ドクターサロン

山内

まず、普通に未成年で、近くに婦人科がない、もしくは婦人科の受診が嫌だという方が来た場合、原則、専門ではないので診察や検査なしで「では痛み止めの薬を出しておきますね」と言う前に注目すべきこと、念頭に置くべきことを教えてください。

白土

普段、大学では思春期外来を担当しています。先生方はご存じだと思いますが、女性を診たら、14歳であっても、初経が始まった後であれば、まずは妊娠を否定をしていただいたほうがいいと思います。生理痛と思っていたら、前の月経もちょっと量が少なくてということで、例えば症状の有無にかかわらず子宮外妊娠などもゼロではないので、その辺りをまず確認します。

それであれば、内科医やほかの科の医師であっても問診やお小水の検査で本当に月経による痛みなのかをルールアウトしていただけると安心かと思います。

山内

一般的に、妊娠のときにも月経痛のようなものが出てくることはあるのですね。

白土

そうですね。7週ぐらいになれば、子宮外妊娠であればわりと症状は出てきます。それは中学生であれ、高校生であれ、本人たちは、まだ月経も不順なので月経が来ないことに対してはあまり気づかないのです。

山内

そうですよね。それこそ、うっかりピルなどを処方してしまったら、たいへんなことになりますね。

白土

おっしゃるとおりです。エストロゲン、プロゲステロンは胎児に対する影響がありますので、そこは注意深くならなくてはいけません。

山内

月経痛というと、我々は内膜症というイメージがあるのですが、内膜症と通常の月経困難症ないしは月経痛の違いはわかりにくいものなのでしょうか。

白土

本来の内膜症の診断は腹腔鏡で中を覗くことが診断基準にあるので、月経のたびにおなかが痛いというのであれば、若い子であれば特に、器質性の筋腫や内膜症ではないことがほとんどかとは思います。

例えばチョコレート囊腫や子宮腺筋症のようなかたちで、子宮の内膜が子宮外にある場合は、それが大きくならないと、超音波だけではなかなか診断が難しいと思います。

山内

内膜症などは、例えばCRPや血沈などの炎症反応も正常なことが多いですね。

白土

そうですね。ただ、CA125のような腫瘍マーカーが少し上がってきていることがあります。しかし間違えてはいけないのが、月経の最中に採血をすると、そのマーカーが上がっていることです。正常値が例えば35ぐらいまでであれば、それが60、70、中には100以上に上がっていて、びっくりして、腫瘍があるかもしれないと婦人科に紹介されることがあるのですが、月経時以外にもう一回採血すると、正常範囲内ということもあります。

山内

それはありがちな誤診ですね。炎症のついででいきますと、性感染症は最近いかがでしょうか。

白土

月経痛に隠れて性感染症があったということは本当にあります。すぐにクラミジア感染だったなどではないにしても、例えばコンドームのプロテクトは女性から伝えるのはなかなか難しいという方がいる。あとはピルを飲んでいれば大丈夫だろうみたいなことを考えているようですが、やはりきちんと最初からプロテクトをしていなければだめだということになります。

クラミジア感染は将来の不妊に対する影響があるので、そこもぜひ皆さんから伝えていただきたいです。プレコンセプション(妊娠前から)といいますが、思春期の頃から考えていただいて、草の根運動で皆さんに啓発していただきたい内容ではあります。

山内

ただ、この辺りは非常にセンシティブな話ですから、専門の、特に女性の医師でないと話すのも難しいかという気もします。何か話すコツがあるとしたら、どういった感じでしょうか。

白土

行きづらい婦人科に、お母さんに引っ張られて来たにしろ、連れ立って来たにしろ、男性の医師であれ、女性の医師であれ、まずは「来てくれて本当によかったよ」というようなかたちでお話を進めていくのもいいかと思います。

山内

月経痛に関しては、やはり一般的に多いですか。

白土

7割の方は月経痛があります。頭痛や腹痛などいろいろな痛みがあるかと思うのですが、それに関しては、若い方であれ成熟期の方であれ、1割ぐらいの方しか病院やOver The Counter(OCT)を利用できていないという現状があります。ぜひ婦人科に一度は来てほしいということを啓発していただきたいと思います。

