池田
DPP-4阻害薬による類天疱瘡への適切な処置について注意喚起がなされているという質問ですが、一般医家に向けて、まず類天疱瘡というのはどのような疾患なのかうかがってよいでしょうか。
氏家
類天疱瘡は、皮膚の表皮と真皮の境界部に水疱ができる表皮下水疱症で、自己抗体によって生じる疾患です。自己抗体の主要標的抗原がBP180というタンパク質で、それに対する抗体が結合することによって表皮と真皮の結合が弱くなって、水ぶくれができてしまうという疾患で、代表的な病型が水疱性類天疱瘡になります。臨床的には、硬い水ぶくれ、すなわち緊満性水疱と、痒み、じんましんのような浮腫性紅斑が多発してくるのが特徴的な疾患で、自己免疫性水疱症の中では最も多いタイプです。
池田
これは高齢者に多い水疱症なのでしょうか。
氏家
そうですね。60~80代、特に70代以降に好発する疾患で、40~50代はかなりまれという、高齢者に偏った疾患です。
池田
自己免疫性疾患なので、治療はステロイドが中心になるのでしょうか。
氏家
はい、ご指摘のとおりです。軽症の場合は、クロベタゾールといったストロンゲストクラスのステロイド外用薬を塗布したり、テトラサイクリン系の抗生剤で、ドキシサイクリンやミノサイクリンといった薬剤の内服で治療が可能です。
ただ、中等症以上、それなりの症状がある患者さんでは免疫を抑制するステロイドの内服薬を使うことが一般的です。
池田
糖尿病の患者さんにDPP-4阻害薬を使うと、類天疱瘡になる場合があるということについて、機序はわかっているのでしょうか。
氏家
機序はわかっていないのですが、疫学的に、日本そして世界各国から、DPP-4阻害薬を服用している方は、服用していない方よりもかなりのオッズ比の違いで、服用している方のほうが水疱性類天疱瘡になる方が多いことはわかっています。
ただ、なぜかというのはほとんどわかっていません。私たちの研究で一部わかってきていることは、日本人のDPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡の患者さんで、紅斑が少ない、つまり非炎症型の方では、ある特定のHLAを高頻度に持っているということです。ですからこの疾患になる方の一部は遺伝的な背景が強く関係していそうだということがわかっていますが、すべてではありませんし、遺伝的背景とDPP-4阻害薬がどう関係しているかということに関しても、今のところまったくわかっていません。
池田
今後の検討が必要ですね。DPP-4阻害薬はいろいろな種類がありますが、先生のご経験でもかまいませんので、比較的、類天疱瘡を起こしやすい系統のものはあるのか教えていただけますか。
氏家
DPP-4阻害薬は9種類という多くの種類があります。配合剤も7種類ありますので、非常に多くの種類の薬が日本で処方されています。最も報告が多いのがビルダグリプチンで、そのほかにリナグリプチン、テネリグリプチンの報告が比較的多く、実は海外でも同じ傾向があります。
池田
多いというのは、そのほかのDPP-4阻害薬との比較で何かあるのですか。
氏家
よく使われているDPP-4阻害薬では、シタグリプチンが比較的DPP-4阻害薬の中では類天疱瘡を起こす頻度が低いといわれています。それらと、前述したビルダグリプチンやテネリグリプチン、リナグリプチンの違いとしては、DPP-4阻害薬としての活性のほかに、DPPはファミリーを形成していて、DPP-4やDPP-8、DPP-9や幾つかほかのものがあって、シタグリプチンは比較的DPP-4に選択性が高く、ビルダグリプチンやテネリグリプチン、リナグリプチンはほかのDPPもやや阻害する活性があることがわかっています。その違いが類天疱瘡の引き起こしやすさの違いと関係があるのではないかという考えもありますが、今のところエビデンスがほとんどなく推測の域を出ない状況です。
池田
なかなか難しいですね。しかしながら患者さんにとっては、引き起こしにくいものを処方していただくというのもひとつの方法ですね。
氏家
そうですね。あと、値段や内服の回数、腎機能などの様々な要素で薬が選択されているようですので、その辺りもすべて加味しながら決定していきます。
池田
DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡の特徴はありますか。
氏家
普通の水疱性類天疱瘡は、先ほど申し上げましたように水疱に加えて、痒み、じんましん様の紅斑が多発するのが特徴ですが、DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡は、比較的赤みが少なく、紅斑も少ない非炎症型の患者さんが通常型より多いといわれています。多いといっても3~4割で、普通の水疱性類天疱瘡だと1~2割なので、その頻度が少し高いということですね。あとは、検査で判定しにくいという特徴があります。
池田
検査というのはどのような検査なのですか。
氏家
よく水疱性類天疱瘡で使用される抗BP180抗体という、採血で実施する保険適用になっている検査で、これが実はBP180というタンパクの狭い一部の、NC16a領域という部分に対する抗体を見る検査なのです。普通の水疱性類天疱瘡では9割近く陽性になるのですが、DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡の場合は陽性率が6~7割というように下がってしまうので、この簡便な検査で陰性と判断されたが実は水疱性類天疱瘡でしたという方がいて、比較的見逃されやすいともいわれています。
