ドクターサロン

大西

非小細胞肺癌の薬物治療についてお話をうかがいたいと思います。

非小細胞肺癌の治療と、小細胞肺癌の治療には違いがあるのでしょうか。

後藤

もともと肺癌は小細胞肺癌と非小細胞肺癌の2つに区別して治療していました。これは同じ薬を使っても効果が大きく異なりますし、治療しなかった場合の経過も大きく2つに分けることができたからです。

一方で、非小細胞肺癌は、最近は癌になった原因、遺伝子的な観点、ないしは薬の効き方がかなり人によって違うことがわかっていますので、それぞれの人になるべくいい治療薬を順番に投与するという観点から、かなり細かく分類して治療するようになりました。

大西

化学療法からうかがいます。癌細胞を直接攻撃するような細胞傷害性の抗がん剤を主体に使われると思いますが、実際の考え方について教えていただけますか。

後藤

おっしゃるとおり、化学療法はまさに抗がん剤の中でも殺細胞という、昔から皆さんがイメージされるような、髪の毛が抜けたり、気持ち悪くなったりするような治療のことを基本的には指しています。

抗がん剤というと、皆さん、化学療法を思い浮かべますが、本来、癌に対する治療は全部抗がん剤といいます。それを分類したなかに化学療法があるので、化学療法は化学療法と説明するのが本当は正しくなります。

化学療法は体の中で分裂するものを倒すような治療ですので、言い方を変えると、体のなかで、絶えず分裂しているものに対しては副作用が出てしまいます。わかりやすいところだと、やはり髪の毛や爪で、化学療法をすることによって、髪の毛が抜けたり爪が生えなくなったりします。それから、気持ち悪くなったり、おなかを壊したり、そういう副作用があります。

ただ、これもいろいろな種類があり、どの組み合わせ、どの治療薬が一番効くのかを考えて行っていきます。今は、例えば肺癌のなかの非小細胞癌、非扁平上皮癌という肺癌全体の半分強の患者さんで、初回の治療は髪の毛が抜けない治療が一番良かったりもしますので、薬による違いは大なり小なりあるので、昔からの治療は少しずつ良くなっているというイメージかと思います。

大西

免疫療法が最近進歩していて、免疫チェックポイント阻害薬が出てきました。ニボルマブが有名だと思いますが、使用の考え方などを教えていただけますか。

後藤

まさにニボルマブは、ノーベル賞を受賞された本庶佑先生が見つけたことをきっかけにしたこともあって、日本では免疫療法、免疫チェックポイント阻害薬は非常に有名ではないかなと思います。幸いなことに、肺癌はほかの癌と比べても免疫チェックポイントが効きやすい人がいるということもあって、かなり早期から免疫チェックポイント阻害薬が使われるようになりました。

免疫チェックポイント阻害薬は、ある程度、効果があるかないかが予測できます。ですので、事前の検査をすることによって、極端な例でいうと、効きやすい人は免疫チェックポイントだけで治療しますし、効きにくい人には、ほかの抗がん剤と併用してみましょうとか、まったく効かない人には両方行うとか、ある程度の予測をしながら治療していくかたちになります。

何よりの特徴は、化学療法とはまったく違う副作用が出ることです。この薬が上市された当初、肺癌を治療している医師は、みな「これはどんな薬だ」「どんな副作用が出るんだ」とかなり気を使って、場合によっては病院全体でチームをつくって対応していました。最近はかなり慣れてきたので、薬物療法のひとつとして投与して、薬物療法の特徴ある副作用として管理できるようになってきました。

大西

分子標的治療薬も登場してきましたが、遺伝子変異によって使い分けをしていくのでしょうか。

後藤

この領域は、最初は血液癌だったり消化管間質腫瘍(GIST)といわれる一部の病気だったり、ほかの癌が先行していたところはありますが、現在では固形癌のなかでは肺癌が一番進歩している領域です。

肺癌では、まさに癌の原因となるような遺伝子の異常で、たった一つの変化で癌になってしまうような方がけっこういらっしゃいます。その場合には、まさに原因となる遺伝子を標的とした治療をすると、非常に効果が高いことがあります。

