ドクターサロン

大西

間質性肺疾患の治療というテーマでうかがいたいと思います。間質性肺疾患で死亡される方は多いのでしょうか。

馬場

近年増えてきて、今、男性では死亡原因の9位にまで上がってきていて、社会的な問題にもなっています。

大西

かなり重要な疾患ということですね。間質性肺炎とはどういったものなのか教えていただけますか。

馬場

普通の肺炎は、菌がいて、免疫の細胞が活性化して影が出ますが、間質性肺炎は菌がいるわけではなく、炎症、つまり免疫の反応が活性化して線維質が増えてくるという病気で、それによって肺が壊されます。苦しくなってきますし、不可逆的にもなります。

大西

いろいろな概念があるのでしょうか。

馬場

原因があるものと原因が不明なものに分かれていて、原因があるものとしては膠原病、例えばリウマチといったものから肺の病気が出てきます。ほかは、過敏性肺炎といって吸入したカビや鳥の成分に対するアレルギー反応で発症する間質性肺炎もあります。

大西

その病態というのは、炎症と線維化が絡み合っているような感じなのでしょうか。

馬場

そうですね。疾患そのものによっても変わってきますし、同じ病名の中でも線維化と炎症が絡み合ったり、一人の患者さんでも、そのときどきで炎症が強かったり、線維化が強かったりと変わってきます。

大西

肺の生検組織が治療の方針の決め手となる場合も多いのでしょうか。

馬場

肺の一部を採って、顕微鏡で見てその組織から診断していきます。その診断だけではなくて、その組織の中で炎症の細胞が多いのか、あるいは線維化が強いのかということで、炎症が多ければ免疫を抑えるような薬を使い、線維化が主体であれば線維質を抑えるような薬を使います。

大西

過敏性肺炎では、抗原をいろいろ調べることが重要なのでしょうか。

馬場

病気のもとになる吸入の抗原物質から離れることが大事なので、もし病歴や血液検査、画像、肺組織などで過敏性肺炎が疑われるのであれば、ご自宅で過敏性肺炎の原因になりそうな吸入の抗原はないか、例えばカビがないか、鳥を飼っていないかなどを確認し、時にはご自宅や空調の清掃や羽毛布団を使うのをやめていただくように患者さんにお願いしています。

大西

線維化を抑える薬というのはどのようなものでしょうか。

馬場

線維化を抑える薬は2種類出ています。ただ、なかなか難しいのは、一度くっついてしまった線維をなくすことはできなくて、さらなる線維化を予防する、実際には線維化の進行を呼吸機能検査での肺活量の低下で見ながら、この肺活量の低下を遅らせることが目標です。

大西

2つの薬があるというお話でしたが、具体的なことを教えていただけますか。

馬場

日本の会社が出しているピルフェニドンという薬と、ニンテダニブという海外からの薬があります。ピルフェニドンはもう16年、ニンテダニブは10年ぐらいと長い間使われている薬です。ピルフェニドンは吐き気が出やすいですし、日光過敏などの副作用の問題があります。一方でニンテダニブは下痢が問題になってきます。共通して問題なのは、とにかく薬価が高いことだと思います。

大西

診断基準が変更になったそうですね。

馬場

病気そのものが変わったというわけではないのですが、特発性の間質性肺炎、原因がはっきりしない間質性肺炎は難病として認められていて、経済的サポートを受けられます。その経済的サポートを受けられる方の基準が変わりました。今までは特発性間質性肺炎のなかで典型的な特発性肺線維症以外の方は、肺の組織を採らなければいけませんでしたが、2024年4月からは肺の組織がなくても難病の申請を行い経済的なサポートを受けられるように変わりました。

大西

膠原病である関節リウマチの方の死因として、肺疾患は多いのでしょうか。

馬場

現在まで、関節リウマチの治療薬が増えて関節症状のコントロールは大部分で可能になりましたが、関節リウマチに伴う間質性肺炎はなかなか進行を抑えることは難しく、死亡の原因にもなっています。

