ドクターサロン

池田

「外国人の患者さんが医療通訳者を伴って受診される際に、コミュニケーションにおいて気をつける点に関してご教示ください」という質問です。現在、来日される外国人は増えており、定住している方も多くいらっしゃいます。日本ではどのような医療通訳者を育てるかというお話も後でうかがいますが、医療通訳者とは、よく今使われているChatGPTと対比して、どのように違うものなのでしょうか。

押味

皆さん「通訳」という言葉は、「翻訳」と同様に思われることが多いと思いますが、翻訳は、元の言葉を同じ内容を保ったまま別の言葉に「変換する」行為であり、あくまでも書き言葉です。通訳は同じことを話し言葉で実践すると思っていらっしゃる方はけっこう多いのですが、英語ではinterpretationといって、「解釈する」という言葉を含んでいます。

医療通訳者には実は3つ役割があります。一つは言葉を媒介するということです。例えば中国語を話す患者さんが来院された際には、医師とのやり取りを中国語と日本語双方に変換して伝えるという役割があり、これはまさにChatGPTや、ポータブル翻訳機などで対応している方もいらっしゃると思いますが、高精度で活用することができます。

しかし、翻訳した内容が本当にこの患者さんに伝わっているのかわからないという経験をされたことがあると思います。そこで2つめとして通訳者、特に医療通訳者は、話した内容が正確に理解されているかを確認する役割があります。

3つめは外国人の患者さんはやはり文化が違いますので、文化の相互理解のきっかけをつくっていくという役割があります。これらは、AI等の機械では置き換えることができないと考えています。

池田

日本はおそらく、医療通訳の歴史が浅いと思いますが、最も進んでいる国はどこで、どのような教育をされているのでしょうか。

押味

多言語や多文化ということから、米国を想像する方は多いと思いますが、先進国の中で一番進んでいるのはオーストラリアといわれており、国の政策として多文化主義、多民族主義というものを持っています。

例えば公共のサービスに関して、運転免許証の作成や事件等で裁判が必要な際には皆さんが自分の言語でサービスを受ける権利があります。ですから、病院も含めて医療通訳、司法通訳、様々な公共サービスの通訳がコミュニティ通訳という大きな枠の中で全部無料で提供されています。

そしてオーストラリアは唯一、国家資格として翻訳と通訳があります。通訳は通訳としての国家資格があります。翻訳は、日本人の翻訳者であれば、日本語から英語、英語から日本語という双方向の資格として合計3種類の国家資格があり、数多くの言語をカバーしています。日本とは比較できないくらいのレベルで多言語主義が充実しています。

池田

国を挙げて取り組んでいるということですよね。日本では、第一外国語は英語ですが、英語で医療通訳というのは何というのでしょうか。

押味

英語で医療通訳は、medical interpretingとhealthcare interpretingという2種類の言葉があります。前者はより専門的な医療の通訳というイメージがあって、後者は受付や会計という場面も含めて医療というかたちで、より広義となります。

池田

我々は英語で教育を受けていますので、ある程度、医師自身が英語で患者さんに説明はできると思うのですが、そういうところで発生する不都合というのはあるのでしょうか。

押味

もちろん英語が非常に堪能で、患者さんの診察をしっかりできる医師もいらっしゃると思います。私もそういう医師を育てたいという思いで医学英語教育をやっておりますが、やはり学校で学んだ英語とは異なる会話の表現も多々あります。本当に自分が伝えたい内容が、患者さんに理解されていないこともあります。

そして、日本において病院を受診される外国人の言語で一番多いのは、実は英語ではなく中国語で、次に韓国語、あとは地域にもよりますが、例えば南米の労働者の方が多い地域ではスペイン語やポルトガル語が多くなります。医療ポルトガル語や医療中国語を話せる日本の医師というのは極めて少なく、そういう患者さんの来院時にはしっかりとした医療通訳者の方を通してコミュニケーションを取っていただきたいと思っています。

池田

幸いに患者さんが通訳者を連れて先生のクリニックに来られた場合、イメージとして、医師、患者さん、通訳者の3人での診療になりますが、どのような感じで座ったり話をしたりするのでしょうか。

