池田
膵臓癌の早期発見についての質問です。まず、糖尿病や肥満がリスク因子ではないかという質問ですが、膵臓癌のリスク因子にはどのようなものがあるのでしょうか。
川口
一般的に、膵臓癌のリスク因子といわれているものには、喫煙、飲酒、肥満があります。その3つはわりと危険度は低いのですが、一応ハイリスクです。そのほかに糖尿病、特に新規発症と増悪した場合と膵臓癌の家族歴があります。それから膵管内乳頭粘性腫瘍(IPMN)という膵臓の囊胞、水の袋のような囊胞性の病変なのですが、腫瘍性の病変を持っている方や慢性膵炎などがハイリスクの中でも少し危険度が高い因子として挙げられています。
池田
お酒、たばこ、肥満、糖尿病。そして特殊な膵腫瘍、家族歴ですね。家族歴というのは、広い範囲でとらえると、膵臓癌の方がいる家系ということになると思いますが、どのような間柄の方を指すのでしょうか。
川口
一般的に言われているのは第1度近親者といって、自分からみて両親、兄弟姉妹、それから自分のお子さんがいたらお子さんですね。その中に2人以上いると、それは家族性膵癌という名前が付いて、6~7倍ぐらいリスクがあるといわれています。1人いても5倍ぐらいのリスクがあると言われています。
池田
それはかなりの頻度ですね。怖いですね。
川口
家族歴は非常に重要なリスク因子だと考えています。
池田
そのような方を対象として検査をしていくということですが、実際、膵臓癌は難治癌の代表だと思います。その現状や早期発見の可能性というのはいかがでしょうか。
川口
膵臓癌の現状としては、現在、癌の死亡数は第3位、罹患数は第7位になっています。死亡数で第1位は肺癌、第2位は大腸癌です。第3位は、胃癌がどんどん下がってきて、今、胃癌を抜いて膵臓癌が第3位に上がってきています。罹患数が第7位なのですが死亡数が第3位ということで、そこからも難治癌ということがうかがえると思いますが、難治癌の予後をどう良くしていくかに関係してくるのは、やはり早期発見だと思います。
早期発見というのは非常に大事ですが、では何が早期発見かというと、膵臓癌の場合は大きさ1㎝以下で見つけることです。この段階で見つけると、5年生存率が80%です。膵臓癌の一般的な5年生存率は10%前後といわれています。非常に難治性が高い癌ですが、1㎝以下で見つけると80%以上に上がるといわれています。
ただ、まず1㎝以下の膵臓癌というのは小さくて症状が出ないのです。画像の検査、簡単なエコー検査でも、膵臓は背側にある、扁平状の小さい臓器なので、画像での描出が難しい。それがなかなか早期発見ができない理由になっています。
池田
キーワードの1㎝以下というのがなかなか見つけるのが難しいということですが、実際に先生方が全国展開をされているプロジェクトがあるとうかがいました。これはどのようなものなのでしょうか。
川口
今、全国的に広がっているプロジェクトの先駆けとなったのが、広島県尾道市で地域ぐるみで行った尾道プロジェクトです。今言ったハイリスクの人に対して、積極的に開業医がエコーを行いました。膵臓というのはエコーではなかなか見づらいのですが、特にエコーでの所見で重要なのは、間接所見といわれている膵液の通り道の主膵管の拡張や膵囊胞です。先ほどのIPMNとは少し違って、膵管の内圧が上がることで、分枝膵管の中が拡張して囊胞ができたものを間接所見と呼んでいます。
それを見つけたらどんどん病院に紹介してくださいという病診連携を積極的に行って、5年生存率を非常に良くしたという経緯がありまして、尾道プロジェクトをきっかけにプロジェクトが全国展開しているというのが現状です。
池田
先行した尾道プロジェクトである程度の手応えを得たので、それを全国展開しているということですね。
ここで質問の内容になりますが、糖尿病患者、非糖尿病患者、肥満患者に対する検査はどのようにされているのでしょうか。
川口
早期発見で重要なのは、先ほども言いましたけれども、ハイリスク患者をとにかく検査することですが、そこで重要なのがやはり開業医の役割ですね。エコー検査は非侵襲的で、多くの開業医が機器を持っているので積極的に行うというのがまず大事です。
開業医の診療は保険診療ですので少々制限はあるものの、エコーはなるべく積極的に行うことが大事なのと、間隔として1年に1回というのが妥当なところだと思います。
池田
間接所見が得られた場合、程度によって紹介する、しないなどはあるのでしょうか。
川口