山内

その辺りは我々も十分に情報がないのですが、次に痛みの程度です。これもまた難しいのですが、仕事が手につかないレベルの痛みというのは何割ぐらいの方にあるのでしょうか。

白土

例えば、月経痛がある方は5割ぐらいの方が仕事において普段のパフォーマンスを出せないと回答しています。月経前も含めてになりますが、PMSで、月経前の症状から月経中の2週間の間は、ほぼパフォーマンスが十分に発揮できません。

5割と言いますと、社会実装的にも6,800億円ぐらいの経済損失になるといわれていますので、ぜひそういう現状を知っていただきたいです。痛くなる前から婦人科にかかっておけば、社会的にもいいと思いますね。

山内

というわけで、まずそういったものをお話ししながら、初期だけ少し、痛みを止めてみてはどうかというところで、非専門医も導入しやすい薬をご紹介願いたいのですが、普通に鎮痛薬というのは可能ですか。

白土

小児科医は、いきなりNSAIDsを出すよりは、アセトアミノフェンが多く、小児科でもよく使われています。お母さんたちのママブロックもないですから、例えばアセトアミノフェン200㎎/日や300㎎/日くらい。1,500㎎/日までは使えますし、症状がひどい方には坐薬も使ったりします。

山内

よくNSAIDsを使いますが、これはどちらかというと予防的に使うほうがいいそうですね。

白土

赤い出血がちょっとでも付いたら、すぐ飲んでおいたほうがいいですね。痛くなる前から使わないと、閾値は下がらないです。

山内

痛みは初日に一気に上がるものなのでしょうか。

白土

そうですね。最初のゴールデンタイムが6時間ぐらいだというデータは出ています。そこを何とか乗り切るためには、ちょっとおなかが張っているな、そろそろ月経が来るなという辺りから、子宮の張り止めとして妊婦さんにも使うようなイソクスプリンなどの薬をベースで飲んでおいて、出血が赤くなったらすぐにNSAIDsを使うということですかね。

山内

初日を乗り切るのがコツと考えてもよいのでしょうか。

白土

おっしゃるとおりかと思います。

山内

それ以外に先生方がよく使う薬を少しご紹介ください。

白土

もともと子宮内膜にあるプロスタグランジンがたくさんあって、腸の症状がすごく出る方がいらして、胸の張りや下痢っぽくもなるということをよくおっしゃいます。その辺りに関しては、よく皆さんが使っているブチルスコポラミンのほうが効いたりすることがありますから、月経時、月経前からでもかまいませんので、1錠2錠飲むと随分楽かとは思います。

山内

ブチルスコポラミンですか。これは予想外でした。あと漢方薬はいかがですか。

白土

芍薬が入っているような当帰芍薬散などはすごく効く方が多いですし、やはり漢方薬はお母さんたちの印象も非常にいいですね。マイルドですし、体質改善という意味でも長く使えます。

ただ、コンプライアンスがよくありません。毎日ずっと服薬することは難しいです。痛いときには思春期の子どもでも薬を飲むのですが、毎日は難しいです。私はよく「朝晩でもいいから飲もうか」と言って、歯ブラシの横に置いておいて、苦いので薬を飲んでから歯を磨いて、ご飯みたいなかたちがいいよと言って、体質改善をしていただくことが多いです。

山内

漢方薬に関してもう少し詳しく教えていただけますか。

白土

当帰芍薬散などは痛みがメインの方にはよく使いますし、「生理前は少し気分が落ちるんです」とおっしゃる方には加味逍遥散を使うこともあります。

山内

何回かいろいろな薬を試みて、その間にいろいろお話ししながら、うまくいかなければやはり専門医へ紹介ということですね。非専門医にとってピルというのはなかなか難しい薬と考えてよいですか。

白土

そうですね。種類も多いですし、使い始めも、月経の2~5日目ぐらいと言うと、それが月経なのかということで、スタートもなかなか難しいかと思います。種類としては、最近では3カ月、4カ月の長期連続投与で使うようなピルも複数出ています。

そういった意味では、例えばその方たちが受験前で月経の辛さがある、スポーツのパフォーマンスのために使いたいとか、使い分けという意味では、私たち専門医にぜひかかってみたらと、勧めていただけるとありがたいです。

山内

ピルにもいろいろな種類が出てきているのですね。ありがとうございました。