池田
検査会社に提出し、それが陰性であっても否定はできないということになりますか。
氏家
そうですね。DPP-4阻害薬を服用していて水疱やびらんが複数あるが、この検査が陰性の場合、違うことももちろんあるかもしれませんが、簡単に諦めてしまうと、実はこの病気でしたということは十分にあります。
池田
その場合、確定診断はどのようにされるのですか。
氏家
皮膚の生検が一番確実で、皮膚を生検してきれいな表皮下水疱が組織学的にあるかどうか、そして蛍光抗体直接法という方法で自己抗体が皮膚の表皮基底膜部に沈着しているかどうか、これを見るのが一番確実だと思います。
池田
その場合、一般のクリニックでは難しそうですね。
氏家
はい。できなくはないのですが、なかなか手間がかかりますので、基幹病院、大学病院等への紹介を検討されてもよいかと思います。
池田
それでやはりDPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡ということになると、どのように治療していくのかということになりますね。特に糖尿病患者さんですから、プレドニゾロン等の全身投与というのは躊躇することが多いと思いますが、実際にはどういう治療指針があるのでしょうか。
氏家
基本的には、通常の水疱性類天疱瘡の治療に準じた方法が選択されます。ただ、類天疱瘡ガイドラインのDPP-4阻害薬を取り扱った補遺版が公表されており、その中に、まずこの病気を疑う場合、DPP-4阻害薬の中止が差し支えないような症例は中止、あるいは他系統の薬剤に変更するということになっています。
変更したことによって自然に治ってくる症例も少ないながらあります。ただ、全例が、DPP-4阻害薬を中止・変更したからといって、自然に治るわけではありません。少し様子を見て、それでも良くならない場合、悪化していく症例もありますので、そのような場合には通常の水疱性類天疱瘡に準じた治療をしていくことになると思います。
池田
今は糖尿病の治療薬が多種多様になってきていますので、必ずしもDPP-4阻害薬に固執する必要はないのでしょうか。
氏家
そうですね。私も糖尿病専門医に何度かうかがったことがあるのですが、DPP-4阻害薬でなければ絶対にだめという患者さんはほとんどいないということでした。DPP-4阻害薬は低血糖発作などが少なくて使いやすい薬剤なので多く処方されておりますが、処方しにくい場合には、他系統の薬剤が幾つもありますので変更可能だとうかがっています。まずこの疾患を診た場合には、投与している医師に他系統への変更あるいは中止をお願いするのが一般的な流れだと思います。
池田
先ほどDPP-4阻害薬の処方をやめただけでも、少数ですが治るというお話がありましたが、治らない方たちにはどのような治療をされるのでしょうか。
氏家
その場合は、一般的な水疱性類天疱瘡に準じた治療になってきます。水疱性類天疱瘡は、軽症から重症まで、患者さんによって幅が広い疾患です。軽症の場合はステロイド外用剤、特にクロベタゾールなどのストロンゲストクラスの外用剤をしっかり塗布し、場合によってはドキシサイクリンやミノサイクリンといった抗生剤の内服を併用するような方法、あるいはジアフェニルスルホンを内服することもあります。
ただ、中等症以上、ある程度の症状がある場合はやはりプレドニゾロンの内服が中心になってきます。量としては、1㎎/㎏といった大量を服用する必要はほとんどなくて、通常は体重あたり0.5㎎、60㎏の方でしたら30㎎/dayぐらいの量から始めて、用量を下げていけることがほとんどかと思います。
池田
なるほど。でも、基本的には糖尿病がある方なので、糖尿病が悪化することがありますよね。その点は糖尿病内科医と相談しながらの治療になるのですか。
氏家
そうですね。DPP-4阻害薬の変更をお願いする際に、「プレドニゾロンを比較的長期間内薬する治療の導入も検討していますので、糖尿病の管理についてもよろしくお願いいたします」という依頼を行い、一緒に診ていただくようなかたちになります。
池田
一般の類天疱瘡というと、指定難病で治りが悪くステロイドを長期に処方しなければならないような症例も多いと思うのですが、DPP-4阻害薬関連の類天疱瘡というのは、同じように治療反応性は良くないのでしょうか。
氏家
本当にケース・バイ・ケースですね。論文によっては、DPP-4阻害薬関連の場合は中止したほうが、中止しない人よりもステロイド総投与量を減らすことができたというものもあります。つまり、DPP-4阻害薬の関連でこの疾患になった場合に、それを中止すると、普通の類天疱瘡より少し治りがいいということを示唆している論文もあります。
ただ実際、診療にあたっていて、本当に普通の類天疱瘡のように治りが悪い方もいらっしゃるので、一概には言えません。ただ、あまり赤くない、紅斑が少ない非炎症型のタイプの方は比較的治りやすいという印象は持っています。
池田
お話をうかがいますと、診断も難しいし、治療も症例によってはステロイドを大量にシステマティックに処方しなければいけないので、やはり診断のときから、専門医に紹介するのが大切な感じですね。
氏家
そうですね。この疾患を疑った場合、検査が陽性になればすぐに紹介いただいたほうがよいと思いますし、陰性であっても怪しい場合は、スルーせずに、専門の施設にコンサルトいただくのがよいと思います。
池田
ありがとうございました。