間接所見が見られたら、例えば膵管の正常値は2㎜以下なのですが、膵管が2.5㎜や3㎜以上のものであれば、それは紹介の対象になります。囊胞病変も、なかなか大きさの基準は難しいですが、1㎝ぐらいのものがあれば、やはり専門の施設に紹介してください。
間接所見というのは、エコーで見えない膵頭部、ガスなどが邪魔して膵頭部のところに癌があっても、その癌がエコーで見えないけれども間接的に膵液の流出障害が起こって膵液の流れが悪くなることで膵管が拡張してきたものです。それを捉えた場合には、専門施設でCTやMRI、超音波内視鏡といった検査を依頼するのがいいと思いますね。
池田
エコーではなかなか見づらい場所を間接所見で推定していくということですが、ハイリスクの方と、非ハイリスクというのでしょうか。
例えば質問によると、糖尿病患者さんと非糖尿病患者さんについて、同じような感覚でエコーの検査を行えばいいのでしょうか。
川口
これもなかなか難しいのですが、糖尿病患者さんの場合は、先ほども申しましたけれども、基本的には増悪した場合に追加で行うことになりますし、糖尿病を新規で発症して紹介されてきた場合では、だいたい腎機能や網膜のルーチンの検査があると思うので、そのルーチンの検査の中にエコー検査も入れていただくのがよいでしょう。膵臓癌が原因で糖尿病になったのではないかということを念頭に、ぜひ開業医にはエコーもルーチン検査に入れていただきたいと思いますね。
池田
一方、肥満患者さんもハイリスクですが、なかなかエコーで見づらいかと思います。肥満患者さんに対しての対処はどのようにされるのですか。
川口
肥満患者さんはハイリスクなのですが、20代でBody Mass Indexが30以上でリスクが高まるといわれています。なかなか日本人にそこまでの肥満の方は少ないですから、実際に該当する人は少ないと思います。
しかし、肥満の方をエコー検査すると、膵臓が全然見えないというのが現状です。どうしてもエコーだけで膵臓癌を見つけ出すのは難しいので、時々CTやMRIという膵臓全体が見える検査を入れていくことも大事ですね。
池田
それから、先ほど出ましたけれども、家族歴がある方について、第1度近親者の検査の仕方はどうなのでしょうか。
川口
これも難しいのですが、家族歴があるからといって、すぐにエコー検査をやりましょうというのは、保険診療上は認められていません。ですから、検診などを利用して、年に1回エコーを行うということになります。私のクリニックにも心配された人がけっこう来ますけれども、しょっちゅう検査するということは現実的には難しいですね。
エコーを行うと膵囊胞が見つかったり、そういった危険因子が幾つか合わさった人は半年に1回とか、少し間隔を狭めます。単独のハイリスクだけなら、年に1回を継続していくことが大事です。1回だけの検査ではなくて、毎年毎年それを行うのが大事です。
池田
たぶん患者さんもそれを希望されますよね。
それから、腫瘍マーカーについても質問が来ています。例えばCA19-9の経過が様々であって、急に上がることもあるという質問ですが、腫瘍マーカーについては、先生はどのように考えていらして、検査をされているのでしょうか。
川口
今回は早期の膵臓癌を見つけるという話ですので、膵臓癌を早期で発見しようといったときには、腫瘍マーカーはなかなか使えないというのが現状ですね。実際、検診でオプションで測ったりする方は多いとは思いますが、なかなか早期のものは見つけにくいです。
例えばCA19-9ですと、癌の検出度はだいたい70~80%ぐらいといわれていますが、ほとんどが進行癌です。早期癌のものでいうと50%ぐらいに検出度が下がるので、早期に癌を見つけるためには使いにくいのです。
池田
進行癌のマーカーのような感じですね。
川口
そうですね。治療効果判定などに使うのにはいいと思います。
池田
そういう意味では、先生方がかなり地道にやっていらっしゃるエコーの検査も、リスク患者の状態の変化、特に糖尿病が悪化したり、新規に発症したとか、そういう方がしっかり検査して膵臓癌の合併があるかないかを見ていくということですね。それもできたら、年1回くらい行うのがよいですね。
川口
そうですね。やはり毎年行うのが大事ですね。検診を使っても、保険診療で行うとしても、年に1回を続けていくことが大事だと思います。
池田
もちろん家族歴がある方も1年に1回は行うのがよいですね。
川口
そうです。
池田
ありがとうございました。