ドクターサロン

山内

ワクチンの現況については、厚生労働省のホームページにもかなり詳しいものがありますので、ここでは臨床現場で話題になりがちなコアな部分に関して、先生のご意見をうかがいたいと思います。

まず定期接種ですが、これは2024年度から組み込まれたということで間違いないでしょうか。

佐藤

はい、そうですね。

山内

ただ最近、いろいろな話題に取り上げられなくなったことで接種率がかなり下がってきている気がしますが、どうでしょうか。

佐藤

身近なところを見ても、特に若年の方に関して、接種された方はかなり少ない感じがあります。ただ、2023年度に関しては、高齢者にはまだ支援があったと思うので、高齢の方はまだある程度接種されているのではないかと思っています。

山内

ただ今回、国が助成を打ち切るという話も出てきましたので、やはり影響が出てくるでしょうね。

佐藤

私はかなりリスクが大きいのではないかと思います。

山内

現場で患者さんとお話ししていますと、まず打つ必要があるのでしょうかという素朴な質問から入ってこられます。この辺り、先生のお考えをお聞かせ願えますか。

佐藤

これまでも5年にわたり新型コロナウイルス研究を続けているなかで、感染やワクチンを打って獲得した免疫というのは、時間が経つとだんだん弱まっていくので、1年前にワクチンを打ったからといっても、1年後にはワクチンの効果はほぼなくなっていると考えたほうがいいことがわかっています。特に高齢の方やリスクのある方に関しては、年に1回は接種をして、免疫を高い状態に保っておくことが非常に大事なのではないかと私は思っています。

山内

ワクチンを打った場合、基本的にはかかりにくくなるのか、あるいは重症化が防げるのか。その辺りの問題に関して、患者さんに明確に説明したいと思いますが、いかがでしょう。

佐藤

ワクチンというのはもともと重症化を予防するために打つものなので、ワクチンによって感染しづらくなるということに関して現状どこまで効果があるかはわかりません。しかし、重症化を予防する効果に関しては、2024年度のワクチンに関しても十分効果はあると思います。

むしろ最初にmRNAワクチンが出たときにその効果が良すぎたので、重症化予防だけではなくて感染予防もできるという触れ込みで接種を始めたのが発端だったと思います。最初はすごく良かったのですが、その後いろいろな変異株が出てくることによって、感染予防の効果はかなり弱まっていますが、重症化予防の効果に関しては、現状まだきちんと残っているという理解でよいと思います。

山内

「1カ月前にワクチンを打ったばかりなのに、またかかってしまいました」ということがよくありますが、そういった方に対しても「軽症で済んでよかったね」という説明がいいかもしれないですね。

佐藤

そうですね。そこは私たちの基礎研究の結果ですが、感染した方の中での中和抗体の誘導のレベルよりも、ワクチンを接種された方のほうが中和抗体の誘導のレベルが高いので、やはりワクチンを打ったほうがきちんとした免疫が獲得できるという考えのほうがよいと思います。

山内

質問に、諸外国でも同様に定期接種になっているのでしょうかとありますが、これはいかがでしょうか。

佐藤

定期なのか任意なのかまでは私は把握できていませんが、聞いたところだと、韓国ではまだ支援を受けながら自由に接種できる状況で、かなり高い接種率を保っているそうです。イギリスでもまだかなり高い接種率を保っているという話を聞きますので、定期接種になった2024年度になってワクチン接種率が下がったというのは日本に特徴的な状況で、世界共通の状況ではないと聞いています。

山内

そうなのですか。日本が特に落ち込みが激しいのですね。

佐藤

日本の落ち込みは顕著だという話は聞きます。

山内

ちなみに、アメリカはどうなっているのでしょうか。

佐藤

アメリカの接種状況のデータは今はもう出てこないのでわかりません。ただ、アメリカに関しては2025年の初頭にかなり大規模な感染流行が起きました。1週間に100万人の感染者が出るくらい大規模な感染が起きたということがあるので、まったく制御には至っていないというのが新型コロナの現状だと私は考えています。

山内

単に話題に出てこないだけのようなところはありますか。

佐藤

そういうことのような気はします。

山内

直近に感染したばかりという方からもよく、ワクチンは打ったほうがいいのでしょうかという話になります。さすがに直後に打つ必要はないと思いますが、具体的にいつ頃に再び打ったらいいのでしょうか。

佐藤

そのタイミングの判断は難しいのですが、感染した直後に打ちましょうというのはさすがに早すぎると思います。ただ、先ほども少しお話ししましたが、感染したからといってきちんとした免疫が誘導されているかどうかというと、中和抗体を調べる限りはあまり免疫がついていません。やはり感染したとしてもきちんと予防する、重症化を防ぐためにはある程度期間が空いたとしても、再度ワクチンをきちんと打つことのほうが大事ではないかと私は思います。

