ドクターサロン

山内

私も男性の骨粗鬆症の捉え方はなかなか難しいと思っています。まずうかがいたいのは、男性でも、例えばDXA法などで調べた場合、女性と変わらないような骨粗鬆症というのは見られるのでしょうか。

竹内

そもそも男性のほうが女性よりも骨密度が高い、あるいは骨が頑丈にできていますが、特に50歳以降になりますと、男女問わず、加齢あるいは性ホルモンの低下によってどんどん骨量が減っていきます。女性と同じように男性においても一定程度、骨粗鬆症の患者さんが年齢とともに増えていきます。

山内

この場合、女性は特に女性ホルモンが関与するという印象が強いですし、男性の場合は加齢という感じがしますが、両者の間に骨粗鬆症の質的な差は特に見られないのでしょうか。

竹内

現在は、男女を問わず基本的な病態は同じだと考えられています。男性の場合、男性ホルモンのテストステロンの低下によって骨の局所でのエストロジェンの減少が生じるため、実際には女性と同じように男性でも破骨細胞による骨吸収の亢進がもたらされます。女性の場合は閉経によるエストロジェンの欠乏ということで直接的に説明できますが、男性の場合は加齢によりテストステロンが減っていくことが間接的に局所のエストロジェンを減らし、それによって骨代謝が悪化すると理解されています。

山内

作用としては、性ホルモンのわかりにくいところの一つですね。もう一つ、男性ではいわゆる骨太が多いと思われますが、この辺りはどういった関与が出てきますか。

竹内

やはり男性のほうが骨格は大きいし丈夫ですが、そこは、成長期において男性ホルモンがアンドロジェンとして作用する部分が女性よりも強い。そのことによって骨が大きくなる、太くなるということで男女の骨の違いが出てきますね。

一方で、先ほど申し上げたように、年をとって退行期になると、骨量が減っていくメカニズムは男女とも同じです。もともと男性のほうが骨量が多いし強いので、女性よりも遅れて骨粗鬆症になり、遅れて骨折しやすくなるという、そんな考え方で理解していただければと思います。

山内

骨折しやすい年齢が少しずれているイメージですね。どのぐらいズレがあると考えてよいのでしょうか。

竹内

骨折の頻度だけであれば、だいたい10歳分くらい男性のほうが遅れています。遅れているというのはこの場合は良いことかもしれませんが、10歳分くらいの違いがあると考えられます。

山内

一方で、男性でのスクリーニングがいまひとつ広く行われていない理由にはどういったものがありますか。

竹内

骨粗鬆症の治療を考えますと、まずは治療薬が重要になるのですが、治療薬の骨折予防のエビデンスは圧倒的に閉経後の女性を対象として確立されているので、男性におけるエビデンスといいますか、薬の効き目を確認するための成績が乏しいという現実があります。そのため、どのくらいのリスクから男性をスクリーニングするかということに関して、まだ社会的には広くコンセンサスが得られていません。ただし、学会レベルの議論や学術的な見解として、一つの目安はありますので、それについては後ほどお話しできればと思います。

山内

どちらかというと、臨床試験が不足していると考えたほうがよいのでしょうか。

竹内

そうですね。

山内

スクリーニング自体に意味があるという点は学術的にはまず間違いないだろうということですね。

さて、そのスクリーニングですが、保険は認められているのですか。

竹内

そこは問題ありません。日本の場合は骨粗鬆症という病名で多くの検査が実施可能ですので、性差を問わないといえます。

山内

保険診療可能なのですね。そうしますと、一般に骨折等のリスクを考えてスクリーニングがなされると考えてよいでしょうか。

竹内

はい。

山内

具体的にはどういったかたちで、特にどういった方を中心に行うのでしょうか。

竹内

まずは年齢です。先ほどお話ししましたように、女性に比べて10歳分くらい年齢が進んだところから男性における骨折リスクが上昇することになりますので、男性においては、70歳というのが日本、あるいは米国などにおいても一つのスクリーニングを行う年齢の目安になっています。

山内

わかりやすいといえばわかりやすいですね。実際70歳を超えてくると、男性でも骨折がかなり増えてくるのですか。

竹内

そうですね。立ち上がりの部分が男性は70歳と考えていただければいいかと思います。女性は60歳ではまだまだお若いですから、それほど骨折が目立つことはないと思いますが、やはり閉経前の方や50代の方と比べると、そこから骨折のリスクがどんどん上がっていきます。