最初はEGFRという遺伝子異常からはじまったのですが、これは偶然、既存の薬を使っているうちに、とても効く人がいるのはなぜだろうと研究したら、EGFRの遺伝子の異常が見つかったという薬ありきでした。しかし、それ以降はすべて異常ありきで、有名なところだと、現在、国立がん研究センターの理事長の間野博行先生が発見されたALK(アルク)遺伝子異常は、癌と関係していることを見つけられた後に薬ができました。最近はどのような異常があるかをまず調べて、それに対しての薬を作っていく、ないしはあるものを使っていくというのが肺癌のなかではかなり進歩してきているという段階です。

大西

ターゲットを絞ることができれば効果も高いし、副作用もわりと軽く済む、そういった薬と考えてよいでしょうか。

後藤

おっしゃるとおりで、ターゲットを絞ってピンポイントに攻撃できると、かなり効率よく効果が得られますし、副作用はどの遺伝子、どのタンパクをターゲットにするかによって微妙に違ってきます。おおまかにいうと、ターゲットにしたところ以外の副作用は少ないように工夫していますので、副作用もほかの化学療法などと比べると、比較的少なくなります。

大西

外来通院でも治療が可能なケースも多いのでしょうか。

後藤

今は、がん治療もやろうと思えば、全部外来でできます。10年以上前も、アメリカでは入院することなく治療していました。今の日本でも、患者さんが「安心したいから」という理由で入院することはあるかもしれませんが、治療という観点だけでいうと、すべて外来で行うことができます。

ただ、初めて治療を行うときには、当然心配なので、入院するケースももちろんあると思いますし、そのほうが安全安心という考えももちろんあると思いますが、点滴ないしは飲み薬、免疫の薬、いずれも外来で管理可能となっていますし、我々は同じ効果だったり、同じ薬であっても、より患者さんにとっての負担が少ないようにしています。その負担は体が感じる副作用だけでなく、病院にいる時間も大切ですので、負担が少ないように、なるべく外来で行い、入院しないでできるような治療を開発している段階だと思います。

大西

周術期の薬物療法についてうかがいます。切除が可能な肺癌の手術の前と後に治療をするのだと思うのですが、その辺りの考え方はどのようにされていますか。

後藤

ここまでは、残念ながら転移した人たちや手術した後に再発してしまった人たちの治療という観点でこういう薬があるというお話をしていたのですが、肺癌においては、もう一つ、手術した後に高い確率で再発してしまうということが問題になります。せっかく手術できる段階で見つかったのに、残念ながら、しばらく経ったら再発してしまう。再発する人を少しでも減らしたいということが我々のコミュニティのひとつの大きな目標です。

再発した後に使うのであれば、それを再発する前、手術の前に使うことによって、少しでも治せる人が増えるのではないかと期待して、いろいろな新しい薬を手術の前、ないしは手術の後に投与するということを試して、かなり成果を上げています。例えば今まで3割の人が再発してしまうというものを2割に抑えるとか、手術の前後に治療することによってそういうことが可能になってきている段階です。

大西

化学放射線治療というのは、切除不能な肺癌が対象になると思いますが、どのように行っているのでしょうか。

後藤

薬物療法が全身治療であるのに対して、放射線治療は手術と同じように、手術であれば取ったところ、放射線であれば放射線をかけたところという、局所治療です。

放射線と手術というのはそれぞれメリットがあります。手術は見て取れるし、取ったらどのようなものかもわかりますから、圧倒的なメリットがありますが、例えば右と左にわたっているなど解剖学的に手術で取りづらいこともあります。肺というのは体の大切な臓器の周りにありますので、大切な心臓の近くに病気がある場合には、手術できれいに取ったと思っても、どうしても取り残す可能性があります。

こういうケースは、外から放射線をかければ、エネルギーとしてはその辺り一帯にかかります。手術よりもより再発を減らすのではないかということから、手術はできないけれども、病気の広がりが放射線をかけられる範囲に留まっているというときには、放射線治療を行います。

ただ、放射線は手術のようにスパッと取れる、1日で終わるものではないので、放射線治療とその効果をさらに高めるために、抗がん剤を併用したり、それが終わった後に免疫療法を行ったり、いろいろな治療を組み合わせた集学的治療で工夫をすることによって、より効果を高めようとしています。放射線治療は手術と並ぶ局所治療で、手術よりも得意なところは放射線に任せ、手術のほうが得意なところは手術に任せるというのが我々のコンセプトです。

大西

ありがとうございました。