山内

治療において、抗体を調べて決めるというのはなかなか難しいのですね。

佐藤

抗体だけが免疫のすべてではないので難しいですね。

山内

これは多少、基礎的な質問になりますが、流行株というのがありますね。インフルエンザでは、よく予想して作ったのが外れたという話も聞きますが、インフルエンザと違って、コロナのほうは突然変異の頻度が高くあります。こういう株の変異に対してどの程度対応できているのでしょうか。

佐藤

これに関しては2、3年前から4月、5月にアメリカのFDA、WHOが「この株についてのワクチンを作りましょう」ということを推奨して、基本的に日本の厚生労働省もそれに追随するかたちで承認しており、それに対するワクチンを作って秋冬に使うということになっています。

これまで3年間、それが大きく外れたことはなくて、4月、5月に決めた株の子孫株が秋冬に流行するというかたちが続いていますし、これまで私たちも基礎研究で、そのワクチンの中和抗体がその後に出てきた変異株にもきちんと効くことを確認しています。2025年も間もなく推奨が出ると思いますが、それに対して選定された株に対するワクチンが作られ、秋冬には接種できることになると思います。

山内

当初、突然変異と言われましたが、突拍子もないような変異ではなくて、比較的近いところから発生してきていると考えてよいですか。

佐藤

そうですね。現状これまでの3年間に関しては、ワクチンの株を決めてからその年の流行のときまでに大きな変化が起きたことはないので、そこに関しては2025年もそうであるということを願いたいです。

しかし2024年までと違うのが、これまでは、新しい株が出てきたら、その株が世界中で大流行して置き換わり、次にはその変異株が出てきて、また置き換わりということが進んでいました。ところが、現状はそういう大きな置き換わりはなくて、細々と小さい変異株が出てきては置き換わることが繰り返されていることから、今までには見たことのない流行、変異株の動態になっています。

山内

それはこれから見ていかないとわからないというところですね。

佐藤

そうですね。

山内

ワクチンには新しいものがいろいろ出てきていますが、この辺りの使い分けはいかがでしょうか。

佐藤

今、日本で使われているワクチンは5種類あります。mRNAワクチンは3社が製造していて、あとは組み換えタンパクワクチンと、レプリコンといわれるワクチンの5種類ですが、少なくとも組み換えタンパクワクチンに関しては、mRNAワクチンよりも副反応が弱いところが特徴とされているので、そういう使い分けというか、好みがあると思います。

ただ私たちの基礎研究でも、mRNAワクチンと組み換えワクチンの2つで誘導される中和抗体価を調べると、どちらもほぼ変わらないので、ワクチン接種によって獲得する免疫に関しては、どのワクチンを打っても同じように獲得できると考えてよいと思います。

山内

おそらく統計学的な有意差はないだろうということですね。

佐藤

ないと思います。

山内

あとは好みの問題もあるみたいですが、この辺り、医療機関や患者さんが選べるものなのでしょうか。

佐藤

私もそれほど医療現場のことは詳しくはないのではっきりと言えないのですが、たぶんすべてのワクチンをそろえているクリニックや病院はないと思います。おそらく施設ごとにひとつのワクチンだけということが多いと思うので、もし何かの理由で好みのワクチンがあれば、事前に調べていただいて、そのワクチンを接種している医療施設に行っていただくことになるかと思います。

山内

最後に副反応、有害事象に対しての考え方に関して、先生のお考えをお聞かせ願えますか。

佐藤

コロナに関しては、感染したときの急性の症状だけではなくて、現状、後遺症というリスクがあることは間違いないといわれているので、ワクチンを打つことによる有害事象のリスクに比べたら、ワクチンを打つことによって重症化を防ぐというベネフィットのほうが圧倒的に大きいという状況は変わらないと私は思います。

山内

新しい副反応として、例えば心筋症の話題が多少出てきているようです。これはやはり、実際にコロナにかかってしまったほうがひどいとみてよいのですね。

佐藤

そこも確率の問題だと思いますが、ワクチンが完全に安全なものではないということが前提で、皆さんがそういうことを承知したうえで接種をしましょうということです。リスクよりもベネフィットのほうが大きいという理解のうえでだと思いますが、やはり心筋症などのリスクはあるかもしれません。しかし後遺症やほかの様々な症状のことを考えたら、感染するリスクのほうが圧倒的に大きいという理解でよいのではないかと私は思います。

山内

実際に起こるとセンセーショナルに報道されますが、確率は非常に低いということですね。

佐藤

そう思いますね。

山内

どうもありがとうございました。