押味

通訳者は当然、中立の立場ですので真ん中に座ると思われがちですが、通訳者が真ん中にいると、どうしても通訳者の顔を見て話をしてしまうことになります。そうならないように、まずは医療者の皆さんが患者さんの顔を見て、いつも日本人の患者さんに対して診察で話しているような感じでその人に向かって話をすることが大事です。では、通訳者の方の居場所はというと、できるだけ患者さんと医療者の人が直接顔を見ているのが見えるように、そして真ん中に行かないような向きで座っていただきたいと思っています。

患者さんはアウェーの環境で心細いので、一般的には患者さんの少し斜め後ろに座り、医療者と患者さんの顔が見えるようなかたちでコミュニケーションを取っていただくことが大事だと思います。ただ、患者さんの横に通訳者が座ると、南米の患者さんの場合、振り返って通訳者に向かって話しかける傾向があるので、そういった場合には医療者の斜め後ろ側に座っていただき、「こっちですよ」と促し、患者さんが医療者のほうを向いて話すことができる環境の構築が大事です。

どこに座るかが大きな問題ではなく、医療者である皆さんが、外国人の患者さんであっても直接顔を見て、通訳者ではなく患者さんに話しかけていただきたいと思います。

池田

文化や民族性も考えていく必要があるということですね。

押味

トレーニングをした通訳者は、「この場合はこっちの位置のほうがいいかな」というのがわかるので、通訳者に任せていただければと思います。

池田

気になる点としては、医療情報というのは個人情報の塊ですが、医療翻訳者というのは行動規範をかなり定められているのでしょうか。

押味

今、国家資格はありませんが、国際臨床医学会が中心になり、認定医療通訳士という資格をつくっています。厚生労働省がつくったカリキュラムに沿って皆さんトレーニングをしていて、その中では、医療通訳者に対し厳密な行動規範があります。守秘義務というのはその中でも最も重要性の高い行動規範です。診療の中で知り得た情報は、医療通訳者の家族であっても絶対に話さないというトレーニングを受けていますので、その点は安心していただきたいと思います。

池田

その辺がしっかりしていないと、患者さんもかえって不安ですよね。ChatGPTを活用するほうが安心であると考えてしまうことにつながり、本来の医療行為が適切に行われない可能性が高くなってしまうということですね。

先生が主催されている医療通訳・国際医療マネジメント分野の講座はどのような感じなのでしょうか。

押味

私が教えている国際医療福祉大学大学院では、医療通訳と国際医療マネジメントを学ぶ修士のコースと、修士ではなくても同じ実技的な内容を養成講座で学ぶというコースを開催しています。ここでは、医療通訳だけではなく、通訳者の人たちが外国人の患者さんが来院したときに、ビザや医療保険の問題、そして通訳以外で必要となる様々な知識を総合的に勉強しています。すなわち外国人の患者さんが来院したときに、その通訳者がいればワンストップですべて解決できるという人材を育成しようとしてトレーニングしています。

池田

異なる背景の方々に医学的知識を含めて教育していくというのは、なかなかたいへんなことですね。

押味

そうですね。本学の学生は社会人がほとんどですが、皆さん、本当に和気あいあいと楽しく学んでいます。たくさんの知識やスキルが必要になる仕事ですが、皆さん一生懸命、少しでも外国人の患者さんたちの医療を良くしたいという思いで日々切磋琢磨しています。

池田

最後に、医療通訳者とうまく協働する方法が幾つかあると思いますが、教えていただけますか。

押味

まず、できるだけ患者さんのご家族に通訳を依頼しないこと。できるだけ専門的なトレーニングを受けている医療通訳者の方に医療通訳をお願いしていただきたいと思います。

あとは皆さん、つい普段日本語を話しているときと同じような感じで話しがちになりますが、通訳を介するコミュニケーションは、できるだけ短く、できるだけ簡単な表現を使ってお話ししていただきたいと思います。

先ほども少し申し上げましたように、通訳者ではなく、患者さんに向かって話していただくということ。また、ついつい「中国語ができるのだったら、この同意書も全部翻訳しておいてもらおうかな」と思われる方もいらっしゃいますが、通訳と翻訳というのは異なる作業ですので、そういったものこそ、ChatGPTなどのAIを使ってやっていただきたいと思います。

池田

日本にもたくさんのインターナショナルゲストがいらしているので、先生の講座が発展して、その方たちが日本の医療を享受できるように頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました。