ドクターサロン

 読者の皆さんも様々な「学会」に所属していることと思いますが、それらの英語表記をご存じでしょうか?
 「学術目的の集団」である「学会」の英語表現として、最も一般的なものはsocietyです。ですから「日本内科学会」の英語表記はThe Japanese Society of Internal Medicineとなり、「日本外科学会」の英語表記はJapan Surgical Societyとなっています。内科学や外科学などは「すでに確立された学術分野」というイメージがあるため、このような分野での学会には「確立された学術分野の専門家集団」というイメージがあり、Society of Internal Medicineのようにofという前置詞が使われます。
 これに対して「医学教育学」や「医学英語教育学」には「活動支援が主目的となる学術分野」というイメージがあるため、そのような分野での学会には「活動支援のための専門家集団」というイメージがあります。したがって「日本医学教育学会」 Japan Society for Medical Educationや「日本医学英語教育学会」Japan Society for Medical English Educationでは、forという前置詞が使われているのです。
 ただsociety以外にも幾つかの表現があります。academyには「卓越した専門知識の教育や表彰を行う団体」という意味があります。このacademyが学術性と教育性を兼ね備えた組織であるのに対し、collegeには「専門職の教育や認定を行う団体」という意味があります。英国のRoyal College of Physicians(RCP)や米国のAmerican College of Cardiology(ACC)という名称を見て、「collegeって単科大学じゃないの?」という印象を持たれる方も少なくないでしょう。しかしcollegeには「特定の専門分野における教育・資格認定・基準策定を行う職能団体」という意味があり、「単科大学」としてのcollegeもそのイメージから派生した用法と言えます。
 そしてもうひとつ覚えておきたいのがassociationです。これには「特定の専門職や関心を共有する人々が集まり、社会貢献・教育・政策提言などを目的として活動する団体」という意味があります。American Heart Association(AHA)やAmerican Medical Association(AMA)などが代表的で、「日本医師会」もJapan Medical Associationという英語名を使っています。学術的な活動よりも、啓発活動やガイドライン作成、行政との連携などに重点が置かれているのが特徴です。
 次に「学術集会」としての「学会」の英語表現を見ていきましょう。これにはmeeting, conference, and congressなどが使われます。meetingには「定期的に行われる(学術)集会」という意味があり、「学術集会」としても一般的に使われ、日本内科学会が主催する「年次学術集会」もThe Annual Meeting of the Japanese Society of Internal Medicineと表現されます。これに対してconferenceは「ともに持ち寄る」を意味するラテン語のconferreに由来する言葉であり、「meetingよりも規模の大きな(学術)集会」や「複数の発表や討論が行われるような中規模以上の学術集会」として使われます。具体的にはWorld Conference on Lung Cancer(WCLC)のようなものがあり、meetingと比べて「構成がより整理されていて、参加者が学びやすいように設計されている学術集会」という印象を与えます。そしてcongressは「ともに歩み寄る」を意味するラテン語のcongrediに由来する言葉であり、「meetingやconferenceよりも大規模かつより国際的な(学術)集会」や「多くの国から多様な分野の専門家が集まり、全体会議や複数の分科会を通じて幅広いトピックが議論される最大規模の学術集会」として使われています。具体的にはWorld Congress of Neurology(WCN)のようなものがあり、「討議」の印象が強いconferenceと比べて「会合」という印象が強く、「学術的な議論に加えて展示や交流なども重視される祭典としての学術集会」というイメージを与えます。このcongressは開催頻度も毎年ではなく、数年に一度というのが一般的です。
 このほかにconventionという表現もありますが、これは「合流する」を意味するラテン語のconvenireに由来する言葉であり、「多数の人が共通の関心を持って集まる大規模な会合や大会」という意味として使われ、医学の学術集会としてはあまり使われません。世界ではComic-Conコミコン」が盛況ですが、これはComic Conventionの略であり、「多数の人がコミック文化という共通の関心を持って集まる大規模な会合」という意味なのです。ちなみに日本でよく使われる「コミケ」はComic Marketの略語として生まれた表現ですが、Comic Marketという英語表現は、本来は自然な表現ではありませんでした。
 ではここから学会における様々なsessions企画」の英語表現を見ていきましょう。
 Plenary Sessionは「参加者全員が参加する講演や議論の場」であり、学会の初日や最終日に設けられることが多く、学会全体の方向性を示す内容などが取り上げられます。このplenaryには「全員出席の」や「完全な」という意味があり、「プレナリィ」ではなく「プナリィ」のように発音されます。このPlenary Sessionで設けられることが多いKeynote Presentationは「学会の開幕時に行われる基調講演」であり、学会のテーマを象徴的に示す役割を担います。演者はその分野で国際的に著名な研究者が外部から招待されることが多く、学会全体のkeynote主旋律」を提示する役割を担います。
