ドクターサロン

池田

まずマイコプラズマ感染症とはどのようなものなのでしょうか。

皿谷

マイコプラズマは、細菌の中で一番小さい菌で、接触感染や飛沫感染を通して人にうつっていきます。潜伏期は2~3週ぐらいなので、家族の誰かが風邪を引いていて、3週間後ぐらいに別の誰かに同じような症状が出たら疑うという感じになると思います。

池田

どのような症状なのでしょうか。

皿谷

細菌感染で肺炎になる人も一部いますが、興味深いのは喉の痛み、鼻汁など、いかにもウイルス感染らしい症状が出ることです。おおよそセルフリミッティングで自然に風邪の症状が良くなって治っていくことが多いのですが、感染した人の10%ぐらいが肺炎になることが知られています。

特に若い人、5歳ぐらいから特に20歳前後の方が肺炎になりやすく、逆に70歳以上の方はなりにくい疾患でもあります。

池田

よく歩く肺炎という表現を聞きますが、これはどういうことなのでしょうか。

皿谷

若い人がなるということから、肺炎になっていてもけっこう動けるということと、重症化する人が比較的少ないことですね。肺炎になるのが10%だとしたら、重症化するのはそのうちのさらに10%弱で、酸素化が必要になって入院するイメージです。

池田

若い人がなっていることと、重症化が少ないので歩く肺炎というのですね。

今うかがったところはウイルス感染に似たような症状ですが、診断はどのようにされるのですか。

皿谷

抗原キットでの診断で、インフルエンザ検査のようにスワブで咽頭を拭って、抗原キットを垂らして、陽性か陰性か見る方法が、コロナ禍前は一般的に普及していたと思います。

コロナ禍を経て、最近では遺伝子も含めてマクロライド耐性や薬が効かないことも15分程度で結果が出るようなPCRの機器を、クリニックでも持っている施設もあります。大学病院などの大きいところでは、マルチプレックスPCRといって、例えば18種類の呼吸器ウイルスと、マイコプラズマや百日咳などの細菌4つを合わせて一気に20種類以上の病原菌を洗い出すという方法があります。それは主に鼻を拭って検査を行うのですが、1時間ぐらいで結果が出ます。

池田

今も旧来の免疫クロマト法は使われているのですか。

皿谷

施設によっては使われていますし、クリニックでも使われています。2024年にかなりマイコプラズマ感染症がはやったときには、抗原キットはクリニックでもけっこう不足しましたが、それが使われていたことが多かったと思います。

だいたい15分で結果が出ますし、あとは血清の抗体を用いてPA法やCF法で診断される場合もあります。

池田

感染症ですので、あまり時間がかかるとだめですよね。1時間で診断がつくマルチプレックスPCRのようなものがあるといいですね。

新型コロナウイルスも含めていろいろな病原体があると思いますが、マルチプレックスPCRで特異的に出るということなのでしょうか。それとも、そのPCRで何かほかの菌やウイルスも一緒に鑑別することはあるのですか。

皿谷

ほかの菌やウイルスも一緒に引っ掛かることがけっこうあります。例えば小児のマイコプラズマ陽性では、何らかのウイルスを合併している人が3~4割ぐらいいます。3つ4つが一緒に陽性になっている人も一部いるということで、小児でウイルスの複合感染があるのは非常に驚きました。

池田

その場合は困りますね。診断によって治療法も考えなければなりませんが、多くの病原体が陽性とされる人はどのように診断するのですか。

皿谷

ウイルス疾患自体になかなか治療薬がないので、多くの人にはマイコプラズマらしい高熱があったり、頑固な咳があってぐったりしていたり、画像上、肺炎像がマイコプラズマらしいとか、家族歴があるとか、そういったことを根拠に治療をしてしまうのが通常の流れかと思います。

池田

以前ですと、オリンピックの年にはやるというかたちがありましたが、最近はどのような流行状況なのでしょうか。

皿谷

2016年を最後に大きな流行はなかったのですが、コロナ禍が明けて2023年の秋頃に、東南アジアや北欧、中国で一部流行し始めていて、2024年には世界中ではやりました。日本も遅れて、2024年の6月ぐらいから一気にはやってきたという印象です。