大西

膠原病の治療は肺のことも念頭に置きながらやっていく必要があるということですね。

馬場

関節リウマチに対して使う薬が間質性肺炎に効くかというと、必ずしもそういうわけではなくて、関節あるいは肺を診ながら治療方針を決めていくことになっています。

大西

ステロイド治療の効果や副作用について教えていただけますか。

馬場

多くの間質性肺炎は、免疫が活性化した状態、炎症が盛んな状態を抑えることが治療の目標になりますので、ステロイドが非常に大事な薬になってきます。今でもステロイドは一番よく使う薬ですけれども、ステロイドによる糖尿病や骨粗鬆症、顔が丸くなってしまう満月様顔貌といった副作用がありますので、これらの副作用を抑える目的で免疫抑制剤を併用して、ステロイドの投与量を減らすようにしています。

大西

免疫抑制剤も功罪両方があるということですか。

馬場

ステロイドもそうですが免疫抑制剤は免疫を抑えて感染のリスクが高まりますので、患者さんの肺の状態に応じて量を調整していきます。

大西

肺病変がかなり進行すると、肺移植という選択肢も出てくるのではないかと思いますが、肺移植の現状を教えていただけますか。

馬場

先ほど申し上げた薬でも進行して肺移植が適応になる疾患であるのが間質性肺炎です。

ただ、移植待機期間が2年半ほどありますので、移植を待っている間にお亡くなりになってしまうことが少なからずあります。したがって、早期に薬物治療をして進行を遅らせてあげることが大事になっていきます。

大西

日本では肺移植はどの程度行われているのですか。

馬場

年々、肺移植の実施は増えてきて、2023年の1年間で119例の脳死肺移植が行われました。ただ、実際には待機期間が2年半あって、需要には足りない、別の言葉でいえば間に合わないということがあり、欧米や隣の韓国に比べると、なかなか肺移植まで結びついていないというのが日本の現状かと思います。

大西

慢性の呼吸器疾患では肺高血圧症が問題になるかと思いますが、その辺りのメカニズムを教えていただけますか。

馬場

なかなか難しいのですが、肺が悪いと心臓に負担がかかってきてしまいます。心臓から送り出された血液が肺の血管を通って、肺で酸素を取り込んで、また心臓に戻って全身に送られていくわけですが、肺が悪いと心臓から肺にめぐる血管で抵抗が増えてしまう。その状態を肺高血圧といって、間質性肺炎は、肺高血圧を起こす病気の一つであるとされています。

大西

そうした場合、治療法はあるのでしょうか。

馬場

今まで間質性肺炎に伴う肺高血圧に対しての良い薬というのはありませんでしたが、最近になって吸入による肺血管拡張剤が出てきて、間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に対して使われています。

大西

かなり呼吸困難が進行した呼吸器疾患の場合は総合的なアプローチが必要になるかと思いますが、その辺りはどのように進めたらよろしいでしょうか。

馬場

どうしても患者さんは苦しいというのがあります。一つは酸素が足りないというところがあって、そういった呼吸不全に対しては在宅酸素療法を行って、体の中の酸素濃度を上げるのですが、間質性肺炎は肺が硬くなるために、一呼吸一呼吸でエネルギーを使うので息が苦しい。このような呼吸困難は酸素を吸ってもなかなか良くならないというのがあります。そういった患者さんには、痛み止めとして使うモルヒネ製剤を少量使って息切れを取ってあげるということをします。

大西

緩和ケアも必要になるということですね。

馬場

モルヒネというと、どうしても終末期医療みたいなイメージがあると思いますが、緩和治療というのは、とにかく診断のときからでも苦しかったら和らげてあげるというのが大事になります。緩和医療と終末医療というのは異なるもので、診断の当初から息切れに対してモルヒネ製剤を使ってあげるということはある意味大事なことだと思います。

大西

呼吸系療法は、やはり予後の改善にも寄与すると考えてよろしいんでしょうか。

馬場

そうですね。様々な緩和治療を全体で行うことによって患者さんの予後を改善するということも報告されていますので、予後の改善、それから患者さんの生活の質を維持するというところで緩和というのは大事であると考えています。

大西

ありがとうございました。