ドクターサロン

池脇

国際医療福祉大学の東京ボイスセンターのホームページには、2001年に日本で初めて開設されたとあります。まず、その辺りの背景から教えてください。

渡邊

私はボイスセンターのセンター長として働いていますが、耳鼻咽喉科の医師です。耳鼻咽喉科は大きく耳、鼻、喉の3つに専門が分かれますが、私は喉が専門です。例えば日本喉頭科学会がありますが、会員数はだいたい1,000人ぐらいです。

池脇

なんとなく少ない感じですね。

渡邊

そうです。日本耳鼻咽喉科学会の会員が1万人、約1/10が日本喉頭科学会の会員です。

日本喉頭科学会は喉の専門医というイメージが湧くと思いますが、実はほとんどが腫瘍の専門医です。いわゆる頭頸部腫瘍といわれるようながんの専門医が多く、私のように声だけを扱う医師は非常にまれです。

2001年から国際医療福祉大学東京ボイスセンターができましたが、しゃべることに対し、声がきれいでないといろいろ職業が成り立たないというのは、実は特に都会において多いのです。具体的には、例えば政治家、歌手、エンターテインメントの中で司会をしたり、最近ではアニメーションの中で声優をされている方。

ネットの中では、いわゆるYouTuberといわれる職業や、ライバーなど週に5日、6日、1日に4~6時間ずっと配信し続けて、声を酷使する職業があり、これは子どもたちの憧れの職業の一つでもあります。

そういった方のメンテナンスをする拠点として、東京ボイスセンターが25年ぐらい前に日本で初めてつくられました。

池脇

日常で、声を出すというのは基本的なコミュニケーションツールです。先生方は特に声を職業にしている方たちにとって、いわゆるプロスポーツ選手のトレーナーのような感じでしょうか。

渡邊

そうですね。当然、スポーツ選手には野球選手だと肘の手術をしたり、バスケットボールやバレーボールなど、ジャンプする競技では膝の病気に苦しむ選手は多く、その職業により、痛める箇所が違います。

我々ボイスセンターの医師としては、職業的に声を使う方(プロフェッショナルボイスユーザー)の声帯を主な治療対象としています。最近では、Elite Vocal Performer、EVPという呼び方をしますが、そういうエンターテインメントの中で声をツールとして仕事をしておられる方々のケアを行っています。

池脇

いろいろな職業で、共通して声を酷使される方々にとって先生方がいらっしゃらなければ、声帯がだんだんと病的な変化を起こすのですね。

渡邊

そうですね。例えば声優という職業がありますが、世界的に有名なアニメに出演されている声優さんが、性別も年齢も違うキャラクターを演じています。我々がアニメーションや映画をみて、その声に心が揺さぶられてしまうことがあります。

普段、人がしゃべるということ以上にハイパフォーマンス、トップオブトップの声を使われているので、繊細なコントロールが行われていることが想像できると思います。

池脇

本当に天性のというか、我々の心を震わすような声をお持ちの方が毎日話しても、その声を維持できるように先生方がケアをされるのは、具体的に声帯を物理的に調整するのか、あるいはほかの方法なのか、どうやっていらっしゃるのでしょうか。

渡邊

ボイスセンターは、センターですので、実は医師が行う仕事以外にも、以前は言語療法士(ST)と呼ばれていましたが、今は言語聴覚士といわれている国家資格を有しているリハビリ担当の方々がいらっしゃいます。

それから、例えばリハビリですと、手術後のメンテナンスもできますが、そこからハイパフォーマンスに持っていくためには、特に歌手を例にあげると楽曲が民謡か、演歌か、ポップスなのか、声楽なのか、また声の出し方のステップが違いますが、そこには医師、言語聴覚士(ST)以外にSinging Voice Specialist(SVS)という概念もあります。

当センターでは、医師は常勤5人、STは常勤7人、SVSは2人おり、SVSのみ非常勤ですが、いていただくことで、あらゆる角度で声を良い状態に持っていこうという意識があります。医療も非常に重要ですが、当然予防もありますし、急性期、例えば明日、大きなイベントで歌わなくてはならない方と、1年後に舞台があり、ミュージカルで3カ月のロングランの方とがいる。これは当然、メンテナンスの仕方、治療の仕方が変わります。

池脇

奥も深いし幅も広いし、イメージがなかなかつけにくいですが、医師も含めたいろいろな方が、その方がどういう声を出されるのかによって、いろいろと調整する。基本的には継続していくケアでしょうか。

渡邊

そうですね。基本は毎日使います。おそらくプロの方は一生使うわけですから、1回、2回、私たちが投薬したり手術するだけでは片づきません。

例えば手術をしたからといって、患者さん本人に任せるわけではなく、きちんとボイスセンターで定期的なメンテナンスを行い、これ以上は声帯に負荷がかかりますよとか、非常に良い状態なので連日舞台に出ても大丈夫ですよ、というようなアドバイスを、お互い連携して行っているのが実情です。

池脇

私の理解が正しいかどうかわかりませんが、いろいろな方のケアに加えてその方の日常の生活というのでしょうか、それこそお酒、たばこ、睡眠、いろいろなことが影響してきそうですが、どうでしょう。

渡邊

おっしゃるとおりです。私たちはボーカルハイジーンという言い方をしますが、声の衛生状態をキープしており、コンサルトや指導をするのは、声のメンテナンスをする基礎の基礎です。まず、先生のおっしゃるとおり、喫煙の有無や、お酒の飲み方や深夜放送に出演していらっしゃる方の睡眠時間、そして人気者であるとともに、いろいろな負荷がかかっている現状の問題から解放してあげられるような役目も医師は担っていると思います。

池脇

そうすると、その方の生活そのものも一緒に先生方が、例えば食事で辛いものを食べるとか食べないといった辺りも介入する必要があるとなると、その方のトレーナーとして何かあったら病院に来るような感じで、常にケアをされているような気がします。

たくさんの方を同時にケアすることができませんが、その辺り、常勤の先生方でうまく手分けしてやっておられるのですか。

渡邊

本当に良い質問で、今の私の課題は、医師は残念ながら1対1でしか診ることができませんので、後輩、部下、弟子というか、同じようなことができる音声外科医の育成に重点を置いています。

東京ボイスセンターは全国から留学生、国内留学生を今まで12人採用しています。北は山形、南は四国や九州、中には台湾からも留学生が来て、集中的に濃く、おそらく耳鼻咽喉科医として一生で経験できることを1年ぐらいで実践してもらい、例えば山形や仙台、名古屋、そして岡山、九州で還元してもらうような教育活動をしています。

池脇

プロの方はもちろんのこと、自分の声をケアしないといけない方は、日本中にたくさんいます。ボイスセンター、あるいはボイスクリニックと掲げている施設もあるようですが、日本での拡がりはどうでしょう。

渡邊

どの医療の世界でも、しっかりした医師、手術が上手な医師、投薬の上手な医師、いろいろ得手不得手があります。例えばクラシック歌手を診るのはすごく卓越しているけれども、アイドルやダンスをしながら歌う人には、興味がないという方もおられますし、その逆の方もいらっしゃいます。医師も同様に得意なことをやっていただいたら良いと思います。

ボイスクリニックが増えていますが、よく見ると、この先生は手術をするのだなとか、この方はクラシックに造詣が深いとか、読み込むとよくわかります。

池脇

ボイスセンター、声に対して先生方のひたむきな活動のお話について、本当に驚きを持って聞きました。ありがとうございました。