ドクターサロン

池田

小児の近視進行抑制に低濃度アトロピン点眼を使用した場合についての質問ですが、小児の近視というのはけっこうあるのでしょうか。

松村

今、たいへん問題になっていて、日本だけではなく世界で懸念されています。近視はもともと遺伝的なものと環境的なものの両方から起こるので、現在ではタブレットやスマートフォンの普及によって子どもの視環境が変化しており、お子さんが近視になりやすくなっています。

発症年齢も以前より早くなっており、昔は10歳ぐらいで近視になっていましたが、今は7歳ぐらいで発症することが起こっています。日本でも、小学生の4割近くは近視を持っているといわれており、低学年であっても3割ぐらい、高校生では7割近くは近視であると報告されています。

池田

小さな子どもが騒ぐから、スマートフォンで何か見せておくようなことがよくありますね。

松村

スマートフォン子守ですね。

池田

ずっと目を酷使しているのでしょうね。

松村

はい。スマートフォンは視距離が20㎝ぐらい短くなるので、どうしても近視のリスクが高くなります。

池田

どのようなタイミングで子どもが近視であるとわかるのでしょうか。

松村

日本は健診システムがすごく充実していますので、まず就学時健診といって小学校に入る前に視力の検査があり、1.0未満のお子さんが近視として引っかかってきます。

あとは毎年、学校健診がありますので、ピンクの紙を持ってABCDという判定をしてご家庭に持って帰ると思うのですが、そこでB以下の方は近視が疑わしいことになります。

池田

そこで眼科で検査となりますが、低濃度アトロピン点眼のお話の前に、なぜ近視になるかというのはわかっているのでしょうか。

松村

なぜ近視になるかですが、例えばスマートフォンで近くのものを写真に撮ろうとすると、カメラがピントを合わせようとして、画面がぼやけて映ります。そういった自動調節機能が人間の目にもあり、近くになればなるほど、一生懸命ピント合わせしようとしてボケが生じます。すると、信号が目の後ろ側に結ぶので、目がそちらの信号に合わせようとして伸びてくることになります。

基本的に目は丸いので、眼鏡やコンタクトで、網膜の一番真ん中の黄斑部に収束をきれいに合わせたとしても、周辺から入る光は、目が丸い関係から網膜の後ろにピントが合ってしまいます。その刺激に合わせて目の長さが伸びてくる周辺部軸外収差説という仮説ですが、それで目が伸びてきて近視化すると考えられています。

池田

目の長さが長くなるということなのですね。

松村

はい。それを眼軸長というのですが、お子さんの近視の大半は軸性近視といって、目の長さが長くなるタイプです。

池田

ピントの調節機能ではなく、眼軸自体が長くなることが根本原因なのですね。

松村

そうです。

池田

眼軸長が長くなることをどう抑制するかになると思いますが、どのような治療があるのでしょうか。

松村

今、近視を抑制する治療の選択肢には、低濃度アトロピン点眼という薬理学的治療、あとはオルソケラトロジーといって、ハードコンタクトレンズを夜間、睡眠中に装用して、黒目の形を変えて矯正する、かつ抑制をかけるという方法があります。また、多焦点ソフトコンタクトレンズと呼びますが、特殊なデザインを持ったソフトコンタクトレンズを日中に装用して抑制をかける方法や、レッドライト療法といって機械を3分間1日2回覗く光療法などで、近視の抑制をかけることが世界で行われています。未承認なものもありますが、日本でも治療を提供できる状態になっています。

池田

最近、低濃度アトロピン点眼療法というのができるようになったようですが、これは治験などで認められている方法でしょうか。

松村

はい。これは日本で初めて承認を得た薬剤であり、2年間の治験が行われました。コントロール群と比べて、近視に2年間で0.65Dぐらいの抑制がかかったということです。2025年4月に導入されたばかりで自由診療ですが、眼科医は非常に期待をもってこれから使っていくと思います。

池田

アトロピン点眼というと、よく眼底検査で使用されますが、低濃度アトロピン点眼との違いは濃度の違いだけなのでしょうか。

松村

検査で使う散瞳薬は、アトロピンであれば1%を使います。そうすると、瞳孔がかなり拡大して眩しさが出ますし、調節麻痺という状態になります。それを日常で毎日使用することは不可能なことから低濃度アトロピンが作られました。1%のものを薄めて0.01%や0.025%にして、毎日1日1回、夜寝る前に使用する点眼です。