山内

この場合の骨折は、圧迫骨折や転倒したときの骨折が中心になるのですね。

竹内

骨折の部位は男女あまり変わらないです。男性において注目するところは、COPDは男性のほうが多いのですが、この疾患では胸椎の圧迫骨折が非常に多いので、COPD患者さんはスクリーニング対象の最たるものだと思います。

山内

あと、フレイルも高齢化で問題になっていますが、フレイルの方を中心にスクリーニングすることも考えてよいのでしょうか。

竹内

骨折というのは転倒などの外的な要因で起こってくるものですから、フレイルの方は転びやすいので、フレイルが強い方はスクリーニング対象にしていただくとよいと思います。

山内

スクリーニングでは今も広くDXA法が行き渡っていると考えてよいのでしょうか。

竹内

地域や状況によってハードルが高いと感じている医師も多いと思いますが、スクリーニングというのはあくまでも何かを未然に防ぐため、この場合は骨折を防ぐために骨の評価をするということになり、客観的あるいは定量的な指標が必要です。そうなりますとDXA法による骨密度の測定が望ましいといえます。

山内

原則的にはDXA法で行ってほしいということですね。例えば開業医など、そういった手段がないようなケースでは、どのようにあたりをつけていったらよいでしょうか。

竹内

症状がなくて、本人が気がついていない骨粗鬆症性の骨折というのは、圧倒的に胸椎・腰椎の圧迫骨折です。それは単純レントゲンの側面像で、形態の変化からおおよそわかると思います。日本の骨粗鬆症の診断基準でも、X線画像で胸腰椎の圧迫骨折があれば、それを骨粗鬆症と診断する根拠にしていますので、それが一番簡便だと思います。

山内

それ以外に、例えば骨代謝マーカーがありますが、こういったものの補助的な使い方というのはありますか。

竹内

骨代謝マーカーを診断に用いることは難しいですね。骨の代謝を見る指標ですので、骨の代謝に異常があるという指標にはなりますが、それで現在、骨粗鬆症に至っているかどうかという判定は難しいです。骨代謝マーカーで診断することはできないとお考えいただければと思います。

山内

基本的には形態学が診断の中心ということですね。

次に治療についてですが、男性の骨粗鬆症の治療ではやはり女性ホルモン関連薬というわけにはいかないでしょうね。

竹内

そうですね。電子添文上も、女性ホルモン関連の薬剤の効能は閉経後骨粗鬆症となっていますので男性には投与できません。一方で、それ以外の薬剤、代表的なビスホスホネートやデノスマブ、テリパラチド、ロモソズマブについては、いずれも作用機序から考えて性差はないと考えられていますし、男性においてもしっかりと臨床試験がなされている薬剤が多いので、少なくとも日本においては女性ホルモン関連の薬剤以外は、男性にも女性にも使ってよいということになっています。

山内

先ほど男性でのエビデンスが不足しているという話でしたが、薬のエビデンスとして、男性のビスホスホネートに関してはあると考えてよいのですか。

竹内

米国では、閉経後の女性に対して適応のある薬、男性において適応のある薬を厳密に分けていますが、日本はまだそのように分けていません。しかしながら、ビスホスホネートの代表的なアレンドロン酸やゾレドロン酸などは男性骨粗鬆症にもよいということになっていますし、そのほかにはデノスマブも男性においてエビデンスがあるということになっています。

ただ、最近の薬剤に関しては、大規模な臨床試験、それからたくさんの臨床試験の積み重ね、いわゆるメタ解析が可能になるようなところまでは至っていないので、男性に対しての骨折を予防するという意味でのエビデンスは、女性に比べると少ないという現状だと思います。

山内

最後に、いつまで治療したらいいのでしょうか。

竹内

病態の中心が加齢に伴って起こるものですので、どこかで治療が完結することは期待しづらいです。一方で、いつまでも同じ治療を続けることの弊害もありますので、注意が必要です。様々な治療薬を適宜スイッチしていくことでできるだけ長期間にわたって治療を続けることが望ましいと考えています。

山内

どうもありがとうございました。