から冠動脈の拡張が始まるといわれています。それより前に血管の炎症が始まりますので、ガイドラインでは発症してから7日目ぐらいに治療を入れるのが望ましいとされています。

池田

冠動脈瘤ができる前に治療を始めるということですね。

菅沼

そうですね。川崎病の治療は、冠動脈瘤を未然に防ぐのが一番の目標になると思います。

池田

なるほど。典型例は別として、不全型も含めて川崎病を治療されるとき、どのような方法で行われるのでしょうか。

菅沼

川崎病には大きく2つの治療法があります。一つは、大量ガンマグロブリン療法で、これは点滴で治療します。もう一つはアスピリンの内服です。この2つが標準的な治療ですが、今は少しリスクが高い方とそうでない方を分けることによって、治療の強度を強くしたりすることがあるのです。

また、治療が効きやすい方、効きにくい方をスコアリングする方法があります。診断するときに血液データや年齢などで判断するのですが、スコアが高い方には、基本的にはガンマグロブリンとアスピリンに加えて、今ではステロイドやシクロスポリンという免疫抑制剤をガンマグロブリンと併用することで、冠動脈瘤の合併頻度を下げる治療が一般的とされています。ですので、重症な方に関しては治療を強化することを考えなくてはいけないかなと思っています。

池田

なぜ冠動脈瘤ができるのでしょうか。

菅沼

川崎病は乳幼児に起こる全身の血管炎なので、冠動脈瘤以外にも肺の血管、腎動脈、ほかの全身の比較的大きめの血管に炎症が起きる可能性がありますが、冠動脈が侵されることが一番頻度が高いといわれています。

なぜ冠動脈に一番できやすいかはまだはっきりとした原因はわかっていませんが、全身に炎症が起こりうる、そういう病気ですね。

池田

炎症が起こることによって、血管のどの辺が障害を受けて動脈瘤になるのですか。

菅沼

病理学的にいうと汎血管炎です。内膜も中膜も外膜もすべて炎症細胞の浸潤が起こるといわれていますが、病初期の段階では、中膜の疎開性変化といって、浮腫状の変化が少し出てきます。その後、外膜、内膜側から炎症細胞が浸潤してきて、発症してから10日目過ぎになってくると汎血管炎というかたちで全層の炎症に拡大していきます。

池田

そういう機序なのですね。もう一つの質問は、手足の指の皮が剝けたりするのはどうしてですかということです。

菅沼

これは先ほど四肢の末端の変化、指先が腫れるというお話をしましたが、腫れたときに指先の皮下に浮腫が起きます。浮腫が起きたときにそこに亀裂が生じて、その亀裂が回復してくると、爪の先、指の腹の間から皮が剝けてきます。浮腫が原因だといわれていますので、回復期にこういう所見を見ると、川崎病だったんだと確認する一つの症状でもあります。

池田

では、血管炎ではなくて硬性浮腫のなれの果てのような感じですか。

菅沼

そうですね。浮腫による変化だと思います。

池田

うかがっていると、なかなか診断や早期治療は難しいと思いますが、先生がこういう発熱のお子さんを診たときに、川崎病の診断として最も留意されている点はありますか。

菅沼

先ほどの繰り返しになってしまうのですが、赤ちゃん、あるいは小さいお子さんが熱を出しているといったときに、日常診療で川崎病を常に念頭に置くことです。あと少し厄介なことに川崎病というのは熱が自然に下がってしまいます。治療しなくても症状が良くなってしまうので、見逃してしまう。これでよかったのではないかと思っていると、心臓に大きな冠動脈瘤をつくっているということもありますので、川崎病は勝手に悪くなって勝手に良くなるということも、ひとつ知っておいていただきたいです。

典型的な感染症ではちょっと説明がつかなくて疑いが少しでもある場合には、心臓の超音波や入院ができる施設に紹介するのが一番だと思っています。

池田

どうもありがとうございました。