池田

どのような作用機序でしょうか。

松村

抑制の機序はまだはっきりとわかっていませんが、アトロピン自体がムスカリン受容体拮抗薬なので、毛様体や強膜という白い外側の膜や、それを支えている血管層の脈絡膜、いろいろな組織に存在するムスカリン受容体に直接作用して、目の長さが伸びて強膜が伸びていくのを防ぐのではないかといわれていたり、網膜のアマクリン細胞からドーパミンが出て抑制をかけるのではないかなどの仮説があります。

池田

最終的に眼軸の長さをなるべく伸ばさないということは確かなのですね。

松村

はい。2年間の治験で、近視における屈折値と眼軸長の2つのパラメーターで、両方とも抑制がかかったことが証明されています。

池田

一番気になるところですが、何歳で始めて何歳まで続けるのですか。

松村

近視が発症する年齢は、どんどん低年齢化しています。今回、日本で行われた2年間の治験は5~15歳を対象に、近視を発症したお子さんに行っています。

注意しなければいけない点は、近視があるからといって小さい年齢で行うと、どうしても弱視のお子さんが混じってくることです。まだ成長過程できちんと視力が1.2出ていないお子さんにこの点眼を使うことはできないので、5歳以上で近視を発症していて矯正の視力も1.2があるお子さんで、この薬を使うことになります。

そして近視は身長と同じで、年齢とともに進行度が少なくなり、だいたい16~18歳で止まってくるので、抑制治療はその辺りまで続けることになります。

池田

1.2の矯正視力がある方は、この点眼を使っている間に視力が下がってくるような場合、どのように対応されるのですか。

松村

この点眼の副作用ですが、瞳が開く関係で、眩しさと調節障害が起こってきます。矯正視力が1.2から下がることはあまりないですが、近くを見る視力(近見視力)が落ちてくることがあります。

人間は、近くを見るときに瞳孔を絞ってピントを合わせますので、この点眼で瞳が広がっていると、ピントが合いにくく、近見視力が下がってくる可能性はあるので、その場合は投薬中止になります。

池田

質問にもありますが、低濃度アトロピン点眼を使用した場合の緑内障発生リスクはあるのでしょうか。

松村

緑内障は、水の出口が狭いタイプの閉塞隅角緑内障と、出口が広いタイプの開放隅角緑内障という2種類があります。内科医もよく心配されますが緑内障の禁忌に散瞳薬というのがあるので、アトロピンが緑内障に悪さをするのではないかというイメージがあるかもしれません。正常眼圧緑内障が日本で一番多いタイプの緑内障であり、それは解放隅角といって出口が広いタイプですので、散瞳薬が悪さをすることはありません。低濃度アトロピン点眼を使って正常眼圧緑内障のリスクが高くなることは考えにくいと思います。ただ、出口が狭いタイプの閉塞隅角緑内障に関しては、眼圧上昇の有無をみていく必要があります。小児では通常このタイプの緑内障はまれです。

池田

もうひとつは、長い治療期間となりますが、ほかの近視の進行抑制法のオルソケラトロジーなどとのすみ分けはどうなっていくのでしょうか。

松村

オルソケラトロジーや多焦点ソフトコンタクトレンズは、少し侵襲が高い分、有効性も高いですが、どうしても年齢により使用できないお子さんがいます。

オルソケラトロジーは寝ている間に家庭で行いますので、比較的小さい年齢からでもできますが、ソフトコンタクトの治療は親御さんがいない日中に装用しているので、高学年で自分で装脱ができないと難しいです。

以上の理由から、小さい年齢の方は目薬が比較的使いやすい治療になります。私のクリニックでは、低年齢で発症したお子さんは低濃度アトロピン点眼を使って、年齢が高くなるにつれて、コンタクトレンズができる年齢になったらトライしていただきます。両方とも使用する併用療法として最も有効性があるので、進行が早いときはそのような方法もとっています。また、年齢を重ね進行が遅くなってきたら、点眼を止めてコンタクトレンズだけにするなどの治療を考えます。

池田

患者さんごとにパーソナライズした治療に移れると、お子さんのみならず、家族にも便利になりますね。今後ますますのご活躍を期待しております。ありがとうございました。