池田

コロナのように幾つか株があって、どれがはやっているとか、そういうのもわかっているのでしょうか。

皿谷

そうですね。マイコプラズマというのは体の先端に突起を持っていまして、そこが気道上皮にペトッとくっついて感染します。P1タンパクといいますが、そこにⅠ型とⅡ型というのがあります。コロナ禍前はⅡ型が優位で、マクロライド耐性が3割ぐらいだったので、マクロライド耐性も考えて、あまり薬を使わないようにしようと気をつけていたのです。コロナ禍が明けて、現在は、それがⅠ型に変わっていて、マクロライド耐性率が3~5割ぐらいになっており、コロナ禍を挟んでまた菌のセロタイプがガラッと変わってしまったというのが驚きです。

池田

菌自体も勢いをどんどん変えながら人類に迫っているということですが、治療の第一選択はどうなっているのでしょうか。

皿谷

基本的には、小児や妊婦さん、成人は、マクロライド系が第一選択薬になります。それを使っても、48~72時間で効かない場合はマクロライド耐性と考えて、熱が続いていたらキノロン系やテトラサイクリン系にスイッチしていくという流れになると思います。

池田

先ほどPCRでマクロライド耐性がわかるという話がありましたが、最初から耐性がわかっている場合は、マクロライド系はやめておこうとなると、ほかに何を使われるのですか。特に小児でテトラサイクリン系が使えない場合はどうしますか。

皿谷

小児の場合だと、テトラサイクリン系は歯牙黄染や骨発育障害などの副作用で8歳未満は使いにくいので、マイコプラズマ学会や小児科学会ではトスフロキサシンを推奨しています。

池田

ということは、キノロン系もまあまあ効くということなのですか。

皿谷

はい。

池田

トスフロキサシンを使うということですが、今のところはテトラサイクリン系とかニューキノロン系に耐性はないのでしょうか。

皿谷

今のところは理論的にも、それに耐性があるというのは基本的にはないと言われています。ただし、マイコプラズマの重症化の要因の一つというのが、菌側の要因だけではなくて、宿主の免疫応答が重症度を決めると考えられています。いわゆる免疫の過剰応答というものでしょうか。それを防ぐために、ステロイドで一緒に治療することも、重症化したケースではよくあります。

池田

ステロイドを使いながら抗菌薬も使っていくのですね。以前、コロナで重症化する人は免疫応答が過剰になっているということでしたが、マイコプラズマ感染によって宿主側がサイトカイン等を過剰に産生して、いわゆる攻撃をすることによって人体にも炎症が起こってしまうという考えなのでしょうか。

皿谷

そのとおりです。

池田

その場合はステロイドを入れつつ、抗菌薬も使っていくのですね。ただなかなか難しいですね。重症化を判断する場合は、やはりSpO2の低下を見るのでしょうか。

皿谷

はい。SpO2の低下が一番キーになるかと思います。

池田

その場合は入院して、酸素を投与しつつ、ステロイドと抗菌薬を使うのでしょうか。

皿谷

そうですね。

池田

まさにコロナの重症のようなやり方ですね。新型コロナウイルスの感染のときも重症化する因子に注目していましたが、ある程度わかってきているのでしょうか。

皿谷

宿主側のいろいろなサイトカインの関与があって、これだというのはあまり特定されていないように思います。ステロイドに関しても3~5日ぐらいは、場合によってはセミパルスというぐらいの量で一気に、超重症化した例などでは使うことになると思います。

池田

それから、おうちでお子さんが調子が悪くなったというところから重症化を判断するのはやはり発熱とか、そういったことから判断していくのでしょうか。

皿谷

やはり長引く咳と発熱というのは、特に小児の場合ですとびっくりするぐらいの熱が出ますので、一つ見極めるサインになるかと思います。

池田

辛そうにしているとか、そういうところで見ていくのですね。そういう場合は大きい施設で、PCRも含めてしっかり診断されたほうがいいということですね。

皿谷

そうですね。とてもぐったりして呼吸が荒いとか、例えば小さいお子さんで陥没様の呼吸をしているなど重症感がある場合には、マルチプレックスPCRでパッと検査できる大きい施設に最初から行くというのも選択の一つかなと思います。

池田

どうもありがとうございました。