山内
透析患者のリン、カルシウム、PTH管理について2つ質問です。
まず2012年のエビデンスで、低リン、低カルシウムは死亡リスクを増大させたということですが、2024年の日本のデータでは、低リン、低カルシウムのリスクには否定的でした。この差に関してどのような理由があるのでしょうか。
常喜
専門医でも答えに苦しむような質問ではないかと思います。まず、2つの研究の背景の違いを少しご説明させていただきます。
2012年は、おそらく透析専門医は、食事制限をしっかりかけながらリンの管理をする、それからリンの管理にはカルシウム製剤をどんどん使いながら管理をしていた。むしろカルシウムは結果的に高めに管理しながら食事制限をかけていた時代のデータになります。このデータは予後のフォローアップは3年で終わっています。
一方、2024年のデータはその後のデータ解析で、まず9年間の予後を見ているということと、むしろたくさん食べて上昇したリンはカルシウム非含有のリン吸着薬を使用してカルシウムを上げないようにしながらリンの管理をするという、2つの時代の治療が大きく変わっているという点から得られた違いではないかと私は解釈しています。
山内
時代背景といいますか、治療概念が変わっていることからきているのですね。
常喜
そうなのです。2024年のデータ収集は、カルシウム受容体作動薬という新しい薬が出た後にどのようなことが起こっているのかを調べようという目的だったので、改めて治療の変化が予後にどのように影響するのかを確認できたのかなと思っています。
山内
ついでですが、この質問では低リン・低カルシウムということですが、普通は高リン・低カルシウムの印象があります。これはこれで正しいのですか。
常喜
はい。例えば横軸にリンの値を取って、縦軸に死亡のリスクを書いた図をイメージすると、高いリンはもちろん予後が良くないですが、低いリンもU字カーブを描いて、低くなってくると死亡リスクが高くなる。これは当初、食べていない、食べられない、あるいは食べても消耗してしまうような慢性疾患が背景にある、等のようなことがあったと推察しますので、このデータからもっときちんと食べることが推奨されるようになったのだと思います。
山内
確かに低リン自体の障害もあるかもしれないけれども、低リンがある意味、摂食状態のマーカーにもなっているというニュアンスですね。
常喜
そういうことです。本来、食べていれば高くなるのに、低いということは食べられていないということですね。
山内
もう一つの質問は、海外のガイドラインと日本のデータでの適正PTH値の違いについてです。
常喜
おそらく根拠は2つあるのではないかと思います。まずひとつは、海外のガイドラインは、PTHが高くなることによって起こる骨の病態から目標値を設定していることです。一方で、我々は予後を考えてPTHが高いときに、命にかかわるリスクが高くなるのはどこの数値からだろうかということを検証した結果、こういう値が出てきたということなので、そもそものガイドラインが何をターゲットに設定して、目標値を求めたのかの違いがまず一点だと思います。
もう一点は、欧米人と日本人の人種差による骨のPTHへの感受性や骨量、骨密度の差が大きいことは、以前からいわれているので、そういった背景があるかと考えています。
山内
生命予後といいますと、やはり心血管系の異常、疾患が多いのでしょうか。
常喜
おっしゃるとおりです。やはりPTHが高いと血管の石灰化や左室肥大、心臓の筋肉の肥大が起こってくるといわれていますので、心血管イベントが多い。最近は感染症も多いといわれています。
山内
あちらこちらに目配りしないといけないのが末期の腎障害ですね。非常にたいへんだと思いますが、この辺りは透析専門医の、かなりディープな話という感じです。
ここからは、一般医家、非専門医も含めてもう少しよく見る腎障害の進行期の評価の仕方を少し教えていただきたいと思います。まず我々はカルシウム、リン、PTHのどれを見たらいいのでしょうか。あるいはこれは骨への影響ですから骨を見たほうがいいのでしょうか。
常喜
何よりもカルシウムとリンです。これを両方一緒に測り、カルシウムが低くなってきたらそれを補充する。あるいは、リンが高ければ、リンを吸着して下げる治療を考える。この2つを同時にするために、まずはカルシウムとリンをしっかりとモニターすることでよいと思います。
