齊藤
喘息の病態、疫学診断についてうかがいます。喘息について、まず基本からお話しください。
長瀬
喘息の病態は、気道に炎症があることが軸になっています。気道の炎症は好酸球や、アレルゲンに対するIgEによってマスト細胞が活性化されるなどで形成されています。
そのような炎症を抑えることが重要であるという概念が確立して、抗炎症薬である吸入ステロイドが実際によく効くということがわかり、非常に喘息のコントロールが改善してきました。
齊藤
これがだいたい1980年代の終わり頃からですか。
長瀬
はい。炎症を抑えることが重要という概念はその頃から確立してきました。
齊藤
40年以上前ですね。その間に疫学像も変わってきているのでしょうか。
長瀬
はい。疫学としては、アレルギー疾患の有病率は右肩上がりでしたが、最近の疫学データでは、喘息に関しては小児も成人も横ばいで、どんどん増えているわけではありません。
もう一点は喘息死ですが、喘息で亡くなる方は1994年をピークに7,000人以上いたのですが、そこから順調に減り、現在は1,000人を切るかというところまできています。一番貢献が大きかったのは、吸入ステロイドが高用量化されたことで、2000年代前半に大きく減りました。
齊藤
死亡も減ったということですが、日本以外の国でも同じような状況なのでしょうか。
長瀬
海外では、日本ほど十分に減っていない国や地域もあるかと思います。アメリカでは、いろいろな人種差もありますので、全体としてはもちろん減っているのですが、日本のようにすべて均等に減っているかというと、国によって差があるかもしれません。
齊藤
そういうことでガイドラインについてですが、日本のガイドラインは直近でいつ頃改訂されたのでしょうか。
長瀬
2024年にアレルギー学会から「喘息予防・管理ガイドライン」というものが出ていまして、基本的な組み立ては吸入ステロイドが中心になっています。そこに気管支拡張薬を必要に応じて1つ、あるいは複数加える。重症では抗体製剤を使う。そのような組み立てになっています。
齊藤
まず診断について教えてください。
長瀬
昔からの重要な症状として、喘鳴(ぜんめい)ということは変わっていません。ぜいぜい、ヒューヒューするような喘鳴が、正常なときと発作のとき、増悪のとき、間隔を空けて時々出現するのが典型的な状態です。聴取できる場合はあまり診断に迷うことはないと思いますが、症状が咳だけとか、診察時は喘鳴が聞こえないということはよくあると思います。その場合は、毎年季節的に決まったときに咳が出たり、寒い中で走ったり運動したりすると咳が出るとか、そういうエピソードがあれば喘息も疑って、吸入ステロイドで治療をすることもよいかと思います。
齊藤
咳だけの人の場合、理学所見では何か特徴がありますか。
長瀬
なかなか難しいです。咳だけを訴える場合でも、聴診を工夫していただけるといいかと思います。頸部、首に聴診器を当てて、強制呼吸、すなわち最後まで思いっきり吐き切ってもらってください。フーッとやりますと、最後の最後でヒューッと少し聞こえることがあります。思いっきり吐くと胸腔内圧が上がりまして、狭い気道がより狭くなることで感度よく喘鳴を聞くことができますので、試してみていただければと思います。
齊藤
吸入ステロイド等を治療的診断に使うことはあるのですか。
長瀬
レントゲンは1回撮っていただきたいと思いますが、例えば咳だけで、感染が関係ないことが明らかな場合には、経験的治療として吸入剤を使ってもよいと思います。
咳だけの喘息を咳喘息といいますが、吸入ステロイドは効果の立ち上がりがゆっくりなので、その日から患者さんに改善を実感していただくためには、吸入ステロイドと長時間作用性β2刺激薬の配合剤(ICS/LABA)を使うとよいですね。ビランテロール・フルチカゾンフランカルボン酸エステルやブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物、フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物、インダカテロール酢酸塩・モメタゾンフランカルボン酸エステルといったものを試していただくと、患者さんも速やかに楽になるし、診断的治療も明確だと思います。
