ドクターサロン

多田

薬剤性肺障害の病態、ならびに一般医から専門医への紹介のポイントについてお聞きします。

牛木先生は「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第2版2018」の事務局を担当されました。薬剤性肺障害は発症の予想が難しく、病変部位は肺胞ならびに間質領域といった肺実質に加えて、気道や血管、胸膜縦隔ならびに呼吸器まで含まれ、その病態が多岐にわたり、多様であると書かれています。その頻度、またはどのような兆候に留意していけばよいか教えていただきたいと思います。

牛木

おっしゃるとおり呼吸器という非常に広い領域に病変が生じます。ただ、肺胞および間質領域にある肺実質では薬剤性の間質性肺炎が代表的で、最も頻度が高い病態です。

患者さんの症状としては、呼吸器の病変ですので、咳嗽や呼吸困難です。安静時は症状がなくても労作時の息切れなどが多いですし、発熱という非特異的な症状で出現することもあります。さらには、無症状でもX線やCTの胸部画像で見つかる場合も時々はあります。

多田

たまたま見つかることもあるということですか。

牛木

そうですね。

多田

発症最大のリスク因子は、肺障害を生ずる薬剤を用いることですが、患者さん側のリスク因子は何かありますか。また、リスクの軽減方法はありますか。

牛木

いろいろな薬剤に共通する非特異的なリスク因子としては、高齢、60歳以上で特に間質性肺炎や肺線維症といった既存の肺病変のある方。あとは呼吸器、肺の手術の既往のある方、呼吸機能が低い方。肺への放射線照射、あるいは抗悪性腫瘍薬の多剤併用療法、腎障害があると薬剤の血中濃度が上昇しやすいので、そういったものがリスク因子として挙げられています。

さらに一部の薬剤、例えばブレオマイシンなどは用量依存性に肺障害が出やすいといわれています。なので、こういったものが患者さんの要因、あるいは薬剤の要因がリスク因子になります。

なかなか軽減するのは難しいリスク因子ばかりかとは思いますが、事前にこういったリスク因子がある患者さんの際には、より慎重に経過を診ていただくことが必要だと思います。

多田

患者さんにもよくそういうことを話しながら治療を進めていくということでしょうか。

牛木

そうですね。

多田

実際に薬剤性肺障害を疑ったとき、診断の進め方が大切だと思いますが、その手順を教えてください。

牛木

症状は非特異的ですので、薬剤性肺障害ばかりではなく、通常の細菌性肺炎なども鑑別が必要になります。まずは様々な呼吸器疾患を鑑別するという意味から、バイタルサインの測定に始まり、SpO2の測定や胸部聴診といった身体診察をしていただく。次いで血液検査で一般的な炎症反応を確認します。

ただ、先ほど申し上げましたように、間質性肺炎が多いですから、KL-6のような間質性肺炎のマーカーを測定するのが有用かと思います。

多田

間質性肺炎のマーカーはKL6に加えて、SP-AやSP-Dもありますが、保険上はどのように捉えればよいでしょうか。

牛木

間質性肺炎のマーカーは3つありますが、保険上は1つないしは2つまでなので、3つはなかなか難しいかと思います。KL-6は広く使われていますが、SP-A、SP-Dももちろん有用ですので、その中でどれかを選びます。例えば過去にKL-6を測定していれば推移が参考になるので、過去に測定したものを実施するのもいいかと思います。

多田

あとレントゲンは一般的ではありますが、例えば間質性肺炎では、画像として出てこないものもあると思います。これはどうすればよいですか。

牛木

淡いすりガラス陰影と呼ばれるような陰影は胸部X線ではなかなか同定できないこともありますので、患者さんの呼吸状態が良くないなどで薬剤性肺障害を疑う場合には、胸部CTも撮影すればよいかと思います。

多田

あと、ハイレゾリューションのCTも必要だということも、ものの本には書いていますが、その辺りの適応はどうすればよいでしょうか。

牛木

すべての施設でなかなか撮れないこともあるかと思います。確かにハイレゾリューションCTは病型の細かい分類、この患者さんの薬剤性肺障害は重症化しやすいかどうかというところはよくわかるのですが、そこになってくると、呼吸器内科専門医に任せてもいいのではないかと思います。

多田

疑って重症らしい場合は、とにかく専門医にお願いするのが一番大事だということでしょうか。

牛木

そうですね。

多田

実際、薬剤性肺障害の治療に関しては、まず原因薬剤の中止だと思いますが、症状に対する治療ならびに薬剤の中止が困難な場合の対処法と専門医のコンサルテーションも含めた連携の構築について教えていただきたいと思います。

牛木

例えば、比較的中止に抵抗がない薬でしたら、おっしゃるように、まずやめて、患者さんの状態が許せば、原因薬剤の中止だけで改善することもあります。呼吸状態が保てている方やSpO2が90%以上あるということであればそれでいいと思います。一方で、例えば抗悪性腫瘍薬のように中止するのが難しい薬剤や判断に迷う場合、呼吸不全がある場合、SpO2が90%ない場合や進行が早い場合は、やはり一度、専門医に紹介いただければと思います。

多田

現在、抗がん剤の開発が非常に進んで、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用されるようになり、薬剤性肺障害も発生頻度が高くなっているということもいわれています。一般医が果たすべき事前評価やモニタリングについて、留意点があれば教えてください。

牛木

全例CTまで撮るのは被ばくの問題もあるのでなかなか難しいと思いますが、特に間質性肺炎をきたしやすい薬剤を投与する前に、少なくとも胸部単純X線を撮っていただくことです。あとは投与前のKL-6のベースラインの値を測定しておく。次に最初にすべきことかと思いますが、胸部聴診所見に異常がないか確認しておくことが、投与前にはまず大事かと思います。そして投与中もそれらを経時的に追っていくことが大切かと思います。

多田

ありがとうございます。

薬剤性肺障害の原因となった薬剤を再度同じ患者さんに投与することは可能でしょうか。

牛木

基本的には不可能と考えていますが、一部の薬剤では、適正使用ガイドで症状がない肺障害であれば再投与してもいいこともあります。昨今の薬は適正使用ガイドがあるものも多いのでそれに従っていただくのがいいと思います。

多田

最後に付け加えることがあれば教えていただきたいと思います。

牛木

患者さんの経過を診ていくうえで、やはり胸の聴診が一番大事です。あと胸部X線ですね。CTは頻回に撮ることは難しいので、基本的なところですが、経時的なフォローはやはり診察とX線検査を中心にしていただければと思います。

多田

本日はつまびらかな指示をありがとうございました。