山内
PTHはいかがでしょうか。
常喜
カルシウムが下がっても、リンが高くなっても、PTHは高くなってきます。通常の考え方からすれば、2つをモニターしてそれぞれカルシウムとリンを正常化すれば、おのずとPTHは適正値になってくるはずで、どちらかというとモニターする頻度は、PTHは少なくていいと思います。
山内
二次性副甲状腺機能亢進症ということなので、カルシウムに着目してカルシウムをきちんと正常化するということですね。
常喜
はい。私たちは慢性腎臓病4期ぐらいになってくると、月に1回程度カルシウムとリンをモニターしますが、PTHに関しては3カ月に1回のモニターでも十分かなと思っています。
山内
ちなみに、カルシウムの値に異常が出てくる腎不全の程度ですが、例えばクレアチニンeGFRで言いますと、どの辺りからが多いのでしょうか。
常喜
4期相当です。eGFR 30未満に相当します。ここから大きくカルシウム、リンのバランスは崩れますし、そのほかでは貧血も顕著に出てきます。腎臓内科専門医がいろいろと介入し始めるのは、やはり4期、5期になってくると思います。
山内
クレアチニンでいうと、2.0を過ぎた辺りからですか。
常喜
そうです。その辺りから少しアンテナを立てる必要があるかと思います。
山内
カルシウムですが、治療介入が必要なレベルはどの辺りからでしょうか。
常喜
これは一般の正常値の下限である8.5。アルブミンで補正していただいて8.5㎎/dL以下、ないしはそこに近づいてきたところでカルシウムの補充は必要かなと考えます。沈降炭酸カルシウムのような製剤などが使いやすいと思いますので、処方していただければと思います。
山内
改めてカルシウム製剤の使い方を具体的に教えていただけますか。
常喜
ごく一般的なのは沈降炭酸カルシウム製剤で、だいたい500㎎錠ですね。我々ですと、患者さんに応じて、毎食後に1錠ずつ服用するように処方することから入ってくると思います。
山内
調節は難しいのでしょうか。
常喜
いえ、それほど難しくないと思います。例えばそれを処方して次回採血したときに高カルシウム血症になっていたという経験をすることはほぼなくて、そもそも腎臓が悪くて、カルシウムは低めになっていますから、補充することによって、むしろなかなか上がってこないことのほうが多いというイメージかもしれません。
山内
よく話題にはなりますが、カルシウムの過剰投与はあまり起こらないのでしょうか。
常喜
腎不全の方にとっては起こりにくいと考えていいと思います。逆に、例えば骨粗鬆症がある高齢の女性で、ビタミンD製剤を内服している。腸管からのカルシウム、リンの吸収がすごく促進されているところに、骨にいいと思ってカルシウム製剤を服用すると、これはダブルパンチですね。吸収も良くなり、カルシウムも腸管に多く到達します。
ただ、一方で我々が診ている、どちらかというとビタミンDも低くなってきている、腎機能の悪い方々ですと、むしろカルシウムは低くなってくる傾向にあります。
山内
ビタミンD製剤はいかがでしょうか。
常喜
一般論からいうと、ビタミンD製剤でカルシウム吸収が良くなるので、その値は上がります。リンも少し上がってしまいます。ですので、カルシウムが低くてリンが高いときにビタミンD製剤を飲むと、カルシウムも上がるけれど、リンも上がってしまうので、最初にカルシウムを上げて、リンを下げておいて、次にビタミンD製剤を使うのが一般的な処方のパターンかと思います。
山内
最後に食事ですね。腎臓病の末期の方の食事にはいろいろな制限がついてたいへんですが、カルシウムについてはいかがでしょうか。
常喜
もちろん、カルシウムを上げるための食事を促すことがありますが、カルシウムが入っている食べ物の中にはリンも入っていたりします。我々としては、カルシウムを上げたいけれど、リンは上げたくないので薬に頼ります。食事面では、どちらかというとリンを上げないような食事を摂るように制限をかけたくなるというのが一般的です。
山内
具体的にはどういった制限になるのでしょうか。
常喜
一般的には、タンパク質がたくさん入っているようなもので、典型的な例としては乳製品ですね。牛乳、チーズ、ヨーグルトなどはカルシウムももちろん入っていますが、リンが上がりやすいです。
山内
どうもありがとうございました。