齊藤
配合剤を使うのがコツということですね。
長瀬
はい。実際はかなりそのように診療されている医師も多いのではないかと思います。
齊藤
血液検査はどうですか。
長瀬
古典的な検査ですが、好酸球数とアレルゲン特異的IgEですね。IgEを調べる項目としては、ダニが最も重要なので、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニを入れていただく。
あと、花粉症で喘息が悪化することもありますので、私はスギ、ヒノキ、そして夏のイネ科、秋のブタクサを含めて検査項目にしているのでご検討いただければと思います。
齊藤
好酸球数はどのくらいの数を目標にしていますか。
長瀬
血中の好酸球比率が5%あるいは白血球数とパーセントを掛け算して、好酸球数として300/μLです。これを超えると、肺の局所にも好酸球がきちんといることが調べられていますので、300以上あるいは5%以上の場合は気道に好酸球があると捉えていただければよいかと思います。
齊藤
呼気のNOを調べるというのもあるのですか。
長瀬
はい。非常に簡便性が高く、実臨床でもお使いになれると思います。呼気の一酸化窒素、FeNO、呼び方としてはフェノとか、エヌオー(NO)と呼ばれます。今は2つのポータブルな機械がありまして、お弁当箱ぐらいのサイズで簡単に持ち運べますので、私も外来診察室の外に置いて、すぐ測っています。
これが50ppbを超えていますと、気道にアレルギー性炎症があるということがわかります。しかも、それが高ければ、吸入ステロイドがよく効くこともわかっています。
ですので、使い方としては、喘息を疑った際に吹いていただく。あるいは、慢性の咳が続いている場合に吹いていただく。高ければ吸入ステロイドが効くだろうという判断ができますので、非常に重宝しています。
齊藤
これは高齢者とか、子どもも検査が可能ですか。
長瀬
実際は、息を吐くスピードを一定にして5秒吐く必要があり、機械のほうから「もっと早く」とか「もっと遅く」とかサインが出るのでわかりやすくはなっているのですが、私の施設ですと、約95%以上の方は検査ができていますので、比較的、皆さん可能ではないかと思っています。
齊藤
開業のクリニックでも使えるということですね。
長瀬
はい。クリニックでもある程度の数を検査していただくとコストが取れると聞いていますので、慢性の咳で受診された場合にもお使いいただくと、ある程度採算が取れると聞いています。
齊藤
スパイロメトリーは呼吸器内科の専門医にお願いするのでしょうか。
長瀬
スパイロメトリーは非常に重要ですが、ご指摘のようにかなり難しい面があります。思いっきり吐くスピードに依存しますので、柔らかくフーッと吹くと不正確な値になってしまいます。そういったことができるスタッフがいらっしゃればぜひやっていただきたいのですが、難しい場合は呼吸器専門の施設、あるいは医師にお願いされるのがよいと思います。
齊藤
そこまでで初期診断、初期対応ということですけれども、病態に対応する特異的な薬ができてきているということでしょうか。
長瀬
最近のトピックスは重症喘息の方、吸入ステロイドを高用量を使ってもコントロールができない場合は抗体製剤というものができてきています。現在、5種類あり、IgEやIL-5などが標的となっています。IL-5は好酸球を活性化しますので、IL-5抗体は好酸球が多い喘息にはよく効きます。それからIL-4と13に対する抗体製剤もあります。さらには外界に近い気道上皮から様々な刺激で出てくるTSLPに対する抗体薬を含めて5種類あります。
コストはわりとかかりますが、例えば公害のサポートがあるとか、高額療養費制度を使えるという場合は負担が軽減されます。かなり重症の方も良くなり、全然仕事に行けなかった方も働くことができるようになったりして、特にまだお勤めの世代はQOLが上がっています。
齊藤
新しい進歩ということですね。どうもありがとうございました。