 意外と違いが知られていないSymposiumとPanel Discussionの違いですが、Symposiumは「特定のテーマに関して複数の専門家が順に発表し、その後に議論を行う企画」です。通常は3~5人程度の演者がそれぞれの立場や専門性から知見を発表し、最後に演者全員で質疑応答や総合討論が行われます。特定の研究領域や技術について参加者の知識を深めたい場合に用いられる企画です。これに対してPanel Discussionは「特定のテーマに関して複数の専門家が相互に意見を述べて討論する企画」です。Symposiumとは異なって個別の発表はなく、Moderatorが司会となって議論を進めます。議論を要する問題について聴衆に多様な意見を聞かせ、考察を促したい場合に用いられる企画です。多くの日本人がこのpanelを「厚紙のポスターのようなもの」と思い込んでいるようですが、この場合のpanelには「討論に参加する専門家グループ」という意味があり、「討論に参加する個別の専門家」はpanelistと呼ばれます。「パネラー」 panelerという英語は存在しないのでくれぐれもご注意を。
 Workshopとは「参加者が実際に手を動かしながら学ぶ企画」です。実技・実践的スキルの習得を目的とするものが多く、講義形式というよりは少人数で双方向的に進められる点が特徴です。これに対してSeminarは双方向的であるものの講義中心の形式であり、Hands-on Sessionは医療機器や技術の模擬体験・操作実習に特化した実践的な企画となります。
 そしてもちろん学会の主役はOral Presentationスライドを使って研究成果を発表する企画」やPoster Presentation一枚のポスターを使って研究成果を説明・応答する企画」になるのですが、実際に足を運んで対面で行われる学会の真の主役はReception軽食やドリンクを伴う立食形式の交流会」と言えます。プログラムにReceptionと書かれていれば、多くの場合カジュアルな交流会であり、服装に関するdress codeも基本的にはありません。しかしプログラムにBanquetと書かれていれば、それは「晩餐会」のことであり、通常のスーツなどを着ていくsemi-formalというdress codeが求められます。そしてGala Dinnerと書かれていれば、それは「祝賀晩餐会」ですので、dress codeも通常のスーツよりも格式の高いformalやblack-tieとなります。日本で行われる学術集会ではbusiness casualやsemi-formalがほとんどですが、海外の学術集会に参加する場合には、それぞれの交流会の英語表記を事前に確認して、場面にふさわしい装いを準備しておくことをお勧めします。
 日本人が英語で発表する場合、“I’m sorry that my English is not so good.”のようなコメントをよく耳にしますが、こういったapologiesはまったく必要ありません。聴衆は楽しませてもらおうと思っていますので、「自分がどう見られるか」よりも「どうすればわかりやすく説明できるか」に意識を向けるようにしましょう。
 そして海外の方からよく聞くコメントとしては、“Japanese doctors and researchers are excellent at their presentations, but they are terrible at networking.”というものがあります。せっかく海外の方も参加している学会に参加するのであれば、いろいろな方と直接会話をして交流を広げるほうが得策と言えます。ただ実際にどんな話題で会話をして良いかわからないという方も多いと思いますので、学会でもちょっとした時間に行われるsmall talksで役に立つ英語表現を幾つかご紹介しましょう。
 英語でのsmall talksでは、相手に関心を示すopen-ended questionsを使うことで、自分からそれほど話さなくてもactive listenerであるという好印象を与えることができます。そこで特にお勧めするopen-ended questionが“Is this your first time at this event?”というものです。この質問をすることで会話のきっかけができ、たいていの場合はcurrent position/work, the reason to join the event, and personal passionまで話が及びます。そして相手が自分の仕事についてある程度話したら、“What do you enjoy most about your work?”のようなopen-ended questionを使いましょう。こうすることで相手の仕事に関するたくさんの情報に話題が移ります。さらに会話が弾んできたら「それについてはどう思いますか?」 “What do you think about that?”という質問もよく使われますが、それを“What's your take on that?”のようにカジュアルに表現すると、より親近感が湧きます。一般的にsmall talksでは宗教や政治の話題は避けたほうが無難ですが、ある程度打ち解けた相手に「最近の政治状況の変化は、お仕事にどのような影響を与えていますか?」のような質問をすることは問題ないでしょう。その際には“Have recent policy changes affected your work in any way?”のような表現を使ってみてください。
 交流会において「自分が何者であり、何に情熱を持っているか」を簡単に伝えるという行為をpitchと呼び、このようなpitchがいつでもできるように準備していることを英語ではkeep it in your back pocketと言います。皆さんも次の学会では英語でのpitchがいつでもできるように、「自分が何者であり、何に情熱を持っているか」をkeep it in your back pocketしておいてくださいね。